修楽旅行・八日市の旅
〜前編〜


8月6日

臼杵駅から電車で西大分駅についた。


駅からフェリーまで徒歩で何百歩かぐらいの距離。
乗船の手続きをする人ごみが、すでにお盆前の帰郷ラッシュをにわかに漂わせている。

「妖怪まちおこしサミット」の事例報告をするために滋賀県八日市市へ向かうこの旅路は
大阪より向うへ行ったことのない私にとって最東新記録への挑戦であり、
今ここがまさに修学旅行の出発点である。


このミワリークラブ始まって以来の複数参加、県外遠征には5人がエントリーされている。
我が会の仙人・本尊、会長の、旅のプランナーである猫侍、大阪に里帰りを兼ねた書庫麿
そして視覚的なボディガードとしてのミリタリー
まるでちびまる子ちゃんの友達が勢ぞろいしたかのようなマヌケなチーム。

ここで人数確認してみると何故か一人多かった。
ミリタリーの相棒、通称「Gさん」が混じっていたからだ。
もしかしてGさんも一緒にいくのか?と思ったが
残念ながらGさんはミリタリーを見送りに来ただけだという。
「Gさん」はミリタリーの同居人で、何を行うにも常にコンビで行動しており
ファッション的にも普段からミリタリーに負けず劣らずの迷彩or坊さん系の衣服を身に着けている。
ちなみにこの成人男性であるGさんとミリタリーについて今まで何度となく他人から質問攻めにあってきたが、
この二人の関係に深入りするほど命知らずな神経は備えついていないので、私には聞かないで欲しい。

それよりも今日の二人の格好である。
Gさんは両肩に刺青の入ったTシャツを身に着けており、
時代劇で「半か丁か!」とやってみせる人のような格好。
ミリタリーはというと言わずと知れた全身迷彩(サマーバージョン)

どうでもいいけど、あんた達はここに何を退治しに来たのだ。
ていうか、何のグランドチャンピオン大会だ。

当然、この世界一イヤな意味でお似合いなカップルには半径3メートル以上、誰一人として近寄らない。


そうこうしているうちに今回の総指揮者・猫侍が「じゃあ、船に乗ろうか」と
そば屋で働く冬彦さんのような口調で言うので乗船。


ガキのようにはしゃぐ我々とは違って、旅行中毒の本尊は添乗員のごとくさっさと先へ行く。
立てばタケノコ、座ればどんぐり、歩く姿は民芸品
八日市の人へ「おみやげです」と差し上げたいぐらいだ。

「猫を頼むでーー」という言葉を置き去りに、船へ乗り込むミリタリー
心配そうに見送っているのはGさんだ・・

ミリタリー以外は4人とも男・・・・・二泊三日の旅・・・



Gさん・・・・・・・どうか・・・・・・



ご心配なく(キッパリ)!



そんなことよりも
こんな全身迷彩軍用ブーツで現れたミリタリーを
平気で乗船させるこの船の
テロ対策を心配してください・・・・





船内を見回しながら部屋へ。
部屋は贅沢にも二等客室
個別のベッドもある。ちゃぶ台もある。我々だけのテレビだってある!
やろうと思えばプロレスごっこだってできる!
我々にしては超VIPルーム。全員が大満足。
そこで私は一週間我慢してきたビールをカッシュ!
出発もしてないし、書庫マロがまだ部屋に来てないうちに酒盛りをはじめた私に
「もうのんでんのか!フライングだ!」と猫侍。
この猫侍というよりはメガネ手長ザルの方がしっくり来る野暮ったい男に
旅の全てを任している手前、強い反論できないが
「いいじゃあねぇか」といい、ゴクゴクやる。
窓の外の港を見ながらの一杯は最高。
中学校の修学旅行でいよいよ出発の時のワクワクしていた事が走馬灯のように蘇る。
それを言葉にしようとするが、揚げ足取りの猫侍「お前は走馬灯を知ってんのか」と言われそうなのでやめた。

車を乗船させて部屋にきた書庫麿とともに乾杯すると、しばらくして船が動き始めた。
書庫麿の愛馬=白い車が5人乗りであれば、現地での移動もやってもらえたのに・・・
出来のいい僧侶のように落ち着いている彼は、顔に似合わず2人乗りのスポーツカーである。

まてよ・・・・
坊さん白馬
メガネ手長ザル
横にいるのは小太りなおやじドクロの似合う女兵士

ここで私は
この三日間に渡る壮大なロールプレイングのパーティ
何か物語の呪術的な因縁へと導かれているのに気付いた。

たった今、始まったのだ!

