学校の快談



6/13


小学校からの依頼で日曜参観日に妖怪授業をする事になった。
依頼がどこから来たのかはっきり思い出せないが、
いつもながらチビッコ以上PTAの方が張り切っていらっしゃる。
こんな時、私はいつも不安なのだ。

それは期待に答えられるかどうかである。


「子供たちが怖い話大好きなのでー」と言った理由から
郷土の伝説に興味を持たせようとしているようなのだが、
今回ばかりは相手が100人以上の大人数と言うので
依頼が来た時には私もその講演の手法やらに正直、困ってしまった。
考えてみれば、今まではクラス単位グループ規模を相手してきたわけで
一度に全校生徒に伝えるというのはやはり
民話伝達人のあるべき姿ではないような気がする。
また、紙芝居などの少人数向け小道具や、接近戦を得意とするメンバーの対応能力から言っても
そんな有名芸能人が母校でやる講演会のような舞台はいかがなものかと思うのだ・・

それでも
本尊の名言である「要請あるかぎりは出向く」に従い
私は了解した。


これに対し、本尊は
「え?
全校生徒相手すんの?
せめて学年別で分割すればいいじゃあないの!」

と、星一徹のような顔で少々ご立腹。

さらに・・
客寄せパンダじゃあるまいし・・」
と吐き捨てたのだ・・・・



そんな事言ったって俺ら
所詮、
客寄せパンダでしょうが・・・・

結局
PTAの方との交渉で高・中・低学年別で授業を行なうようになり、
頑固なアナグマ=本尊
エレガントな奥様方との事前打ち合わせに気分をよくしたのか
全面協力という形の受け入れ態勢に身を転じていた。


なんとなく一石二鳥である。




車何台かに分かれ玄関に集結した本日の機動ミワリー
本尊・私・副会長・ミリタリー・金数え・猫侍・メガ鼠・書庫麿・遠慮太夫

PTAと先生にまるで芸能人のごとく出迎えられ
突き当たりのドアへ連れて行かれた。
「時間になるまでここで待ってて下さい。」
グランドを見渡せる窓、
賞状やトロフィーの数々代議士事務所のような机。



こんなに不気味な我々を
控え室同然招き入れた部屋はなんと・・







校長室ではないか!










国会議事堂マウンテンゴリラを飼育するようなもんだ。


事実上はじめてのミワリー活動となる新入会員2人にも
発表を前に少しでもリラックスしてもらう場所が
恐れ多くもこの学校のボス・校長先生の部屋では妙に落ち着かない・・
それに
成人なのだから誰に怒られるわけでもないのに
「校長室でタバコ吸ってもいいんかなあ」妙な罪悪感を抱いてしまう。

さらに毎回の事だが、学校の人にお茶とお菓子を出されて
獲物を狙うチーターのごとくそれを見ているミリタリー
「お菓子もって帰っていいんかなあ」とささやく。
たった今食えばいいのにわざわざお持ち帰りする理由
誰が聞こうが聞くまいが私にはわかっていた。


昼飯である。




今回は体育館で全校生徒相手に簡単な説明の後、
高学年・中学年・低学年の各分科会に分かれ、
年代に合った妖怪話をするという事になっているので
妖怪画のパズルを作ったり、紙芝居の練習をしたり
何かといそがしかった。

そんな中、PTAの方や先生方が楽屋を訪問してくる。

「楽しみにしてますよ 斉藤さん!」
「斉藤さん!よろしくお願いします!」
と、若い父母たちからの声援を受ける本尊。
彼は事前打ち合わせの日以来、
あの必要以上に印象深く忘れようにも忘れ難いキャラのおかげで
奥様方には尊敬されるというか頼りにされている。
そして、その誤った人気
鼻高々になるどころか
鼻の穴が北島三郎のように横に広がるというハリキリモードになっており、
本人にしてみればヨン様気取りであろうが
どう見てもブヨン様というしかなく、
こんなにチヤホヤされる人気の秘訣は
「私が誠実でダンディーだからなのかなあ」といった
身の程知らずな勘違いにどっぷりはまっている様子。




