葬春賦〜後編〜

ツアーが始まった。
伝統的な建造物や昔ながらの町並みを残す場所を回りながら
その周辺にまつわる妖怪話や怪奇、謎をメンバーが交代で話すことになっており
事前に振り分けられた得意な話を練習までして来ている。
とはいうものの人前で話をするのには慣れない者にとってはとても難しい。
コツを掴むまではメインガイドの本尊がお手本となる。
二王座の坂道では計算外の嬉しさ風音に負けまいとする本尊の大声が
歴史情緒のある民家に「近所迷惑くそくらえ!」と言わんばかりに響き
ギャルに向かって勇敢な姿を見せてはいるが
一歩間違えばおばちゃんにプロポーズでもしているかのような感動的シーンになっており
上り坂のおかげで後ろにのけぞってしまう我々は
へたなマトリックスのモノマネ状態になりながら歩いていった。
参加料700円。いい運動と思えば安いものだ。


遅れてきたメンバーが途中から加わり、
今日のミワリーツアー部隊が揃うと、私は水戸黄門のような気分になった。

あたふたする気象予報士のような口調めが鼠
対照的に私服のインチキ科学者のような猫侍のコンビは助さん角さん

このあと一発芸という飛び道具を繰り出す金かぞえ
風車ならぬ口車の矢七

鹿天狗は武闘派だが別に今日は戦う相手もないので
かぶりもので援護射撃をする、ダークさを失った飛猿

食う事と寝る事がライフワーク副会長
お察しのとおり、うっかり八べぇ

そして、どの角度から激写してもちっともセクシーじゃない迷彩お銀ミリタリー

なぜ本尊を差し置いて私が黄門役なのか。
それは本尊印籠という切り札だからだ。

その黄門御一行が入れ替わり立ち代りに語るのを
おばちゃん軍団がドリフ大爆笑の如くゲラゲラ笑い、
ミステリー的なツアーを期待して来た参加者は残念なのかと心配になったが
意外にも無理矢理あてがわれたこの状況を喜んでくれている。

二王座のほぼ頂上付近に差し掛かったところで
金かぞえが話し出すと参加者は神妙な顔に変わった。
彼は銀行員で見た目もまじめ。
穏やかに説得するかのようなやさしい喋り方に引き込まれていく。

「ちょうど、あの竹やぶのような所から変な声がするんです・・・」


薄暗い場所を指差し、そちらへ注目させておきながら
「きひぃえ〜〜〜〜〜〜〜〜ぇぇぇぇぇ〜〜!!!」
びっくりしたおばちゃんたちは
まるで熟睡中に突然、全開の低周波治療機をあてらかれたかのように
ブルブルブルッと体がしびれ
唯一まともな会員に見えたであろう金かぞえの雄叫びに目が点になってしまった。
そのブルブルを見た私は揚げたてのプリプリなジャコ天、または
ちゃんとお皿に乗せたプッチンプリンを食べたくなった。
そういえば今日は何も食ってない・・腹へった〜・・


少し歩いたところで、私は「のぶすま」「三角男」の話をした。
妖怪と言ってもとぼけた感じのユニークな話なので
参加者はみんな笑っている。

ツアーもちょうど半ばになったので
次のポイントまでの間にメンバーのガイド分担を調整しなければならない。
考えてみればミリタリーは妖怪話の練習をしてきたくせに話をしていない。
「ミリタリーもなんか話をしてよ!あんた今日は何も話してねぇやろ!」
厳しい言い方かもしれないが会長として甘やかすわけにもいかず
あの外見だけ無駄に戦闘的な内弁慶のミリタリーが余計に私を奮起させた。

甚吉坂とか切り通しとか呼ばれる場所に向かいながら
私は今日の分担表をもう一度確認した。
これには「本尊 化け猫の話」とか「金かぞえ もまの話」とか
それぞれの担当ガイドポイントを簡単にメモしている。

「あれ?」

ミリタリー  三角男

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・やばい」



なんと私は、ミリタリーが数日前から練習してきたという「三角男の話」
ヤツよりも先にベラベラ喋ってしまったのだ!

すると突然、右後方1.5メートルぐらいの距離から
背後霊=ミリタリーがささやきはじめたのである!

「あぁぁぁぁぁぁ  どうしよう〜  
  あ〜あぁぁ もう
あれを先に言われたらなぁ〜 
 あ〜あ〜 」

そう言っているのだが、脅えている私にはすべて「うらめしや〜」としか聞こえず
背中には数千匹の毒グモが這いまわっているようなゾクゾク感
脳天には死神に大きな鎌を突きつけられているような恐怖で振り向くことすらできない。

「もう話すもんがねぇよなぁ〜〜ぁぁ」

その声は、明らかに私に聞こえるように微調整しているおかげで
イヤ〜なビブラートを奏でており
失敗をやらかしたくせに威張りやがっている私に、はっきりと言い返すことなく、
ジメジメと遠まわしにチクリ チクリ 重くのしかかって来る。
目には見えないがニシキ蛇に絞め殺されるような圧迫感。

しかし、ここで負けるわけにはいかない!
私は「くだらないけど しかたない勇気」を思いっきり振り絞り、振り向いた!
 
