ドスト氏と予言   ( 10/03/39に補筆して更新 )                                  
                                  




                       ドスト氏の作品は、折に触れ、「現代の予言書」「21世紀の予言書」「20世紀の予言書」「現代の黙示録」と言
                       われてきました。このコーナーは、具体的にどういうことがドスト氏のどの作品・どの箇所で予言・予見されてい
                       るのか、検証・確認していくコーナーです。
                       事柄のあとに付した「
予言度:〜予見度:〜」は、ページ主宰者側の判断で記した予言・予見の的中度。(10
                       を細かく正しく予言した最高度とします。)
                       ゴシックにした部分は特に細かく予言されていて注目すべき箇所、赤色にした部分は後世への鋭い警鐘が読み
                       取れる箇所です。  



                            1、  ロシア革命(1917)と、その後のソビエト社会主義体制の強権化、及び、その崩壊(1991)
                                及び、ロシア正教への回帰?を予言。
 予言度 : 9

                                ← 人びとはやがて空中を歩いたり飛んだりするかもしれない。いま鉄道で旅行している速度の十倍の 
                                速さで、非常に広い空間をひとっ飛びということになる
かもしれない。
土の中から信じられぬくらいの
                                収穫をひきだし
化学によって有機体を作りだし、わがロシヤの社会主義者たちが夢みているように、
                                    牛肉が一人一キロずつ行きわたるようになるかもしれない。一口に言って、さあ飲め、食え、楽しめと
                                    いうわけだ。「さあ」 すべての博愛主義者たちは絶叫するに違いない。「今こそ人間は生活を保障され
                                    た。今こそはじめて人間は本領を発揮することだろう! もはや物質的窮乏はないし、すべての悪徳の
                                    原因だった、人間を蝕(むしば)む《環境》ももはやない。今こそ人間は美しい、正しいものになるだろう! 
                                    もうこれからは、どうにかこうにか暮らしてゆくための絶え間ない労苦はなくなり、今やだれでも高尚で
                                    深遠な思想や普遍的な現象に関心をもつようになる。今、今こそやっと最高の生活がやってきたのだ!」 
                                    …… だが、おそらくこうした歓喜は人間の一世代ともつまい!
人びとは突然、自分たちの生命がも
                                    はやほろび、精神の自由も、意志も個性もなく、だれかが何もかも自分たちから一遍に盗んでしまった
                                    のだということに気づくだろう。人間らしい顔つきは失せ、畜生のような奴隷の姿、形、畜生の姿が、や
                                    ってきたのだ

                                         ( 『作家の日記』18761月号より )

                                        ※、 以下は、上の引用文の14行目より。
                                               スカイダイビングや宇宙飛行士の宇宙遊泳を予見?(1行目) 予見度 : 7?
                                               航空機や宇宙ロケットの開発を予見?(1〜2行目) 予見度 : 9 
                                                 
( 動力付き飛行機は1903年にライト兄弟が発明 )
                                               バイオ技術のことやクーロン牛の開発を予見?(2〜4行目) 予見度 : 9

                                        ※、上のぶんは、
                                            ・
『ドストエフスキー』(原卓也著、講談社新書・1981年講談社初版)p52p53
                                            ・『ドストエフスキー 闇からの啓示』(森和朗著、中央公論社1993年初版)p96p97
                                           で引用し指摘しているもの。
                                           「意見・情報」交換ボード20010916日の書き込みのぶんを補足及び追加。

                                ← ドスト氏は、ロシア社会にユダヤの勢力が浸透しており(「ユダヤ人はロシアに入った毒であり悪魔で
                                   あり」)ロシアにユダヤによる革命が起こるとしばしば述べていた。

                                       ※、上の引用箇所にはドスト氏のユダヤ人への憎悪や悪口が見られるが、ロシア革命の黒幕
                                          は国際ユダヤ財閥であるとする説が有力であるならば、かなりの的中と言える。

                                ← 社会主義は可能ではあるけれども、ただそれはフランスではなく、どこかほかだ。」
                                     ( 1863年『冬に記す夏の印』第六章「ブルジョア試論」より。) 

                                       ※、ベルジャーエフ(ロシアの宗教思想家)1918年の論文で、「ドストエフスキーは
                                          ロシア革命の予言者」
と述べている。

