解散の危機



手作りの安っぽさが売りであるミワリーツアーも
常連さんが増えてきた。

そのため、毎回同じルートでは面白くない。
かといって同じ時間内に違うコースを回るのは困難である。
そこで観光情報協会が貸し出しているレンタサイクルを借りて
自転車でのツアーを計画した。
サイクリングにすれば今までとは違うコースも行けるし
新たな気持ちでツアーを味わえるだろう。



話題性、融合性、我ながら画期的なナイス・アイデアだと思った。
自信はあった。
が、しかし、この企画は

べっ甲飴コンペイ糖を乗せて練乳をかけて食うぐらい




甘かった。





10/18(土)当日に向けてメンバーに連絡をとる。


独笑小僧にも声をかけてみたのだが、
今年のはじめ
自分の横顔のドアップ写真に「HAPPY NEW YEAR」と書いた
ガクトのCDジャケットを意識したかのような年賀状
喪中の我が家に送りつけてきた彼は
その何様か知らないスター気取りセンセーショナルな幕開けとは裏腹に
近頃やや引きこもり気味である。



「いっそがしい上に毎日電車通勤だからさあ〜 
ちょっと行けそうもないんだよね〜」
という。


一体お前は誰の許可を得て
こんなド田舎でそんな業界っぽい口調で喋っているのだ。

それはさておき
ヤツの電車通勤にはワケがある。
私と同じく祇園祭の若衆として山車にのっていた独笑は
中祇園と呼ばれる御祓いに出なかった日、事故ったのだ。
大分方面での仕事帰りに
祭と仕事の疲れが出たのか、独笑はカーブを曲がりきれず道路から脱線

しかも腹が減っていたせいか
田んぼに突入




車は横転、しかも廃車、

でも、なぜか本人は無傷だったのだ。


もう一度言う、


車は廃車で独笑は無傷・・


一体こいつは普段からどんなトレーニングをしているのだろうか・・





結局、ツアー終了後に合流することにした。




当日の天候は
生ぬるい微風、月も良好。

臼杵駅にて参加者を待っていた今日のメンバーは
本尊・私・副会長・ミリタリー・金かぞえ・猫侍・メガ鼠・説教パンダ。
「不気味八犬伝」とでも名づけよう。



臼杵駅横の自転車置き場ではメガ鼠や猫侍が慌てていた。
参加者用のレンタサイクルの半数が
空気の抜けた状態だったのだ。

予期せぬ事態に大急ぎで空気を入れるメンバーたち。

そればかりか、中には完全にパンクしている物もあって
ちゃんと乗れるかどうかを確認しなければならず、
かといってこんな無様な様子を参加者に見せたくないがために
集団自転車泥棒みたいにコソコソしながらの作業。
ただでさえ挙動不審なミリタリー
人間離れした体形の本尊およびメンバーがかもし出す如何わしさと
暗闇にこだまする空気入れの「シュコン シュコン」というサウンド。

