葬春賦〜前編〜

「♪春は名のみの風の寒さや♪」
で始まる「早春賦」は臼杵出身の作曲家「吉丸一昌」の作である。
3月とはいえ風もまだまだ冷たく、私の長男(5歳)の鼻からは
カラーバリエーション豊かなスライムが顔を出し
「早く固まってくれ」と春を待っていた。



そんなある日、我々は2003年最初のミワリー活動として
「臼杵ミワリーナイトツアー」を企画した。
これまでは小学校などから要請がある度にツアーを行ってきたが、
今回は市外からも参加を募り、大人向けの夜のツアーを行う事にしたのだ。




午後6:30頃、
集合場所であるポルト蔵(喫茶店)で用意をしていると
参加者へのおみやげである「妖怪マップ」をかかえて本尊がやってきた。
仕事帰りに来たので今日はネクタイ姿である。
蔵のコーヒーの香りに誘われて「喉がかわいたなー」という今日の本尊は
何十年も町並みガイドをしてきた経験から
「よし、口を湿らしとかなきゃ」と、ちょっとしたプロ意識で挑んでいる。

私は初めての有料企画という緊張が少しあったものの
メンバーが集まると不安は一気に消え去った
めが鼠が散策コースや妖怪話のタイムスケジュールをやってくれるし
副会長、金かぞえ、ミリタリー、鹿天狗も参加者の受付や人数の確認など
頼りない会長を支えてくれるからである。

「なんだか頼もしいなあ〜」とメンバーの結束に惚れ惚れしながら
メインガイドである本尊と打ち合わせをしようと、もう一度ポルト蔵に入った。


そこで私の目に信じられない光景が飛び込んできたのである。


ツアー直前で気合い入りまくりの本尊は
「口を湿らす」と言いながらコーヒーでも飲んでいるのかと思いきや
なんとカウンターの前で立ったまま「グビグビ」とうまそうにビールを飲んでいやがるではないか!
ひじをカウンターにつき、片足だけ「くの字」に曲げた情けないフラミンゴのような姿勢。
本人にとっては西部劇のカウボーイ気取りでワイルドに決めているつもりだろうが
「イカしたアメリカン」というよりは、どう見ても「うだつの上がらぬメキシカン」にしか見えず、
メンバーの働きぶりに心が救われた後だけに
こののん気なたけのこ型サラリーマンに怒るよりもあきれてしまった。
「何飲んでるんですかー!」と言うと
ん?   まあ いいじゃないですか」
若干の開き直り口調で切り返し、
土偶の呪いのような目でこちらを振り返りながら
「これが斉藤流!」といわんばかりの堂々たる気迫を私に突きつけたのだ。
基本的に活動には真面目な中年・斉藤本尊が
ビールを飲んでいるのを見つかり、おどろいて反射的に反発しているのか
それとも若者達の「逆ギレ」なるトレンドをちょっぴり取り入れようとしているのか
そんなことは知ったこっちゃないが
この異常な郷土史知識をインプットしている「斉ピューター」が故障してしまっては
今日の企画は失敗なのだ。







本尊の突発性スットコドッコイを何とか落ち着かせ
蔵の外に丁重につまみ出すと参加者が集まってきた。

まず最初にやって来たのは我々の予想を良い意味で裏切る若い女性だった。
もちろんこれに過剰反応を示したのは本尊である。
大好物の年頃の娘さんの登場に、本尊の妖怪アンテナであり
興奮のバロメーターである鼻の穴

「ピックン  ピックン  ピックン 」

鼓動のごとく脈打ったまではよかったが、
この人は男の人と一緒に参加していたのだ。
がっかり本尊には申し訳ないが、
こんな風にカップルで参加してくれるのは今までにないことであり、
心配していた「とっつきにくいクラブ」という意識が少しはなくなったのかもしれない。

次にやってきたのも若い女性だった。
こんなに野暮ったいイナカの悪趣味探偵団のような我々には
とてもアンバランスの上品な参加者に
またしても本尊の鼻の穴が
「ピックンピックンピックンピックンピックンピックン」
それはウルトラマンのカラータイマーと同じく
確実に先ほどよりは早く脈打っている。
そのおかげで「○○じゃけん」「○○せにゃいけん」と、
さっきまで方言丸出しだった本尊が
「○○しちゃう」「○○しなきゃ」
妙によそ行きの都会風言葉使いに切り替えるのも時間の問題だった。
が!しかし!その女性も二人分の参加料を支払っていた。
つまりこの人も男の人と一緒に参加しているのだ。
それを理解した本尊アンテナは
「ピッ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
くぅ〜〜ん
負け犬の哀愁のように精気を吸い取られた。
もはやビールの酔いも覚めてしまい、イラつきはじめる本尊
「あとは誰が来るの?」と平家ガニみたいなきびしい表情で仁王立ちしていると
今度は陽気なおばちゃんグループがやって来た。
「この辺は(地理が)よくわからんもんで 遅くなってすいません」
おばちゃんたちはこのツアーを待ち望んでいたらしく
温泉旅行気分で本当に楽しそうである。
この5分間前後でもうすでに二度もシュールな青春を味わったセンチメンタル本尊
「やっぱり私には酸いも甘いもかみ分けたおばちゃんがしっくりくる」みたいな顔で
さっきとは違う開き直りで立ち直ってくれたので
私は「それでは参加者のみなさ〜ん あつまってくださ〜い」と呼びかけた。
よく見るといつの間にか一人のキャピキャピの女の子
そのおばちゃんグループに寄り添っている。
そう、リーダー的おばちゃんの娘さんだったのである。
すると
これまで余震が続いていたものの、やや落ち着いてきた地震観測機のような本尊アンテナが
「ピクッ  ピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクッ
ピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピクピク」

そして歌を歌う三波春男よりも幸せなそうな鼻の穴をおっぴろげて
「それじゃあ まいりましょう!!」と言い放ち、
夏深き青空ような目の輝き
恐らくどんな憲法を用いても違法なおっさんの微笑
颯爽と我々をいざなっていった。

どんよりと薄暗い歴史的天然お化け屋敷へと