                                ← 『悪霊』の中の、ステパン氏の最後の放浪における回心の言葉 (ルカ福音書を引いて、悪鬼が入り込
                               んだ豚たちが悪鬼に導かれて気が狂い崖から海に飛び込みおぼれ死んでしまう
が、やがて彼
                               らの病は癒えてイエスの足もとに座るであろ
〔以上その趣意〕 )
                                     ( 『悪霊』の中のステパン氏の言葉。新潮文庫の下巻のp493p494)

                                       ※、アンジェイ・ワイダ監督の映画「悪霊」(1987年制作)での、ステパン氏がロシアの行
                                         く末を述べる回心のシーンは印象深い。
                                       ※、上の引用文の末部は、体制崩壊後のロシア正教の勢力の回復、人々のロシア正教へ
                                          の回帰を述べたものか?
 
                                ← 『社会主義は主として無神論の問題である。無神論に現代的な肉付けをした問題である。地上から天
                                    に達するためではなく、天を地上へ引き下ろすために、神なくしてたてられたバビロンの塔だ。』
                                      ( 『カラマーゾフの兄弟』より )

                                       ※、ロシア革命のあと、ソビエトの政権は無神論を奉じ、全国のロシア正教の寺院の閉鎖や
                                          破壊、聖職者に対してはあらぬ嫌疑をかけての過酷な追放や処刑や弾圧を行ない多くの
                                          犠牲者が出た。
                                          レーニンはドスト氏の『悪霊』に対しては「反動的小説」と決めつけドスト氏の本を以後
                                          発禁処分とした。




                            2、  ソビエトにおけるレーニン及びスターリンの出現・統治体制を予言? 予言度 : 8
                                ドイツにおけるワイマール憲法発布のあとのナチス体制及びヒットラーの出現を予言? 予言度 : 8

                               
 ← 『カラマーゾフの兄弟』の中の、「大審問官」の章の大審問官の人物像やその言説

                                     今後の民衆や社会にとって自由ほど耐え難いものはないのであり、彼らは自 
                                     分たちに確実なパンや心の平安を与えてくれる強大な権力者が現れればキリ
                                     ストが約束する天上のパンなどは捨てて、自ら自由を権力者に譲り渡し、喜ん
                                     で権力者につき従っていくであろう。聖書で言うキリストの選択よりも悪魔の選
                                     択を選んだ権力者はその手を通して彼らにパンをうまく分配し、社会の争いや   
                                     混乱を鎮撫し、彼らの悩み一切をすべて解決し、権力者のゆるしを得れば罪や
                                     悪行もゆるしてやることにする。彼らには時に子供の遊戯のようなものを施して
                                     やる。社会にはパンと心の平安を得た多くの羊のような民衆と善悪の選択とい
                                     う受難を背負った権力者が存在していくのだ。 
                                        
( 以上、「大審問官」の章の大審問官の統治思想の趣意 )

                                   ※、「意見・情報」交換ボード20010916日の書き込みのぶんを補足。
                                      大審問官の民衆統治に向けての語り口やスタンスはレーニンやヒットラーのそれと類似し
                                      ている。
                                      クロポトキン(ロシアの政治思想家)も、のちに、キリストよりもパンを取ることを選択している。 

                                   ※、一方、ナチスに関してはドスト氏の作品からの影響という面もあるだろう。ナチスの宣伝相で
                                      あったゲッベルスをはじめナチスはドスト氏の『カラマーゾフの兄弟』の「大審問官」の章や
                                      『悪霊』から全体主義体制での統治のあり方を学んだ形跡あり。ナチスは統治下のドイツで
                                      B・ブラッヒャーにオラトリオ「大審問官」(1942年作)を作曲させて演奏させたりなどしている。

                                ← わたくしの結論は、出発点となった最初の観念と、直角的に反対している。つまり、 
                                
り、無限の自由から出発したわたくしは、無限の専制主義をもって論を結ん
                                でいるのです。
しかし、一言申し添えておきますが、わたくしの到達した結論以外、 
                                断じて社会形式の解決法はありえないのです。」
                                     ( 『悪霊』に登場するシガリョフの社会統治をめぐっての言葉。新潮文庫の下巻のp101)

                                    ※、(小説『悪霊』の登場人物として、)このほかに独断的革命理論家シガリョフがおり、
                                       彼によれば、革命が与える自由は全体的専制政治を導き出すためのものであると
                                       いうことになる。この理論がすぐれて(=とりわけ)予言的であることは今では私たち
                                       にも分(わか)っている。」 
                                            ( 内村剛介氏(評論家・ロシア文学者)の言葉。)  

