にごり雪

本尊宅裏の植物園
奥には防空壕があり、その上には福良天満宮がそびえ立つ。

「ひめちゃん、今度のツアーは来れる?」
「う〜〜ん むずかしいかも・・」

ミワリーツアーの事が「ヤフートピックス」に取り上げられ
一日でアクセスが約8000を越えたのもちょうどこの時期である。

ウンチ座りで山野層の整理をしながら本尊は
「今度はけっこう人が来るんじゃないの?ひめちゃんも来なさいよ」という。
仕事帰りでとっとと立ち去りたいひめちゃんは
「仕事がたまってるもんなー」(モジモジ)
「来いよー!」と私。
まるで三角関係のオカマ達が別れる別れないでモメテいるような状況
ゴミ袋を背負った和風サンタクロースのような本尊パパも心配そうに見ている。
いや、パパが心配なのは植物園に我がもの顔で生えまくっている雑草であって
老体には手におえない群生に頭をかかえている様子である。

「まあ、ひめちゃんは実行部隊というより手作業で活躍してくれるけど
たまには表舞台に出てもいいやんか」
「う〜〜ん」モジモジ
彼はただ単に女っぽい性格ではなくて
人前に出ることにためらう恥かしがり屋でもある。

「ほら、女子高生にも人気あるひめちゃんが来るだけでも参加者増えるかもしれんやろ?」
「う〜ん」
「誰だって最初は勇気がいるもんですよ」と本尊。
「でもな〜」

別に私はミワリー活動の全般をメンバーたちに強制するつもりは無く
個人商店を営む者として、それなりのこだわりと職人技を持っている彼には
自らいろんなところへ出向き、自分をアピールして欲しいと言うのが本音である。
そしてそれは本尊も同じ気持ちであろう。



その時である。

「ねぇ会長」みたいな顔で、私の方を見た本尊の顔が一変・・

「あ〜〜〜〜?!あらららららーーーーー!」

とやるせなくもデカイ声を張り上げ、
「何しよんのなーーーーー!」
冷え性のマグマ大使のような形相で
びっくりした私の方に向かってくる・・・

と思ったら私の方を通り過ぎ、7〜8メートル後ろの本尊パパの方へ行くではないか!


「これを引っこ抜いたらダメじゃねぇなーーーー!」
とパパが袋一杯に詰め込んでいる雑草を指差し



「あーーーもう せっかくここまで増やしたのにーーー!」




話を聞いてみれば、この植物は種子が自然に飛んでいくらしく
そこら中に自生していくのを本尊はあえて自由にさせていた。
つまり雑草ではなく栽培していた植物だったのだ。
そして息子のために老体にムチ打ちながら
除草というプレゼントを袋一杯に詰め込んだはずの和風サンタは
プレゼントどころか大切な若き芽の変わり果てた残骸という逆プレゼントを背負っている。
まさに、あわてん坊のサンタクロースである。

すでに怒りを通り越し、闘牛のように身構えながら本尊は
「そこから出なさい! 早く!」
と、その本人しか事情の分からぬ麗しき秘密の花園からつまみ出そうとする。
その間ずっと無言のパパ。
「家に帰りなさい!」と本尊。
まるで犬に向かって飼い主が「ハウス!」と言っているかのような場面。

「いや、    え? これ」と、

ぎこちない口調のパパ。

「いいから出なさい!」

美味しんぼの海原雄山よりもきびしい表情で
ジャッカルのように歯をむき出して怒る本尊。

またしても勃発したお家騒動。
「こんなによく似た親子はいない」と言えるほど
このツーショットは絵になっており
天体観測でふたご座を見つけたような光景に
一触即発であることも忘れ
不謹慎にも吹き出しそうになる私と
仲裁に入るわけにもいかず、立ちつくすひめちゃん。

