すいまヘンドリックス事件


「臼杵ミワリークラブ」。これは言うまでもなく我々「臼杵市の妖怪探求クラブ」の愛称である。
郷土の民話や妖怪を発掘し子供達や臼杵を知らない人に興味をもってもらうため
「クソ真面目に研究」ではなく「バカさ加減を剥き出し」にインパクトを与える呼び名なのである。
「臼杵ミワリー」=「薄気味悪ぃ」
ここにはオヤジ的イナカっぽさちょっとした謎解き、まあ早い話が「ダジャレ」を用いた。

発足当時は妖怪探しに必死な時期もあったが、
しばらくして1000年以上の歴史の中でじわじわ生れてきた妖怪は
そう簡単には増えるもんではないという当たり前の事実
を突きつけられる。
そこで思いつくのはやはり暇つぶしにも似た「お馬鹿な活動」であった。
つまり「本業」に付属して「オチャラケ」の要素を取り入れることで
あまり肩に力の入らない活動をやって来れたのだ。

メンバーにも明らかに「ダジャレ・オチャラケ要員」として入会した者がいる。
副会長鹿天狗である。
この二人はツアーを企画したり、調査や研究したりという部分では他のメンバーには劣るが
行動派・肉体派という面で、ツアー当日の大道具小道具班として頼りになる。
また二人による宴会での盛り上げ方は
たとえ本尊のオチに持っていくための前座と言われようとミワリーには欠かせないのである。
そんな二人の「ダジャレ・オチャラケ要員」たるプライドが
活動を重ねる度にメラメラと燃え上がり、
お互いにライバル意識を持ってしまったのも当然の成り行きである。


2002年9月26日 なまはげ歓迎会&大定霊会の夜
 事件は起こった。
独笑の店のトイレ付近の狭い廊下で二人はすれ違った。
程よく酔っ払って気分のいい副会長は
「ギターの神様」ジミ・ヘンドリックスのT シャツを着ている鹿天狗に道を開けてもらって
普通なら「あ すいません」と言うところを
「すいまヘンドリックス!」と言った。
「すいません」という謙虚な言葉と全く場違いな「ヘンドリックス」をミックスし
それでいて毒のない何処かとぼけた響きを持つダジャレ。
普段からスベリまくりの副会長にしては久々のヒットであった。
かといって全てが計算された「ギャグの天才の名作」と言うよりは
軽く流し打ちのつもりが予想以上に大当たりした「まぐれヒット」のようである。
「すいまヘンドリックス!」はしばらくの間、我々の合言葉となった。
ロック好きでジミヘンを敬愛する鹿天狗も気に入ってしまい
この手軽なギャグを携帯電話のように持ち歩き、無差別に連発するようになったのだ。
敵の持っている技(ギャグ)を利用し他の敵を次々に倒すこの鹿天狗の技法は
のちに「クレイジー柔術」と呼ばれるようになる。
やがて鹿天狗と私の共通の知人にも広まり
「あれは誰が考えたギャグじゃろう」と聞こえてくるようになった。
だが私はその問いには答えなかった。
本当にどうでもよかったのだ。


しばらくして年末の慌しい時期、「2002年のお馬鹿活動の集大成」として
「ミワリー流行語大賞」を発表しようということになり、
「すいまヘンドリックス」が有力候補に上がった。
もちろん大賞を獲得してもおかしくない皆が認めるギャグであるが
問題は「誰が受賞者なのか?」である。
同じ頃、「すいまヘンドリックス」の考案者である副会長は
まるで自分のギャグのように使いまくっている鹿天狗に対して
「あいつはギャグ泥棒だ」と周囲にささやきはじめる。
それを聞いた鹿天狗は
「考えた本人よりも回りに広めた貢献者なんだから」と反論。
彼曰く、昔、せんだみつおが「コマネチ!」は自分が考案したものであり
ビートたけしが自分のギャグを盗み世間に広めたのだと言い張った。
がしかし「コマネチ」はビートたけしによって知名度が上がり
広めた本人が貢献者である。
この事件に置き換えれば
副会長は大して自分で「すいまヘンドリックス」を広めようともせず
鹿天狗によって少し有名になったら
「あれは俺が考えた」と言っている見苦しい「せんだみつお」そのものだ!
と言うのである。
そして「ギャグ泥棒」の汚名を着せられたことに対し,慰謝料360円(マイルドセブン
スーパーライト代+ジョージア缶コーヒー無糖代)請求
をすると言うのだ。
私にとっては迷惑などんぐりの背競べであるが
本人達にとってはかなり重要な事であり
このまま行けばミワリー内での始めての訴訟になるかもしれない。
奉行(会長)である私はこれを解決すべく
大岡越前の守の如く裁きを行う事になった。

この事件の争点は誰の存在が一番重要か?である。
鹿天狗に言わせれば「俺がいなかったらあのギャグは生れなかった」と言う。
一方、副会長はというと
あの瞬間、道を開けてもらったものの
ライバルとして謝るわけにも行かず、素通りしようとしたが
神のようなジミヘンが目に入ってしまい、謝りながらも
「すいません、でも鹿天狗、あんたにじゃないよヘンドリックスにだよ」という意味を込め
瞬間的に「すいまヘンドリックス!」と略した。

