著書『「日本合州国」への道―こうしたら「分権」は実現する』 (東洋経済新報社・1995年1月初版)から
私の道州制論  
大分県知事 平松守彦

 
 

 
2 有力試案へのコメント




(1)第2次行革審の「国と地方の関係等に関する答申」




 最初に、近年の地方分権論議の火付け役となった、第2次行革審の「国と地方の関係等に関する答申」(平成元年12月)を見てみよう。この答申は、その後の第3次行革審や第23次地制調の審議を方向づけた、いわば90年代地方分権論の「基本テキスト」に相当するものだ。内容は総論的ではあるが、地方分権にかかわる諸項目を網羅的に取り上げている。

◎ 基本的な方向 
 答申は「はじめに」として、次のような基本認識を披露している。
   
    「国は、各般の要請に応えつつ、内政に関しては基本的政策の
  策定、全国的な行政水準の維持、国として直接行なうべき事務の実
  施などに一層重点を移行させるとともに、地方公共団体については、
  その自主性・自律性を高め、地域の実情やニーズに対応して住民生
  活に密接に関連する事務・事 業等の充実を図る必要がある。  
   さらに将来を展望すれば、これまでの経済社会を規律してきた様々
  な制度や仕組みを改革する上で、各地方ブロック等の地域に大幅な
  自由を与え、それらが競い合い、国民の間の多様な取捨選択を通じ
  て変革と合意形成がなされていくことを目指すことも重要である。」  
  ここでは「地方分権」という言葉こそ使われていないが、国の機能を純化し地方の主体性をいっそう高めるべきだという方向性が、はっきり示されている。また「各地方ブロック等の地域」という抽象的な表現を用いて制度改革の必要性を指摘しているが、これについては、次の「基本的な考え方」のところを見るともう少し具体的になる。  
    「社会経済と国土構造の将来を展望し、都道府県の区域を越える
  広域社会経済圏に対応した広範な行財政権限を備えた広域的地域
  行政主体を形成するとともに、都市と農山漁村地域等における基礎
  的自治体が地域の主体性を発揮しうる新たな制度と仕組みを築き上
  げていくことは、時代の要請である。」  
 要するに〈都道府県の区域を超える広域行政主体〉と〈地域の主体性を発揮しうる新たな基礎自治体〉−この2つが制度改革の基本的な方針として提起されているわけだ。
 

◎権限委譲の3つの方針 
 「権限委譲」の項では「地域経済の振興、地域づくりや住民生活に密接に関連する行政分野等において、国から地方への権限委譲等を推進する」と原則を述べた上で、以下の3つの方針が示されている。  
  (1) 事務処理の基準等を明示することにより地方において実施可能
    な事務は、委譲する。  
  (2) 事務手続き上、地方公共団体を経由し、その段階で実質的な
    調査・審査等 が行なわれている事務については、当該団体に
    委譲する。
  (3) 都道府県が処理する事務についても、住民生活に密接に関連
    する事務を中心に、市町村の規模、行財政能力等に応じ市町村
    に委譲する。
 委譲すべき具体的な事務権限を例示せず、こうした原則論で済ませているところがこの答申の限界ではあるが、権限委譲の基準を提示した点は評価されていいだろう。  
 しかし「国から地方へ」だけでなく、「都道府県から市町村へ」の権限委譲を、ここでことさら指示している点は気になるところだ。実際、以下で見るように、この答申が最も力点を置いていたのは、都道府県から「地域中核都市」への権限委譲だった。
 

◎地域中核都市と都道府県連合への着目  
 「地域行政主体の整備・多様化、広域行政への対応」の項で取り上げられているのは、「地域中核都市」「連合制度の導入」「自主的な合併の推進」「道州制の検討」などだ。中でも特に地域中核都市に対しては「行政権限の重点的な委譲を進めるべきである」と強調し、次のような提起を行なっているのが目を引く。  
    「地域の中核都市として、人口規模その他一定の条件を満たす
  市に対して、都市における各般の行政分野について地域行政に
  係る事務を中心に都道府県の事務権限を大幅に委譲する。これに
  必要な制度化を図る。これに併せ、当該都市の一般財源の充実を
  図る。」  
 つまり権限委譲の受け皿として地域の中核都市に着目し、ここに国からではなく、都道府県からの権限委譲を行わせようというのである。一方、国からの権限委譲の受け皿として重視されているのは、現行の都道府県そのものより、むしろ「都道府県連合」という連合組織であった。  
 先に見た基本方針と重ね合わせれば、「地域の中核都市をテコとした市町村の再編成」と「連合制度を軸にした都道府県の再構成」という2つの方向性が見えてくるだろう。いずれにしても実際問題としては、国の権限よりもむしろ都道府県の権限の縮小につながるものだ。  
 全国知事会が「国から地方への権限移譲問題とは別個の都道府県・市町村間の移譲という地方内部の問題に立ち入り、都道府県の権限を大幅に縮小」するものだとして、この答申を強く批判したのも、そうした傾向を憂慮したからにほかならない(全国知事会「地域政策と府県−戦後において府県の果たしてきた役割と今後の課題」1990年11月)。


