怨味(うらみ)〜後編〜



12月の始め頃、
ミワリークラブ5年間の活動を集大成にした「うすきみわりぃ活動報告」の完成と
軽い忘年会を兼ねて、
私のおじさんの店にてビールを飲んでいた。

年末ということもあり
メンバーも思うほど集まらず、空振りのような飲み会になりつつあった。
そんな中
ミリタリーは今日もゾウリムシの無限繁殖のような
目がチカチカする全身迷彩
入ってくるなり「見ておくれ」といわんばかりの立ち振る舞い。
いつも我々と会ってるくせに
名も知らない国の偉い将軍の初来日みたいに
「出迎えご苦労」と言いたそうな自信に満ちた入場。
そして、そのイボガエル風晴れ着姿
誉めもしなけりゃ批判もしないのに
何かを避けんとする言い訳じみたセリフを吐く


「これが一番暖ったけぇから」

私「へぇ〜・・・・・・・そうなんや・・・・」










嘘をつけ!





真夏だって似たような格好してるくせに!





保温力ではなくて
見たくなくても見えてしまうそのイビツなデザインの事を心配しているのに
人目を気にしないミリタリーは
この場に必要の無いはずの戦闘意欲を高めようと
他人へのやつ当たりトークを始める。

「まったく〜近頃の町並みガイドは・・・・」とか
「本当にもう、臼杵のおっさんたちは・・・・」とか
いつになく血気盛んに無差別攻撃を開始。
己の見た目と実力のギャップを棚に上げ
不機嫌なイラン人のような形相で
因果関係ゼロの逆恨みを
「聞いているふり」だけの我々にミサイルのごとくぶつけてくる。

何でこんなに機嫌が悪いのか知ったこっちゃないが
たぶん
家にいる40匹の猫達エサの奪い合いでケンカでもしたんだろう。


それでいて自ら入会したも同然なミワリークラブに関しては
「やっぱり子供達に伝説を伝えるちゅうのはいい事じゃ」などと
力いっぱい持ち上げ、
仮に他の団体であれば間違いなく強制退会させられそうな性格と生活であるため
唯一、「変人だからこそ入れた」ミワリーと言う名の駆け込み寺
必要以上に自画自賛
息子を自慢するバカな母親の口調で
「ミワリーは意義ある活動や〜」
「うちらは一味違う〜」みたいな事を連発するが、
所詮、この臼杵というフィールドにおいては
雑草が意外にも良薬の草であったかのような
無ければ無くたってよかった存在なんだから
その「サバンナの掃除屋」を誇りに思うハイエナのような
恩着せがましいヒロイズムを早く消し去って欲しい。

それにあんたがミワリーを美化する一番の理由魅力
「会費がないから」という事はとっくにお見通しなのだよ。


さらに私の横では猫侍が
レードマークなのかダテなのかわからないメガネをふきながら
「活動報告を怪大賞に送ったんだけど・・・・発表がねぇんだよなあ・・」
と読経のごとくブツブツ言っているのでいまいちパッとしない
そして一瞬だけメガネをはずしているこの男の
何かが物足りない顔もそれに負けないくらいパッとしない
この「怪大賞」とは雑誌「怪」が主催したあらゆる妖怪表現者に対する賞で
「何か期限を決めて取り組まないと一生出来上がらない5年間の活動報告」
を完成させるのにちょうどいいタイミングだった。
「落ちてるに決ってるでしょ」と私が言うと
「いや、そんなはずはない!」
気合いのわりに蚊の泣くような声で切り替えし
普段のオルゴール職人のような顔が
本気で起こったキテレツ大百科にも似た半ばからまわりな目くじらを立てて
反論しやがるではないか。

こんな調子で年忘れの労いであるはずが
毒舌弁論大会みたいなミリタリーのおかげでちっとも癒されないし
誰かのお通夜のようなジメジメした空気が
笑うに笑えない寂しさを倍増して
互い違いにグチが飛び交う店の天井に
あるはずもない曇り空が浮かび上がっている。





ところが
このどんよりムードを消し去る一線の光を降り注いだのは
本尊だった。


「遅くなりました〜」と
いつも以上にさわやかな笑みでみんなの暗く重い空気を浄化し、
どことなくうれしそうな頬肉メガネのフレームを飲み込んでしまいそう。
一見、近所のおっさんが一杯やりに来たような格好ではあるが
トラックのフロントガラスのようなおでこ
今日も持ち前の天然油によって後光のごとく光かがやいており
全体的に漂わう異色さコミカルさ
そんじょそこらのおっさんとはワケが違うのである。
そして何かウキウキしている心の内を読み取った私に対して
それを悟られぬようにしているのか