やっぱり・・・・・・・・・・・・・・・
 
ミリタリーは私にひるむことなく、バッチリこちらを見ていた。
4年間も同じクラブに所属している私に対して
たった今始まったばかりの出来たてホヤホヤのささいな怨み
10年間捜し求めた父のかたきのような積年の怨みに重ね合わせ
にらみと笑いが交じり合った化け猫の表情で。
それでいてオナラにも似た力ないため息を何度も吐きながら、
「あぁぁぁ〜」を繰り返す。

私は言い訳するのもめんどくさいので、そのやせ細った地獄のソルジャーには
後でまた好物のラーメンの汁を適度に与えればよいと腹をくくって歩き始めた。

それでもよく考えたら
会長のくせに調子に乗っていた自分に気付いて、少し心を落ち着かせた。
小学生のとき、棺おけに入っている死んだじいさんの顔のあまりのキュートに爆笑し
親戚達に怒られたことを思い出した。
本尊以上に舞い上がっていたのは私なのかもしれない・・・・


戦国時代そのままの狭い路地を曲がり、切り通しへ着くと
本尊がとても悲しい馬の妖怪の話をした。
墓も寺もある寂しい三叉路の片側には竹が大波の形に生い茂り、我々を見下ろしている。
そこで鹿天狗の登場である。
本尊のトークの間、いかにも何か出そうな暗闇に隠れていた鹿天狗は
はまり役の「馬の首マスク」をかぶりスタンバイOK!
私が「準備はいいですよ」と本尊に合図を出すのだが、
またいつものように話が終わらない・・
参加者にばれないジェスチャー、
すなわち吐気がするぐらいのラブウインクを本尊に何発も発射する私。
「俺のSOSが聞こえないのかーーーーー!」
と訴えるのだが、事情を知らない者から見れば
「俺のアイラブユーが聞こえないのかーーー!」と誤解されそうである。
喋っている最中の本尊は
会長、私のこと愛していたのか・・・・なにもこんなところで・・・・
みたいな少し迷惑そうな顔。
迷惑なのはこっちの方だ!

やっとのことで普通じゃない私のシグナルに気付いた本尊。
が、しかし、もうすでに参加者は鹿天狗の気配に気付いていた。
馬鹿でかいチェスの駒のようなシルエットがゆっくりと暗がりから近づいてくる。
すると参加者は驚くとどころか「クスクス笑い始めたではないか。
ここぞとばかりに「ドロロン」と現れるはずの鹿天狗は
その体つきの良い馬頭観音のような姿でありながら
妙に恥ずかしそうに出てきたのである。
まるで合コンで自己紹介しているホモレスラーのように
モジモジしながらやってきたので
この他人を驚かすにはあまりにも自信なさそうな幽霊
参加者はゲラゲラ大笑いしてしまった。
一体 このツアーはミステリーツアーなのか
はたまた恥さらし紀行なのか?
そう思っているとひとりの女性参加者がうれしそうに
「馬さんと一緒に写真をとりたーい」と言ったのだ。
鹿天狗は今まで以上に照れながらも
昔から臼杵では馬の首伝説で名高い恐怖ポイントをバックに
女性となんともヘンテコなツーショットをパチリ!
それを見た一同は「ギャハハ〜!!」と爆笑したが



「いいなぁぁぁぁぁ 




いいなぁぁぁぁぁ 



うらやましなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」 
と本尊の心の中から
怒りに近いジェラシーというか魂の叫びのような声が聞こえたのは言うまでもない。





その後ツアーを終えポルト蔵に戻って
コーヒータイム&参加者との懇親会となったが
特別ゲストとして招いていた近所の元先生おばちゃんが
「私にも話をさせて」と大張り切りでしゃべり出した。
臼杵のむかしの風習や歴史と妖怪の奇妙な一致などをマシンガントークする先生おばちゃんは
「若い人へ伝えなければ」というある種の使命感を抱いており、
「せんちんばあさんの話は子供にトイレをきれいにさせる立派な教育です」と
先生らしい解釈で妖怪の存在意義を教えるうちに
それが勢い余って「昔の人のうんちのふき方」へと展開していくと
参加していたおばちゃん軍団がそれに共感してしまい
「そうですよねぇ〜 紙がもったいないから古本でふいてましたよねぇ〜」となり
「そうそう くしゃくしゃに揉みほぐしてねぇ〜」と続き
「むかしの便所はねぇ〜・・・・・」
「・・・・・・そうそう、ウンコするときはねぇ」
「ウンチは・・」
「便所の・・・・・」
「ウンコを・・・」
を繰り返す。
食べ物もあつかっている喫茶店であることなどへっちゃらに
このネバーウンチング・ストーリーは我々が締めのあいさつをするスキも与えなかった。



参加者も解散し、腹も減ったので場所を変えて反省会をしようという事になり
町八町へと歩いていく。
考えれば、今日はミリタリー以外はそれぞれの役割をこなし
本来の怖がらせる要素よりも笑わせる要素が強かったものの
少なくとも参加者とはふれあい、楽しくやれたことに
お金を取るに恥じぬ自信をつかんだ。
だが心とは反比例しているみんなの体は本当に疲れきってしまっている。
早く次の店へ行き、くつろぎたい。
ところが本尊の口から驚くべきセリフが飛び出したのだ!
「私は行きません!」
よほど鹿天狗がうらやましかったのか、それとも私に怒っているのか?
理由を聞いてみると
なんとこれだけ歩いているにもかかわらず
今から自転車で干潟へ行き、朝まで水辺の生物の観測をするというのだ!
メンバーはほぼ同時に心でつぶやいただろう・・・
魚介類の生態を観察する前に、あんたという生物の謎を解明する方が先だ」と






本尊、
さっきのビールで私が注意した時のあなたはまるで
森林を伐採して建設した巨大ドームをメイン会場に開催する全国都市緑化フェアと同じぐらい
やけっぱちに、そして気持ちいいぐらいに開き直っていてナイスだ!ガッツだ!
かっこいいぞ!
見ようによっては憎たらしいくらい素敵だ!
だからどうか、皆々様
本尊にいい人を世話してあげて欲しい。
子供好きで親思いの本尊が
子孫繁栄のために細胞分裂してしまう前に。