我々変形西遊記による「はじめてのおつかい」が!


ナニワの三蔵法師(書庫麿)
ウンチク孫悟空(猫侍)
コンパクト猪八戒(本尊)
カモフラ沙悟浄(ミリタリー)


頼もしくも恐ろしきメンバーを乗せたフェリーという名の大きなキント雲
期待と不安の波をかき分け、東へ東へ進む・・・・・まさに逆西遊記・・・









食堂でメシを食い、部屋に戻ってもビールを飲みながらゲームをしたり
慰安旅行気分の我々だったが、
さっきまで大満足のこの部屋もだんだんむさ苦しくなってきたので
本尊&猫侍とともに船の屋上に出てみた。


星空と夜の海を眺めにカップルや若い娘さんらがけっこう来ていた。
友達同士の二人旅みたいな女の人らが退屈そうにたたずんでいる。
ここで「叫ぶ未婚の会」会長である本尊
何か素敵な出会いでもあればよいが・・・と切実に願う。

向うの見知らぬカップルがいちゃついていたのいで
接吻なんぞ目撃しちゃならんと思い、とりあえず船の下を覗き込む。
「うわあ すげぇ高さ・・・・・・怖い」
人類が賢くなったとはいえ、こんな鉄の塊が水上に浮いている事が未だに不思議である。
ここで船が沈没したらどうなるんだろう・・・・
こんなバカなことをいつもいつも想定している。

その時だった・・・

ムギュ!!


船の手摺のようなものにつかまっている私の背後から何者かが
力いっぱいに抱きついてきたのだ・・・・・
抱きつくというよりも脇の下から抱きかかえて
持ち上げるように・・・・いや、船から落すかのように!
手摺を必死に持ちながらもがく私。

そしてゲラゲラ笑い出す猫侍を見た時、
私を落とそうとしている背中の生物本尊であることを察知した。

単純な悪ふざけと思いきや、その力加減は尋常ではなく
しかも笑いながら「ホフッ」とか「フヌッ」とか耳元で言っているので
その熱いちゃんこ鍋をほお張る幕下力士のような声を聞くと
思わず手摺を握っている力も抜けてしまいそうになるのだ。

「うわああ  やめてくださいよー!」と叫ぶと、
「ニャハハ〜」というような意味不明なはしゃぎ声で
尚且つ、ゾウガメの祟りのような眼光を鈍く光らせ
レスリング選手ようににガッチリとバックを取っているのだ。
もうすでにお遊びを通り越して本気で落とそうとしているコンパクト猪八戒・・
何ゆえ、これまで何年も一緒に活動してきた私を殺そうとしているのだ。
若さへの反逆か?既婚者への嫉妬か?
気がつけば
手摺を持ったままケツを突き出して身動き不能な私・・・・
他の乗客から見ればホモがじゃれあっているようにしか見えまい・・
もはや落とされる事よりもこの体勢を見られる恥ずかしさの方が恐怖になってきた。

何で私がこんな豊後水道のど真ん中でタイタニックごっこしなきゃならんのだ!
しかも、こんな頭デカプリオと!

それにこんな恥かしい体勢は、小学校の時に高熱が出たとき
親とばあさんに無理矢理押さえつけられて座薬をねじ込まれた時以来だー!

抵抗をはね返す皮下脂肪の弾力と戦い、
振り向けば迫り来る油ギッシュなおでこにのけ反りつつ、
汗もしたたる攻防の末、私は
このメスの背後から欲望むき出しに交尾を迫ってくる巨大フンコロガシみたいな物体を振りほどき
危機一髪、難を逃れた・・・

本尊は「わははー ビックリした?」と言うが、
私には「ちくしょう しくじったか」としか聞こえなかった・・

本尊「冗談、冗談、ははは」

あのなあ本尊、
 あんたのやった事は立派な殺人未遂なんですよ!

