紙相撲臼杵場所

7月4日夕方
我々はポルト蔵前の広場に集まった。

佐伯の「せこ」研究家であり漫画家であるアーシィ夫妻と仲間達
「臼杵の妖怪と佐伯の妖怪はどっちが強いか決着をつける」ためにやってくる。
「せこ」とは河童の親戚みたいなもんで「相撲も得意」ということにちなんで
いい年こいて本当に相撲をとるわけにもいかないので紙相撲対決となった。

だが、来ない・・・・・・
私と副会長、メガ鼠、鹿天狗の四人、つまりミワリーのオチャラケ部門を担当する我々は
ブロントザウルスのごとく、首を長〜くして待っていた。
するとメガ鼠がボールを持ってきて
「暇つぶしに『もった』しよう〜え」と言う。

『もった』とは我々がガキの頃よくした遊びで、
一人が屋根に向かってボールを投げながら「1」とか「4」とか叫ぶ。
番号を呼ばれた者はそれをノーバウンドでキャッチする。
もしもワンバウンド以上でキャッチすれば(地上に玉が落ちたら)
持った瞬間に「もった!!!」と叫び、他の者はその場でピタリと止まる。
三歩飛んだ位置からボールを当て、当たった者は罰ゲームではりつけの刑にされる。
また、投げて当たらなかった者も罰ゲームを受ける。

バウンドするかしないかの判断と自分の番号が呼ばれるかもしれないかけ引きが
とてもスリリングな原始的ゲームなのである。

ジャバ・ザ・ハットに白髪のヅラをかぶせたようなおじさん
蔵の方から不思議そうに見守る中、ゲーム開始。
始まっていきなり鹿天狗への集中攻撃となった。
何の恨みも無いのだが彼がチョコマカ動く様子が面白くてしょうがない。
何度も自分の番号を呼ばれ、屋根の下を行ったり来たりする鹿天狗。
しばらくして自分が集中的に狙われていることを感じ取った彼は
「よーっし!俺も本気で行くぞーーーー!!」
何やら白い布状の物体をドラえもんの道具のように取り出した。
そしておもむろに頭にかぶったのだが
かぶって見て初めてマスクであることに気付く。
それはデストロイヤーの直筆サイン入りマスクだったのだ!
彼なりの威嚇行動なのだろうが
この熱さでプロレスのマスクということは不利に違いなく
しかも他の三人は余計にその滑稽レスラーが慌てる姿を見たいがために
またしても彼の番号ばかりを呼ぶ集中攻撃となった。
結局、負けてしまい、罰ゲームのはりつけ刑となった鹿天狗。
メガ鼠がそれを目掛けてボールを投げると「チ〜〜ン!!」と見事急所に直撃
「うぅ!あ〜〜!」と悩ましい声を上げる鹿天狗。
そのブリーフを頭からかぶった変態野郎にしか見えない男の発狂に
さっきのジャバ・ザ・ハットが
「パ、パトカー呼ぼう・・」みたいな顔をしていた。
ところで鹿天狗、紙相撲対決にそんなモン用意して役に立つのかい?



そうこうしているうちにアーシィから連絡が入り
市営駐車場で待ち合わせた。

ところがである。
アーシィ軍団らしき車が到着とほぼ同時に
付近を通過中のバイクがキキッと止まり、我々に近づいてきた。
原チャリとばかり思っていたそのバイクは90CCの中型バイク
上にまたがっている巨体のおかげで小さく見えたのだ。
それもそのはず、運転手は入道だったのだ!
そしてヘルメットを着けても着けなくても
さほど変わりないやぶれまんじゅうのような頭のフォルムのおかげで
肥満ロボコップ状態になっており、私は笑いを押さえるのに必死である。
「今日はなにかあるん?フーーーー みんなおそろいで!フンガー
自転車をこいで来た訳でもないのに鼻息だけは80ヘクトパスカルぐらいの勢力である。
「今から俺、実行委員会やけんなー、残念やなあ フフォー
彼は今年の竹宵実行委員長で多忙なことを知っていたので今日は遠慮してもらった。
というよりは今日の紙相撲対戦に
指圧のプロであり本物の力士っぽい入道を連れて行くのは反則に近い。
すると後ろの駐車場から
「こんにちは、はじめまして」とアーシィ軍団が現れた。
車から下りて来た女性3人。
このとき旦那のてらかつ氏の姿は見えなかった。
入道はそれを見るなり、何を勘違いしたのかこう叫んだ
「あ〜そう、そういうこと?へぇ〜お前ら・・・・!!
チクってやる!チクってやる〜〜!!!」