それならばむしろジミヘンこそが重要な存在である。
私を間に挟み、言葉の取っ組み合いを続けるこの二人のどちらかに勝者を決めるより
いっそジミヘンに賞を与えたほうがよっぽどマシだ。
一端はこれで治まるかに見えた。が
すでに故人となっているジミヘンに賞を授けるわけにもいかない。
では二人で受賞なら文句なかろうと提案したが
副会長の奴がまるでオバQの弟が「バケラッタ」しか言えないように
バカの一つ覚えの如く「ギャグ泥棒 ギャグ泥棒」と言いつづけるので
鹿天狗としては納得いかない。
そこで本尊に相談したが
「ジミヘンねぇ・・・・・(わかってない様子)・・・・あ そうだ そういえば
新作の妖怪ひな祭り人形のラインナップなんですがね」と脱線してしまう。
できることなら本尊パパから受け継いだこの部分だけでも遺伝子を組替えて欲しい。

私は「何故こんなことに悩まされないといけないのか」と
どちらにぶつけてよいやらわからない怒りが沸いてきた。
副会長があんなギャグを言ったばっかりに・・・・
どうせならいつもどおり「実用性のないつまらないギャグ」を言えばよかったのだ
鹿天狗があんなTシャツを着たばっかりに・・・・・
どうせなら他のロックTシャツを着てくればこんな事にはならなかったのに
もしもTシャツが「セックス・ピストルズ」なら副会長は
「失礼シド・ヴィシャス」などとと今一歩のギャグで治まったのでは?
もしもTシャツが「ローリング・ストーンズ」だったら
「ごめんなサディスファクション!」と、やや長ったらしく馴染みにくいものであったかもしれない。
もしもTシャツが「キッス」なら
「あんた先に行きっす」逆に道をゆずってあげたかもしれない。
誰が悪いのか
ジミヘンだ!
「ジミヘンの馬鹿野郎!」
私の怒りは深く考えるうちにジミヘンへと矛先を向けた。
今までロック小僧として憧れてきたギターの天才が
冷静に見ればただのイカれたおっさんに思えてきた。
だがよく考えてみるとおっさんと言っても27才で死んでいる
それがまた余計に腹立たしくなった。
神様かカリスマか知らねぇが偉そうに君臨しやがって
俺よりも若いじゃねぇか〜!!
そしてあの声、ノイジーなサウンド、ファッション、全てに腹が立ってきた
一歩間違えば葱坊主みたいな全体像。
演奏してるのか釣りをしてるのかわからないチョーキング。
そしてなんと言ってもあのヘアースタイル、あれはゆるせん。
さらに完全にラリっている顔
おまえは時空を越えて俺をバカにしてんのかーーーーー!

そう思ううちにひとつの疑問が生れた。
なぜよりによってジミヘンのTシャツでなければならなかったか?である。
普段からロックTを身に着けている鹿天狗はあの日
ゲストがやって来ると聞き、衣服もワイルドに決めてやろうと思ったに違いない。
数あるTシャツの中から選ぶ際、ミーハーな「ピストルズ」「ストーンズ」ではなく
カリスマ的であるジミヘンを選んだ。
これは自分を大いなるものに見せかける猛獣の威嚇行動のようなものである。
一般的にも馴染みの薄いアーティストではあるが
あのくしゃみ寸前のようなやるせない顔は切ないサクセスストーリーを物語っていて
初対面のなまはげさえも興味を引くだろう。
つまり鹿天狗は「なまはげのためにジミヘンを身につけた」のである。
そういった理由なのであれば真犯人はなまはげじゃないか、
いや、逆にいえば「鹿天狗がジミヘンを着なくてはならない」という尋常ならざる気合い
無意識のうちに働かせたなまはげこそが「すいまヘンドリックス」の貢献者なのである。

結局、「ミワリー流行語大賞」は
「あの日 すいまヘンドリックスが生れる状況と条件を与えてくれた」なまはげに贈られ
事件は一件落着となった。
今考えればこの一連の「ギャグ源平合戦」は
東北の娘世界一のギターリストを巻き込んだグローバルな戦いのわりに
ミジンコの勢力争いの如くスケールのちっちゃなものだった。


私はあらためて我々がバカであることを再確認した。
そうだ バカだ!バカ万歳!
はじめにも書いたが「まじめな活動」と「お馬鹿活動」を両立し、うまくバランスをとろうとするが
「バカげた活動」は時に「本業」すらおびやかし、
発足して4年経った今でも臼杵社会では「ゲテモノ同好会」とか「ダジャレサークル」でしかなく
「社会貢献活動」「歴史保存」などとどんなに奇麗事をほざいても
いまいち認められないのは仕方がないような気もする。
本尊は「馬鹿げたこともいいんですが、そろそろツアーやイベントもしなくてはねぇ」
といった内容を遠まわしにチクリチクリ言いながら軌道修正している。
確かにこんな馬鹿げた事で口論してる場合ではない。
でも本尊、
そんな「馬鹿げたこと」のおかげで僕達はみんな仲良くなったじゃありませんか。

さて最後に、副会長が「おとぼけギャグ系」であるのに対し
鹿天狗は「威嚇ギャグ系」であるという事を確信したエピソードをご紹介する。
つい先日ある団体交流会の懇親会にて副理事長を務める鹿天狗は
宴会最後の締めくくりに「万歳三唱」のご指名を受けた。
参加者が鹿天狗の結びの挨拶に少々かしこまった感じで見守る中
彼はこう言った。
「それじゃあ みなさんいきますよ〜  
1、 2、 3、 ダーーーーーーー!
万歳三唱どころかアントニオ猪木のあれをやったのである。

鹿天狗&副会長、もう争うな、
君達はどっこいどっこいだ。