喪々の節句



3月、
日曜日の臼杵には観光客も多い。
ほとんどの人は、臼杵の古い町並みや史跡・名所を目的にしていることだろう。



そのおごそかで優美でなつかしい町のイメージ滅ぼすような集団がいるらしい。



市にとっては無ければ無い方が印象もよいであろう怪談、妖怪の類を
日々平穏に暮らしている古老たちから無理矢理聞き出し
誰もが忘れてしまったような古い文献からもほじくり、搾り出した上、
むしろ伝えなくてもそこそこ立派には成長できるであろう子供らに力ずくで叩き込み、
先人達が大切に残し、守ってきたせっかくの”情緒”
こともあろうか”薄気味悪い”と銘うって
夜な夜な会合を開いているという・・・・・・


ごめんなさい。我々の事です。


しかもそんな郷土の謎オタク一座であるミワリークラブに
なぜか最近、入会希望者が殺到している・・・
今のところ「面白そうだから」とか「霊感があるから」とか言う人は丁重にお断わりしているのだが
それでも「ゲテモノも何でも食べるから入りたい」と言ってくる・・

彼らに一つ問いたい


気は確かなのか・・・?




今日も入会とまではいかないが我々の地域に根付いた妖怪復興?の話を聞きたいと
鹿児島大学から学生がやって来る。

地元新聞社の取材も兼ねて”招き姫”=ひめちゃんの店にメンバーが集合、
本尊に連れられて高校生か大学生か微妙な幼さの女の子、通称”ツチノコ”が来ている。
彼女の研究の本質をジャストミートするか否か、
またはそれを助けるべく貴重な話を聞かせてあげられるのか
我々にはわかるはずもない。
それに大学など行った事もない私にとっては
大学とはロン毛の男が芝生の上で白いギターを奏でているイメージばかりで
我らのような得体の知れない邪悪なローカルミステリーに足を突っ込むくらいなら
平和で素敵なキャンパスライフを過ごす方がよっぽど健康だろう、と思う。
何が彼女を鹿児島からここまで導くのか・・・・・・やっぱり妖怪か
はたまた何かの因縁か・・・・
歴史を紐解いてみると・・南からの侵入者といえば・・・
過去に島津軍薩軍が臼杵に攻めてきたことがある・・・
まさか・ミワリークラブをたった一人で撲滅するためにやってきたのか?

おっさんたちをナメんなよ!


と思ったが、
後で聞いてみるとこの子は県内出身で里帰りを兼ねての調査だった・・


ひめちゃん店舗には人形がいっぱいで
3月なので雛人形シリーズが所狭しと陳列されているが
店内を所狭しと突っ立っているメンバー数名が商品を壊してしまわないか心配そうなひめちゃん。

人形好きな観光客がのれんをくぐって来たが、
築100年の木造立て店舗には似合うはずもない
”中東のおしゃれ泥棒”=ミリタリーの姿が目に入り
おまけにギュウギュウ詰の男達に圧倒され
「また来ます・・・・・・」と出ていく始末。

取材の写真撮影は役場狸についてきているわんぱく盛りな息子に「おーいこっち向け〜」と
何度かシャッターチャンスを逃したものの、それなりのモノが撮れたので
仕事中のひめちゃんに迷惑をかけないうちに、
いや、これ以上営業妨害しないように全員退散。
幹部会議とツチノコのインタビューを受けるため”サーラ・デ・うすき”へと向かう。




気がつけば夕方になっていた。
私は自分の店を閉めて”サーラ・デ・うすき”に向かう。
他のメンバーは先に行っているはずだ。
店からスーパー跡地を横切る。
ここは最近、駐車場に変わっていて
少人数の観光客のみなさんはここに車をあずけ、
商店街を挟んだ向かい側の歴史の道「二王座」を散策するのが定番となっている。

臼杵にとって観光が重要な産業と自信を持って呼べるようになった現在
町は歴史村か映画のセットのようにリメイクされ
我々にとって懐かしき中途半端な昭和が無くなっていくのは少し寂しい感じもするが
それはそれで受け入れなくてはならないと決心させる何かがある。
何かを創造することは何かを破壊する事でもあるのだ。
あっちを立てればこっちは立たずのバランスやら色々と大変だっただろう。
住み家や商店との兼ね合いなどをものの見事にクリア
これほどの一環性を成立させたとは・・・・・・

