なまはげ襲来・後編


カラオケ大会
ド田舎の臼杵には気のきいたアトラクションもないので二次会はカラオケボックスで歌合戦となった。

叫び派である私=会長チーム対正統派の本尊チームに分かれ各々自慢ののどを披露する。
しかし歌っているうちに勝負なんかどうでもよくなり
早くも酒が回っているせいで何を歌っているかわからない者もいれば
自分の歌に酔いしれる者もいる。
なまはげに楽しんでもらうためとか言いながら自分達が歌いたいだけではないか。
ここでもやっぱり注目すべきは本尊である。
いつもなら「妖怪人間べム」か「鬼太郎」を歌うに決っている。
しかし若いゲストをお迎えしている今宵の本尊は変化球を投げてきた。
「大きな古時計」である。
歌い出しから「荒城の月」の古いレコードを聞いているのかと錯覚しそうな歌声が響いた。
見た目はともかく、声だけは独特の味があり、私たちもついうっとり聞き入ってしまった。
そうか、本尊が昔から知っている曲でありながら、平井堅のカヴァーによって
若い人にも親しみのあるこの曲を選ぶとは、おぬしやるじゃないか。
レトロな中にも思いっきり流行に近づこうとする健気で純粋なおっさんの努力がにじみ出ている。
それでいてはるか昔に聞いた原曲を思い起こすような温かい声。
終盤の「天国へ登るおじいさん〜♪」あたりでは私たちは少し感動的な気持ちにさえなっていた。
そして「とっくり伯爵」には不似合いの素敵な歌声のおかげで
段々本尊がいつもよりはちょっと男前に見えてきたのである。
見ようによっては「笑いのツボを間違った三谷幸喜 」を上から叩いたような
ダンディーでユーモラスな男ではないか。
女性に対しては必要以上にやさしく紳士的。
趣味は変にアクが強いものばかりだが地道にコツコツとやる。
それにいつまでも少年のように謎や神秘に首を突っ込む好奇心だけは年をとらない。
今日は少し本尊を見直した。
と思ったらやっぱりやってくれた。
最後のフレーズである。
「今は、もう、動かないその時計〜♪」
重い声で私たちの心を思いっきり引き寄せた後で

「今は  もう   動かないひぃ〜〜〜〜(裏声)

私は敵にやられた時のガンダムのコックピット内の如くソファーごと後ろにスッテンコロリン。
ダークダックス風に歌っているとばかり思っていたのがまぎれもなく
「平井ヴァージョンじゃないですか〜〜〜!!」
さらに本尊の力の限り「今風」と「古典」の共通点であるこの選曲
パンチを食らわしたのは他ならぬなまはげだった。
「わたし、アリスが好きなんですぅ〜!」
そう、べーやん&谷村のあのアリスである!
一体この娘は何歳なんじゃ!
「本尊のハートフル・フレンドリーコンサート」
目に見えぬ「8時だよ全員集合」の舞台班によって一瞬にして片づけられ
やがて「不気味の国のアリスメドレー」へと変わった。




別れの日
9月27日
私はミワリー活動に関するありったけの資料を用意していた。
明日の朝大学へ戻るなまはげのためにである。
考えてみれば「よく耐えたものだ」と感心してしまうほどハードなスケジュールで
定例会といいながらちっとも定例ではないミワリークラブにきっかけを与えてくれた。
今までにもミワリーを訪ねた「町づくり関係」や「地域おこし関係」の者はいたが
やたらと専門的な単語を連呼し、その分野でしか理解できないマニアックな話題
いかにも「ご存知とは思いますが」ってな感じで一方的に喋り
黒柳徹子かファンカーゴのCMばりの早口言葉で絨毯爆撃をしてくると相場は決っていた。
なまはげの場合、本尊以外のメンバーの専門知識の低レベルさに対し瞬時に目線を合わせ
おだやかに、そして謙った口調で問いかけてくるので
メンバーも快くそれに答えられたのだ。
これは本当に頭のいい人間でしか成し得ない配慮であると私は考える。

が!しかし、なまはげはこんな私の親心に歯向かうように
とどめを刺しやがったのである。
「この前のインタビューが消えてるんですぅ」
三日前に私が二日酔いで受けた20分くらいにわたるインタビューである!
私は二度目の二日酔いインタビューを受ける事になった。



その日の夕方、トキハの前でお別れの挨拶をした。
ゴムの切れたパンツよりもゆるい涙腺を持つ私が
明日の朝駅のホームで見送るとしたら間違いなく泣くだろう。
そして「引越しのサカイのババア」みたいに列車を追いかけるかもしれない。
そう思った私はここで見送ることにしたのだ。
この寂しさを「バカな手土産」によってごまかそうと
鬼(なまはげ)が本尊にインタビューする光景」を絵に描きプレゼントした。
「ひっどーーーい!」
なまはげは本当になまはげのように怒った
そのおかげで「こみ上げて来る涙」「二日酔いで胸からこみあげてくるもの」が一気に吹き飛んだ。
とりあえず作戦は成功である。
それでも私はミワリー族での父親として「娘よ、また帰ってくるんだよー」とウルルン気分でいる。
隣にいるミワリー族の村長・本尊もきっと同じ気持ちだろうと思った。
が!横目で本尊を見てみると、なんとこの村長は
自分にあまりにも似ている似顔絵を見て
体中を100人がかりでくすぐったかのように
腹がよじれるほど「ケタケタ」笑っているではないか!

腹を押さえながら「ヒックヒック」
ちょっと目を開け、また絵を見て「ヒックヒック」
文明知らずの民族が初めてというものを手にとった歴史的瞬間じゃああるまいし・・・・
「おっさん!それあんただよ!」と突っ込まずにはいられなかった。
私はその他の資料を手渡しながら「いつまで笑ってんだ」ともう一度本尊を見た。
驚くべきことに、わずか五秒ほどの間に
本尊は何事もなかったようにに戻っている・・・・・
この生物の頭の構造は理解できない。いや理解してはいけないのだ。



「本当に楽しかったです。みなさん楽しい人たちばかりでうらやましいですぅ」と
なまはげが言った。
ちょいと娘さん、何言ってやがる・・・他人事かと思って・・・
四六時中あいつらと一緒に居てみろってんだ!