奥嶽小僧の


No. 109


三好 達治   『大阿蘇』
    
 雨の中に馬がたっている
 一頭二頭仔馬をまじえた馬の群が 雨の中にたっている
 雨は蕭々(しょうしょう)と降っている
 馬は草を食べている
 尻尾も背中も鬣(たてがみ)も ぐっしょり濡れそぼって
 彼らは草をたべている
 あるものはまた草もたべずに きょとんとしてうなじを垂れてたっている
 雨は蕭々と降っている
 山は煙をあげている
 中獄の頂から うすら黄ろい 重っ苦しい噴煙が濛々(もうもう)とあがっている
 空いちめんの雨雲と
 やがてそれはけじめもなしにつづいている
 馬は草を食べている
 草千里浜のとある丘の
 雨にあらわれた青草を 彼らはいっしんにたべている
 たべている
 彼らはそこにみんな静かにたっている
 ぐっしょりと雨に濡れて いつまでもひとつところに 彼らは静かに集まっている
 もしも百年が この一瞬の間にたったとしても何の不思議もないだろう
 雨が降っている 雨が降っている
 雨は蕭々と降っている


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