とんでもない・・・・・
あんたという生命体が珍しいからですよ・・



準備も整い体育館へと向かう。
母校でもないのに、どこかなつかしい匂いがした。

入口には斉藤本尊の斉ケデリック人形=妖怪張子が並べられ
それをみんなにほめられたブヨン様ことぺ・ホンゾンも上機嫌。
「なんでもできるんですねー」と持ち上げる父兄に
独身なのがたまにキズですがね」と私が言うと
「でもこんなに手先が器用じゃないですか」と父兄の方。
0.1ミリもなぐさめになってないし、
「同情するなら嫁をやれ!」である。


全校生徒、父兄と先生方の間を切り開き
我々ミワリーメンバーはモーゼのごとく土俵入り。
笑い声とささやきサラウンドとなって押し寄せる中、上座へ立ち、
それぞれの妖怪名で自己紹介すると
大人気ない大人馬鹿馬鹿しいニックネーム
子供らはほのかに親しみを感じ出したようだ。
クスクス笑い出す子供たちに、ほんの少し恥かしそうにご挨拶する我々。

凸凹で棒グラフのような背丈の配列、
このメンバーの中に
宇宙人(本尊)サイボーグ(猫侍)爬虫類(ミリタリー)
そして平安時代からタイムスリップしてきた者(書庫麿)もいるが
ここではあえて黙っておこう・・・・・
ビジュアル的に退屈させない配慮は、ミリタリーだけで十二分にその役目を留めているのだから。

この出前式コミカルお化け屋敷客寄せパンダ扱いされるのを本尊は嫌がっていたが
嫌がられるパンダの方がよっぽど可愛そうである。


プロジェクターを使っての全員講座では
活動の内容妖怪の基礎知識などについて
まるで新製品の性能を説明する企業戦士のような私と本尊。

聞いている生徒たちはというと

体育座りで
私の話にうなづいている・・・




その横で
ゲストコメンテーターのごとく長テーブルに座り講義を私に任せている
副会長以下ミワリー会員たちも


なぜか私の話にうなづいている・・・





ちょーーーーっと待ていぃ!





何でお前らが
「へぇ 知らんかった・・」みたいな顔で見とるんじゃい!





今日がデビュー戦である遠慮太夫&書庫麿の二人はともかく
最も古株の副会長や金数えまで「初耳だ・・・」といわんばかりに
呆気に取られた感じで聞き入っているのだ。

お前ら・・・・何年やってんだ・・


ふと気付くと、
最初に心配していた全校生徒の反応はさほど悪くはなく、
比較的興味深く聞いている様子がうかがえた。
すなわち親と先生の監視下=ダブル攻撃によって
集団特有のざわめきが制御されているのだ。

はたまた私の話がよっぽど面白いのか・・

まあそれはないかもしれないが
将来、この生徒の中の誰かに、
直接ではなくとも、何らかの興味へのヒントになるならば、
あるいは
目の前にある近距離の研究の面白さに目覚めさせる事ができるならば

我々が今やっているこの活動も
これはこれで
けっこう素敵な事なのかもしれぬ。

逆に言えば
この中から第二の本尊未来のミリタリー育成しようとしているのならば
けっこう危険な事なのかもしれぬ。



第一部の全員講義が終わり、学年別講座の始まりである。
遠慮太夫書庫麿は体育館に残り、高学年に講義をする。

高学年といえば、あどけなさの中にも憎たらしさを兼ね備える
非常にあつかい難い年代である。
クリスマスにプレゼントを届けてくれる何者かの存在さえ
とっくの昔に見破っている年頃に違いない。

したがって妖怪の存在を少しは信じている低学年たちと同じ教え方というわけにはいかないので
新入りではあるがミワリーの中でも歴史人として毛並みの良いこの二人を従えて
子供たちに立ち向かう。

書庫麿は
福分豊かな顔立ち若干のあざけり口調
中指でメガネを上げる仕草たまらなくムカつくぐらいで
臼杵の子供にとっては
関西弁=吉本の芸人という偏見にも助けられ
ガッチリと注目の真っ只中に立っている。


遠慮太夫は
昔、床屋の前に飾っていた写真にありそうな凛々しい顔で
遠慮がちのため、後ろめたい自信が説教臭さを中和してくれるかのような
それでいて話の真髄を外した脱線傾向をも己の落語口調でねじ伏せるかのような
新入りとは思えない熟練されたトークだった。

今年に入って私は
衝動買いのようなメンバー集め」と言われた事もあったが、
見よ!
この立派に発表する新入会員を!

