ダルマ神殿の壁



今回もまた過去の話しになる。

なぜこの期に及んで過去の珍道中を話さなければならないか・・

理由は色々ある。
決してネタ切れではない。

「俺は過去を振り返らない」とか「常に前進あるのみ」と言っているやつに限って
ただ単に己の過去を反省しないアホンダラが多い事に最近気付いたからだ。
したがって、ひねくれ者の私はあえて過去を語る。

そして新しい会員にも過去にこんな恐ろしい事があったのを知っていただき
今のミワリーがいかに平和であるかを実感せしむる目的もある。

また、内容が内容だけに今だから話せる出来事であるという事も
どうかご理解いただきたい。



時は1999年ごろ・・・・だったと思う。
ミワリークラブが立ち上がって間もない頃で
近年のように学校からの要請や一般からのツアーの依頼などは少なく
なにかミワリークラブあてに連絡がくると言えば
子供からの質問やら、変な手紙などばかり・・

そんなマニアックで近寄りがたい存在と思われていた時期に
一本の電話がかかる。




私の知り合いのそのまた知り合いぐらいのおじさんからで
面識はなかったのだが、商売をやっているので名前ぐらいは知っている程度の人だ。

好青年ぶって形式じみたつまらん挨拶をする私とは逆に
おじさんは比較的柔らかな口調

「あんた〜 たしかお化けとかそういうの詳しいんやろ?」という。


詳しいというわけではないし、べつにお化け大スキなわけでもない。
歴史ある臼杵ならではの一風変わった町おこしなんです・・・と言ったら

「まあ 似たようなもんじゃろ? はっはっは」


始めて話したけど、思ったより気さくな人だった。
お互い商人同士であるし、キツイ言い方もなく笑い混じりのなごやかな会話で終わるかに見えた。

「今度、うちの工場に来ちくれんなー」


「え? 俺がですか?  えぇまあ 」


「あんたらに見てもらいてぇモンがあるけんなぁ」



「なんですか〜 それ?」



「あのなぁ・・・・・・・」



と内容を喋り出すおじさんの
身の毛もよだつご相談に、私は受話器を持ったまま立ちすくんだ・・・

方言丸出しでわりとはきはきした口調
少し小声に変わり、こう言ったのだ。




















「わしの家の裏の人の形とか
生き物みたいな形
ウヨウヨ
出てくるんじゃわい・・・・」















「えぇぇぇぇぇぇ?!」



何なのだ・・・一体我々を何だと思っとるのだ・・・
ゴーストバスターズじゃないぞ・・・
何で私が怨霊退治に・・・・・・ギボアイコじゃあるまいし。

電話ではかなり抵抗を試みたものの
穏かな中にもあつかましいおじさんの言葉に吸い込まれ
半ば強制的に家へ行く事を約束させられた。

もちろん一人で行く根性などない。

約束の日、
体に塩を振ったり、仏壇に参ったり
思いつく全てのちっぽけな魔よけで身をコーティングし
落ち着かぬ面持ちで車のハンドルを握っている私。
その後ろの座席には本尊・ミリタリー。

本尊「私らの専門外ですよ・・・彼(おじさん)にもはっきりと言うべきです」

ミリタリー「どうせ、たぶん、ただのシミか何かやろー」

この二人にしてはまともな事を言っている。


現場へ着くと工場に隣接しているお店に入って行った。

仕事中そのままの格好の私と
迷彩服のミリタリー&頭でっかちな中年・本尊

見るからに怪しげな我々が
「社長さんはいらっしゃいますか?」と聞くと
店員さんはまるでアダムスファミリーでも見るかのような視線で
疑いのまなざしを浴びせた後、
「少々お待ちください。」
そして今回の依頼主であるおじさん登場・・

中年にはよくある・・・と諦めざるを得ない程度に肥満度をさらけ出したボディライン
頭に乗っかっている帽子の左右からは、太い帯のようなモノが頬を伝うがごとく出ており
安定をよくするための帽子のヒモなのだろうと思いきや
それはよくみればわざわざ生やしている立派なモミアゲだった。
そしてその尾崎喜代彦ばりのワイルドヘアの両方が、
たった今にでもドッキングしそうな危険度を
ノーマルな趣向へと修正するかのような苦笑で


「おーーー来ちくれたんなーーー」という。



全体像を一言で言うなれば
赤塚アニメに登場する気のいい脇役と言った感じ。

待ちわびていたかのような友好的歓迎の様子に
「こんないい人が困っているのならば、相談ぐらいにはのってやってもいいかなー」
とさえ思う。

「じゃあ裏に行っちくれん。わしもすぐ行くけん」




工場の脇からは自宅へ通ずる小道があり、
裏山を削り取ったかのような場所に結構な邸宅が胸を張って居座っている。

その立派な自宅に上がらせていただくのかと思いきや
おじさんは
切断された裏山の壁面がコンクリートで固められた側にある小屋の方を指差し
「あそこに行っちょってくれん」というのだ。

