中央通商店害


私の友達や知人はよくこんなことを言う
「ミワリークラブはメンバーたちが妖怪やけんなー はっはっは!」と
はっきり言っておく
それは妖怪に失礼

良く晴れたぽかぽか陽気の日曜日の昼下がりであった。
私は明日から小学校へ通う長女とともに
通学路の下見を兼ねて散歩に出かけた。
普段から日曜も休日もない仕事のため、こんな事ぐらいしか家族サービスは出来ない。
午後から仕事は入らないとわかればその瞬間からが予告もなくささやかな休日に変わる。

二王座の途中まで長男もくっついて来たのだが
お姉ちゃんである長女はこの弟がついてくるのをとても嫌がる。
この鼻くそを主食とする小型生物
歩いている間中「なんでだろう」を振りつきで連発し、
ちょっと目を離したスキに知らない観光客の女性たちに向かって
「宇宙からとーんでもない仲間がやって来た!三井グリーンランド!」
と大声で叫んだかと思えば
路上にいる小さな昆虫を見つけるなり
「パパ!こんなところに安田がおるよ!安田が!ほら見て!」と
わけの分からんことを必死に訴えるので見てみると
私にはどう見てもヤスデ(小型のムカデみたいな虫)にしか見えず
観光客も多い通りなので「違う!」と叱るわけにもいかず
「それはヤスデっち言うムシや」というと
ヤスダやんか!どうみてもヤスダやんか」と駄々をこね
漁船に釣り上げられたタコのごとく暴れ出す前にその場を立ち去ろうとするが
人体としてはまだ制御装置の不完全な生物であるため
突然、小便をしたくなったらしく
古きよき歴史ロマンと南蛮文化が薫る二王座の石畳に
小川のせせらぎのようなおしっこをしなければならなくなり
それを見た長女は
「やっぱり連れて行くのやめようよ〜 恥ずかしい〜」
結局このプチ横山やすしを自宅へ連れて帰り
再出発となった。


長女と二王座を歩いていると
知り合いのおばさんと出合った。
「いつも臼杵のために頑張ってるねぇ〜」と言われ
自分のやってきた「おふざけ町づくり構想」をもう一度考えてみた。
それというのもこの臼杵ミワリークラブをはじめ、
南蛮をテーマにして蔵を改築した喫茶店に
ポルト蔵(ポルトグラ)」というダジャレたネーミングを与えたり、
花見のイベントでは「城主からの感謝状」という
歴史をなめてるとしか思えない企画をやり、
商工会議所青年部では
「ふぐ飛び出し注意!」「臼杵に泊まれ」などの標識シールを考案したり
我ながらよくもこんな馬鹿な活動を真剣にやってきたものだ。
「明日から長女も小学生、もっと私も大人にならなければ」と
いささか反省しつつ、心の中ではこうささやいた。
「おばさん、私は臼杵のために恥を捨てているのは確かだが
それを受け入れる臼杵の地盤には
ここまで私をふざけさせる何かがある。臼杵はそんな町なのだ。」


甚吉坂、ここは映画「なごり雪」にも登場する場所で
曲がりくねった狭い石造りの坂道によって
現代であることを忘れさせるような味がある。
田町へ向かいこの坂を下っていると
向こう側から自転車を押しながら一人のおじさんがやって来た。
買い物袋をカゴに入れているので近所の人に違いない。
「こんにちは」と声をかけると
むこうも「やあやあ!」と言った。
その近所のおじさんはなんと臼杵市長だった!
後藤市長、
彼は市長就任以来、さまざまな市政改革を行うと同時に
臼杵石仏の大日如来の頭が胴体に戻るのを記念して
「リストラ除け 首つながりましたネクタイ」を考案し
「町おこしは町残し」とか
私とドッコイドッコイのギャグキャッチコピーを生み出したとんでもない市長である。
言わば私にとっては一連の「おふざけ町づくり構想」ライバルでもあるわけだ。
しかし、臼杵のケーブルテレビや新聞でミワリークラブの活躍を見てくれているらしく
ゆがんではいるが臼杵の楽しさを見出そうとしている我々には好意的に話し掛けてくれる。
今日はいつもにも増してすごくやさしい笑顔である。
そしてカゴの中からアイスキャンデーを取り出し
「これ食べなさい」と娘に差し出した。
そのキャンデーとはなんと
「うすきいろのかぼすアイス」だった!
うすき色、つまり薄い黄色のかぼすをアイスにしたもので
これまた市長が「緑かぼすもよいが、黄色かぼすもけっこういける」
今まで注目されなかった隠れた名物を掘り起こし、
おまけに市長得意のダジャレのエキスも詰め込まれた逸品である。
私のギャグライバルとの対戦は王手飛車取りみたいな決定打を打ち込まれる事で
今日のところは負けを認めざるを得ない結果に終わった。