それに比べると、私の方が落ち着かない喋り方である。

ミワリーが産声をあげてからこの今日まで
口下手という苦手克服キャンペーンの一環として
自分の中に巣食う弱虫と言う名の寄生虫を退治するための武者修行であると言い聞かせやってきたが、
話していくうちに知識不足受け売りの化けの皮サロンパスのごとく剥ぎ取り
質問攻撃パイレーツ=わんぱくたちのざわめきペースに飲まれていくのである。

立ったまま喋っている私の足元でゲームの話しをしたり
下を向いてゴソゴソしたり、あくびしたりしている。

この学校に限らず、こういった生徒は必ずといっていいほど存在するし
しばしば訪れるこの手のささやかな妨害との遭遇は乗り切ってきた。
一応、数だけはこなしてきているミワリー活動で対処方法はわきまえている。
ひどい時に比べれば今回の子らはまだまだマトモな方だと思えるし
今すぐめくじら立てて怒るほどの重大な事ではないので
興味をそそる話題や
せんちんばあさんポーズなどの視覚的インパクトを与えながら
時間をかけてジワジワとこちらからアプローチしていけばよいのだ。



その時だった・・・・・・





「話を聞かんか!コラァ!」








広い体育館に狂言師のごとく響き渡ったこの声。

先生だった。
若手のスポーツ系で、我々の今日の講義とその準備にも丁寧に接してくれていた先生だった。

「ちゃんと前を向け!」

2、3人の里芋のような頭をはたいた。

PTAも見ている中で、
しかも我々の生ぬるく遠慮がちな言わば”なぁなぁ”の空気の中で
生徒を本気で叱ってくれている。

永く久しく聞いていなかったこの怒声・・・

私は正直、嬉しかった
何かほっとした。


私にも小学生の子供がいるが、こんな時怒ってくれる教師はいるのか、と心配ではあった。

どこかオベッカめいた消極主義の教育にはっきり言ってうんざりしていたが
現代にもこうして
本気で叱るタイミングを知っている人がいたのだ。
そうだ。先生は怖くなくてはならないのだ。


そして自分自信でさえ「教育者ではないから」といった逃れ方で
基本的な礼儀・エチケットを教えるポジションにいながら
実は単に怒れないだけであった事を呪って


その原因は何かと問い詰めたところ





「人の話しを聞け!」という
このなつかしい言葉は
















自分が小学生の頃
親や先生に最も
口すっぱく言い聞かされた言葉
だったからである。



私はミワリークラブを一つのバンドと考えている。
べつに、いつも多くのファンレターをいただき、ヒーロー気取りになっているわけではなく
それぞれのパートをメンバーが受け持つというシステムを楽団に重ね合わせているからだ。
したがって一年間のツアーもちょっとしたロックツアーと思えば楽しいし
今回は学園祭に来たような気分。

そして常になにかしらの得るモノがある。
今回の教訓は間違いは正してやるのが大人の姿勢である。


が・・・・しかし・・・


校長室へ帰ろうとした時、
本尊の人形にまたしても興味を持った小学生が
「これが”もま”で、これが亀城・・・・」と
聞いたばかりの妖怪の名前人形とを確認していた。



そしてその中でも最も印象深かったのか
”せんちんばあさん”を指差して言った。










「ああ これがさっき言いよった
 ”うんちんばあさん”やな・・・・」









惜しい!惜しいぞ少年・・・
しかも私が注意差し向けるほど間違ってはないぞ・・・・
それに・・何となく気持ちはわかる勘違い・・・・








良い子のみなさん。
私もえらそうな事は言えないが・・・

人の話はちゃんと聞いときましょう・・・