〜わが輩はジュンである〜


8月16日 晴れ

五日間ほど夕立がよく来ていたが
今日は風もなく、晴天。
お盆の万灯籠供養祭の日を迎えた。
ここの臨済寺では、昭和52年に
今の和尚さんによって始められた行事だと、
丸山さんから聞いた。
丸山さんがこのお寺に来て、
3年ぐらいしてから始まったとのこと。
早朝から、皆気ぜわしく準備している。
僕も「ご加勢しましょう」
と土谷の姉さんに言ったけれども、
「今日は加勢の人が多いから大丈夫ヨ」 と言われた。
「皆 しっかり働くんだぞ!」
とカントクをした。


















亡き父母や、ご先祖さん、
水子さんの供養の灯籠が、
境内に所狭しと並べられてゆく。
         とむら
比叡山の弔いのご和讃に

一、「かなしいかなや人の身は」 
   再び逢えぬわかれぞと
   知りそめし身のさみしけれ
   空しき今ぞ かなしけれ

    せんざいまんざいなが

二、 千歳万歳永らえん
   願いも今は はかなしや
   仮の世なりと思えども
   楽しき日こそしのばるる

と、ある。
お盆を迎えると、
世の無常を感じる淋しさと、
亡くなった父や母が
帰ってくるということで
心はなやぐ様な、複雑な気持ちになる。


僕は生まれて三ヶ月目に
オフクロと生き別れた。
親父の顔は全然記憶にない。
オフクロに逢いたいが、生きているのか、
死んでしまったのか、定かでない。
  カラアゲや手羽先等、
今日は朝から出してもらえない。
カラアゲの「ケッ ケッ コケッ ケッ〜」
の甲高い声が聞こえなくて、
静かなよい盆ダ。

遊びに来た和尚さんのお孫さんの猫
「マイケル」も、つながれて神妙ダ。
お経が済んで本堂から来た、
和尚さんに甘えタ。

「和尚さん。お盆が来ても
 僕はお母ちゃんに逢えない
 淋しいヨ〜」
「ジュンのお母ちゃんや
お父ちゃんお兄ちゃんは、
お寺にたくさん居るヨ、皆親子兄弟だヨ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
いつもと違って、和尚さんがやさしい。
「和尚さん、オリコウにしてますから
後で僕だけにそっと灯籠を
見せてくださいネ」
約束もした。
お兄ちゃんと静かに
灯籠祭りの準備を眺めて
すごした。
そうじ小僧さんや七福神様のまわりも、
お明かりや灯籠が祭られた。
陽が西の山に沈んでから
灯籠に灯りが点され、
ご詠歌の声が静かに
境内に流れていった。


比叡山の弔いのご和讃の続き

  しょうじゃひつめつ えしゃじょうり
三、生者必滅 会者定離 
   仏の教えありければ
    まぶたにうつる面影の
    心と心うつさばや


    はなち                          
四、華散る浄土に迎えられ
   日夜に弥陀の法をきく
      はちす                                     蓮のうてな白きはな
     尽きせぬ香華のかしこさよ


       とむら
五、いざ弔いのこのつどい
   まんどく  
   万徳ふくむ念佛を
           ぼだい
   唱えて菩提を祈るべし
   唱えて菩提を祈るべし     



「風が吹く 仏来給ふ けはいあり」 虚子

万灯籠のあかりのゆらめきに
亡き人の面影を偲んでたたずむ人

亡き母の戒名の書かれた灯籠を見つけて
静かに合掌する人・・・

生みたくても生めなかった水子の灯籠に
そっと涙をふく人・・・

流れる読経の声に耳を傾けながら
故人の教えに思い耽り、
親子で語り合う
おだやかな時が流れていく。

生かされている喜び
守られている幸せを感じるひととき。
「母逝きて 泣いておろがむ 手のあれば
 母います時 肩もみまつれ」

なぜ母の疲れた肩をもんで
やれなかったのだろうか。
なぜ優しい一言をかけて
やれなかったのだろうか。
母のことを思うと、
母に対する懺悔のおもいで
胸がはちきれそうになります。

−こんな事を話している人もいました。
別れたオフクロや親父のこと、
兄弟のことを思っていたら
「ジュン おいで」と広瀬の兄貴から
声がかかった。
「僕は?」とお兄ちゃん。
「お兄ちゃんは、お留守番」
「・・・・・・メッ!」
和尚さんに頼まれたと言って、
広瀬の兄貴が、境内の灯籠を
見せてくれた。

「美しいなア〜 仏様の世界ダ」
和尚さんが、僕のご先祖さんに、
あげてくれた灯籠ダ。
心の中に 暖かい〜」って
感じるものがある。

「ボカア〜幸セダナア・・・・・」
ゆらぐ灯籠の明かりに、親父の
「ジュンは、お寺で幸せだなア〜」
と言っている様な、声を聞いた気がした。
会ったことは無いけれども、
親父の顔が見えた様な気がした。

大きな、僕に似た顔だった。
胸がなんだかジーンとなって、
明日からまじめに働こう、
皆に迷惑をかけまいと心に誓った。
お兄ちゃんがそっとこっちを見ていた。
「来年は、お兄ちゃんも一緒に
見せてもらうように、
和尚さんにお願いするから。
今晩はゴメンネ」
と謝って、2人(?)で寝た。

               おわり