独笑小僧の変

ミワリークラブが発足して間もない頃
私のところに一本の電話がかかった。
「あのぉ〜市報で見たんですけど ヒッヒッ どんな活動してるのかなぁと思って・・ヒャヒャ
若い男の声で、時おり変な引きつり笑いが伴奏をつける。
「いやぁあのう 僕もちょっと興味があって・・ウヒヒ
我々を茶化しているようにも聞こえるが、会が出来たばかりなのにこうして連絡があるのは喜ばしい。
「もしかして入会希望?」ときくと
だってゲテモノ食べるんでしょ、ウーヒャヒャヒャ ヒャヒャ!! フー
笑った後に、笑った分だけ空気を吸い込むので
聞いているこちらが過呼吸でぶっ倒れそうになる。
明らかに私たちと笑いのツボやタイミングが違う。何か怖い・・
この男こそ、のちにミワリークラブを震撼させる「サイコホラー笑い袋」=独笑小僧である。
結局、入会するハメになった彼は、趣味の読書と奇妙な独り笑いが合体して
妖怪名も独笑小僧と命名した。
本尊・ミリタリーにこの独笑を含めたチャネリング系わんぱく三銃士
その奇抜な風貌と活躍によって
ミワリークラブを象徴するイメージキャラクターとなった。
勿論、それはマイナスイメージの方である。


外見はいたって普通の青年で、桂小枝にささやかな若さと毛髪をプラスしたような容姿である。
以前にも述べたが、彼は小説を書くのが趣味で、
特に戦国もの系の内容を得意としているらしい。


ある日、私が仕事の合間に店でお茶をすすっていると、
独笑がやってきて「あのさぁ、小説持ってきたんだけど見る?」と言う。
私にとっては貴重なおやつタイムだがせっかく持ってきてくれたのだし、
彼の異常な変身演技力よりも、文学的才能を伸ばしてやる方がまだマシだと考えた。
この5分ばかりの休憩時間に少しでも目を通してやろうと思い、
独笑から受け取った小説の原稿はなんと
大分県南版タウンページよりもはるかに分厚い大長編スペクタクルであった。
どっしりと重いその本の内容はというと
戦国時代の臼杵を舞台に、なにやら怨霊などが関わっていて
文章と言うよりは脚本に近いセリフ仕立ての部分がよく目立つ。
例えるならイナカの陰陽師が殿様とシェ−クスピア風のとんち合戦をやっているような実に難解なストーリーである。
独笑はまじめな顔で「・・・・・で、どう?」と言う。
答えに困ってしまった私は「臼杵の歴史関連の部分は本尊に見てもらった方がいいぞ」といった。
その後、原稿を本尊に見てもらった独笑は
案の定、歴史背景や登場する道具などの細かい部分まで指摘された。
かわいそうになったので「本尊、フィクションなんだからいいじゃないっすか」と言うと
「これだけはゆずれない」といった感じで重箱の隅から隅までつつき
「フィクションと言えど、この時代にはこんな物はありえない」と言った。
妖怪クラブとは思えない「勇気ある問題発言」である。
それ以来、本尊のこだわりで反撃を食らうのを恐れた独笑は
私に「一休さんの悪魔バイブル」と名づけられたその原稿を二度と持ってこなかった。




去年の秋、私と猫侍は
彼独特の幽玄な世界観とゆがんだイマジネーションの根源を探るべく、部屋に潜入した。
と言っても酒を飲んでいたし、真夜中の1時くらいだった。
お世辞にも広いとは言えない部屋は、意外と綺麗にしていて本や雑誌も整頓されている。

我々査察団が期待していた大量破壊兵器は隠し持っていないのか・・と、
少し残念な気持ちでいると、背中に誰かの視線を感じた。
振り返ったその方向にはなんと仏壇があった。
私が視線を感じたのは仏壇に飾られている独笑そっくりなおじいさんの遺影(写真)からだったのだ。
なぜ部屋に仏壇があるのか理由は知らない。というか知りたくもない
たぶん、もともと仏間だったのを自分なりにアレンジしたのだろう。
普段から嫌気がさすほどユニークな発想の独笑は
自分がいつ死んでもいいように「天国へ一番近い部屋」を自ら選んだに違いない。