本尊・ミリタリーは何食わぬ顔でそちらへ向かうのだが
私にはどうしても気になってしょうがない事があった。

それは


洋風な家の玄関に、なぜか対を成して座っているシーサーだった。




まあ神獣マニアか単なる沖縄好きなのだろうが
にしても
そのシーサーそのもの魔よけである事には変わりなく
間違いなく今から向かう壁付近が
彼のお悩みの根源、すなわち禁断の霊場である事を覚悟しなければならないだろう。
それに、玄関に魔払いを施すとは、よほど困っているのだろう・・


だが・・
小屋を目の前にすると、益々考えなければならぬ事が多くなった。

かげ崩れを防止しているであろうコンクリートの壁から屋根が出ているのだ。
正確には屋根が出ているのではなくて
急斜面型の壁に屋根を付けた小屋が家との間に挟まれている。

ちょっと分かりづらい説明だとは思うが
この構造を文字で伝えるにはかなりの無理があるのである。

ここで、カンの良い方は推理してみて欲しい。

壁を見に来たはずなのに、なぜ小屋に案内されたかを・・・・



自宅から壁を合体させるかのように増築されている小屋。
靴を脱ぎ、板敷きの床を歩いて行くと
そこは小さな部屋。




映画館のような薄暗い空間に目が慣れてきて
その全貌が明らかになった時

全ての謎が解けた











コンクリートの壁を室内にしているのである。













さらに驚くべきことに
壁全体を神殿にでも見せかけるような
数々の装飾品で飾っている・・・



線香・・・ローソク・・・・小さな仏像・・・



エンマ大王でも出てきそうな空間・・
板敷きの床には数枚の座布団・・・
神聖さよりも気色悪さの方に重要性をおびた
不自由かつ機能的でない間違いだらけの聖域・・
よく考えると
山の斜面を部屋の壁にしているようなもんだ。
雨が降ったらどうするのだ・・

それよりも
困り果てて我々に助けを求めたであろうこの
何故にここまで祀り立てているのか最大の疑問だ・・

「なんか・・・・勘違いしちょるんやねぇん?」とミリタリー。

「これ・・・・あそこで売りよった」
以前骨董品屋でみかけたという装飾物を見つめる本尊。

 そのひとつひとつ全てが融合する事によって
いっそう馬鹿馬鹿しさを増しているグロテスクパルテノン神殿の前に 
この二人が座っているのを見て
まるでキツネとタヌキの祝言に招かれたような私・・・
それでいて
霊長類としては極めて珍しきこの二匹の生物がいるので
今から何が起ころうとも、何とか切り抜けそうな頼もしさがある。

「遅いですねえ〜」と本尊がつぶやいた数分後・・

ちょうど不気味さが退屈さへと麻痺し始めた頃・・


脇の廊下からおじさんが現れた。

そして私は
彼の姿を見た瞬間・・
思った・・・・


たった今、ここから抜け出さなければ・・



先ほどまでは
「一生懸命仕事に打ち込んでいるのに、
家にヘンなモノがとり憑いていて困っている悩める商人」
であった彼は















仕事着をわざわざ脱いで














作務衣=寺の住職の普段着のような服に
着替えてきたのだ!














「何で?」






その頭部に目を向けてみれば
さっきかぶっていた帽子もなく
3枚刈りぐらいに丸めた毛髪
3枚刈り以上にフサフサなモミアゲアンバランスに君臨している。

 良く言えば男前のダルマ
悪く言えば弱い弁慶・・



そして我々の目の前に正座したこのモミアゲ和尚
壁にうっすら浮かぶシミのような模様を手のひらで注目させたかと思うと



最初の電話の粋な商売人の喋り方とはまったく正反対
ものすごく落ち着いた口調でこう言ったのだ・・・・



















「はい、こちらが観音さまであります。」






















「か 観音さま?・・・・・・・」

















たしか
依頼時にはこの壁の存在
「困っているから何とかしてくれ」といわんばかりの
迷惑で厄介なお荷物として扱っていたくせに
いざ来て見れば、それを「ありがたい観音さま」と言ってのけている・・・


いやそれよりも 何なのだ・・・・

この「ようこそいらっしゃいました」みたいな態度は!
















まさか、これ・・・・どっきり?





























スターどっきり?

















あ  いや 
スターでもなんでもないし・・・・











とにかく、このおじさんが我々を招いた意図
おぼろげながら見えてきた。

つまり、
この奇特な信心に賛同してもらいたいようなのである。
さらにこの場所を一種の宗教的聖地に仕立て上げようとする魂胆が見え見えだ。

だったら尚の事、
人々に知られる前に、
おじさんが信仰を広めようと純な一般人までマインドコントロールする前に
このインチキショッカーの秘密基地規模で止めてやらねばならない・・

そうだ!このために呼んだのだ!
否定すべく助っ人である二人本尊&ミリタリーを!