アイスキャンデーを食べながら福良小学校へ向かう坂を登っていく
気候といい、景色といい申し分のない本当に幸せな気分であった。
が!そこで私の携帯が鳴った。
その着信の相手を確認した瞬間
さきほどまで私の周りでゆらゆらと舞っていた蝶々たちが
一瞬にして黒いコウモリの群れと化し、
心の中で奏でていた春の音楽隊
デスメタルバンドに早変わりした。
その相手とは
なんとミリタリーだったのである。

「あー 会長?
今、本町で紙芝居しよるんやけど
子供達つれて見にきてくれん?
5回目の公演なんやけどな〜
あんまり子供が少なくなったけん」

つまりサクラになって欲しいと言うのである。
そうだった、今日は中央通が「八町大路」に改名し
それを記念したイベントが行われていて
ミワリークラブからは本尊&ミリタリーが紙芝居と駄菓子屋を出すと言っていた。
この久々にのんびりしたひと時をぶち壊されるのは残念だが
ここは彼らのためにも見に行ってやるのが会長の役目であろう。
私は嫁と長男、次女を先に行っておけと連絡し
我々ふたりも本町へと向かった。

八町大路は夕方とは言えけっこうな賑わいだった。
その中央部付近に本尊&ミリタリーの劇場は設けられていた。
見るなり私をくぎ付けにしたのはその二人の衣装である。
本尊は黒い金太郎のよだれかけのような前掛けをつけており
ミリタリーはいつもの手ぬぐいを頭に巻いている。
まさに
時代劇のダメなおかっぴき弱い海賊の下っ端
勘違いな路上パフォーマンスを繰り広げているような
一般人には近寄りがたい空気が漂っていた。
ところがそんな中に一人だけ丸丸と太った悪ガキ風の小学生が駄菓子の前にいる。
駄菓子を買っているのかと思ったのだが
よく見るとそのガキはふざけていて
「おい!おばさん!これくれよータダでー」とか
「じゃあ10円で5個ちょうだいよー」とかほざきやがっている。
もちろんそいつを接客中のミリタリーは
「このクソガキめーーーー!」
オカマの曽我氏のような形相でにらみつけ
手を出すに出せないいら立ち用ブーツに振動しガタガタして
これぞまさしく事実上の貧乏ゆすりと考えると私は笑わずにはいられなかったのだが
ついにコブシを握り締め、ゲンコツのマネをすると
軽々とそれをかわしたガキは
「ばーーーーか!」を連呼して逃げ回り
それを背後から体脂肪率の高いベテラン忍者のような本尊がかまえてはいるが
わんぱく相撲の横綱クラスのこのガキに手も足も出ず
スルリとどこかに行ってしまった。

すでに紙芝居をやるほどの観客がいるわけでもなく
時間もそろそろ終盤なので片づけようという事になったが
「せっかく来てくれたからいい物あげよう」
本尊が私の子供三人におやつを用意しだした。
そのおやつとは
えびせんの上にみかん水あめをトッピングしたモノで
海の幸と山の幸を中途半端に盛り込んだとてもエレガントな食い物である。
甘味と酸味にミスマッチな礒の香りが
あらゆるグルメの邪道な組み合わせを凝縮しているかのようである。
差し出された我が子3人はというと
カラフルな色合いに惑わされたのか、微量たりとも躊躇せず
その「エイリアン風トロピカル・ピザ」をムシャムシャ平らげたのだが
さっきから気になってしょうがないのは
トッピングしながら自分の手についた水あめをぺチョぺチョと舐めていた本尊が
ドサクサにまぎれて通行中の女性達に無差別に投げキッスをしているように見えた
からである。