まるで仲間はずれにされた魔人ブゥみたいな顔で
自分を出し抜いて女性たちとの懇親会をすると思っている我々への怨みを
思い切りひねりつぶすようにアクセルを全開、
ラーメン屋の出前風にすっ飛んで行った。
そして半キャップのヘルメットからわずかに覗いている水墨画のような毛髪
いつも以上に寂しく見えた。

入道のバイクのあまりの速さに残り少ない毛が「前部抜けてしまうのでは?」と心配しつつ
我々はアーシィ軍団4人を引き連れ居酒屋へ向かった。

自己紹介もほどほどに乾杯し、とりあえずなごやかに始まった臼杵&佐伯妖怪団体交流。
向うにはある程度の覚悟はあっただろうが、我々がこんなにイモな連中だとは思わなかっただろう。
それでも「奇特な団体」という雑巾をつまむような対応はひとつも見せず
手土産まで用意してくれていた。

佐伯アーシィチームのメンバーはアーシィをはじめ
旦那のてらかつ氏、アシスタントのクモの海、友人の○○さんの4名
我々は猫侍が加わり5名。
例えるなら、キャッツアイ対ひょっこりひょうたん島のような戦いである。

この紙相撲をむかえるにあたって、やる気の度合いで早くも負けている。
なぜかというと最初から紙の力士を作って来ているアーシィ軍団とは対照的に
我々はその場で力士を作成しているのだ。

鹿天狗もメガ鼠も真剣に妖怪力士を描き、紙コップに貼り付けて完成。
プロの漫画家アーシィ軍団の力士には及ばないものの
それなりの努力は見える。
ここで思わぬ芸術的才能を発揮したのは副会長である。
もっとも絵を苦手とする彼には、小学生でも簡単に描ける「三角男」を作るよう指示したのだが
出来上がりを見てみれば
ドラム缶に交通標識を融合させ手のひらサイズにしたような奇妙な姿。
「三角男は目も鼻も顔も前部三角だから簡単だろう」という私のやさしさにそむくように
「インカ帝国の福笑い」とも言うべきデタラメな表情が私に不敵な笑みを向けている。
また、見方を変えればビーズを散りばめた美しい万華鏡のようでもある。


対戦が始まった。
鹿天狗はこの日のためにサウナで身を清め手首のスナップを鍛えて来ている。
だが紙の力士のバランスや物理的分析をやっていないために
ことごとく惨敗の連続だった。
とくに我々にとって驚異なのは「くもの海」である。
佐伯市の妖怪・大グモをイメージした妖艶なキャラ、
それを操るお茶目な娘
対戦するたびに臼杵ミワリーチームはパッタンパッタンとひっくリ返されるのであった。

そしてついに私の「化け猫」対「くもの海」の対戦がやってきたのである。

私には格闘技で、とても辛い過去がある。
中学生のとき、柔道の試合で始まってすぐに負けた。
審判の「はじめ!」の合図からわずか三秒の出来事だった。
相手の軽い足払いがジャストヒットし、まばたきする間もなく
気がつけば汗くさく男くさい畳にキッスをしていた。
顧問の先生に「受身はよかったぞ」とちっとも嬉しくない評価をいただいき
その後、私はクラスのみんなに「三秒」という不名誉な称号を与えられ
女子にまで「三秒」と呼ばれる始末であった。

そして今、
立派な手作りの土俵まで用意してくれていて
さっきからどうも敵として憎めない彼女ら
力ずくで敵と思い込もうとしながら
「三秒」と私に言い放ったあの同級生たちに置き換え
我が胸にありもしない北斗七星型の傷に復讐を誓った。
土俵に手を置き、息を呑む。
「くもの海は強すぎるなー」と言っているメンバーたち。
「負けませんわ、おほほ」と余裕気味のくもの海。
「こんな小娘のテンプテーションに惑わされおって、愚か者どもめ!
女狐よ、私が成敗する!」


はっけよい・・・・・・・・・のこった!!!