◎ 財政運営の自前主義  
 財政制度に関する項目を見てみると、「地方財政の自主性の強化」の項では地方債の起債許可制度の運用をより弾力化すること、また「団体間格差の是正」の項では「普通交付税不交付団体」つまり地方税の収入が多い豊かな自治体に対しては補助金の支給に差を設けること、また複数の地方に事業所を持つ法人の法人事業税についてその分割基準を見なおすこと、さらに地方税のあり方や地方公共団体問の「水平的財政調整制度」の導入を検討することなどが取り上げられている。
 また「補助金等の制度・運用の改革」の項では、事務権限の委譲にあわせて「事務の主体が費用を負担するという原則」を尊重していくとした上で、地方公共団体の自主性に委ねるべき事務についてはその補助金を廃止ないし一般財源化すること、また類似目的を有する補助金は統合・メニュー化を進めること、交付金化が可能なものは極力これに努めること、さらに補助率の見直しやその事務手続きを簡素化することなどの課題が示されている。
 全体として、財政制度を根本的に改めるというより、現行制度内での運用の改善を重視、する立場に立って、従来から指摘されてきた改善策を網羅的にまとめているという印象が強い、しかし「事務主体の費用負担原則」をかかげて補助金の廃止を提唱したり、補助率の見直しの項では「一定の行政水準の維持等のため国と地方が等しく分かち合う性格の事業」についてはその補助率を「2分の1」にするなど、実質的に国庫補助の削減をうながす方針がはっきりと貫かれていることも事実だ。
 つまり事務権限の委譲と引きかえに財政運営の自前主義を強調し、結局のところ国庫補助の削減を図ろうという国の本音も示されている。国は地方分権を国庫負担削減の1つの便法と考えているのではないか、という批判が上がったのも故なしとはしない。
 以上のようにこの答申は、地方分権の必要性を大筋で認め、その課題を網羅的に示した総括的な文書だった。しかし実質的には「国から地方へ」よりもむしろ「都道府県から地域中核都市へ」の権限委譲を強調し、財政面では事務主体の費用負担原則をかかげて実質的な国庫負担削減の方針を打ち出すなど、国の論理も色濃く投影されたものだったと言えるだろう。

(2) 第23次地制調も「広域連合及び中核市に関する答申」



 
 第2次行革審の答申を受けてスタートした第23次地制調(地方制度調査会)は、第2次行革審が強調していた2つの制度改革、すなわち地域中核都市と連合制度について審議をすすめ。平成5年4月、「広域連合及び中核市に関する答申」をまとめた。


◎基本的な考え方
 答申は、まず近年の地方分権論議の高まりを歓迎しつつ、その多岐に広がる論点に対して、次のようなスタンスを取ることが重要だと指摘する。
    「(道州制の導入など)地方自治制度の根幹に関わる制度改革に
   ついては、国・地方を通ずる行政構造の基本的なあり方、住民意識
  や行政需要の動向等幅広い観点からの具体的な論議が行なわれる
  ことが必要である。同時に、これまで当調査会が答申において指摘し
  た国と地方の事務配分、権限委譲、国の関与の整理合理化や現実
  の行政需要に対応するための地方制度改革を一歩一歩着実に実現
  していくことも、地方分権の推進のためには極めて重要なことと考え
  る。」
 つまり道州制などの大胆な制度改革についてはまだまだ論議不十分であるとし、事務配分の見直し以下、より現実的な制度改革から着実に実行していくべきだとする。そして、このような基本的な考え方に立って運営された審議の結論を次のように紹介している。
    「当調査会は……多様化している広域行政需要への適切な対応
  と、一定規模以上の都市の事務権限の強化を図り、地方分権を推進
  するための制度として、当面、都道府県および市町村の区域を超える
  新しい広域行政体制のあり方、並びに都市の規模能力に応じ た事
  務委譲を含む都市制度のあり方を中心として審議を進めてきたが、
  今般、それぞれ広域連合制度および中核市制度を創設することが
  適当であるとの結論に達したものである。」
 ここで特徴的なのは、事務権限委譲の条件として、はっきりと都市の「規模」を問題にしている点だ。後でふれるが、その規模とは、結局のところ「人口」や「面積」を尺度にして計られることになる。