紙芝居セットや駄菓子の箱などを片づけ始めると
一台の軽四自動車がやって来た。
車体の前部だけがアーミーグリーンに塗装されているが
その塗り方は明らかに素人の手によるもので
巨大な黒板消しのようなイカレたボディ。
これぞミリタリーの愛車、通称「アナーキー号」である。
いつ壊れてもおかしくないような不安と
ミリタリーがちゃんとサイドブレーキを引いているのか心配しながら
荷台に道具や商品を積み始めた時
またさっきの悪ガキがやってきた。

そしてよせばいいのにまたミリタリーをからかい出したのである。

「どうせ売れ残りやろ!くれればいいやんかー!ケチババア!」

ミリタリーは
「取り合わんでいいで、調子に乗るけん」と人に言いつつも
おのれの怒りをなだめ、
「こんな格好はしているけど大人なのさ」と言わんばかりの
つくり笑顔で作業を続けた。

それを見たガキは今度は商品を盗んだふりをして見せて
「こら!」というと
「ははーーーーーー取ってねぇーーーーよーー」
鬼の首を取ったかのようにはしゃいだのである。

「くそガキャ〜〜〜〜〜〜」
次の瞬間、ミリタリーがファイティングポーズをとり
商店街と言う名のリングには怒りのゴングが鳴り響いて
どこからともなく「ロッキーのテーマ」が聞こえてきた。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉおぉりゃぁぁぁぁぁぁ〜〜!!」

ラオウの如く、怒り極まった兵隊イワシに悪ガキは本当に驚いたのか
鉄砲玉のように逃げていった、が
ミリタリーはガキが目の前に置いて行っているマウンテンバイクを鷲づかみにして
「いい加減にしいぃやーーー!!」と叫びながら
観光客も地元の人々もたくさんいる道の真中で
出来そこないのケンカゴマみたいにグルングルン振り回し始めた!
やせ細った体が主軸になっているため
背筋がぐにょり〜〜〜〜〜〜〜
かみ締めたへの字口がふんぬぅ〜〜〜〜〜〜〜
勢いづいたミリタリースクリューはもはや自分でも止める事ができないほどになり
それでいていつもハラペコのおかげで持久力がなく
暴れているというよりはむしろ優雅に舞っているぐらいのスピードで
おまけに酔ったせいかゲロを吐きそうに青ざめた表情になって
しだいに衰えはじめた・・・
そしてこの毒さそりカナブンの戦いというか
ゲッターロボの仲間割れのようなバトルに
フランケン・シュタインを無理矢理日本人に仕上げたような布団屋のご主人
口をポカーンと開けて呆気に取られていた・・・
正直、私はその顔の方が怖かった・・・


自転車を壊されてはまずいと思った悪ガキはソソクサと立ち去り
八方破れにシャウトしたミリタリーは
商店街の誰一人祝ってないのに戦勝パレードのごとく誇らしげに帰ってきた。
やっと戦争は終わったとほっとしていたが
その休息もつかの間、
駄菓子屋を整理しながらのミリタリーは
私を「あああ〜もううんざりだ、さっきの携帯にさえ出なければ」と後悔させる
世にも恐ろしい行動に出たのだ。

力を使い果たし、喉が渇いた彼女は
さっきのみかんが入っていた缶詰めの残り汁
「もったいねぇ」と言いながら
ごりゅっ ごりゅっ ごりゅっ ごりゅっ 
まるでいい汗をかいた後のポカリスエットのように
その即身成仏のような体内へ一気に流し込んでいる・・
何度も言うがここは商店街のど真ん中である。
穴があったら入りたい・・・
いや穴を掘ってでも入りたい気分であった・・

荷物をまとめ、本尊はスケルトン・サイクロン号(自転車)にまたがり
シェーンのように去っていく。
ミリタリーはアナーキー号に乗り
「じゃあな!会長、おつかれさん!」と捨てゼリフを吐いたが
「そりゃこっちセリフだ」と投げ返し見送った。
その両者の後ろ姿には
「妖怪人間ベム」の歌がピッタリだった。
そして本尊の心から
「はやく人間になりたーーーーーーい!」と聞こえ
ミリタリーの魂からは
「はやく哺乳類になりたーーーーーい」と聞こえた。

私も早くそうなってくれるのを願っている。