日田
                   コツコツ節

    

 
 
 

一 お月さんでさえ
  夜遊びなさる サンヤリ
    (ハー コツコツ)
  年は若うて 十三七つ
  よしておくれや 雲がくれ
    (ハー コツコツ)
 

二 春の野に出て
  七草摘めば サンヤリー
    (ハー コツコツ)
  露は小褄(こづま)に みなぬれかかる
  よしておくれや 鬼あざみ
    (ハー コツコツ)
 

三 波も静かな
  屋形(やかた)の船で サンヤリ
    (ハー コツコツ)
  主のかしら字 水面(みずも)にかけば
  にくや小鮎が 袖ぬらす
    (ハー コツコツ)

※三番歌詩は、井上柿巷
 
 



 
 リクエストに応えて、日田の、コツコツ節」にスポットを当ててみることにしよう。
 県下の数々多い民謡の中にあって、ひところ「転勤節」の名で知られていた唄が、この「コツコツ節」である。
 「コツコツ節」の生立ちについて「観光日田(注1)」は、『伝・安政年間、作者不明」と紹介している。安政年間といえば、西国筋郡代の支配する天領日田は繁栄を極めたときであるから、作者不明にしても、三味線歌曲の一流作者が在住していたことは確かであろう。
 コツコツ」という独特の合の手は、鵜匠が鵜を励ますために棹(さお)で船べりを叩く音、鵜飼遊船の棹が船べりにあたる音、流送の杉丸太が岸や岩にあたる音、杉丸太がふれ合う音等々を同時に表現する絶妙のはやしことばであり、これによって水郷への臨場感が、艶(つや)やかに醸(かも)しだされるのである。
 「コツコツ節」の郷土色を一段と鮮やかにしているのが、井上柿巷(しこう)作の三番歌詞である。これは、昭和二五年のころ新たに追加されたものであるが、水郷情緒豊かな歌詞であるため、今では一番歌詩に続いて、これを二番歌詩として歌うのが通例となっている。
 天領日田・水郷日田が生んだ「コツコツ節」を、大切に守り育ててきたのは、日田の芸子さんたちであった。昭和の初期ごろまでは、博多・別府の芸子さんも必ずこの「コツコツ節」を身に着けていなければならないほど、格式の高い唄であったという。従って本場日田の芸子さんたちが、この唄にかける情熱はたいしたもので、厳しい稽古が毎日のように続いだと言われている。古老によれば、冬のさなか三隈川にかかる簗(やな)のほとりで、寒声(かんごえ)をとっている芸子さんの姿を幾度も見かけたそうである。
 「コツコツ節」の根城とも言うべき日田検番が廃止になったのは、昭和五七年のことであった“以来、日田観光協会が推進本部となり、民謡に関する各種団体が提携して、正統な「コツコツ節」の伝承・普及・宣揚に尽力することになった。その中心的な事業である「コツコツ節コンクール」も今年で一三回目を数え、着々とその実績をあげているところである。
 閑話休題、転勤辞令によって日田市内の出張所とか支店等に赴任したサラリーマンの中には、「日田川開き観光光祭」の終わったあたりから、「コツコツ節」の稽古を思い立つ者が次第に多くなってくる。とは言っても、日田検番は既に廃止となっているから、本物志向の者にとっては、やや物足りなさはあるが、何とかして良き指導者を捜し当て、さっそく稽古に取りかかることになる。
 ところが、当初易しそうに思えた「コツコツ節」も、いざ声を出して歌う段になると、三味線が付かず離れず伴奏音を入れる粋な唄だけあって、皆が皆おいそれと上達するわけにはいかない。それはともかく、数年掛りでどうにか物にし得たころになると、やがて転動辞令が出され、十八番の唄となった大事大事の「コツコツ節」を携えて、次の勤務地へと赴くのであった。これが「コツコツ節」にみる現代版「転勤節事情」の一節である。
 有名な「日田天領まつり」は、今月の第三土・日曜日に開催される。まつりの呼び物は、月隈公園(代官所跡)・豆田町・隈町の問で行われる「西国筋郡代着任行列」である。この西国筋郡代は、日田の掛屋衆の後ろだてとして日田を繁栄に導いた九州随一の権力者であるから、その着任行列には、美しく着飾った踊り子や、とりどりに仮装した町衆などの歓迎パレードが長々と連なり、行列の総勢は三百人ほどに達する。諸国大名の参勤交代行列には見られない華麗な行列絵巻が繰り広げられる。
 天領日田には一二名の西国筋郡代が着任しているが、いずれも禄を食(は)む転勤族であることは、現代のサラリーマンと少しも違いはなかった。
 さて、これら郡代の中で、この「コツコツ節」を携えて天領日田を後にしたのは、いったい何人だったのであろうか。

注1 「観光日田」
池田範六著、日田観光協会刊(昭和30年)

注2 井上柿巷
柿巷は俳号、名は進。明治一八年、日田市内の医家に生まれ、生涯医を業とし、昭和二五年六五歳
で没する。「コツコツ節」「盆地節」「水郷音頭」などの作詞が有名である。

参考資料
「天領日田」=
坂本武信著・天領日田刊行会(昭和46年)

日田観光協会
 会長大石正勝
 日田市元町1133
 TEL0973(22)2036