目が覚めて、ビックリした。ビックリしたなんてものじゃなかった。ぼくは女になっていた。夢だと思って、頬を抓ってみたけれど、夢じゃなかった。
ぼくはうつ伏せに寝ていたのだけれど、胸が苦しくて目が覚め、起きあがって胸を見たらでかくなっていたのだ。
慌ててバスルームに飛び込んで鏡を見てみた。ぼくの胸に立派な乳房が付いていた。思わず涎が出そうなくらいでかい胸だ。それだけじゃあなかった。股間に手をやって触ってみたらペニスも陰嚢もなかった。急いで裸になってみた。鏡に映ったのは完全な女だった。
(信じられない。どうなっているんだ!!)
昔読んだ本の中に、二重人格の男が、もう一方の人格になっている間に性転換してしまい、元の人格に戻ったとき、女になっていて驚くという物語があった。あの物語はその間に5年経過していた。
急いで部屋に戻って、テレビを点けてみた。7時のニュースが始まったばかりだった。日付を確かめてみた。昨夜眠ってから、8時間あまりしかたっていなかった。たった8時間で手術してぼくを女にしてしまうなんて絶対に無理だ。それに手術したと言うのなら、痛みがあってもよさそうだ。
(訳が分からない。あの薬のせいだろうか? 他に考えられない。そうに違いない。どうしよう。こんな姿じゃ、研究室にも行けないし、研究室どころか外にも出て行けない。困ったなあ。あんな薬なんて飲まなきゃ良かった)
後悔したけど、遅かった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。ぼくは裸のままで床の上にぺたりと座り込んでいた。
(元に戻る方法は? 説明書に書いてあるのでは?)
ゴミ箱の中に捨ててあった説明書を取り出して、もう一度見てみた。けれど、あの説明以外には何も書かれていなかった。瓶のラベルも瓶の底も調べてみたけれど、何の収穫もなかった。
(いつになったら元の戻れるのか? 元に戻る方法はあるのだろうか? それとも永久にこのままなのだろうか?)
裸のままでいるわけにもいかず、服を着た。男物のパンツを穿きながら、これじゃあおかしいんだがなと思った。
研究室に休むことを伝えておこうとダイヤルを回した。もしもしとぼくが発した声も少し甲高い女の声だ。絶望しながら、電話を第2研究室に回して貰った。
「どなたですか?」
第2研究室につながると、南の声が帰ってきた。ぼくはひとつ咳払いをした。
「中山さんから頼まれたんですけど、今日は体調が悪いから、お休みしたいとのことです。沢田先生にお伝えしていただけますか?」
「体調が悪い? 昨日はあんなに元気そうだったのに・・・・。いいわよ。伝えて置くわ。ところで、あなた。中山の何なの?」
興味津々ですという気持ちが言葉尻に見えていた。
「と、友達です。ただの友達です」
ぼくの彼女だなんて言えなかった。そんなこと言ったら、あとで会わせろと言われるに決まっているからだ。
「そう。友達ねえ。ちゃんと看病してあげるのよ」
(あちゃあ、こりゃ、ぼくの彼女に電話させたと思われてるよ)
「そ、そんな関係ではありません。ただ頼まれただけです」
「ふーん。じゃあ、お大事に」
ぼくは慌てて電話を切った。
(参った。南が出るとは思わなかった。南は大学に入ってからずっと一緒だ。あいつのことだ。あることないこと、触れ回るに違いない。ああ、最悪の事態だ。何が素晴らしい人生だよ)
今日はバイトが休みで良かったとぼくは胸をなで下ろした。女の声で断りの電話を掛ければ、あとで店長に何と言われるか分かりやしないのだ。やっと女が出来たかとか何とか言われるに決まっている。
(いや、このまま元に戻れないかもしれない・・・・。そんなことになったら、どうしよう・・・・)
外に出られないので、買い置きの食パンとインスタントラーメンで1日過ごした。
(明日も元に戻れなかったらどうしよう。今日は買い出しをする日だったのに、食べるものがなくなってしまう)
薬を飲んで、ちょうど丸1日ほどたった午後11時頃、急に眠くなり、うとうとして目を覚ましたら、男に戻っていた。頬を抓ってみた。
(やっぱり男に戻っている)
ほっと胸をなで下ろした。
(どこの誰が、何の目的で、あんな薬をぼくに送ってきたのだろう?)
ぼくは瓶をゴミ箱に放り込んだ。