第12章 以前の俺と比べられちまった

 久しぶりに戻ったマンションは以前と違って見えた。それはそうかもしれない。今の俺は完全に女になっているからだ。
 違っていないのは、俺と彼女の立場だ。以前は、俺は男役の彼女にかしずく女役だった。今日からは、『男役』じゃなくて『男』である彼女にかしずく、『女』なのだ。
 「病み上がりだから、今日は外に食いに行くか?」
 俺の意見を聞くというわけではなく、彼女が既に決めていたことで、荷物を部屋に運び入れると、ジャケットを羽織って玄関へと向かった。俺はハイと答えて彼女に従った。
 「肉を食いに行こう」
 やはり俺の意見は聞かないでタクシーでステーキハウスへ行った。
 「俺はフィレにする。おまえは?」
 別のものを注文すると機嫌が悪くなりそうな雰囲気だった。
 「同じものでいいわ」
 そう答えると、彼女はにっこりと笑った。ワインを飲みながら、ステーキを口に運ぶ彼女は至極上機嫌だった。
 「俺のかみさん、可愛いだろう? 新婚なんだ」
 などと大きな声でボーイに言うものだから、俺は恥ずかしくて終始下を向いていた。

 ステーキハウスを出ると彼女は飲みに行くぞと言い出した。
 「お互い病み上がりなのよ。まだだめよ。帰りましょう?」
 そうたしなめたのだが、言うことを聞くような彼女じゃなかった。結局、ステーキハウスから遠くないスナックに入り込んで水割りを注文した。
 そこでも相変わらず、俺のかみさん、可愛いだろうを連発して、他のお客の顰蹙を買っていた。俺はあまり飲まないで彼女を見守っていた。
 マンションに帰り着いた時には午前様になっていた。彼女は帰り着くなりベッドの上でゴウゴウと鼾を掻いて眠ってしまった。
 「困ったひとね」
 そう呟きながら、俺は彼女の着ていた服を脱がせてパジャマに着せ替えてやった。それがすんでから、翌朝の飯とみそ汁の準備をしてからシャワーを浴びた。

 Dカップの胸の谷間をお湯が流れ落ちていく。俺の体格からすれば、少し大きすぎるような気がする。視線を足元に落とす。両足の間には何も見えない。ペニスがあったときにはお湯がペニスに沿って流れ落ちていったものだが、今は合わせた両足の付け根にできた溝の中に吸い込まれていく。何とも不思議な光景だ。。
 以前女装したときには、ペニスも睾丸も邪魔で邪魔でなければいいのにと思っていた。けれどその両方共がなくなった今になって、なんだか急に寂しさを覚えていた。
 バスタオルで身体を拭いてショーツを穿き、ベビードールを着た。鏡に映る俺はすごく可愛く見えた。
 (彼女が可愛いってほめるはずだよね)
 嬉しくなって鏡に向かって微笑んでみた。俺に勃起するものがあったら、天を向いていただろう。俺はなんて可愛い女だ。
 (もう寝なきゃ)
 俺は彼女の横に滑り込んだ。意識があるのかないのか、彼女は俺を抱き寄せる。俺はこんなふうに抱かれて眠るのが好きだ。
 幸せな気分で眠りに落ちた。

 6時45分にセットした目覚ましがけたたましく音を立てる。俺は慌てて音を消した。彼女はううんと声を挙げて寝返りを打つ。そっと顔を覗き込んで再び眠り込んだことを確かめてベッドから抜け出た。
 (あっ! 基礎体温を計らなきゃ)
 俺は退院するときに買わされた婦人用体温計を口の中に入れて、ベッドのそばに腰を下ろした。
 (36.55度と・・・・)
 記録用紙に書き込んでからキッチンへ向かった。炊飯器から湯気が立ち上り、飯の炊ける匂いがしていた。
 (今日はワカメと豆腐の味噌汁にしよう)
 味噌汁を作りながら、目玉焼きを作った。それに梅干しも用意する。味噌を入れていると、彼女がベッドから起き出してきた。
 「おはよう、あなた」
 「あ、ああ、おはよう」
 俺は彼女に『あなた』などと言ったものだから、彼女はドギマギしていた。そんな彼女が可愛いと思った。

