迷彩比丘尼(ミリタリー)の恐怖

「ミリタリー」こと「迷彩比丘尼」は第一回定霊会の臼杵妖怪保存活動貢献者として表彰され
それ以来ミワリークラブに居着いてしまった、唯一の女性会員である。
こう書けば皆さんは「男ばかりのグループの中に可憐に咲く一輪の花」あるいは
「マニアックな連中に憩いを与えるみんなのアイドル」を思い浮かべるかもしれない。
私はそれを真っ向から否定しておく。
すでにミリタリーが女であることをメンバーは忘れている。
いや、本人が女であることを忘れている。
むしろ彼女にとってはそれが居心地よいらしい。

ミリタリーは仮に男だったとしても変わり者だ。
名前からもわかるように、その普段着は全身迷彩の戦闘服&軍用ブーツである。
毎日毎日誰と戦っているのか知らないが、ちょっとデパートに行くのもその格好なのである。
そうでない場合は、
作務衣() に般若心経の書かれた手ぬぐいを頭に巻いた「和尚の休日ルック」で、
これもまた「ありがたい職業のコスプレ」のはずが,ちっともありがたくない。

普段着=戦闘服で人口3万人の臼杵の中心街を歩くその目的は、
目立ちたいのか、その勇気をたたえて欲しいのかよくわからないし、
もしも本当に敵が何処にいてもいいように臨戦態勢を心がけているのならば、
この灰色っぽい歴史的町並みでは逆カモフラージュであることに早く気付いて欲しいものだ。


ミリタリーは服装だけでなく、その生活自体サバイバルである。
スーパーの惣菜売り場が午後5:00になるのを見計らい、
半額と言う名の獲物を仕留めに行く。
毎日仕事ではなく、要請があった時に、いろんな引越し現場に派遣され荷物運びをする
ゲリラ的で特殊部隊のようなバイトをしている。
たまにうちの店に来て、いきなり「花屋はタバコの灰を高値で買い取ってくれるっち本当?」などと
ちっぽけな幻もうけ話をするや否や、「これ食べてもいい?」とお茶菓子を欲しがるので
「いいよ」というと、「ああこれで昼飯ができた」といいながらポケットにしまい込むので
「お菓子なら、好きなだけ取りよ」と袋からさらに菓子を出した。
すると、「ありがてぇ」といいながら本当に好きなだけもって帰る始末である。
これで驚いてはいけない。もっとひどかったのは
私が食べた後の出前のラーメンの汁を「それ捨てるん?もったいないから飲む」と言った時である。
これにはさすがに私もあきれながら怒った。
べつに女とは認めてないので間接キッスになることを恥らってるわけでは決してない
いくら何でもやりすぎだし、仲間として情けなかったからである。
しかし、「頼むからやめてくれ」という私を無視して、ごくごくと冷たい汁を飲み干したミリタリーは
汁しか飲んでないくせにあつあつのラーメンを最初から全部、腹いっぱい食べたような達成感でいる。
それ以来、ミリタリーがくると何を食われるかわからない恐怖に襲われ、
べつに損はしないが、何と言うかどんよりとした不安が頭をよぎるのだ。

これを聞けばとてもビンボーな生活を余儀なくされているみたいだが
実家には両親も現役でお店をやっているし、おまけに一人っ子で大切に育ってきている。
つまりミリタリーは恵まれた実家を出て、あえてこの生活を自ら選んでいるのだ。
私たちが何気なく暮らしている生活圏を勝手にジャングルと思い込み、
安定した生温い職を拒み、ハングリーで不規則なバイトをしながら
極度に自己暗示型のバーチャル戦場を生きているのだ。



ある日、私の近所のアパートの管理人が駐車場に変なものを置いた。
ネズミ捕りの化物みたいなその装置は「ネコ獲り」だった。
この辺にはただでさえネコが多いのに加えて、時期が来ると一斉に子を産み、
いたずら好きな子猫たちがうじゃうじゃ出没する。
みさかいなく車に足跡をつけたり、残飯をあさったり、どこでも糞をしたりするので
これを一挙に捕獲し、保健所か山奥に連れて行くようである。
管理人さんもアパートや駐車場を貸し出してる責任上、止むを得ない行動であるが、
近所のネコ好きなおばちゃんは「かわいそう」と胸を痛めていた。
それを聞いたミリタリーは怒り、「許せん!うちが助けにいく!!」と言った。
ミリタリーはネコ好きで家にも飼っているので子猫何匹かなら、まだ引き取る余裕があるらしい。
現場に向かい、エサにつられて牢屋みたいな器具に入っている子猫数匹を取り出した。
そして武器もなしに、もちろん敵もなしに、
自分もトラップにかかってしまうかもしれない危険を冒してまで
捕虜をたった一人で救出した軟弱ランボーの勇姿
ネコ好きのおばちゃんは我が子を救ってくれたような気持ちで見ていたと言う。
目に涙を浮かべて「あなたのお友達が助けてくれたんやろ?」と聞かれ、
「うん、ミワリークラブの仲間なんです」と答えた。
この時、私ははじめてミワリークラブをかっこいいと思った。
さらに、あんな生活をしているため正直、ミリタリーをちょっと軽蔑していたことを反省した。
斉藤本尊がいつか説教くさく言っていた言葉を思い出した。
「ミワリークラブは、妖怪を通じて命の尊さ、物の大切さを子供に教える目的もある」
そのとおりである。
この一件でのミリタリーの行動は、どんなに小さな命でも尊重する心であり、
普段の生活もセコイと言えばセコイが、引越し家族のいらなくなった絵本をうちの子供に持ってきたりする
リサイクル根性は本尊の言う「臼杵ミワリー精神」に真正面にストライクである。

と、こんなほのぼのエピソードを話している場合ではない。
諸君、先生、兄弟、皆々様、この謙虚な語りべ(私)にとって、
見た目はどうあれ信頼を少しは置いている部下に裏切られるような
メガトン級に後味の悪いオチが待ち構えていたのだ。

数日後、私の店に来ていたミリタリーに、ネコのその後を聞いてみた

「あの子たちは親はおらんけど、うちには親代わりがいっぱいおるから大丈夫じゃ」
ミリタリーは嬉しそうに言う。


「へ〜 何匹くらい飼っちょるんな?」と聞くと



「えーーとたしかこれで40匹目かな〜」






「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えっ!?






「実家に20匹飼っちょるし、合わせて60匹目かな」



聞いた瞬間、私の頭の中にいる吉本新喜劇の芸人たちが一斉にズッコケたのは言うまでもなかろう。

「・・・・・・・・うっ・・・・・・・おえっ!」


「ネコ飼っちょると食費が大変や〜」といいながら、今日も半額惣菜をゲットに行くという。


あのねぇ、それはネコを飼ってるのではなくて、お前がネコに飼われてるんじゃねぇのか〜〜っ!


そう思いつつも、衣食住、揃いもそろってイカレている事が判明し、
ネコをキーワードに謎だったビンボーランボー生活の全ての点が、たった今、線で結ばれた。

ミリタリーは「会長、子供にあげて」と、珍しく自分からお菓子をくれた。
おそくなった汁の恩返しなのだろうか?
そして映画のラストシーンのような戦慄的な夕日に照らされながら、
ランボーと言うよりは、どうみてもランボーのやられ役ニューハーフにしか見えない後ろ姿で
あのピクミン式ムツゴロウ王国へと戻っていった。