うすき化け宵

11月3日、臼杵の秋のイベント「竹宵」の日、
私は独笑を本気で叱った

「竹宵」とは市内の商店街・町八町・二王座に竹のぼんぼりを並べ
般若姫行列をお迎えするというもので、夏の祇園まつりと並んで臼杵を代表する行事となっている。
なぜこんな日に限ってあの魔界の王子に激怒したのか?



思えばこの数週間は地獄だった。
10月23日&10月31日の両日PM9:30ごろ
竹宵で「カクテルバー」を行う予定の会議所青年部が
「久家の大蔵」を竹で装飾する作業を終えた私は
ツナギに長靴をずっとはいていたため
昆虫ぐらいなら簡単に気絶させられるぐらいの足の臭ささとなっており
終わったらすぐにでも帰りたかったのだが
猫侍の家ではまだミワリー会員たちが「ミニ竹ぼんぼり」の作業を行っている。
「あーよだきぃ」
私と同じく会議所青年部にも所属する副会長・入道・殿下は
蔵の作業が終われば帰るが、会長の私はそうはいかない。
トボトボと猫侍の家の下階に向かった。
ドアの前に立つと中からは何も聞こえず「ちゃんとやってるのか?」と思いながら
その秘密結社の入口を開いた。
「警察だ!全員動くな!」
そんな悪ふざけを頭で思いついたものの疲労でいう事を聞かない体なのであきらめた。
が、本当に見られてはいけないものを見られたかのように
一斉にこちらを見るミーアキャットたち
「ミニ竹ぼんぼり」をコツコツ作っている。
このぼんぼりは小指ほどの竹を斜めにカットし、その穴に「妖怪おみくじ」を差し込んだ
吹き矢の出来そこないみたいなおもちゃで竹宵当日に我々が販売する。
これは「一個百円で、もし1000個売れたら10万円だよ!売れる!絶対に売れる」と言っていた猫侍の発案で
ゴム鉄砲でスペースシャトルを打ち落とすような無謀かつダイナミックな構想ではあるが
会費のないミワリーには資金源になるかもしれないし、
何よりもこのいい年こいた夢追い人の情熱に負けた。
今こうして会議用の机でせっせと「ミニぼんぼり」をこしらえるメンバーを見ると
集団疎開の人々が弾薬工場で働かされているような気がして
私は意味もなく戦争を憎んだ
そしてこの戦時中風景型レンズで見ている私の視界では
スナイパーを首になったような格好のミリタリーがとても悪い奴に見える。
作業はというと小さなものをチマチマ作る事に慣れない者は苦戦しているが
本尊はテキパキやってのけている。
だがよく見ると本尊よりも早く正確に製品化しているやつがいた。
ひめちゃんである。
彼の本業は人形作りでこういった細かい手作業はお手のモンなのだ。
ひめちゃん、妖怪名招き姫
彼は「人形工房 かじか」の店主で「招き猫」やキュートな人形たちを自らの手で作る。
要望があればオーダーメイドの世界に二つとない人形も作ってくれるので
若い娘さんやマダムたちにも大人気なのだ。
その人気の秘訣は人形だけではない。
小さなプッチアイテムを見ると「かわいいーーー」
鼻にかけて言う彼の乙女チックな性格も然ることながら
結婚サギにだまされた氷川きよしみたいなルックスが女心をそそるのであろう。
この作業でミワリー内での存在感をアピールできたにちがいないひめちゃん。
今日は彼がMVPである。

この両日のメンバーは数名入れ替わったりしたものの
「おばけ長屋の七福神たち」といった印象である。
本尊&大王のえびすと大黒。他のメンバーはご想像におまかせするが
注意しなくてはならないのは
武装しているミリタリーは女だからといって弁財天ではなく毘沙門天であり
うら若きひめちゃんの方が弁財天である。

こうして二日で500個近くものミニぼんぼりが完成した。
箱に並べられアフリカの楽器のようになっているそれを眺めて
今まで意識もしなかったし、我々には似あわないとばかり思っていた「チームワーク」という言葉が
そこでぼんやりと生れたような気がした。