冬の町並みは寒いけれど、また違う味があり・・・・

といった内容の
風流だがぎこちない
インチキ清少納言のような言葉でごまかしている。

何か普通じゃない・・どこか変だ・・・

よく見ると手には
どこかのスーパーのビニール袋をぶら下げており
本人は何気なく持っているつもりみたいだが
老けた子供の七五三参り、あるいは
さつまいも型遣唐使がピクニックにでもやって来たかのようで
実に貧乏臭い。
すると彼はその袋を持ち上げ、
「今日は休みで時間があったのでみんなにカレーパン作ってきました!」というのだ。
「え?カレーパン?」
「はい。遅れちゃってすいません」
ん?
「時間があったから作った」くせに
「カレーパンを作っていたから遅刻した」とは・・
よほど急ぎ逃れざる理由があるのだろう・・
嬉しそうに袋の中からカレーパンを取り出す本尊。
よーく考えたらここは身内とはいえ食べ物屋なのに
私のおじさん(店主)とも仲がいい本尊は
その自慢の手作りおやつが「持ち込み」であることなどお構いなしに
手際よく我々に配給していく。
ちなみにミリタリーに差し出す場面だけは鵜飼の餌付けに見えた。

ここでみなさんは
カレーパンというからには一般的な丸型ラグビーボール型のものをご想像だろう。
だがしかし、我らの手元にあてがわれた物体は
想像を絶する形だったのだ。




四角なのである。




なぜなら食パンを半分から折りたたみ、
中に具を入れ、衣をつけて油で揚げたものであり
しかも見るからにそれが読み取れる状態なのだ。
まるで
海底に沈んだポケット辞書貝類が付着し、キツネ色に着色されたかのような
得体の知れない物体。
命名「タイタニックの落し物」である。

猫侍やミリタリーたちは
こんがり揚げ立ての香りと
フォルムから立ちこめる古めかしい豪華さの誘惑に負けたのか
その「アトランティスのファーストフード」
バクバクとかじりつき、「おおっうまい!うまいよ これ」というので
私も手にとって口に運ぶ前にあらためてじっくり見てみるが
思いっきりほめちぎっても
カレーパンというよりは「油揚げ」に近く、
仮にそれが油揚げであったとしても
「油揚げ界のロクデナシ」ともいうべき姿・・・・大丈夫か?これ・・

しかも隣にいる「歩行型天然記念仏」がこれを作ったかと思うと
マズイに決っているという決め付けが優先してしまっている。

不安を隠せないが
「食べてくれないんだ〜」とみなしごハッチのように切ない顔の本尊に申し訳なく、

思い切って食べてみた・・・・・








う!!




うッ!!





「うまい!」







私はどちらかというと好き嫌いが多く、
おまけに相手が本尊であればマズイものはマズイとはっきり言うし
別にグルメぶって言うつもりはないのだが、
本当に美味しいのだ!

サクサクの衣ふわふわのパンに封じ込められたカレーが
「トローッ」と封印を解き、
口一杯に広がる辛さ・・
それはいつも家で食べている甘いお子様用カレーが苦手な私には
大満足と言えるほどのスパイシーで本格派な大人の辛さだった。
冗談ぬきに一流シェフの作り方を真似たような味・・

「すごい!!やるじゃあないですか本尊!!」

「こってり」かつ「グロい」外見を良い意味で裏切る意外性
そして携帯電話のように持ち歩いても決して不自然ではない形、手軽さ、
画期的だ。
どこかの商店街の隠れた名物みたいなノリがある。
しまいには私に「『カレー食パン』と言う名前で
本尊の店で売り出せばいいじゃないですか、これ」とまで言わせた。

さっきまで「油揚げ界のロクデナシ」と思っていた私にである。

私はカレーパンに謝った。

さっきはごめん・・・食い物を見かけで判断してはいけないね・・
さっきの暴言を撤回するよ・・
君は「油揚げ界のプリンス」
いや!
「カレー入り聖書」だ!
「食べる万葉集」だ!


感動している私を無視して、本尊とメンバーたちはすでに他の話題で盛り上がっていた・・

私は不思議だった。
本尊がこんなにうまいものを作るとは信じがたいし
だいたい、なぜ急に料理なんぞする気になったのか・・
新しい自分を探す旅なのだろうか?
はたまた女ができたのか・・・妙に機嫌がいいし・・・
いや、失礼だがそんなはずはない・・

ああ、そういえば
たしか、以前本尊ママが体調を壊した時
代わりに本尊がメシを炊き、料理すると言っていたのをうっすらおぼえている。
もともと料理が好きなのか・・・・
であるなら・・
こんな母思いのいい男
料理もできる使い勝手のいい男
一刻も早く嫁を配給してあげたい・・・・

だけどねー本尊、自分で作ったものは自分か家族で楽しめばいいじゃないか。
なんで我々にわざわざもってきたのだろうか?