◎広域連合制度の骨格
  「広域連合」制度は、現実的にはごみや産業廃棄物の処理、地域開発や環境保全など、広域にわたる行政事務を共同処理するための特別地方公共団体として構想された。これらの広域行政需要に対応するための代表的な制度としては一部事務組合があるが、答申によれば、一部事務組合は「国または都道府県から直接に権限委譲が受けられないこと、所掌事務の変更に自らのイニシアチブが発揮できないこと、組織が画一的であること」等の限界があるとし、広域連合制度はその限界を超えるべく創設されるもので、一部事務組合と併用していくことが適当だとされる。
  そしてこの制度では「国または都道府県は、広域連合に対し直接権限の移譲を行なうことができるものとする。また広玖連合は、国または都道府県に対して権限の移譲を求めることができることとする」と規定し、分権の受け皿としての性格が強調される。
 また、多様な行政需要に柔軟に対応できるよう、その所掌事務の変更手続きを保障し、広域連合が策定した計画や政策に各構成自治体は従う義務があると定めるなど、一部事務組合に比べてかなり大きな権限を与えている。さらに、一部事務組合にはほとんどない住民の参政権も保障している。


◎中核市制皮の骨子 
 一方の中核市の制度は、現行の政令指定都市にならった「準政令指定都市」を想定していると言えるだろう。その「創設の趣旨」としては、現行制度においても「地方自治法に基づく指定都市の制度」をはじめ「個別の法令において一定の規模等を有する市町村に対し事務配分の特例を認めるもの」があるが、概して「画一的な事務配分が指向されてきた」とし、「市町村の規模能力に応じた事務配分を進めていく」ために、「社会的実態としての規模能力が比較的大きな都市について、その事務権限を強化」することが適当である としている。  
 中核市の要件としては、以下のような人口と面積の2つの基準が示されている。
   人口……30万人以上とすることが適当である。   
   面積、100平方キロメートル以上とすることが適当である。  
 この基準に従うと、全国で27の都市が該当することになる。  
 また中核市への権限委譲は、「事務配分の特例」として、現在政令指定都市などに特例として委譲されている事務の内、一部のものを除外し、その他の事務は一括して委譲するとされる。つまり中核都市に対しても、政令指定都市に準じた権限の委譲を行なわせようというわけだ。


◎中核市制度の問題点
 ところで、この中核市制度は、第2次行革審で提起された「地域中核都市」と同様に、「都道府県と市町村の間の事務配分に係わる制度」として構想されている。つまり「特例」として委譲される権限とは、国からではなく都道府県からのものなのだ。国はこの答申でも、地方内部の権限委譲に焦点を当てている。 しかし第2次行革審の答申に対する全国知事会などからの批判を配慮してか、答申は以下のようないわぱ「但し書き」を付け加えた。
    「都道府県と市町村の事務配分のあり方は、国と地方の事務配分
  を見直し、国から地方への権限移譲等を推進するという大きな枠組
  の中に位置づけられるべきものであることは、いうまでもない。
  ……したがって、……現在、国の事務とされているものについては、
  これまでの答申の趣旨に沿って都道府県への権限移譲を速やかに
  実現するとともに、現在、都道府県の事務とされているもの及び今後
  国から都道府県に移譲されることになる事務についても、規模能力
  に応じた事務移譲という観点に留意しつつ、可能な限り、指定都市
  または中核市に移譲する方向で検討することが必要である。」
 中核市制度は、実質的には、県庁所在地の都市や全国市長会などから提唱されていた「第2政令指定都市」構想にそったものだ。そこには、都道府県からの自立を求める規模や能力の高い都市自治体の声が強く反映されている。
 たしかに、分権の受け皿としてその規模や能力を問うことに現実的な根拠はあるだろう。しかし、人口や面積によって受け皿を限定する発想は、地方分権の本来の趣旨とは異なると言わなければならない(なお、この答申にそって、平成6年6月、地方自治法の改正が行われた)。