でも良く考えてみると
本尊パパのこのような行動はいつも息子ユキオ(本尊)のためを思ってやっているのである。
それがちょっとした誤解から、思いやりとは逆の方向へ作用してしまうのがオチなのだが
少なくとも私やひめちゃん、副会長が遊びにくれば
少々自分のペースである「趣味」の話題を投げかけたり
「ユキちゃんはなあ〜」とか「うちのボウが・・・」と
本人には直接言わなくとも
間接的に息子自慢をする。
そういえば、私が始めてここへやってきたときも
当時20代でどこの馬の骨ともわからない上
むしろ評判よろしくない悪ガキであった私に
嫌な顔ひとつせずお茶を出してくれた。
純粋な町人の生活みたいなものを教えてくれたのは本尊パパ&ママであるような気がした。
そして最近では密かに本尊も、パパが高齢のため少しばかり難聴になりつつあるのを心配している。
もうすでに両親が他界している私にとっては、この一連の親子コント
パパの大地を揺るがす素っ頓狂な言動も行動も
うらやましいのである。

あらためて「親子っていいなあ」などと
あったかい気持ちになり
焦げ赤色の空がティラミスのごとく層を成し、
夜へとバトンタッチしようとするその時
今の本題である「ひめちゃんの説得」なんぞ「まあいいか」と
少し自己満足なおおらかさにねじ伏せられた。


パパは納得いったような、いかないような釈然としない様子だが
「ユキオ・リトル・ガーデン」から立ち去り、
降伏を宣言したかのように見えたので
私も表に置いてある車に、本尊に渡すはずだった資料を取りに行こうとした。

しかし・・・・・・



「ああああああああああああーーーーーー!!!!!」
二度目の本尊ターザンの雄叫び
この上ない怒りこの上ないやるせなさが合体したような声で
劇団ミュージカルのクライマックスのように神社下である空間に轟いた!

少しは反省したかに見えた本尊パパが立ち去った場所、
すなわち、たった今まで突っ立っていたそのポイントもなんと植物の生息地だった!
つまり植物をずっと踏んづけている状態だったのだ!
雪国の道の足跡のように・・・・

そして、叱られているあわてん坊のサンタ、
その上にだけ降る白い雪を私は見た。
時期的に言えば「忘れん坊のサンタクロース」が的確だ・・・


「ありゃりゃりゃぁぁぁぁぁ〜  あぁぁぁぁぁぁぁ〜」

その小さくなっていく声を背中に
私はこの状況から逃げるかのように車へ向かう。

「あああもう
なんでもう
ほんとにもう
あらららこれも
ああああああ

ぁぁぁぁぁぁ」



車から再び引き返し、ガーデン(駐車場)の方に向かう。

車が通れる程度に家をくり抜いたような通路で
パパとすれ違った・・・・・・・
若い挑戦者に負け、リングを立ち去るチャンピオンがロッカールームに帰ってくるような
それでいてゼンマイ仕掛けのタマゴ仙人のような風格を醸し出す姿が
夕日を背にしてポクッポクッと歩いてくる。

「おっちゃん、表に車置いちょるけど もうすぐ帰るけんな」と言った。
そこでなんと・・・・・
残念そうなパパを少し励ます形で言ってみたこの言葉に対し、
パパは大地を揺るがすどころか
天空を駆けるギャグをぶちかましたのだ!!


「ああああ すまんなあ いつも・・
ユキオなら裏におるで〜
今、何かしよんけど・・・・・」
と、敵にピストルを向けるジェームズ・ボンドのように
持っているガーデン工具で裏の方を差したかと思えば
すぐさま振り返り、
ボンド・ガール(本尊ママ)の待つ家の中へと入っていった。


『何かしよん』ではなくて あんたが引っこ抜いたのを元に戻そうとしてるんですけど・・ 

今日はまいった。

最後にパパの名誉のためフォローしておくが
パパは普段の当たり前の行動や、やさしさから見て
決しておかしくなっているわけでも
精神的に不安定なわけでもない。
夢中になりすぎて私がさっきからいたことも気付かなかったにちがいない。
いわゆる一直線にまじめな人なのだ。
それにあの植物の件も、どこまでが栽培しているものなのか
はっきりさせていない本尊の責任だ。

あれはギャグだった。
私はそう信じている。

ただ、その優しさギャグ
この珍道中記に
「ネタを提供してあげよう」などと言う事なのであれば
そんなやさしさは「ノーサンキュー」である。