そこで背筋が凍りつくようなイヤーな予感がし、
地獄協奏曲への序曲が両耳に聞こえてきた。







「本尊、何か入れたんじゃないですか・・・・・・」







疑いの眼というサーチライトで彼を照らす私に気付かぬフリの本尊は
仲間達と楽しそうに喋っている。


だが・・・・・・その時


一瞬だけ



本尊の顔面中央部に設置されている
若い女性を見た時嬉しい時
またはウソをついている時にだけ反応する特殊アンテナ、
「世界に一つだけの鼻」ピクン!と反応したのを私は見逃さなかった・・・







何かにハメられた事を確信した私は
強気で捜査のメスを入れる。



「何か入れたでしょう!!!!」










すると








みかんの汁が目に入ったようにしわくちゃな顔になり
体はヒクヒクと震え出し


「プッ   ククククククッ」と吹きだしたかと思えば
後ろにのけぞって高笑いをはじめた・・・














「ひぃ〜! ひぃ〜!ひゃははは








入れました・・・










熊です・・熊肉・・・・・」





「え?」

 











体が固まった・・・・
口をあけたまま放心状態・・・・

今までミワリークラブの入会試験である「ゲテモノ喰い」で
ハチの子やらマムシやらカエルやらスズメをも拒否し続けた私。
それに
肉といえば牛・豚・鶏以外の獣類、たとえばイノシシやシカでさえ
神経質な私は食った瞬間に独特の獣臭さにアレルギー反応を示す・・

そんなデリケートな私にを食わせたというのか〜
しかもご丁寧に、ご親切に、
カレーのスパイスで熊であることをわからぬようにして・・







「おえ〜」




船酔いによく似た気持ち悪い症状を押えつつ、
本尊にもう一度聞く・・・




「本当に入れたんですか?
本当に?本尊・・・」








するとなんと今度は両肩をちょっぴり上げ
メガネの奥の瞳をメダカのような形にニヤケさせ
横にいる私に対して
許してもらおうとする甘えん坊さんのような声

「はい、入れちゃいました♪」

と身の毛もよだつ、犯罪に近い気色悪さ
あやや風に言ってのけたのである!
そしてそれは自分がキュートに謝れば許してもらえるとでも思っているかのような
ビューティフルな錯覚をおこしてしまっている。
鏡をみたことあんのか!
さらに、食べさせたことによって、私の心の開けてはいけない扉
鋭利な金具で無理矢理こじ開けたこの質屋のバカ旦那みたいな生物
やってることは物凄くちっぽけなくせに
世界征服みたいな恐ろしくダイナミックな計画を成し遂げたような達成感
横腹を押えながら、「うひゃうひゃ」
少しを流しながら、「うひゃひゃひゃ」
そして少し鼻水も流しながら「うっひっうっっひっ」
時々目を開けたかと思えば支配者の見下ろし方で私の方を見て
豊後牛の思春期のようなくすぐったい顔というか
コショウが鼻に入ってムズムズしている中国の天才少年のような顔で
いけないキノコでも食ったかのごとく笑い死ぬ寸前
その時、私の全身に走った寒気を表現するなら・・
毛深い相撲取り耳元でフランス語をささやいているかような
鳥肌の立つ気持ち悪さ・・・だった。




「ひゃひゃひゃひゃひゃ〜」


私のゲテモノ嫌いを知っている他の連中も一緒になって

「う〜ひゃひゃひゃひゃひゃ〜!!」














はじめてですよ・・・・・
ここまで私を怒らせたお馬鹿さん達は・・・











ふと気がつくと私は心の中
「ゆるさんぞ! この老眼鏡トトロめ〜!!!」
と叫びながら
中国の天才少年を何度も何度もブレーンバスターしていた・・・





 これはまさか副会長と役場狸に食わせた「ごった煮ラーメン」の仕返しか?
もしも彼らの怨念を晴らすために本尊が協力してあげているのならば
お前らは「超」がつくぐらいヒマ人だ!

いや、もしかすると
この珍道中記で今までコテンパンに笑いものにされてきた本尊が
明智光秀魔太郎のように「この怨みはらさでおくべきか〜」
この日を待っていたのだろうか・・・


その後、メンバーたちは私の反応を見て笑い、
「熊って滅多に食べられないんだよー 」と
なぐさめにも何にもならない言葉をほざいた。

やい、本尊!
私はだまされた事にも怒ってはいるが
そんなことよりも
べつに熊をわざわざ食わなくても生きていける私に食わせ
「やってはいけないをかぶせた事に怒っとるんじゃい!!




この私に








私の子供たち大好きな大好きな
























プーさん食わせるんじゃねぇ!
バカヤロー!