そして「うすき竹宵」の当日がやってきたのだ。


祭りとは言え仕事も忙しく、
盆と正月とクリスマスと母の日が一度にやってきたように私の店はてんてこ舞いであった。
独笑はそんな店へやってきて
「今夜、祭りに来ている人に配布する資料を作ったのでここのパソコンで出して欲しい」というのだ。
土用の丑の日にうなぎやに行って「大将、笑っていいとも録画してくれる?」

と言っているようなものだ。
配達先の私の携帯に
「どうやってプリントすんの?」「急がなきゃ」と言ってくる独笑、
仕事と行事で殺気立っているおかげで短くなっている私の導火線に火がついてしまった。

「このくそ忙しい時に!勝手にやれ!!」
はっきりとは覚えていないが確かこれに近い言葉を浴びせた。
怒りに震えたつ唇がうまく作動せずアンドロメダ語のようになっていたかもしれない。
「だってみんなで配ろうって言ったじゃないか!」
独笑はこう言って店を出て行ったらしい。


午後になり、私は本尊とともにミワリーの出店場所でテントを張ったり商品の陳列をしていた。
この竹宵にはミワリー会員は何らかの形で全員参加している。
役場狸とメガ鼠は市の職員、ひめちゃんは個人出店、金かぞえは会社の出店、
大王は小学校のPTA、入道・殿下は会議所青年部、鹿天狗はJC、独笑は仕事。
したがって店番は
本尊・ミリタリーと会議所の青年部を兼ねた私&副会長、それに猫侍がすることになる。
この準備の間、絶えずイヤなものが心を支配していた。
「独笑にちょっといいすぎたかな〜」
それを知らない本尊とミリタリーは店作りに必死である。
このどんよりとした気分に追い討ちをかけたのはテントの後ろにある動物の糞だった。
何個も散らばっていて悪臭を放っている。
これでは後ろに物を置けず、弁当だって気持ちよく食べられない。
そう思っていたらなんとミリタリーが率先して掃除を始めたのだ
まるで泉のほとりに咲くお花を摘むように
これには普段ミリタリーをけしからんと思っている私も感心してしまった。
そこへ・・キキーーーーーーーーッ!と自転車が止まり
必要以上に息せき切っている者がこちらに向かってくる。
独笑だ!
朝の私の怒りの発端である配布資料を持っている。
猫侍にプリントしてもらったらしい。
まさか、あのひと言によって独笑のもう一つの人格「どく子」(呪いの老婆)が目覚め、
私に復讐しに来たのだろうか?!
いや、変身してない。なぜなら本尊の妖怪アンテナである鼻がピクリとも動いていないからだ。
もしも逆上してしつこく突っかかってきたら今度は手が出るかも・・
と思っていたら「さっきはごめん」と独笑から謝ってきたのだ。
忙しさに慌てて人の店であることも忘れてあたふたした事を謝ってくる。
「ああ 俺も悪かった」と高校生日記の棒読みセリフみたいに私も謝った。
独笑は思ったより大人で、私は意地っ張りである。
会長たる者、そう簡単には怒ってはならない
しかしたまには喧嘩もある。あって良いのだ。
常に充実しているよりも、少し興奮している方が楽しいではないか。
そして独笑よ
変人でもいい、たくましく育って欲しい。

