廃校の夜


去年の夏、会員の役場狸の依頼でキャンプ中の子供に妖怪話をすることになった
いつもの紙芝居セットや、きもだめしに使うお面を車に積み込み、
すでに廃校になっている山奥の校舎へメンバー数名と向かう。
一台に本尊、大王、ミリタリー、鹿天狗、
もう一台に独笑小僧、私、猫侍。

私の運転する方は約15〜20分間、まるでドライブ気分で三人雑談。
今から自分達が置かれる状況を予想して、
またしてもお馬鹿な想像が会話を大袈裟に膨らましていく。
山奥の廃校でキャンプ、ふざけて馬鹿騒ぎする連中、
ジェイソンに殺られるにはもってこいの素材だというのだ。
さらに「誰が一番に殺されるか?」とか
「俺はいやだ あいつが先だ」「そういう奴が一番最初に殺されるぞ」
そしてあろうことか「誰が犯人か?」などと、身内を疑いはじめ、
最初に言っていた犯人ジェイソンは途中で道から外れて、
佐賀関方面へ行ってしまった。
「頼んでもないのに勝手に殺人事件」は現地に着くまで続いた。
こんなことは我々がよく使うひまつぶし方法である。

現地につくと地元青年団の方が「お待ちしてました!」と出迎えてくれて
私は本当にうれしかった。子供達も元気良く迎えてくれた。
しかし我々そのものを客観的に見れば、
眼鏡をかけた座敷わらしのような本尊、
サイキックな含み笑いの独笑、
黒長髪を束ねたミリタリー。

(私が言うのもナンだが、この3人だけでも充分怖い。)
物珍しそうに校舎を見回す鹿天狗は普通な方、
私と猫侍は若手お笑いコンビのように映っていただろう。
そして近所のおっさんが様子を見にきたような大王。
このちょっぴり弱そうな変形西遊記のようなメンバーで今日は話をする。不安だ・・

第一部は教室で臼杵妖怪講座。メンバーが交代で紙芝居や話をしていく。
いつもなら3人目ぐらいから子供たちはだらけ始めるのだが、
ほとんどの子が大分市からの参加であるのと、
一週間も泊まるキャンプがこの廃校であるためか緊張が維持されていた。
メンバーの口調が統一されてないので、かえってバリエーション良く
飽きさせなかったのは新たな発見であった。
これについては珍しく大成功のチームワークと言えよう。

問題は第二部、きもだめしである。
廃校の裏山に神社がある。子供は表階段を登り、ミワリー会員の待受ける
妖怪ゾーンをくぐりぬけ、神社の裏にあらかじめ置いてある「目印の石」を持って帰る。
私は第二関門の地蔵役で、すぐ目の前の第一関門、鹿天狗は馬の首役。
私はもうちょっと間隔を空けた方がよいと思い、鹿天狗に「もうちょっと前の木に隠れて!」と言った。
すると彼は、こちらを見て「コックン」とうなずいたのだが、
頭の上に馬の首があるため普段より頭一個分大きなうなずきになっていて
「コックン、コックン」 前の木に行って、こちらを見てまた「コックン」
まるでワナにはまっていたキタキツネを逃がしてやったら
何度も振り返り、おじぎしながら森へ去っていくような

とても感動的な光景になっていた。

はるか後ろの裏階段降り口には亡霊が立っていた。
唯一、変装なしで充分怖いミリタリーにはあえてそのまま「素」でいってもらう事にしたのだ。
「多分あれが、この肝試しの最大の恐怖ポイントとなるだろう」と思っていた私の予想は大きくはずれた。

歩いてきた子供達は第一関門、第二関門を「よくある脅し方」なゆえ、それなりに驚き神社に向かう。
しかし!ほとんどの子が半泣きで「お地蔵さーーーん!怖くていけませーーーん」と戻ってくるではないか。
たしか「目印の石」の前には独笑がいるはずであるが、おどかすような声も聞こえないのになぜだろう?
あまりの怖さにチビリそうと言うので一緒に行ってみた。すると
神社裏の四畳半ぐらいの敷地には真中にイスのような物があり「目印の石」が置いてある。
真裏は段差になっていて草が生い茂り、ワラみたいな枯草がこんもりあるだけだ。
しばらくするとどこからともなく、すすり泣きのような笑っているような奇妙な声がした。
「あそこ〜」と子供が震えながら指差した瞬間、ワラと思っていた物体が微妙に動き始めた!
よく見るとそれは両手両足を地面につき、下を睨みつけながら含み笑いする老婆=独笑だった。
大人の私が見ても恐ろしい。体勢といい、何を考えているかわからないささやきといい、
完璧と言っていいほどの気色の悪い生物と化していた。
独笑はよく戦国がテーマの書き物をする。
そのせいか大声で脅かすのではなく、何かイニシエ的な恐怖の演出を心得すぎている。
かといって相手は子供である。
これがトラウマとなり「初詣に神社にも行けない症候群」にでもなったら、申し訳ない。
小声で「ちょっとやりすぎじゃねぇか」という私の言葉が聞こえているのかいないのか、
完全に呪いの老婆を演じきっている独笑は赤ちゃん這い這いを続けている。
「もういいから、石を持って先に行っていいよ」と言い、
子供が石に手を触れた瞬間!
「それに触るんじゃねぇーーーーーーーーー!!!!」
独笑は立ち上がり、鬼のような形相で子供を追い掛け回したのだ!
さっき置いたばかりのこの石を何百年も前から守り続けてきて、人間に恨みを持った怨霊のごとく、
何の罪もない子供にその理由無き怒りをぶちまけている。こんな自縛霊たまったもんではない。
私はもう彼を止めることはできなかった。
というか止めなかった。
なぜならば、こんなにイキイキとした独笑を見るのは初めてだったからである。

こんな感じで最後の一組まで続き、やっとこの「情けないくらいバチ当たりな課外授業」は幕を閉じた。
独笑よ、誰がそこまでやれと言った?