もし誰かに見つかったら
「友達が死にそうなので人工呼吸してます!」とでも言ったほうが怪しくない状況。




ようやく人数分のレンタサイクルを復活させ、
駅前のバス乗り場に並べていると
参加者のみなさんがやってきた。





そして参加者のみなさんの顔ぶれが揃ったところで私は



今回のサイクリング企画が



「いかに無謀であったか」という事に気付かされる。









それは参加者のみなさんの












目もくらむような平均年齢の高さだった。















そのゴージャスなラインナップは


ケーブルテレビを見て興味を持ち参加してくれた奥様方2名

私の会議所青年部の先輩で夜のサイクリングが好きなおじさん2名

直接電話で遠慮がちに参加申し込みをしてきた、やはりおじさん1名

ミワリーツアー常連で「笑うために参加している」野津町のご夫婦
通称・おへまのパパ&ママ。
そしてそのお隣に住んでいるというおばちゃん

合計8名。



我々ミワリーも8名



我々が始めから勝つために、周到に用意した団体競技なら納得がいくが


臼杵の妖怪・伝説や昔話をミワリーメンバーが話すというのが
ツアー本来のあるべき形であり

今までも
同世代の人や、日頃歴史に触れない人々にガイドしてきたわけで



今日のようなお客様相手ならば














むしろこっちがおとぎ話を聞きたいぐらいだ









とはいえ私の勝手な企画であり
どんなお客様が来るかわからぬ無差別な募集であったことを反省した。


もっと心配だったのは
若い女性参加者なしのツアーで本尊の本領が発揮できるのかという事だ。
このまま行けば間違いなく本尊は不機嫌なガイドを余儀なくされるだろう。

 どうせなら本尊のために今回のツアーの題名を





「集まれヤング!ビバ青春サイクリング」とかにすればよかった・・




そう思っているとケーブルテレビの人が
女性レポーターを連れてきたことで本尊の贅沢なわがままは解決された



一同レンタサイクルに乗り、いざ出発というときに
またしても問題発生

おへまの御近所のかわいらしいおばちゃんが


可愛らしすぎて






レンタサイクル(ママチャリ)に足がとどかないのだ!






目一杯自転車のサドルを低くしても
やっと地球に足が触れる状態で
バランスを保ちきれるか不安な様子。

それでもおばちゃんは
「これでいいよ 行こうえ」と言うので
やや覚束ないハンドルさばきで出発となった。



各ポイントをめぐり妖怪やら七福神やらをガイドする間も
絶えずおばちゃんのことが気になってしょうがない我々は
人生の先輩達を差し置いてえらそうに昔話を続けるが
妙にかしこまって話そうとすればするほど、オカマっぽい口調に変わり
おまけに風に吹かれて肌寒くなったおかげで鼻声になってしまい
ソワソワと落ち着かない動作が
まるで
下痢を我慢しながらラジオ番組をやっている永六輔のような声と体勢。



その史実と伝説の狭間で揺れ動く頼りない説得力と
なごやかで和気あいあいのムードに持っていこうとする
つかみ所のない演説に対して

明らかに最初から「笑うために来ている」おへまの母上が
困ったことに
ひとつひとつの話の全部にオチがあると確信しているかの様子なのだ。

まあ 確かに過去のガイドでは何度もおばちゃんウケする話で笑わせてきたが
今日のサブタイトルは「かくれ七福神めぐり」
どちらかというと「隠れた名所案内」みたいな感じで「なるほど」と納得させたい。
それにもちろん、全ての話にオチがあるはずもない






話している間中
「うん  うん」

と、ニワトリのごとく素早くうなずきながらも
目と鼻はすでに笑っているが
口だけはミッフィーちゃんのように
その破裂寸前の爆笑の風船を押さえている感じで



「うん うん   それで?それで?それから?




私にしては珍しく比較的まじめな臼杵の守護神の話をしているのに・・・・






「うんうんうんうんうんうんうんうん 早く 早く!」




やがて体中のありったけの血液が
顔だけに充満したかのごとく

獅子頭みたいに真っ赤に色づき







「私はもう笑いのスイッチを押す準備はできてるんだよ〜!!」



と今にもふきだしそうな目で私を見ている。








残念ながら今日の私は






その期待には答えられなかった











ていうか









私の方がふき出す寸前だった。









おへまの母上による暗黙のがまんくらべ
ツアー終盤まで続いた。





自転車でめぐるコースなので
普段のツアーよりは移動に時間がかからないと思っていたら
ガイドポイントを欲張りすぎたせいか
逆に時間がなくなっていた。

予定を変更し、行くはずだったポイントも省略してゴールに着いた。


コーヒータイム&懇親会では
店員に「何を飲まれますか?」と聞かれ

「お金がないんで お湯。  あ〜いや 水でいい」
と真顔で言っているミリタリー。


どうか店員さん

その持って来た水を頭からかけてやってくれ・・

とつぶやきながら
今日のツアーを振り返ると
しきりにやるせない思いが駆け巡る。


自転車の準備も

お客様の年齢への対応も

タイムスケジュールも

全てにおいて今回は不備ばかりだった。






その後
レンタサイクルを返すため
ふたたび臼杵駅へ向かう。


おへまママと並んで走る私。
車を駅に乗っていって待っているおへまパパがヤキモチを焼かぬ程度に距離を保ち
アツアツのカップルのごとく
軽やかに自転車をこぎながら雑談する。

「いつも参加してくれてありがとうございます!」


臼杵市のお隣、
とんち話の「吉四六さん(きっちょむさん)」で有名な野津町から
わざわざ車でやって来て、
今年のミワリーツアー全てに参加した皆勤賞のおへまママに
感想をうかがいつつ、今日の不備を詫びた。