やがて辺りも暗くなり始め、竹ぼんぼりに火を灯した。
石畳、蔵、歴史的な町並みが幽玄の世界に変わる。
我々の販売ブースには「妖怪神社」と「本尊の山野草屋」が出来た。
本尊はエプロンをしてやる気満々。
すると「おまたせ〜」とミリタリーが近くの実家から戻ってきた。
その姿は「妖怪神社」にあわせて巫女さんの衣装を身にまとい慣れない化粧までしている
まさに「般若姫行列」に対抗して「般若行列」でも行うかのような鬼女だった。
「怖ぇ〜」
格好は立派に妖怪らしさを表してはいるのだが販売が始まっても
観光客に対して「いかがですか」「いらっしゃいませ」などとも言わず、
本当に亡霊のように立っているだけなのだ。
言い出しっぺの猫侍は売らなくてはならない責任もあり
「妖怪みくじはいかがですかー!」と大きな声で叫んでいる。
この男はいつもなら私に話す時、
まるで囚人が看守の目を気にしながら「今夜脱獄するぞ」と言っているかのような
小声で喋るのだが、今日は声量のボリューム全開でアピールしている。
この姿に私も心を打たれ、通りがかる観光客に
「竹ぼんぼり」のミニチュア版で可愛らしいはずの「ミニ竹ぼんぼり」を売ろうとするが
こんなミニ八つ墓村には誰も立ち止まろうとしないのだ。
そこで副会長を引き連れ、二王座・八町など各イベントやブースにまで出張販売に出かけた。
すごい人だった。
とくに二王座の一本道はすし詰め状態。
まわりの冷ややかな目が矢の如く突き刺す中、
一人の女性がミニ竹ぼんぼりに興味を示すと
まわりの数人が群がってきて一気に10〜20個売れた。
この人たちの顔を未だに少し覚えている。お客様は神様だ。
それでも「まだまだですな〜」と
残っている100個あまりのぼんぼりを見た我々二人は
小学生が我々の妖怪マップを手本に作ったらしい「こども妖怪オブジェ」へと場所を移した。
竹の枠組みに妖怪の絵を飾った、実にすばらしい作品。
その前で新米の駅弁屋のように声を張り上げ売りさばいた。
するとこんな声が聞こえたのである。

「子供の作品の前で商売するなんて・・品がない」


私と副会長は村から追い出される百鬼丸とどろろのような悔しい気分でそこを立ち去った。

その後、ブースに戻った私は独笑の一件とは違う怒りがこみ上げてきた。
地元活性化のイベントで商売して何が悪いんだ!
ただ見てもらうだけのイベントなのか?
この土地に一銭たりともお金を落とさず素通りさせるのか?
(猫侍も同じ発想でこれを企画したにちがいない)



竹宵二日目の次の日
「般若姫行列」が雨のため中止になったと連絡が入った。
そしてその雨は生ぬるいくせにすごく冷たい雨であった。

「やい!真野長者!(般若姫の親)来ると言っておきながらこんな小雨程度で中止するんじゃねぇ!
あんたのおかげでみんな何ヶ月も前から竹切ったり、仕事を犠牲にしたりしてきたんだ!
ミリタリーはあんたのためにあのくっさい動物の糞を何個もつまんで歩いたんだぞ!」

雨、長者、そして
祭りだけで気分が盛り上がり、そこに利益を求めることを恥ずかしいなんて思う
美しくも自己満足な人々に対し私は寂しくなった。がっかりだった。

そしてブースの周りには人っ子一人通らない。



静かに小雨がそぼろ降る。




通るのは猫ぐらいである・・・・



え?




まさか!



イヤな予感がした。
その猫数匹が出てくる場所を眼で追って見て私は全てを理解した。


そして我々のブースに近づいてきた猫に
「ウンコしたら ダメだぞ〜 また掃除せんといけんのやけん」と言っているミリタリー
我が子を叱るように・・

それもそのはず
糞をして回ったであろうこの猫達が飛び出してくる場所は
まぎれもなくミリタリーの実家キャットパラダイスではないか!



我が子を叱るようにではなくて「我が子」だったのだ!!!!!





お前が掃除して当たり前じゃーーーーーー!!!!!


竹宵は終わった。そして我々の化け宵も終わった。

私は「ミニ竹ぼんぼり」が爆発的に売れなくて良かったと思う。
もしも完売し、大金を手にしたら
「ミリタリーは人のやらない事をやる人」
という素敵な誤解をしている妖怪変化・魑魅魍魎メンバーたちが
「来年はファブリーズたくさん買っておこうね」などと
趣旨とは大幅に異なる使い道を考えるからだ。