讀賣新聞 6月1日版より

  読書手帳   


    (第2回)    
 五月。新緑の季節。大分では「城下カレイ」が旬を迎える。別府湾を一望する日出町 で味わうカレイの刺し身と地酒は逸品だ。「食ハ大分ニ在リ」とは鶴見和子さんの言葉 だが、鶴見さんの「女書生」(はる書房、3000円)は、日本初の内発的発展理論の 形成過程を自叙伝風に描く。南方熊楠や柳田国男、中国江蘇省の郷鎮産業と大分の一村 一品運動の模式(モデル)比較など、フィールドワークをもとに、地域の内なる発展力 を引き出すキーパーソンの必要性を説く。キリリとした和服姿と歯切れよい話しぶりが、 そのまま文章ににじみ出ている。最後は踊り論を書きたい。<To Dance is Human> (踊るってことは人間らしい)という。日本舞踊の名取である先生らしい結びだ。

 竹西寛子「古典を読む―古今和歌集―」(岩波同時代ライブラリー、900円)の文 章も美しく勁い。「君や来しわれや行きけむおもほえず夢かうつつか寝てか覚めてか」 (業平)を暴露とはほど遠いつつみの、恥じらいの表現から生じてくる優艶の波立ちは、 むしろ情事のあらわし方の本道を示す」。なんと扇動的な解説ではないか。

 竹西さんには、大分出身で九十九歳で逝去される直前まで小説「」(新潮文庫、6 60円)を執筆した野上彌生子を偲ぶ「野上彌生子作品感想文コンクール」の審査委員 になっていただいている。「小さいことをなおざりにした説得力、喚起力の強い文章と いうものはまずありえない。それは野上彌生子が長い年月を通して身を以って示してい る」とは竹西さんの審査評だ。そういえば、野上と竹西さんの文章や構成は、端正さ、 厳密さの点でよく似ているように私には思える。

 曾野綾子「近ごろ好きな言葉」(新潮社、1456円)は、政治家や企業のトップの 耳の痛いことをズバズバ直言し、読んでスッキリする。曾野さんの使命感、生きざまが 歯に衣をきせぬ勁い文章に表れている。

 曾野さんに叱られると怖い。それでいて慈母ならぬ厳母(?)に会いたい、と魅かれ る気がするのが不思議だ。
                          (大分県知事)