『罪と罰』 について ![]()
( これから読む人は、以下、ネタばれの箇所(▲〜▲の箇所)に注意!)
< 概要、登場人物 >
長編小説。舞台は、都会ペテルブルグ。元大学生の青年ラスコーリニコフは、自己の閉塞の打開を求め、独自の犯
罪哲学のもと、▲金貸し老婆アリョーナ殺害を強行してしまうが▲、その犯行後、彼は世間との断絶感に苦しみ、きれ
者の予審判事ポルフィーリイの追及をかわし、謎の人物スヴィドリガイロフ(妻マルファを亡くしたのちラスコーリニコフの
美貌の妹ドゥーニャに言い寄る初老の高等遊民)の交渉を受けていく中、▲聖なる娘ソーニャ(アル中の退職官吏マル
メラードフの娘。一家の生計のためやむなく娼婦をしている。)と出会い、彼女の感化とすすめで、ついに自首し、彼の
更生を暗示させる流刑地シベリヤでのソーニャ同伴の流刑生活▲までを描く犯罪小説・推理小説・社会小説・恋愛小
説。
他に、世話好きの友人ラズミーヒン、ドゥーニャに求婚する俗物弁護士ルージン、進歩主義者の青年レベジャトニコフ(
ルージンの知り合い)、青年医師ゾシーモフ(ラズミーヒンの友人)、▲老婆殺害直後に巻き添えをくってラスコーリニコフ
に殺害されてしまう中年女リザヴェータ▲、肺病やみで気位の高いカチェリーナ(マルメラードフの後妻)、その子供たち(
ポーレチカ、リードチカ、コーリャ)、田舎からドゥーニャとともにラスコーリニコフのもとへ尋ねてくるプリヘーリヤ(ラスコー
リニコフの母)、警察署の面々(署長ニコージム・フォミッチ、副署長イリヤ・ペトローヴィチ(火薬中尉)、書記ザミョートフ)、
下宿屋の話し好きの若女中ナスターシャ、犯人の容疑を受けたペンキ屋ミコールカ、なども配されている。
< テーマ、成立過程、特筆事項 >
この小説のテーマとしては、
・「踏み越え」〔プレストプレーニエ(Преступление)〕というテーマ
( 選ばれた人間(非凡人)、または、理性や合理主義にしたがって名分を掲げた人たちには、人
を殺すなど、世間の法を平気で乗り越えていく権利があるのかどうかという問いかけ。
または、主人公の状況(学業や仕事もしないで引きこもって考え事ばかりしている)を踏まえて、
自己の閉塞状況の打開のための乗り越えの行為ということにも注目したい。
※、ただ、そのために行う行為がなぜ老婆殺しになるのかという疑問は残る。
また、作中では、ソーニャのことにもこの「乗り越え」は適用されていることには注意したい。)
※、清水正氏による「神の「時空」に一挙に飛び超えることを企(はか)った」という宗教
的な見方もあり。
・驕りによる殺人(=「罪」)、それを犯して孤絶と罪意識にさいなまれる犯罪後の人間の状況や心理(=
「罰」)という犯罪心理を克明に描写すること、
そして、彼のその後の悔悛・更生(理性と合理主義に基づく無神論の驕りからキリスト教的謙抑へ、
回心へ、思弁から「生活(жизнь(ジーズニ)」・生ける生へ、復活・新生へ)というテーマ
( 主人公は作中の終盤に至っても悔悛を自覚できないが、作者は、聖女ソーニャとの出会いによ
る彼女の献身と彼女への罪の告白、彼女の指図(自首と罪の告白)、相愛(愛の恩寵を受けて
いることの自覚)と信仰への歩み寄りを通して更生・救済を示唆している。予審判事ポルフィーリ
イもその追究の中で彼に若き故の更生を勧めている。)
・ラスコーリニコフとスヴィドリガイロフの対比・対決
( 作中でのスヴィドリガイロフの位置付けも重要と思われる。主人公のラスコーリニコフのありよ
うと対比されて、ラスコーリニコフの未来の一つの可能性(自己像)として登場していると言える。
スヴィドリガイロフの方は遊蕩に堕しドゥーニャの愛を得られずに自殺するという敗北で終わっ
ている。)
・マルメラードフという人間の状況と思いのたけの描写と、その更生(立ち直り)のこと
( 彼の語り・絶唱の中にキリスト・神への信仰による救済・更生ということも示唆されている。)
などが考えられる。
成立・連載までの経過
1865年6月に祖国雑誌に『酔っぱらい』(『罪と罰』の原型)の掲載を申し込むが断られる。
同年7月〜10月の借金取りから逃れるために発った三度目の外遊の間に新たに小説の構想を練り、
賭博にふけって一文なしになった
宿で『罪と罰』を起稿。9月に友人を通して雑誌『ロシア報知』に売り込みを依頼。
同年11月に第一稿を消却し三人称形式で新たに書き直した。
1866年1月から12月まで(45歳時)、雑誌『ロシア報知』に連載された。全体は、六部・「エピローグ」で
完成。
同年10月に婦人速記者アンナの助けを借りて中編『賭博者』を完成させたのちも、引き続いてこの小説
(第六部の一部及び「エピローグ」)もアンナとの共同の口述筆記で執筆している。
この小説の連載は、ロシアの読書界に大きな反響をもたらし、ドスト氏は作家としての地位をより堅固なも
のにした。
その他の特筆事項
・当時の真夏のペテルブルグの社会や風俗などをいろいろと描写している小説としても貴重。
・江川卓氏が『謎とき『罪と罰』』で指摘した通り、この小説の創作においては、作者は、細部
に様々な凝った工夫や仕掛けを施している。
末部は妻となったアンナ夫人との共同の口述筆記となったが、末部までの創作は作者個人
の工房で専念されたということがその背景として考えられる。
・当時起こったいくつかの同様の殺害事件を、取材し、モデルにしている。
・ラスコーリニコフとソーニャは、前作『地下室の手記』の主人公とリーザの発展形となっている。
スヴィドリガイロフは『虐げられた人びと』のワルコフスキー公爵を継承している。
・肺病やみで気位の高いカチェリーナは作者の最初の妻をモデルにしている。
作者の青年期の逮捕と尋問の体験は、主人公と予審判事ポルフィーリイの対決に生かされて
いる。
・主要登場人物の設定などにおいて、
聖書のヨハネ伝の中のラザロの復活の話における人物関係、
プーシキンの『スペードの女王』、バルザックの 『ゴリオ爺さん』
を下地にしているとの報告あり。
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