亀城の作戦


11/21(金)
稲葉下屋敷前




「静かにしてよー!!」




夜の臼杵を走る車の音さえ引き裂くような
金切り声が響いた。


小学校5年のPTAからの依頼でアンコールツアーを開催した我らの前には
約20名の子供と10名程度の父兄が待ち構える。

本当にナイトツアーとは思えぬほど騒がしい少年達


その中でも、クラスのまとめ役らしき女の子
たまりかねて発した言葉だった。

クラスには必ず一人は存在する
小姑のようなお世話焼きの女子だろう。


その勇気ある大声に一瞬黙りこんだかと思いきや
すぐに東南アジアの市場のような活気が戻り、
ワイワイガヤガヤ言っているクラスメイトたち。


「ちゃんと並んでよ!!」
と列を組ませようと必死で言っている。

がんばれ!女の子、
私たちが代わりにこの子らに向かって
「静かにせんか!」と言ってもよいのだが
ここは君のリーダーシップが試される場面にちがいない。
がんばれ!





がんばれ!女の子!








がんばれ!クラスで唯一のしっかり者!








がんばれ!がんばれ!
















担任なんだから・・・・・














集合してからずっと「来ていない」と思っていた先生は
なんとそのシャカリキな少女だったのだ。
5年生とほぼ同じくらいの背格好、
童顔で幼すぎるために生徒と同化してしまっているのだ!

「担任の先生は若いですよ」という
PTAからの事前情報を
そのまま率直に伝えていたために
仕事を早く切り上げて
鼻血を押さえながらここに向かった斉藤ユキオさん(43才・本尊)はこう語る。














「間違ってはいませんけどね・・」













無理もない。
彼にとっては娘でもおかしくない年の娘さんなのだから。






今日のミワリークラブは「ガイド部隊」「肝試し部隊」の二手に分かれている。

私が指揮するガイド部隊は
役立たずのGIジョーミリタリー
ニックネーム・まゆ毛刑事役場狸
そして天津甘栗の化身本尊

別名「マロン記念日」なるユニットで子供達を案内する。



我々のガイドはいつも妖怪ばかりがメインではない。
臼杵の歴史や隠れた謎スポットにも興味を持たせる目的もある。
説教臭い歴史をおもしろく馴染んでもらうために
妖怪はその「きっかけ」として大いに貢献している。

この日の参加者のように5年生にもなれば
神社や寺、武家屋敷、城
戦国時代の混乱や江戸時代の風習、
さらに南蛮との貿易の歴史なども織り交ぜて説明する。

こう考えてみると

臼杵には全国に誇れるいろんな歴史がぎっしり詰まっているではないか。



一大仏教地帯・国宝臼杵石仏
二王座のお寺や三重の塔



祇園祭りの八坂神社をはじめ
大小さまざまな神社



南蛮や中国との交流、貿易の歴史




そしてキリシタン大名・大友宗麟・・・・

















臼杵の歴史よ
一体、何を信じろというのだ!












それに









敵を混乱させるために築かれたという


観光客にはとてもありがた迷惑なラビリンス=城下町








まあそれこそが臼杵の魅力などと言う人もいる。

狭い路地の古い商店が並ぶ町並みは
通るたびに表情を変え、いろんな角度から楽しめるので
「へぇ〜こんなとこあったんや〜」と
子供達も住み慣れた町を再発見している。




畳屋町で「火の玉男」の話をしている時には
なんとか子供達を注目させる手順を攻略し
騒がしかった子供も話を聞くようになっていた。

ちょうどかぎ型のカーブのところで固まっている集団の我々。
商店街から曲がって来てこの光景に突然出くわした女子高生二人組み















「なっ、なにこれ?
・・・・・


















まさかミワリークラブぅ〜??」






と言いながら
まるで
噂には聞いていたが実際にははじめて見たゲジゲジに驚くような顔で
その脇をとおる時だけスピードを上げ、逃げるように去っていった。



私は少々ムッと来たが




心の中で彼女達に向かってつぶやいた






















そうです。私らが変なおじさんです!
















ツアー半ば、サーラ・デ・うすきに到着すると
私はミリタリーを「肝試し部隊」のところへ向かわせた。
副会長・猫侍・メガ鼠が肝試しの用意をしている臼杵城にである。



実は今回はPTAにも子供にも内緒で
ある作戦を立てていた。


今日はただの肝試しではないのだ。





それは
ツアーを終え
最後の臼杵城のかけ橋にたどり着く子供らに
妖怪からの試練がまっていて
担任の先生が妖怪軍団に連れ去られ
かけ橋から大手門櫓までを3人一組で上がって来ないと
先生を渡さない、という
今までになく反則に近いパターンの肝試しである。


ミリタリーにはかけ橋のところで事情を説明する係をしてもらう





題して







「踊る大城下線
THEミリタリー
臼杵城ブリッジを封鎖せよ!作戦」










である。




先生をこっそり臼杵城へ向かわせ
作戦の準備はOK。



この時点で子供らは
「どうせミワリーの人たちだから最後に肝試しが用意されちょるんやろ」
と顔色をうかがってくるが
今回のような設定が待っているとは想像も及ばないだろう。



だが
これを達成することでまとまりの無いクラスの団結力をより強化できるに違いない。
一致団結し、勇気を振り絞って先生を救出する子供らに
きっと「ありがとう!みんな!」と涙を流す先生。
感動的なラストシーンをミワリーからプレゼントする狙いなのだ。


かけ橋に着くとミリタリーがボーッと突っ立っていた・・


この軍服マニアのどことなくわざとらしい行動に不思議そうな子供たち。

ミリタリーは彼らに向かってこう言った。






「たった今妖怪軍団が先生を
連れち行っちかい上の門まで三人一組で
上がっち来んと
先生を渡さんっち言うち上に
上がっちいったけん
ここから三人一組で上がっち行かんと〜」










ああ いかん!