我々がもう完全に洗脳の支配下と思い込んでいるおじさんは
「近くに来てご覧になってください」といった。


言われるがままに壁に近づく本尊とミリタリー・・・・

心の中で「ここで言ってやれ!ガツンと一発、言ってやってくれ〜!」と願う私。

しかし
なんでも鑑定団のごとくマジマジとそれを眺める二人が口を開いた瞬間、

私は
はい上がった救い船の上から、血の池地獄へと突き落とされる
















本尊
「ほうほう なるほど・・・」












ミリタリー
「あっ 本当や 観音さまや」










ババババババ
バカかぁぁぁぁ  お前らはぁ















来る途中の車内では、あれほどじさんと壁の事をののしっておきながら
なんてザマだぁぁ・・




するとおじさんはその観音さまと勝手に信じ込んでいるシミの横を指差し







「あそこには龍が浮かんでいますねぇ」と言い放った・・・




「龍?・・・・」

目を向けると、龍というよりはムカデに近い
日本列島といったほうがしっくりくる何やらゴチャゴチャした模様・・・
それを神秘と呼ぶにはまことに滑稽な形・・・





付け加えて、
自身満々にこう言った。















「天に向かって昇る龍ですねぇ」と・・・・・























ちがうよー!壁だよ壁!
















次に、ものすごく惚れ惚れした顔













「見事な龍でしょう」
という






















わからず屋ぁぁぁぁぁぁ!

壁だよ壁!コンクリート!

あんたが見ているのは

土木会社が山に塗った
立派な人工物なんだよー






さらに、首をかしげつつ、困った風な,
それでいて嬉しそう
または水野晴郎のような表情でシミジミとぼやいた。



















「いや〜  なぜ、よりによって
私の家の裏に
こんな
不思議なモノが出てきたんですかね〜(ニッコリ)






















知るかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ



















完全に布教ペースで喋るおじさんと
うなずいてばかりのミリタリーと本尊・・・





あんたら
三人まとめて呪われちまえ!






私は一刻も早く帰りたいあせりをおさえながらも
本人が納得いくまで聞かないと帰してもらえそうもないので
しかたなくもう少し話しを聞いていた。



会話の中では、この壁に異様で陰湿な宗教色を施すというよりも
イボ地蔵のようなノリで手軽な信仰としてとらえて欲しいらしく、
「広める」というよりは「宣伝する」といった表現を多く用いているのに気がついた。




どうやらおじさんは、
これを
商売に結び付けたいようなのである













こんなもんで金儲けできるんなら
とっくに誰でも億万長者である。








ようするに単純な商売熱心のおじさんだったのだ。
したがって
このだましだましな衣装も、にわか仕込みの装飾品
壁の神格性をやや実際化するためには省略しがたいアイテムだったにちがいない。
その熱心さが商売よりもむしろ信仰の面白さに依存し、
極端に片寄っているだけのだ。



ああ もう 
帰りたいけど帰れない・・・




笑いたいけど笑えない・・・・




こうなれば
彼が御神体と勝手に思い込んでいるコンクリートの文様というか、シルエットの正体は
今後辛抱強い悪趣味学者に任せるとして
とりあえず
観音さまと称するただの汚れに手を合わせて拝めば、
彼も気も治まるであろう、と私は考えた。


あたかも熱心な信者のごとく、
お彼岸のお墓参りのように手を合わせている私を
モミアゲダルマは
「君も今日から仲間だ・・・・」みたいな顔で見ている・・・

そして
中途半端な豪華さに飾り付けられた
その御神体に向かって問いかけた・・・・・



観音さま・・・
いや・・・天然こっくりさん・・・・

どうか教えて下さい・・・・・



彼は家も工場も立派なのに
何がゆえに、この壁画の力を雇い入れるのか









いい年こいて
朝夕、手を合わせ何を占うのか











いや・・・・それ以前に・・・
どうか どうか 教えて欲しい・・・・














このおっさんの頬の毛は
どこまでがモミアゲで
どこからがヒゲなのか?

















そんな私のやぶれかぶれの行動にさえ
迷惑な祝福の笑みを浴びせかけるおっさん。

調子に乗って「わしも入会したいんじゃけど」というが
「検討します」とその気もないのに捨てゼリフを吐いた。

こうして
見た目は一般家庭の家風でありながら
実は恐ろしく世界規模の野望をたくらむ場所、
それでいて
ものすごく手前味噌な都合ばかりを先走る信仰と
笑ってしまうほど孤独な熱心さがくすぶっている
このささやかなカルト教団の手作り秘密基地から脱出した。









帰りの車。
役に立たぬわびさびを見せた本尊&ミリタリーにブツクサ言いながらも
商売人の熱心さとしては少しは尊敬できるおじさんに
もったいないような残念な気持ち同情が沸く。


信心なんてものは結局のところ
幸福を最終目標に置く心のより所だ。

己を見失うほど何かを信じる人の多くは
その象徴をやたら実体に求めたがり、
目標へ達するまでの段階をという数値で表そうとする。

あ〜あ 馬鹿馬鹿しい
幸福なんぞ、気持ちの持ちようで一瞬にしてなれるのに。
日常の生活の中でそれを見出せぬ者が
何に対して祈っても同じだ。






それにしても
あれから数年たった現在、

おじさんはまだ
祈っているのだろうか












あの犬のションベンかもしれない御神体に。