〜わが輩はジュンである〜
ニワトリにも、それぞれ性格がある。
「スープ」という、あだ名を付けられた奴は
おっとりとしていて、気が弱いけどよく喰う。
カラアゲについてまわる。
雄の「カラアゲ」は、けたたましくて
落ち着きがなくて小心者だ。
今日も「カラアゲ」が騒ぐ。
「ジュンチャ〜ン ジュンチャ〜ン
変なオジサンが来て、
松の木をいじりまわしているヨ〜」
車庫で、お兄ちゃんと
お寺の有様について
いろいろ話し合っている俺達に
「カラアゲ」が、ノドから絞り出すような
声をあげて騒ぐ

お兄ちゃんが、
「カラアゲにしてやろうか!」とつぶやいた。


そして、お兄ちゃんは
「俺は、今朝早く起きて
境内の見廻りをしたんで疲れた。
ちょっと寝るワ」
と言って、車の下にもぐり込んだ。

「・・・・・・・・・・・」


「お兄ちゃん、
和尚さんが大事にしている
松の木が心配だ。
様子を見に行こうヨ」

「お前は、力持ちだ。
勇気があるんダ。
熊王と呼ばれている男だ。
独りで行って来いヨ」
お兄ちゃんは、臆病でこわいんだ。
僕が独りで様子を見に行って来よう。

・・・・・・何だかいつもと違って
足がブルブルする。
胸の処がドキンドキンする。
何故かナ?
僕は熊王ダ!! 
行かねばならない!!
おおらかな、くったくのない「長官さん」
オッチョコチョイのひよこの「チョコ」と、
あわて者の「パー子」に見送られて
松の木の処に出かけたのダ。
見慣れないオヤジが二人
松の木をあたりまわしている。

「何してるのダ?和尚さんの許可をもらったの?」
自分でもおかしい程声が出なくて
足がふるえる。
「オオ!! お前だなうわさのジュンてえのは。
オイチャン達はな、野津町の森迫さんご夫妻に
頼まれて、松の芽つみに来たんダ。
心配するナ!!」
お寺の信者さんの差しまわしで、
松の木の手入れに来てくれた由。
見れば、人相も悪くない。
足の震えが止まった。
「オジサンありがとう。気をつけて。」

俺は 熊王だ! 
そんな威厳のある声で言った。
やれやれ。
安心して完成間近の東門を見に行った。
瓦工事も終わって、
あとは開き戸を取り付けて
御影の敷石を敷いたら完成だ。
雨で工事が遅れているようだ。
蓮の処でちょっと変な臭いがした。
一応調べてみたが別に異常なし。

「喰える物が落ちているのかナ?」
というようなさもしい気はサラサラ無かった。
お地蔵様のお顔を見ると
「ジュン 隠しても駄目だゾ
私はみんなお見通しだゾ〜」
と言っておられるような気がした。

「・・・・・スミマセン・・・・・。」
何故かお詫びの言葉が出て、
ピョコンと頭を下げた。
不思議だ。
和尚さんがよく言っている
「ジュンよ。お地蔵さんのお顔をよく見てごらん。
良いことをした時にはニコニコしているヨ。
ウソを言ったりすると 『駄目だヨ』と言うんだヨ。
悲しいことがあると、『頑張れヨ』
と言ってくれるんだヨ。
心の耳で 聞くんだヨ。」
・・・・・
・・・・・・
和尚さんの顔を急に思いだした。
「叱られるゾ〜」走って走って帰ってきたのダ。
息を切らして帰ってみたけども、
和尚さんの姿が見えない。
やれやれと安心したが
淋しくて、そして心配になった。

「和尚さんは?」
土屋の姉ゴに尋ねてみた。

「ジュンちゃんも知っているように、
和尚さんて相当気ぜわしくて、
セカセカしているでしょう。
棚の上に物をあげていて頭を打ったんだヨ」

「またなの?」

「そおヨ ゴツン!!
大きな音がここまで聞こえたのヨ」


「冷静に、沈着にとか、
事に臨んで泰然自若にとか
いつも言ってるけどねエ〜」

「奥の部屋で、頭冷やしてるのヨ」

「修行が足りないんダ!
僕にはゴチャゴチャ言うくせして。
・・・・ちょっと見てくるワ」
「和尚さん、頭を打ったんですってネ
僕に見せて下さいヨ・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「あ〜ア コブが出ている。痛そう。」

「・・・・・・・・・・・」

「和尚さん、何をするのも、
忙しければ忙しいほど、
落ち着いて が大切ですヨ」

「・・・・・・・・・・・」

何を言っても黙っているワ
タンコブをなめてあげながら
「痛いの イタイの 飛んでいケ〜!
痛いの イタイの 飛んでいケ〜!」

「・・・・・・・・・・・・・」

「イタイでしょうね お可愛想」
「ジュンちゃん ありがとう」
ポトン。
床に一粒、光るものが落ちた。
「・・・・・・和尚さん 泣いている」

僕はしばらく頭のタンコブをなめつづけた。

「痛いの イタイの 飛んでいケ〜!」
事務所へ行って
一発 皆にかませた。
「和尚さん 頭が痛いんだ。
皆 静かにしろ!!」
和尚さんが心配で
再び部屋に行ってみた。
横になっていた。
「ジュンも一緒に」と言われて
寝たくなかったけれども「つれ寝」した。
              
そして  しばらくして・・・・
和尚さんは仕事に、
僕は大事な物をさらけ出して、
ぐっすり晩飯まで寝込んでしまった。

明日は頑張って仕事しよう。

              おわり