よくぞやった臼杵。誉めてつかわすぞ。

そしてなんと言っても
そんな臼杵市を全国の妖怪好きにだけ知らしめたミワリークラブ、
その会長である私は自己満足な殿様気分
大友や稲葉などがこの地を治めてきたが、やっと私の統治時代がやってきたか・・・ふふふ
「新聞見たよー角川の賞もらったらしいねぇ」と近所のおばちゃん。
「今日もお化けの寄り合いかい?」と商店のおじさん。





左様、
皆の者今日もお勤めご苦労。








商店街のあちこちには観光客やお年寄り用にベンチが置いてある。
そのベンチに観光客でもないのにくつろいで座っている二人の後ろ姿が見えた。
副会長金かぞえである。

同級生であるこの二人はミワリー発足からのメンバーである。
日が傾きはじめた時刻、血のように赤い光が西から照らす風景に
高校時代なんぞ思い出しながら語り合っているのだろうか。
釣りバカ日誌の名コンビみたいな背中、
二人揃ってジュースを片手に青春野郎を気取っている。
彼らを待たせている私は、同級生同士の会話を遮断してしまいそうで
少しばかり遠慮がちに後ろから声をかける。




すると彼らは
この私の滅多に無い気遣いドブに捨てるかのような
ふてぶてしいスタイルで振り向いた・・・・・・・・






この夕方の商店街のど真ん中にて
夕涼みしているおやじのような宇宙一楽な姿勢
ビールの中瓶オロナミンCのごとくラッパ飲みしているのである!
目は「トローン」と半分寝ぼけた感じで爬虫類のような状態、
タチの悪い花見客
のように、
あるいは自分の家の縁側であるかのような場所をわきまえない態度。
夕日に照らされているとばかり思っていた彼らの顔は
ようするに酔っ払っていたのだ!

副会長は「なかなか来んけん」と言いながら
「あんたが遅いから」と遠まわしに言わんばかりの言い訳であるが、
ならば世間体を真っ向から無視したこんな贅沢
許してやるとでも思っているのかこのバカチンがぁぁ!




怒る気にもなれず、サーラ・デの中に入り、
机を借用して会議を始めた。


本尊、ミリタリー、猫侍、子連れの役場狸、ツチノコと話をする。
しばらくして、酔いを覚ましたつもりのアホンダラ二人も入ってきたが、
なぜか副会長だけがこっぴどく責められる
普段から真面目で余計な事(ダジャレ)も言わない金かぞえは怒られないのだ。
「日頃の行ない」とはこれほどに人の偏見を操作するのだろうか・・

今年の行事予定や企画を話し合い、次にツチノコからのインタビューが始まった。
主に臼杵の妖怪についての細かい内容を聞いてくるのだが
年代やら歴史背景、出現地を突っ込まれると答えようにも困ってしまう私。
しかもそれを邪魔するのは、妖怪とは何の関係も無い話で地域を説明するミリタリー
この「へッぽこグリーンベレー」は、○○という場所を説明するのに
「あそこは変なおっさんがおってなー」とか参考にならぬつまらん話で会話を閉ざすので
最終的には全般的に知識のある本尊に教えを乞う形になる。

「たしか・・・・・あの話は・・・・・・でしたよねぇ本尊」と、自信のない私が問いかけると
「えぇ おそらく○世紀頃 当時の臼杵の城下は・・・・・」てな具合に
スラスラと頭脳の棚から資料を出してくる。
この部門はさすが何十年も研究しているだけある。

それでも意地っ張りな私はできるだけ自分のわかり得る範囲でお答えしようとしている。
中には文献にも詳しくは記載されてないような、するどい質問も飛んでくるのだが
そんな時は猫侍もささやかな援護射撃をしてくれるので何とか切り抜ける。
そうした涙ぐましい手抜きを繰り返すうちに、やがてどうしようもない難題を出され
「それは・・・・・・・」と考えてもわからないくせに真剣に考え
シーーーーーーーーーーンと静まる。
教会をイメージして建てられたサーラ・デの天井は高く
驚くほど観光客も入っていないので
まるで広く澄んだ湖の湖畔にでもいるかのような沈黙
それとは反対に
「考える」と言う事を一時的に急激に行うと起こる頭痛のような症状で
頭が混乱している私・・・・

