防空壕の怪


斉藤本尊の家の裏には防空壕がある。
ミワリークラブのツアーとテレビの取材で過去二回、この中に入ったことがある。

エピソード1:一回目は市内の小学生を町並みガイドした時だった。
この日の子供達はガイド中でもあまり人の話を聞かないけしからんガキどもで、
「こんなの知っっちょる!」とか「歩くのよだきー(めんどくさい)」などとボヤき続けていた。
しかし父兄もきているので、「コラァ!!」と怒るわけにもいかない。

こんなとき本尊は持ち前の威厳のある、説得力ある声で子供を惹きつけるはずだが
この日は担任が若い女の先生だったので、緊張して声が天使の歌声のように、時おり裏返っている。
普段のやや低音の声にウイーン少年合唱団のような高音が見え隠れするハーモニー。
それをおもしろ半分に聞いているのは子供ではなく私である。
やばい、クールな現代っ子には飽きられている。そして完全にナメられている。

臼杵の寺町付近の道は狭く、車が通る時には除けなくてはならないのだが
そんなときでさえ列を乱し、いう事を聞かないのでついに私は
「あの人の家につれて行くぞ!!!」と全身迷彩のミリタリーを指差して言った。
ミリタリーは両手を垂れ下げて前に構え、幽霊ポーズをとってみせた。
すると子供達は、ミリタリーの黒い長髪の幽霊っぽさよりも
男か女かわからない奇妙さに怖くなって黙り込んでしまった。
そうとは知らず、また幽霊ポーズをするミリタリー。
幸せな勘違いである。

お互いに噛み合わず、妖怪ムードぶち壊しの騒がしいツアーになりつつあったのだが、
俵屋に到着し、防空壕を目の前にすると子供達も本気でビビリ始めた。

嬉しそうにろうそくを設置する本尊。
悪趣味なグッズで装飾するミリタリー。
暗闇で見るこの珍獣コンビは、いつも以上にいやなセクシーさを醸し出している。
ここで私はろうそくに火を点けるチャッカマンを忘れている事に気付いて、俵屋に取りに行った。
本尊パパは5・6本のチャッカマンを持ってきて「カチカチ」とやって見たのだが、つかない。
パパは「あー、こりゃ電池切れじゃ」と言って、使い捨てチャッカマンを無理矢理こじ開けようとする。
使い捨てで「つかなくなったらそれまで」のタイプなので、もちろん開けられるはずもない。
と思っていたら開けた
というよりは分解した。いや、破壊したのだ。
こんな時に限って確信的な意地が
「まだまだこんな老いぼれにもみんなの役に立つ、電池ごときに負けてたまるか〜!」
となり、勢い余ってチャッカマンそのものを丸裸にしてしまった。
お年寄りとは思えないほど驚異のパワー。
今日は何を食ったのだろうか?

しかたなく他の方法で火を点けた。

防空壕探検が始まると、私はまた忘れ事をしていることに気付いた。
「大王に連絡しなければ」
大王は遅れてくるのでここについたら電話するように言われていたのだ。
携帯で大王を呼び出そうとしたら、なんと画面が真っ白になっている。
電池パックを入れ替えたり、いろいろやって見たがダメだ。
防空壕の中なので電波の圏外なのか?とも思ったのだが
本尊や猫侍の携帯はちゃんと使えるので連絡してもらった。

おかしいとは思ったものの、あまり気にせずに最後の一組まで誘導し、探検は終わった。
独笑小僧の陰湿で忌まわしい脅かし役もなかったので、
お別れのあいさつの時には子供達も「面白かったー!またやってよー」と言ってくれた。

実は本尊にはこのツアーを、肝試しと称しながら
少しでも戦時中の厳しさを知ってほしいという思惑があったようである。
ところがどっこい戦争を知らない子供達が、我々恥を知らない大人達にならぬように
身をもって悪い手本になっただけではないか。




エピソード2:しばらく経って二度目の防空壕に入ったのはローカルTVの撮影だった。
我がミワリークラブのアカデミックで社会貢献度の高い馬鹿っぷりを番組で紹介するらしい。
撮影陣数名&男女レポーター(2名)と打ち合わせ中の本尊は
やる気満々で、鼻がピクピクしている。これは「うれしい」というサインだ。
それもそのはず、
よく見ればレポーターの一人は、またしても本尊最大の弱点である若い女性だった。

