May 11, 1999

出羽守(でわのかみ)とは,出羽の国を治めた国守のことであるが,近頃は,別の意味で良く使われる,力強い見方のようだ.もっともその使い方次第ではたたりもあるらしい.

今年の3月にハイパー研の会議でカーネーギーメロン大学の兼出先生の講演を聞いた.画像処理の分野では,アメリカの大学で教授をされている数少ない先生である.先生曰く,予算折衝の折り,「どこどこではこのような進んだ研究をやっています.ここでも始めないと乗り遅れてしまいます.」と交渉のテクニックとして「〜では」を使うそうだ.これをもじって「ではの守」すなわち,出羽守と呼ぶらしい.

「〜では」をよく使う人を出羽守と呼ぶ場合もあるらしいが,ここでは,説得に「〜では」を使うこと自体を出羽守と呼ぶことにする.出羽守については,こちらのホームページも参照されたし.

さて,往々にして交渉相手はこちらの方針を細部まで知る時間がない.従って,交渉相手が非常に好みそうな,よその結果を分かりやすく提示し,「こんな成果がどこどこでは得られています.我々のこの方式で行えば,これ以上の研究成果が,最小限の投資で可能です.」とやる.このとき,計画の説明が理路整然としていることは言うまでもない.出羽守が成功するかどうかは筆者の責任の範疇ではないが,割と効果があるらしい.また,この出羽守,交渉手段のみならず,何か題材を決めて議論する場合など,知らず知らずのうちにみんな使っているようだ.

ところで,地方で生活する小生は昔からこの出羽守には少々弱い.特に,格上の出羽守を持ち出されると反論できないことがある.地方の出羽守より東京出羽守.東京よりアメリカ出羽守なのである.個人的な意見であるが,特に先端技術では,出羽守効果は,顕著であるような気がする.

「君,そのアイデアはアメリカではすでに研究が終わっている話だ.」

「...」

こんなとき,相手の出羽守に対して何とか反論しなければならない場合がある.この場合,こちらは位が同等かそれ以上の出羽守を探し,出陣させる.さあ戦いの始まりである.お互い自分の知る一番位の高い出羽守に出陣させ戦わせることになる.もっともこれは個人の能力をぶつけ合う戦いではない.架空の出羽守が勝負の鍵を握る.

出羽守の戦いが長引いてくると,相手が都合の良い解釈を付けて出羽守を出陣させていたことが徐々に分かってくる.こうなってくるとしめたものである.相手の誇大出羽守の盲点をつき,徐々に個人レベルの戦いに持ち込む.しかし,それからが本当の戦いなのである.やれやれ.なお,格下の出羽守しか持たない方は,防御のためにも,できるだけ格上の都合の良い話しを沢山仕入れておくことをお勧めする.そうしておけば,出羽守だけでやられることは無くなる.

さてさて,この出羽守,便利だからと言って多用してはいけない.例えば,何かにつけてアメリカではでは言ってると,そのうちアメリカナイズからアメリカかぶれの烙印を押されるらしい.つまり,嫌われるらしい.使い過ぎるとたたりがある.注意されたし.

でもの守

出羽守では,格上の「ではの守」の方が効果があると書いたが,格下の守も時として効果的な場合がある.「でもの守」である.「どこどこでもやれていることが,なぜできていないんだ!」とやる.人によってはこちらの方が効果的な場合があるかもしれないが,相手に与えるストレスは「ではの守」以上である.たたりもすごそうだ.あまり頻繁に使うことはお勧めできない.