トトンッ!!


私もくもの海も同時に先制攻撃たる強烈な指のステップで
二つの力士が空中を舞い、くもの海は華麗に着地、
私の化け猫はコテン・・・・・

このシーンは私の脳裏に何度もスローモーションで再生され
なぜか自分の視点以外のあらゆる角度から撮影したであろう決定的瞬間が
イヤというほど繰り返された挙句
肉眼のシーンに戻った・・・・
「あははははははははは〜!!」
「ぎゃはははははは〜!!」
どよめく観衆、喜ぶアーシィ軍団・・・
ふと見れば、負けてくやしいはずのミワリーチームメイトどもも
一緒になって爆笑しやがっている。
さっきまではちょっぴり好青年気取り
まるで台湾のアイドルグループみたいなツラをしていたくせに
みじめな敗北のシーンをみるなり
「笑点」の大義利で突拍子もない答えを言う木久蔵に反応するおばさんたちのごとく
手を叩きながらウケまくっているのだ。

そして、その中で誰かが言った一言が
最も私の悲痛な泣き所をピンポイントに直撃した。

「今の勝負、一秒ぐらいやったなあ〜」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この言葉は私の頭蓋骨の中でマシュマロのごとく膨らみ

「一秒ぐらいやったなあ〜」

「三秒よりも早かったなあ〜」

「今日からお前はもう三秒ではなく一秒だよなあ〜」

そう言っているように聞こえたが
まぎれもなく三秒という記録を更新してしまったことに
まるでニッケル鉱山の午後のような憂鬱を抱きつつ
ここでは自分だけしか知らぬ心の傷を自らなだめた。




すでに勝利を確信したアーシィ軍団。
最後の対戦で、くもの海と戦う副会長の「ピカソ風三角男」には
もう誰一人期待していなかった。
が!!

なんと!勝ったのだ!

そのれ持ったブサイクな姿を哀れむように見る社会への怒りを、土俵にぶつけるかのように
それでいてセロテープがはがれそうな危険がないでもない手抜きなボディがバネとなり
ペロンペロンと天女の羽衣のごとく、安定よくバランスをとったおかげで
憎っくき「くもの海」を豪快になぎ倒した!
というより土俵上でただじっとしていて
先に相手が出てしまうのを待っていたと言う方が正しかろう。

我々は勝った!

佐伯藩と臼杵藩の明暗を分ける歴史的対戦はミワリークラブに軍配が上がったのだ!
だが待てよ・・・・・?
なんか実感が湧かない・・・・・・・
なんかうれしくない・・・・・・・・・
そりゃそうだ。
別に勝ったからと言って賞品があるわけでもなく
誌面に取り上げられるわけでもないのだ。




その後、二回戦のカラオケで私は
「一秒」と言う毒針が心に刺さったまま
ヤケ酒にも近い飲みっぷりであったため
ほとんど記憶が無いし、勝負なんてどうでも良かったのだが
おぼろげに焼きついているのは
どうせ遊びのカラオケ競技ごときに、やたら事細かい規定を決めたがるメガ鼠
人が酔っ払って呂律が回らぬことをいいことに揚げ足取りに近いツッコミを入れる猫侍
それに王宮にて美女たちに扇子で扇がれている殿様ガエルような心地よいアホ面の副会長
そして、アーシィたちの背後で
身体のどこをどう刺激すればこのような体勢が生み出されるのか、と思うほど
人体の構造上ありえないミラクル・クレイジーダンスを披露しているデストロイヤー鹿天狗である。

あーそーか、外から丸見えのカラオケルームで馬鹿をやっている自分の顔を
このマスクで隠そうという計画だったのか・・・・・

・・・・・・・へぇ そうか・・・・
そうだったのか 

・・・・・・・・・・・

・・・・いや・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・無駄だ!