TV局の人達は初めて見る本尊を幻のポケモンを見つけたような感動の眼差しで見る。
そして、何かやってくれそうなその重みのある滑稽キャラを必要以上に引き出そうと
変な注文をつけたり、お調子に乗らせたりする。
うれしさのあまり期待に答えすぎる本尊は
知識を大放出するか、悪ノリにターボをかけるかのどちらかだ。

私と副会長ができるだけ面白いクラブというのをアピールするために馬鹿を言うと
妖怪マスクを被ったままの猫侍がぼそぼそっと突っ込み、女性レポーターが笑う。
なごやかな雰囲気でいい感じと思ったのもつかの間、
悔しがる本尊がもっと面白いことを言おうとしてちょっぴり空回りする。
そのオペラ歌手のような低音が防空壕の静けさに響き渡り、寒さもいっそう厳しくなる
一方、ミリタリーは男性レポーターに自分の軍用品の自慢ばかりしている。
おやおや、こちらも好みのお相手を見つけたようである。
そのワイルドなファンシー小物を説明するミリタリーは
私たちには見せない異様なキャピキャピぶりであった。


この「歴史上最も湿度の高いダブルデート」は
息苦しい空間を感じさせないほどの陽気なトークで異様な盛り上がりとなった。
だが私は、一方的な二つのときめきの交差点に座っていると思うと
油っこいものを立て続けに食ったような胸焼けを感じずにはいられなかった。


撮影が終わり、外に出た。
「今何時だろう」と思い、携帯電話を覗いた私は驚いた。
奇妙な事に画面がまたあの真っ白現象を起している!
前の時は次の日にも直っていてすぐに使えるようになったのだが
偶然にもこの防空壕がきっかけで同じ現象が起きている。
怖くなってメンバーに携帯を見せ、「あの時と同じや」と言った。

ここでまたミワリー流のお馬鹿な推理が始まるのである。

「もしかして戦時中、何か電波関連の施設があったのでは?」
「いや!この防空壕は神社の真下に位置するので神のたたりでは?」
「戦争で亡くなった人のがとりついたんや!」と言いたい放題。
ではなぜ私の携帯だけが故障するのかと聞くと
「体内に何か埋め込まれているに違いない」とか
「昔UFOにさらわれた事がないか?」などと私の事をサイボーグ扱いしやがるのだ。
昔からここに住んでいる本尊パパに聞こうとも思ったのだが
「防空壕と携帯電話の関連性」よりも
「携帯電話」自体、魔法のような道具であるパパが興味を持ってしまえば
チャッカマンと同じく破壊される恐れもある。

私は単なる電源の接触の関係だと思う事にして
「気にしない 気にしない」と自分に言い聞かせたのだが、
話が肥大していく彼らは何が何でも私を霊的な特異体質に仕立て上げ様としている。
考え様によっては素晴らしい想像力とチームワーク。
どうせなら他の面で発揮していただきたい。
しまいには「さすが会長!」などと不名誉なほめ言葉を浴びせ掛ける。
何が「さすが」なんだ!


最後を締めくくるように本尊が言った。
「世の中には、科学では解明できないことがたくさんあるんですねー」

妖怪クラブのくせに今更言うほどのことではない。
それに私は、科学では解明できないこんな連中にここまで言われる筋合いはない。
「じゃあ一杯飲みに行きましょうか」
本尊は防空壕の入口をふさぎながら
「会長、もう中に忘れ物はないですね」と言った。
忘れ物は友情ぐらいである。

帰りに私は先ほどの「さすが会長!」の意味を考えた。
そうか、妖怪である彼らにとっては、霊や神に反応する私の体がうらやましいのか。
そんな「妖怪以上・悪霊未満」どもが集う臼杵ミワリークラブ。
そして、あんまり言いたくないけど、私はこの「変形西遊記」の会長なのである。
どれだけ歩み続ければ天竺が見えてくるのだろうか。