次に気になったのは本棚に並べられている数多くの本である。
私は中でも一際いかがわしい本を手に取ってみた。
開いてみると世界中の怪物やら幻獣やらが名を連ね、リアルなグラフィック付きで紹介されていて、
属性や弱点なども記載されてある。よくあるゲームのモンスター図鑑だ。
すると横から独笑が
「神話ではねぇ こいつの目を見ると石化すると言われている」とか
「こいつは○○の伝説に登場するんだよねー」とかセールスマンばりの売り込み口調で言うのだ。
次から次にポケモンに毛がはえた程度の怪物たちを説明されても私はチンプンカンプンであるし、
こんな平面な奴らの魔力なんぞ痛くもかゆくないのだが
独笑は目をギラギラさせて、悪魔の恐ろしさ自慢をする。
かといって「こんなもんいるわけない」と言ってしまえば
妖怪すら否定する事になるし、若い才能を根っこからもぎ取るかもしれない。
それでなくてもデリケートな独笑が逆上し、夏の肝試しの時みたいに
怨念の老婆に変身したら手におえない。
そう思った私は「へーーそうか、ふーーーん」と感心したような素振りで聞いてあげたのだ。
まったく、迷惑なガラスのジェネレーションである。しかも遅咲きだ。



しばらくしてこの部屋の中でも最も場違いな組み合わせのコーナーを見つけた。
それは先ほどの仏壇のすぐ横にテレビがある事だった。
テレビにはプレステが設置されている。
かっこよく言えば霊柩車で宇宙旅行をするようなファンタジックでバチアタリな配置。
おじいさんの月命日にお経を上げにくるであろうお坊さんも
胸中いかばかりかと拝察申しあげ る次第である。

しかし、もしかしたら滅多に味わえない異空間ゲームを体験できるかもしれない
私は少し仏壇が気になったものの「独笑、サッカーゲームで勝負しろ!」と言った。


プレステをあまりしたことがない私VSゲームマニア独笑の対戦が始まった。
前半、私は慣れない手つきだったが、コツをつかんでからはけっこう頑張っていた。
とはいえ、このゲームをやりこなしている独笑は余裕である。
後半になると私もだんだん腹が立ってきて大人気なく興奮し、
ボールを持ったらどこからでもシュートの連発、敵がボールを持てばファールの連続を繰り返していた。
これでは独笑も満足にゴールは出来ず、ついに本気を出し始めた。
サッカーというスポーツと,目の前にある仏教がプラスされ
「少林サッカー」をイメージした独笑は猛反撃してきたのだ

素人相手に流れるようなパスワークと容赦のないシュートの連続。
「これはまずい・・・」
私は卑怯な手段を思いついた。
「リセット」
つまり無効試合である。
必死になっている独笑のすきを見てリセットを押してやる!と奴の方をうかがった。
しかし!私の位置から独笑を見れば独笑よりもあのおじいさんの写真が目に飛び込んでくるのだ!
さらに写真であるがためにどんなに角度を変えてもじいさんとバッチリ目が合ってしまう!
これが本当の平面の魔力ではないか!
私がチラチラと見ると、まるで向うがチラチラと見ているようで気になってしょうがない。
ゲームの方は相変わらず独笑優勢でボールを支配し続ける。
もちろんこの時点で特点では負けている。
がんばれ私!しくじれ独笑!そしておじいさん、こっち見るな!
すると今度は恐ろしい事におじいさんの顔がさっきよりも怒っているように見えたのだ!
冷静になればそんなはずはないのだが、興奮のせいか眉間にしわを寄せたように見えた!
もうゲームどころではない。
私は猫侍と独笑に「さっきからじいさんがこっちを見て怒っている」と言おうとした。
「おい、ちょっと、あ あの」と言いかけたそのとき、またしても目が合ってしまい
「言うな、言うなよ〜 黙ってろ〜」と、言語を超越した信号がおじいさんから送られてきた・・・
いやいやそんな気がしたのだ。

ピーーーーーーーーーーー!!!
ホイッスルが鳴り、試合終了。

独笑は「おぅぃっしゅあぅわー!!」意味不明なおたけびをあげ、
挙動不審なガッツポーズをとった。
私は負けた。

このプレステの配線プラグはすぐ横にある仏壇に差し込まれていて、
独笑のボタン操作が偶然にも裏技のコマンドとなり、おじいさんを冥界から召喚したのだろう
そしてその姿なきサポーターはやっと再会したかわいい孫を
たかがTVゲームの試合でも、相手が初心者の私であろうとも
勝利に導くために念力と言う名のアシストをしたのだ。
こんな守護霊たまったもんではない。


チラチラ見ているうちにサブリミナル効果で目に焼き付いてしまったおじいさんの顔。
まさか「人生にはリセットはないんだぜ」という私への助言だったのか。
だとしたら、ひと言もの申す、
「どうか悪魔好きなあなたの孫に言ってやってください」