棒読みだ!












しかも聞き取りにくい方言丸出しだ!












そしてややこしい説明を一気に短縮しすぎだ!










後ろではPTAの父兄がこの馬鹿馬鹿しさと下手な演技にクスクス笑っている。




フォローするように私が


「おいおい、みんなの先生が捕まったぞ!
こっからみんなの力を合わせて先生を助けに行かんと・・」


子供らは「ははーナニ言ってんの〜いい年こいて」みたいな反応。






その時であった。
















「たすけて〜!!」













我々のいるかけ橋からヘアピンカーブを上り詰めた大手門櫓、
そこから先生の声が響いたのだ!!

















ナイスタイミング!!














これは私が携帯電話で猫侍に合図を出し
肝試し部隊がわざと先生に言わせている演出である。



















ナイスコンビネーションだ!!猫侍!













一瞬黙り込む子供達。



練習もしてないのになんと切れ味のいい時間差攻撃だろう!

なんと言うか、フィギアスケートの大技が気持ちよく決った瞬間のような爽快な気分だ!



それにしてもこんな面白いドラマ仕立ての企画の時に限って
















何で来ていないのだ!ケーブルテレビ!!















いや、私が呼ぶのを忘れていたのだ・・・


ああ 私のバカァ〜・・・





ともあれ、
危機一髪とまではいかないが、インチキくさい深刻さと、
それが軽い冗談とは分かっていてもゲーム性あふれる状況であることを理解させることが出来た。



「ほーらみろ、言わんこっちゃない!」
と自慢気な私。









がしかーし!!










彼らをわくわくさせるために暖めてきた企画、
そして我がミワリーの最大限の力を振り絞った絶妙の演出効果
鼻で笑うがごとく


少年達は一斉に叫び出したのだ・・・・



















「やったーーーーーーー!!」




「先生捕まったぞー!」


















「宿題せんでいいぞー!」










「先生ーー!バイバーーーーイ!!
達者でな〜〜!お幸せに〜〜!」











本尊   無言



ミリタリー  ご立腹



役場狸   「ニヤリ」










父母「ギャハハハ!」












私は

本尊に向かい、心の中で敬礼しながら言った。




「隊長・・・作戦は失敗であります!!」









ところがここで少年達に異変が起こるのである。




「でもなー 途中で妖怪が出るんやろー? 行ってみようか!」

「面白そうやん!行こう」


なんと、こんな馬鹿げた企画に半分あきれたものの
肝試しには興味があるらしく登って見る気になってきたのだ。


よくわからないが少年期にはこうしたドキドキするような出来事が欲しいらしく
怖かろうと怖くなかろうと何が出るかわからない暗闇に
異常なほど興味を持ってしまうのだろう。


こうなるとクラス全員が手のひらを返したように行く気満々になり
魔王の居城に立ち向かう勇者に自分を置き換え


「行こう行こう!妖怪なんか全然怖くねぇもんなー」

となるのだ・・・














妖怪よりお前らの方が怖いよ・・・・













マスクで変装したメガ鼠や副会長の妖怪が待ち受ける坂道
これは「鐙坂」と呼ばれている。
大はしゃぎの元気っこたちは何なくゴールへたどり着き
まだ登ってない怖がりな女子たちを自分達も一緒になっておどかしたりしている。



はしゃぐ子供・怖がる子供、
それを見ながらなぜかワクワクしている主催者側の我々





そうだ!これだ!



このドキドキなのだ!






何度もガイドやツアーをやって、失敗をやらかして
仕事で疲れているときも
寒い時も暑い時も
「次は何をやろうか?」と分泌物のごとくあふれ出る「期待」と「やる気」の根源は
この何が起こるか分からないドキドキ感
メンバーが必ず何かやってくれるであろうワクワク感
まるで恋でもしているかのようなスリリングなひととき

これこそが我々を病みつきにさせているのだ。




いや、逆に言えば
頭の中のこの部分だけがちっとも成長していないのかもしれない・・




子供たちも全員ゴールにたどり着き、我々もPTAのみなさんも登っていった。
そこには
我々が予想していた先生と生徒による感動的なラストシーンなどはあるはずもなく
私と猫侍が
「バッチリだったよー ピッタリのタイミングだったよー」
チームワークをたたえ合う感動的なラストシーンになってしまっていた。

なんで失敗したのにこんなに満足なのだろうか?


解散後、居酒屋での反省会では
役場狸がフタを開けたままのドレッシングを思いっきり振ってしまい
ミリタリーのドイツ軍服の国旗の部分ベッチョリと飛び散らせ
あわや地獄の大乱闘になるかと思いきや
いつもの空腹に加え風邪気味のために
軍人というよりは栄養失調の郵便局員みたいな状態のミリタリーが起こる気にもなれず
おかげで今日のハチャメチャな珍道中をツマミに
和気あいあいのまま夜が更けていった。



こうしてまた
失敗しても笑ってしまえる「都合のよいプラス思考」
馬車馬のごとく我らを明日へ引っ張って行くのである。