2018年11月23日
「日々是好日」 森下典子
学生時代に友人と二人で冬の京都を旅行した。大原三千院の前の茶店に上がり、抹茶と菓子をいただいた。
吹き抜けの寒さに、凜として背筋が立つ。竹林越しに見る里の雪景色に、観光客の喧噪は瞬く間に静の世界に変わった。
それから数年後、田舎の茶室の噂を聞き、友人と二人で訪ねた。若い二人の突然の来訪に戸惑いながらも、老婦人はこころよく迎え入れてくれた。
上品な本鳥の子の襖、見事な引き手、柿の木の炉、茶室のすべてが輝いて見えた。
森下さんの本で、「葉々、清風を起こす」という禅語を知った。
清々しかった。
迷わない、前を見る、集中する、そんな勇気が湧いてきた。
森下さんの本を読み始めたのは、映画「日々是好日」の原作と知ってからで、彼女の花鳥風月のとらえ方は僕の心を離さない。
竹の葉擦れの音に寄せて門出を祝す。
背中をぽんと押される、そんなきっかけが人間には必要なのかもしれない。



2018年11月21日
「人口減少社会の未来学」 内田樹編
各界の著名人11人が人口減少について書いた11編を、内田さんがまとめたものである。
とめどなく11編点描するのも定まらないので、平田オリザさんが書いた「若い女性に好まれない自治体は滅びる」という1編に絞ろう。
平田さんの著作は具体的事象がたくさん盛り込まれて分かり易いので、好んで読んでいる。
「二世帯住宅はあまり好まれない。好まないのは親の世代の方で、『自分たちは苦労したから、今さら子どもに同じ苦労はさせたくないし、この歳になってから嫁に気も遣いたくない』と言う」。出だしから相槌を打つ文面が並ぶ。自分が肯定するよりも、日本社会はそういう空気感に包まれている。
「子育て世代は、子どもの育つ環境を一番に考えて住む自治体を選ぶ時代になった。そしておそらく、その決定権の七割、八割は、実質的に子育てを担わされている母親が握っているのではあるまいか」。そうだ。なんとなく納得する。
平田さんは、日本は世界の先進国の中で最も人間が孤立しやすい社会になったと言う。企業社会は崩壊し、古き良き地縁社会は欠乏し、セーフティーネットである宗教もないと書く。
つまり、ゲゼルシャフトとゲマインシャフト、利益共同体と地縁血縁共同体が危機に瀕しているという。確かにOECD加盟国では、韓国に次いで自殺率は2位である。 考え込んだのは次の言葉である。
「子育て中のお母さんが、子どもを保育所に預けて劇場に芝居を見に行くと後ろ指を指される社会と、生活保護世帯が劇場に来ると後ろ指を指される社会は、深いところで、その排除の論理はつながっていると私は思う」。
こども園に預けて夫婦で遊びに行く親、子どもが熱を出して電話したらパチンコの音がして後で行くと言う。そういう現実を聞いていただけに、自分の中の排除の意識にハッとした。
三浦梅園の「価原」には、次のように記している。
「農業が減じれば財も減じる。財が減じれば国家の根本も弱体化する。これが郡県の人口が年ごとに減少し、都会の人々が日々増加する理由である。まことにひとつの感慨をもよおすではないか」。
人が離れる社会と集まって来る社会の違いは何だろう。
人口減少は国家や経済の弱体化につながるかもしれないが、それは果たして斜陽なのだろうか。
人に寛容な社会とは何だろう。
斜陽であったとしても、私たちは周囲の景色を愛でながらゆっくりと下っていけばいい。
そして成熟した社会を目標にすればいい。




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