冗談は体形だけにしろってんだ!このぎんなん大将がぁ!



本尊のおかげでほどよく意味のない汗をかいたので
風呂に入る事にした。



そのころ船はちょうど松山港に着いており
浴場の窓から町の灯りがチラチラ見えていた。

本尊・猫侍・書庫麿・・・・
私以外の三人は普段からメガネをかけているのだが、
風呂に入るときはもちろんメガネを外しているので
その彼らの見慣れない顔ぶれ
何か、全く知らない人たちと入っているような変な気分になった。

温泉ではないが外を見ながら湯につかるのもなかなかいいもんだ、と
年寄り臭い感情に身をゆだねていると、
突然、猫侍が大暴れ。

旅の第一日目の仕事を終えフェリーの行くがままとなった今、
プランナーの猫侍にしてみれば、もうやりたい放題の開放感だったのだろう。

人の顔にバシャバシャ湯をかけまくったかと思えば
たいして広くも深くもない浴槽の中をカエルのように平泳ぎ
真ん中に島のみたいに出っぱっているタイルの土台に乗った。
そして武富士のCMの決めのポーズのような姿勢をとったこのウンチク孫悟空
今さら何が恥かしいのか知らないが
両足でおのれの粗末な如意棒をはさみ込んだ状態で

「ブロンズ像!」とほざきやがった。




そして
ちっとも色っぽくも、たくましくもない全裸を
入浴中の他人に披露している事や
窓の外の松山のみなさんに目撃されている事や
思いっきり大切なモノを隠したつもりであるが、下から野蛮なたこ焼きが丸見えである事など
明らかに気にしていない・・・・・





何で私が夜の港をバックに
こんな
汚いマーメイドを見なきゃならんのだ!

それに、何だ!その変り様は!

普段、理論武装のヘリクツ口調からは想像もつかぬ
小学5年生のような”はしゃぎっぷり”は!



トラックの運転手風のおじさんがウザそうな顔で見ているので
私は「ボクは友達じゃないですよ」というような素振りで湯船から出て
シャンプーすることにした。

目を開けられないが
後ろではまだクレイジーモンキー=猫侍が騒いでいるのは聞いてわかる。
あいつは自分を何歳だと思っているのだ・・
とあきれながらシャンプーしていると
バシャバシャバシャバシャ と
うなぎの養殖場みたいな荒々しい音が聞こえ
突然、静かになったかと思うと
お湯から上がった猫侍がなぜか頭を押さえながら私の横に座った。
「いてぇ〜」

なんとコイツは
窓の縁の部分から、湯船にダイビングしようと勢いよくジャンプ
天井に頭をぶつけて落下
頭のてっぺんにタンコブという名の素敵なオブジェを設置してしまったのだ。

その姿はまさに
粗暴な行為に耐えかねた三蔵法師に念仏を唱えられ
頭の輪を締め付けられている悟空そのものだった。

仲間のために旅のプランニングをし、ひと時のハメはずしで負傷・・・

ほんとに君は悟空だ・・




部屋に戻り、寝ることになったのだが
もともと四人用の部屋であるためベッドが一人分足りない。
誰かが床に寝ることになる。
・・・・・仕方ない、私が床に寝よう・・・・・と思っていると
われ先に名乗り出た者がいた。
「大空は屋根、大地が寝床、猫が家族」がポリシーの
さすらい原始生活女プラトーン=ミリタリーである。

「大丈夫、うちは慣れちょるけん」というミリタリーに感謝はしたものの、
納豆のように毛布にくるまり、
そこからニョッキリのぞいている顔
人食いザメみたいな顔だったのでなかなか寝付けなかった。

ああ 不安だ・・・この旅は・・

家にはも私の帰りを待っているというのに
はたして
生きて臼杵へ帰れるのだろうか・・・・・