かれこれ20年近く前の話である。



当時、熊本で
大学生もどきをしていた私は、夏休みで臼杵に帰省しており、

深夜に就寝・昼過ぎ起床という、それはそれは
ケッコーな毎日を送っていた。





そんなある日のこと。






いつものような気だるさで目覚めた私は、まだ朦朧とした意識で、

もう昼なんだろうなあ、

などと考えながら横になったままボーっとしていた。

すると、間もなくして、
私の部屋に向かってくる何者かの足音が聞こえてきた。


父か母だろう、そのときはそう思った。

両親は2人とも、日中はほとんど仕事で家を空けていたが、

時間を見つけてはよく家に帰ってきていたからだ。

いつまで寝ちょんのか、

とかなんとか言われそうだな、そう思った私は、

タオルケットを頭からかぶり、ドアに背を向けた。

すぐに、その足音の人物は部屋の中に入ってきた。

そして、私の背面にあるソファーに腰を下ろし、こう言ったのだ。



「まだ寝ちょんのな。」



予想したとおりの台詞だったが、それは
兄の声だった。

なんだそうか、と少しホッとはしたが気恥ずかしいのには変わりなく、

背を向けたまま、さも今起きたかのように
「何時な?」と、聞いた。

「もう3時で。」

私は、そんな時間になっていたのか、という驚きから余計に顔を合わせづらくなり、

そのままじっとしていた。

一方の兄も、何をするでもなく、無言でソファーに座ったままであったが、

5分ほどして部屋から出て行ってしまった。

私はそれから10分ほど布団の上でゴロゴロしていたが、

意を決して起き上がり、居間に向かった。

しかし、そこには
兄の姿はなく、既に家を後にしたようであった。


夕方、両親が仕事から帰ってきた。

「昼間に兄ちゃんが来たで。」私がそう言うと、

母が「
へー?兄ちゃんが?仕事のついでか何かで寄ったんじゃろうか?」とびっくりしていた。



そこで私はようやく事の異常さに気がついたのだ。




当時の兄は
住まいも職場も大分市にあり、しかも、その日はまったくの平日であったのだ。

母に一部始終を話したところ、「訪問者」はもちろん
両親ではなかった

私の友人ではないか、との指摘があったが、その可能性はほとんどなかった。

というのも、両親は家を空けるときは必ず勝手口以外の鍵を全部かけており、

その
勝手口から入ってこようなんて図々しい友人は一人しかおらず、

そやつは
前日に臼杵を発っていたからだ。

これは、もう兄で間違いない。

状況的に若干の問題はあるものの、私は確信していた。

というか、
兄でないと困る、という思いが少しはあったのだが。






夜になり、兄が帰宅したころに母をせかして電話を入れてもらった。

「あんた、今日の昼間に臼杵に来ちょったんな?」

しかし、兄の言葉は、私が期待したものではなかった。



「俺は行っちょらんでー!」




その後、両親からは
「寝ぼけちょったんじゃねえんか?」とか、

「夢じゃったんじゃねえんな?」とか、

「あんたバカじゃねんな?」とか、

「朝6時に起きて門灯を消しちょけ。」とか、

何の話か分からんようなことまで、そりゃあもう
言われたい放題であったのである。


私は、その日から何かにつけて彼の「訪問者」のことをあれこれと考えてきたが、

どうにもツボにはまった結論にたどりつかなかった。

当初は、あまりに
自堕落な日々を送るバカ子孫を戒めるために、

ご先祖様がわざわざお出ましになったのでは、などと仮説をたててみたりもしたが、

特にありがたいお言葉を頂戴したわけでもなく、その線はどうも薄い気がしている。

そもそも、
この
体験談恐怖指数が低い。

それどころか、今となっては、
ごく自然な体験とでもいうべき感触すらあるのだ。

なぜか?

それは、私が「訪問者」に何かしら
「肉体感」のようなものを感じたためであろう。

確かに、今の時代では、それが生身の人間であるほうが、

よほど身の毛もよだつ都市伝説にもなろうが、

私にとってその「肉体感」は、むしろ、その場・その時間で違和感のないものであったのだ。





さて、昨年末になるが、たいへん名誉なことに、

私は「あの」、「例の」、「噂の」、「著名な」、「ナイスな」、「クールな」、

臼杵ミワリークラブへに入会することができたのである!(拍手!)

そこで、
すさまじき個性と才能を持った先輩諸氏と交流を持ち、

神秘のインスピレーション(なんじゃそりゃ)を得たためか、

長年解けずにいたあの事件に、ある日突然、一筋の光明が差したのだ。



そう、あの
「訪問者」は、ある種の「妖怪」だったのではないか、と。




妖怪であれば、あの「肉体感」や「欠如した緊張感」も説明できる。

そもそも妖怪とは自然界に近い存在であろうから、

「異常なんだけど自然な体験」という矛盾した感覚にもマッチするではないか。

私は、おぉ、これだ!と、

実際は打ってないけどバシバシ膝を打ったのである。

そして、私はこの妖怪(もう決めつけかよ)に名前をつけてみた。

ずばり、妖怪「なりすまし」。(わが妻は「オレオレ」のほうが良くはないかというが)




P.S. と、ここまで盛り上がっておいて、もしもご先祖様だったらどうしよう、などと
   怯える私である。あぁ、どうか、どうか、このバカな子孫を暖かくお見守りくださいませ。