ドストエフスキーの小説 ()


『未成年』 について
(18/05/27更新)
 http://www.coara.or.jp/~dost/BT-2.gif

これから読む人は、以下、ネタ
ばれの箇所(
の箇所)に注意


< 概要、登場人物 >  

長編小説。
主人公の青年の私が過去に関わった一連の出来事について自ら語っていくという手記・告白の形式をとり、混乱する当時のロシアの社会における父と子の魂の遍歴と和解を描いた教養小説・青春小説・家庭小説・恋愛小説・社会小説。

両親(地主貴族で西欧の高い教養を持つ知識人の実父ヴェルシーロフヴェルシーロフ家の家僕だった心やさしい母ソーフィア)リーザ(愛するセルゲイ・ソコーリスキー若公爵のために苦労が続いた)と、私生児としてモスクワで過ごし19歳となった主人公の青年アルカージイ(出生後モスクワの他家に預けられたため家族と中学時代まで離ればなれになっていた)は、ロスチャイルドになる理想をはじめいくつかの目当てを胸に秘めて彼らのいるペテルブルグに乗り込み彼らの家で生活を始めるが、憧れていた父ヴェルシーロフに対面して父が持()する西欧の近代思想や内に分裂を抱えている気質を知っていく中で父に半ば幻滅してしまった主人公は、巡礼から戻ってきていた戸籍上の父であるマカール老人(ヴェルシーロフ家の元家僕。両親を亡くしたあと引き取って育てたソーフィアと形式上の結婚をした半年後に地主のヴェルシーロフに彼女を寝取られて、彼女がヴェルシーロフの内縁の妻となったあと、慰謝料を受け取り家僕の身分から解放されて、巡礼の旅に出ていた)の謙譲な宗教思想や品位・陽気さを持つ人柄の方に心ひかれていく
また、主人公のアルカージイは、
仲間の青年たち
(
友人
ワーシン、恐喝を専門とするラムベルト、ロシアに絶望して自殺してしまうクラフト、革命グループの指導者デルカチョフ、など)
や、
父ヴェルシーロフをめぐる婦人や女性
(
カテリーナ・アフマーコワ将軍未亡人(ソコーリスキー老公爵の娘。ヴェルシーロフとは過去にいきさつがあって複雑な愛憎関係にあり、ヴェルシーロフを最後まで苦しめていく魔性の美女。アルカージイもやがて彼女に心奪われていく)アルカージイの美人の異母姉アンナ・アンドレーエヴナ何かと立ち回る伯母タチヤナ・パーヴロヴナ、亡きアフマーコワ将軍の連れ子で空想好きのリヂヤ、家庭教師オーリャ、など)
や、
上流貴族社会の人たち
(
リーザとは恋仲の青年
セルゲイ・ソコーリスキー若公爵、秘書となったアルカージイの雇い主ニコライ・ソコーリスキー老公爵、アフマーコワと婚約仲のビオリング男爵、など)
とも交流や関わりを持ち、アフマーコワにとって不都合となる手紙を偶然入手した主人公は、その利用も考えつつ、恋愛事件・犯罪事件・陰謀の渦中に巻き込まれながら、社会の現実を知り、自己の生き方や理想を新たに探っていくのだった。

※、
五大長編の中では、
知名度や人気度(読まれている度合い)は低くて、脇へと追いやられている作品であり、成立時期は『悪霊』と『カラマーゾフの兄弟』の間に位置していて、内容面でも登場人物の系譜の面でも『カラマーゾフの兄弟』へとつながっていく過渡期的な作品であり、完成度やテーマの掘り下げはそれほど高く深くはないと言えるであろうが、散漫ながら複雑に目まぐるしく展開してゆくスリルあるストーリーや、主人公の視点から眺め描写した登場人物たちの人間模様に特徴があり、特に後半部においては読者はページめくりに逸(はや)ってしまうほど、熱中して読んでしまう小説である。



<創作・発表された時期>

1874
年の冬に執筆を行い、1875年の1月から月刊雑誌『祖国の記録』に連載された。経済面でも安定していた時期の作品。



<テーマ、手法、他>   

他家で育った私生児ゆえの主人公の屈折した心情未熟な青年期の一連の出来事における魂の遍歴、及び、父と子の関係(相克、及び、身内ならではの相互の親愛・和解)を描いているが、混乱期のロシアにおいて遺産争い・賭博・恐喝・自殺といった醜い行動しか行えず自分たちが将来進むべき道に迷うその息子たる若き主人公や仲間たち、及び、ロシアの若き読者たちに対して、進んでいく方向として、品位と陽気さを持つ父マカール老人の謙譲謙抑な有神論的宗教的な古来のロシア正教の思想を選ぶか、知識人の父ヴェルシーロフの無神論的現実主義的な西欧の進歩的思想を選ぶか、の二者択一を考えさせていく展開・内容になっていて、そういった設定に作者の教導的意図が感じられる。 

手法としては、
すでに完結した主人公の過去の出来事・体験を思い返しつつ青年である彼の視点視野から点検し確認しながら現在進行のように一人称形式で語っていくという「告白(語り)」の形式に当小説の独自性と秀逸さがある。
    



《所収》

工藤精一郎訳
新潮文庫、新潮世界文学(14)、新潮社版全集(13)

・米川正夫訳
岩波文庫、河出書房版全集(11)、河出書房カラー版世界文学全集(45)

・小沼文彦訳
筑摩版全集(9)

北垣信行訳
講談社世界文学全集(44)


http://www.coara.or.jp/~dost/BT-2.gif