 朝食を済ませると、彼女はYシャツとスーツに着替えた。背が高くすらっとした彼女は格好いいと思った。
 「あなた。浮気しちゃダメよ」
 そう言ったあと、嫉妬を覚えている自分に気づいた。
 「当たり前だろう? こんな可愛い妻がいるのに、誰が浮気するって言うんだよ」
 そう言いながら彼女は俺にキスして玄関へ向かった。
 「帰りは7時前だから」
 「待ってるわ」
 颯爽と出かけていく彼女。女だったとはとても思えなかった。

 彼女は時間通りに帰ってきた。俺も夕食の準備を整えて待っていた。夕食を終え入浴してバスルームを出ると、準備していたベビードールが消え失せて、別の服が置かれていた。その服には見覚えがあった。俺が最初に彼女と『お姉さん』にこのマンションに連れ込まれたときに無理矢理着せられてワンピースだった。
 「どうするの?」
 「わかるだろう? 男だったおまえと女になったおまえを比べてみるのさ。さあ、その服を着ろよ!」
 彼女が望むことなら何でもするつもりだった。もちろん程度問題はあるけれど。俺は、ショーツ、ブラ、パンストを身に着けてワンピースを着た。
 「化粧もあの時と同じようにするんだぞ」
 そう言われてバスルームで落とした顔に化粧を施した。彼女は、ノートパソコンを立ち上げて、あの時の写真を画面一杯に映し出した。
 (可愛い女に変身していたと思ったけど、こうしてみると、やっぱり男だとわかるな)
 ぼんやりとそんなふうに思いながら画面を見ていると、彼女がカメラを俺に向けた。
 「その画面に合わせて、ポーズを取れよ」
 ポーズを取るとフラッシュが光った。何十枚か写真を撮られた後、真っ白なブラウスとグレーのスーツに着替えさせられて写真を撮られた。さらに化粧を厚化粧にし直してパーティードレスで写真を撮られた。
 (次は縛りだったよな)
 そう思うと、身体の奥で何かが蠕いた。彼女は椅子と紐を用意し始めた。
 (やだ。濡れてる)
 俺に移植された女が反応していた。これもまた不思議な感覚だった。
 「早く椅子に座って!」
 着替えようかと思ったけれど、恐らくそうはさせて貰えないだろうと思ってそのまま椅子に腰掛けた。
 彼女は液晶画面を見ながら、俺を椅子に縛り付けていった。さらに猿轡をしてから写真を撮り始めた。
 俺はドンドン高まっているのを自覚していた。ショーツにシミができはじめているようだった。彼女が近づいてきた。ドレスを捲り上げるつもりだ。
 (濡れているのを見られちゃう。恥ずかしい・・・・)
 その恥ずかしさがさらに俺を興奮させた。
 「おおっ! 濡れてるじゃないか! ちゃんと機能してるんだな。へえ、すごい、すごい」
 嬉しそうな笑顔を見せながら、彼女はさらにフラッシュをたき続けた。あの時と同じように、ドレスが少しずつ脱がされていき、下着姿となり、さらに全裸にされ、写真が撮られた。あの時と違うのはブラジャーも取り除かれたことだ。
 「次は縛り直してベッドの上だな」
 モニターを見ながら縛り直されて猿轡をされベッドの上に仰向けに寝かされた。彼女がピンクのローターを持って近づいてきた。
 (ローターなんかイヤだ)
 そう思ったけれど、彼女がちょっと消沈気味に言った。
 「まだ、勃たないんだ。おまえを行かせられないから、代わりにこれで行かせてあげるよ」
 止めて欲しいと願ったけれど、猿轡をされているから、それを伝えられない。彼女は俺の秘所にローターを差し入れた。充分濡れているせいかスルリと中に入り込んだ。スイッチが入れられた。
 「はん!」
 快感が突き抜ける。イヤだとか止めてとか言う気持ちは、もはや頭から消えていた。俺は襲いかかってくる快感に身を委ねた。フラッシュが焚かれるのを他人事のように思いながら、俺は達して身体を硬直させていた。