すると、かなりの距離を運転したわりには
全く疲れていない表情で
こう言った






「野津はなーんもない所やけん たまに臼杵に来ると楽しいでな〜

ミワリーツアーはいつも楽しみにしちょるんで〜

また呼んでください!」




過去5年間のミワリー活動が全て報われるような一言だった。


今まで


友達からは馬鹿にされ

親戚からは「ヒマ人」とののしられ

知らない人から「お化け会長」などと呼ばれ

友達のお母さんからは「気味悪ぃクラブ」と言われ



ツアー中、何度も小学生にカンチョーされながらも










やっててよかったミワリークラブ。











今日のサイクリング全体の不備にしても
結果的には失敗ではあったが
次へつなげるための自信にはなるような気がしてきた。
そうだ、失敗を恐れずやった事に関しては今日のツアーは満点だったと言いたい。


死んだように静かな駅前通りを走る我々の頭上には

スキンヘッドのお月さまと

プラネタリウムなんかより何百倍も美しい星が

味付け海苔にふりかけた食塩のごとく散りばめられ

このまま「ET」の名場面みたいに自転車ごと飛んで行きたい気分になった。



そう思っていたら本当におへまママが飛んだ

いや、自転車から飛び降りた。



歩道と車道の間のゆるやかな坂というか段差を下ろうとして
危険を感じたのか
忍者のごとく素早い動きで地上に降り立ち
何食わぬ顔で、と言うよりもいつものえびす顔
フォークダンスのように自転車をエスコートしている。


そしてあ然とする私にニッコリ笑い、言い放った。






「まあ 臼杵と野津は合併することやし

これからもよろしくお願いします〜」








なるほど、我々は臼杵&野津の合併を前にして
早いうちから交流活動を行ってきたわけだ。
ツアー3回、約7ヶ月をかけて
それなりに意義あるツアーを知らないうちに成し遂げていたのだ。

そうなれば野津のとんち話臼杵の妖怪話民話つながりのネットワークさえ可能ではないか。
なかなかいいぞ・・う〜ん素晴らしい・・   





臼杵と野津、合体




まてよ・・・・・



臼杵、野津




じゃあ合併後の市の名前は・・・・・・





臼野市?





そうなれば我々の名前は








臼野ミワリークラブ?!


うすのミワリークラブ?!!





ということは・・・・・・







「臼杵ミワリー」と「薄気味悪い」をかけたダジャレも

成立しなくなるではないか〜〜!!!!!!







まさか・・・・・・・・・ 





このおへまの母上こそ






臼杵野津合併協議会の回し者






合併推進派からの使者









温州みかんのようなけがれなき微笑を振りまきながら
実は
特殊工作員









女スパイ?














「007 私を愛したスパイ」?!











臼杵ミワリー存続の危機に
賛同していいやら悪いやら複雑な苦笑いの私。
そして無言の恩返し致命傷になりそうな捨て台詞を置き去りに
おへま一派はかさ地蔵のごとく帰っていった。






結局数週間後、合併後の新市名が「臼杵市」に決ったと発表があった。

が、

野津の人やおへまファミリーはどんな心境なのだろう。

特色ある野津町との合併の重みを感じる人が臼杵にどれだけいるのだろう。

おそらく各地の市町村合併での問題は
地域色や人柄の相違も大きな課題であることは間違いないが
今我々がすべきことは
「吸収合併」とかいう高飛車な言い回しではなく
野津町が築いてきたさまざまな歴史や文化も忘れることなく
手を取り合って伝える事ではないか。


野津の人にとっては長年親しんだ町の名が変わるのだから。


それに最も残念だったのは








せっかくの臼杵ミワリークラブ解散のチャンスを失った事だ。






これからもあの忌まわしきメンバーを束ねなければならないと思うと・・







不安で 不安で  昼寝もできません。











さらに、後におへまから聞いた話で明らかになった衝撃の事実だが、






自転車にも足がとどかなかったあのおばちゃん
なんと普段は野津町で
カブを乗り回しているというのだ!






どろんこ競技の平均台渡りみたいな危なっかしいハンドルさばきのあのおばちゃんが


大型トラックのたくさん行き交う野津の道路で
バイクを運転していると思うと








私は







心配で 心配で 



















豆腐もノドを通りません。