するとどこからともなく


夏の終わりの浜辺に打ち寄せる”さざなみ”のような音が聞こえてきた・・・



サ〜〜〜〜〜〜



まさにこの静けさでなければ聞き取れないくらいの微音・・・・・



サ〜〜〜〜〜〜



時折、「ピィー」と心地よい笛の音色にも似たサウンドが重なり、
ツチノコからの質問をもそっちのけになり、さらに聞き入っていると

なにか不思議な声がする。






「もっと耳をすましてごらんよ・・・」

サ〜〜〜〜〜〜



サ〜〜〜〜〜〜ピィー







私はそいつに問い掛ける






「誰だい?そこでフルートを吹いているのは・・」






そしてあきらかにその音を発しているであろう方向へ目を向けた・・・







サ〜〜〜〜〜〜







音を発していたのは私のすぐ横・・・・・・
我がミワリーのシンボリック王子・・・








サ〜〜〜〜〜〜


ス〜〜〜〜〜〜










ZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZZ




















寝るなよ!本尊!












習字の先生のように姿勢を正したまま、
臼杵石仏の大日如来のごとく薄目を開け
さわやかな涼風イビキとの協奏曲を奏でながら
礼儀のよいアホ面で固まっているのだ。

冬を通り抜けた春の過ごしやすい気候に身をまかせ
目の前にいる部下の質問攻めの危機
まるで他人事のように聞き流し
知識と実績ある歴史研究余裕をぶっこき
安心と言う名のゆりかごに揺られている・・



ツチノコはというとキョトンとしたまま私と本尊の答えを待っている・・・



「ダメや・・・・本尊寝ちょるし・・・」と
敗北にも似たセリフを吐いた。


すると



















「えー、それはですねぇ」








私「うわぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!!」









なんと本尊、寝たまま質問に答えているのだ!

薄目を開け、脳の半分は夢の世界にいながら、もう半分は現実と向かい合っている。
一体、脳のどこに力を入れればこんな器用な技がなせるのだろうか。
まるで一度に二本の電話に受け答えするかのような
または便所で用を足しながら飯を食うような荒業。

目は寝ているが、口だけはチャブチャブと喋っている・・・・



気色悪いことすんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜!








行儀がいいやら悪いやら、
副会長たちにも負けず劣らず力いっぱい無礼なミワリーの最高顧問。
それでもまだまだ話を聞き足りないというツチノコのために喫茶店へ場所を移した。
こんな奇人変人たちと公共の施設で話し合っていられるほど私はタフではなかった。





あとはフリートークと言う形で好き勝手に喋っていた。


周りから見ればとても大学生に調査協力している姿には見えまい。
ツチノコがインタビューを録音しているとも知らず
調子に乗ってくだらないギャグやダジャレを連発する副会長。
きっとヤツが喋った後、恐ろしいくらい誰もがひいてしまった干潟
この春も大勢の潮干狩り客でにぎわうだろう。
おまけにミリタリーは鹿児島から来たツチノコに向かって
「今度来る時は芋焼酎持ってきてよ!」
などと恥知らずな厚かましさで責めよったかと思えば
「飲みかけでいいから!な!な!」
とほざいている・・・・
うれしくない遠慮”である。

こんな感じで
別に盛り上がる必要もないのにほどよく盛り上がってくると
店の二階に隠れるように友達とコーヒーを飲んでいた説教パンダが下りてきた。
「仲間とは思われたくない」といった様子でかなり恥かしそうに・・・・・

そして説教パンダが加わることによって
今日のメンバー&ゲスト構成にネーミングを与える瞬間が来た。
題して
「縁起の悪いひな人形四段飾り」である。

もちろん一番偉い本尊お内裏さまなのだが
ご存知のとおり肝心なおひなさまが居ない。
その次にミリタリー・説教パンダ・ツチノコ異色三人官女・・・
その下には私、猫侍、ひめちゃん、役場狸、その息子情けない五人囃子が座っており
さらに下には金かぞえ、副会長頼りない両大臣がいるのだが
白酒ならぬビールを召されて右大臣だけでなく二人とも赤いお顔でいらっしゃる。
そのひな壇は自動的にミワリークラブの生態系ピラミッドをも示しているようである。
そして季節のみならず、彼らの頭の中も一年中春だ。




あ〜あやっぱり、
怪大賞受賞の時、一瞬だけ見えた天竺は幻だったか・・・
今年もまたこの変形西遊記を引き連れて行かなくてはならない・・・
そう考えると頭にきたので私もビールをいただく・・・・・
この主要メンバー達が、今までの活動を通じていろんな人に合い、
世間の常識を学び、恥じらいという言葉を知り、
少しは正常に変わりつつあると最近思っていたのだが
どうやら
私が彼らに変えられているような気がする。