 目を覚ますと、戒めは解かれてベッドの中にいた。彼女が横にいて俺を抱いている。
 (あの時、ペニスバンドでアヌスを犯されたんだよな。今日はもうしないようだな)
 彼女の顔を見た。彼女が目を開いた。
 「どうだった?」
 「うん。気持ちよかった」
 俺は頬を紅潮させて答えた。
 「そう。よかったな」
 「ペニスバンドは使わないの?」
 「偽物がいいのか?」
 「いえ、そう言う訳じゃ・・・・」
 「俺のペニスで行かせてやりたいんだ。偽物じゃなくて。勃起できるようになったら、このペニスでおまえを行かせてやるからな」
 「うん」
 俺は、トランクスの下に手を這わせてみた。懐かしい手触りがした。俺はゴクリと唾を飲んで尋ねた。
 「フェラ、してもいい?」
 「フニャフニャだよ」
 「いいの。銜えてみたいの」
 俺の持ち物だったペニス。しゃぶり、銜えてみたかった。俺はシーツの下に潜った。本物のペニスを銜えるのは久しぶりだ。元は自分の持ち物だったから、抵抗はまったくなかった。
 両手で握りしめて、舌を這わせた。感じる部分はわかっている。カリやヒモの部分に舌を這わせ、パクリと銜えて舌で刺激してやった。
 まったく勃起する様子はない。しかし、彼女は腰を動かす。
 「どう?」
 「いい。こんな感じがするのね」
 女言葉でそう答えた。舐めながらしごいてみたけれど、まったく勃起する様子はなかった。けれど、彼女の息が荒くなってきてペニスの先から先走り汁が出ていた。勃起しなくても性的興奮は得られているようだった。
 30分ほど舐めてあげた。彼女は満足したようで、もういいと言って俺を抱きしめた。俺の太股に彼女のペニスが触れた。
 (いつかはこれを俺の中に導くことになるのだろうな)
 身体が熱くなった。

 翌日、夕食がすんでから彼女が撮りまくった写真をふたりで見た。モデルも衣装もポーズも同じなのに、以前と昨日とではまったく違った印象だった。男だった俺と女になってしまった俺の違いだ。
 「前の写真の方がいやらしいね?」
 「そうだな」
 脅され無理矢理女装させられて縛られているせいだろう。屈辱と悲壮に満ちていた。
 「今日もするだろう?」
 そう言われて、俺はええと小さく答えた。
 「縛られるのが好きだろうけど、今日は縛りなしでやってみよう」
 彼女がそう言うので仕方なくそうすることにした。長い長いキスの後、首筋に舌を這わされ耳たぶを咬まれた。そうするうちに着ていたものが脱がされていき、乳首を転がされ乳房を揉まれる。舌が全身をはい回った。俺の股間に舌が降りてきたときには、そこは気持ち悪いほど濡れていた。
 クリトリスを舐められ、吸われ、咬まれた。その間にも乳首が抓まれ、膣に入れられた指が俺のGスポットを刺激した。
 「はあっ! はあっ! ああっ!! あああっ!! 行く、行くううっ!!」
 激しい舌の攻撃に俺は身体を痙攀させた。舌は離れたけれど、乳首を摘んでいる指と膣の中にいる指は俺を刺激し続ける。
 「ダメ! ダメ! お願い! もう止めて!! 気が狂っちゃう!」
 彼女は何も言わないで続けた。
 「ダメぇ・・・・・」
 意識が途切れた。

 目が覚めた。彼女が俺の顔をジッと見ていた。
 「今日も行ったわ」
 「わかってる。すごかったよ。指が千切れるかと思った」
 「ホントに?」
 「ああ。おまえは完全に女だ」
 その言葉裏には、羨ましいという感情が籠もっていた。
 「早く勃つようになるといいね」
 「すぐに勃つようになる気がするよ」
 少し悲しげな笑顔を見せた。