                                ← 『悪霊』の中の、扇動家の策士ピョートルが超人的な美貌のスタヴローギンを人心掌
                                   握のためのカリスマとして表に立てようとする図式 
   

                                    ※、のっぺりした仮面のような容貌も含めてヒットラーはスタヴローギンに似ていると小林秀
                                       雄(文芸評論家)は随想「ヒットラァと悪魔」で述べている。 




                            3、  ソビエトのスターリン独裁政権下の密告体制・大粛清を予言? 予言度 : 8
                                日本の学生運動における連合赤軍内部でのリンチ殺人を予見? 予見度 : 8       

                                ← 『悪霊』の中の、秘密結社グループの革命組織活動のスタンス(スパイ制度や密告を提唱、時に
                               中傷や殺人もありえる
)
                                     ( 『悪霊』の中のグループの首領ピョートルが語るスタンス。新潮文庫の下巻のp124p125)
                                   グループの仲間によるシャートフ殺害

                                ← 『悪霊』の中の、ステパン氏の最後の放浪における回心の言葉(ルカ福音書を引いて、悪鬼が入り込
                               んだ豚たちが悪鬼に導かれて気が狂い崖から海に飛び込みおぼれ死んでしまう
が、やがて彼
                                     らの病は癒えてイエスの足もとに座るであろう
〔以上その趣意〕)
                                     ( 『悪霊』の中のステパン氏の言葉。新潮文庫の下巻のp493p494)

                                ← 「私は『悪霊』の中で、この上なく純潔な心を持つ人間でさえ、身の毛のよだつような悪事へ
                                   とまきこまれていく
その多様をきわめた動機を描こうとしたのである。」
                                      ( 週刊雑誌「市民」に発表された「現代的欺瞞のひとつ」(1873)の中のドスト氏の発言 )

                                ←  「のない良心は恐怖そのものである。そんな良心は、最も不道徳なところにまで迷いかね
                                    ない。

                                      ( 晩年のメモより。筑摩書房1997年刊『ドストエフスキー 未公刊ノート』のp158)                       

                                   ※、ドスト氏は当時のネチャーエフ事件に取材して『悪霊』を創作したが、「歴史は繰り返す」ということ
                                     でもあるのでしょう。

                                   ※、1995年の地下鉄サリン事件においても容疑を受けたオウム真理教内のありようをめぐって、論者た
                                      ちによって『悪霊』の登場人物や人物関係などのことが想起されて、『悪霊』の内容がしばしば引き
                                      合いに出された。    

                                   ※、以上のことなどから、ドスト氏の『悪霊』は、「二十世紀の革命とテロリズムの予言書」とも言われている。




                            4、  現代日本における老若にわたるヒッキー(=ひきこもり)やニートの出現を予見? 予見度 : 9

                               
 ← 『地下室の手記』の主人公の人物像やその独白

                                   ※、「意見・情報」交換ボード20010915日の芋粥さんの書き込みのぶんを補足。




                            5、  高性能レーザー光線砲(あるいは、プラズマ兵器)の発明(出現)を予見? 予見度 : 7 

                                ← 15年もすればおそらく、もはや鉄砲で撃つのではなく、何か稲妻のようなもの、機械から発せられ、
                                    すべてを焼きつくす電流のようなもので撃つようになるかもしれない。」 
                                     
( 1873年に雑誌「市民」に掲載した評論記事より ) 
 
                                 ※、『ドストエフスキー 闇からの啓示』(森和朗著、中央公論社1993年初版)p96p97で森氏が引用し
                                   指摘しているもの。「意見・情報」交換ボード20010916日の書き込みのぶんを補足。
                                   森氏は、ドスト氏がエリート大学校で当時の最先端の科学情報を身につけていたことを指摘している。
                                   また、上の内容や表現などは、ドスト氏が親しんだ聖書の預言書の記述を頭においているのかも知れ
                                   ません。




                            6、  三島由紀夫の自決(1970)を予見?? 予見度 : 5?

                               
 ← 『悪霊』におけるキリーロフ像(日頃から身体の鍛錬を怠らないキリーロフは思想的に自殺する)

                                 ※、高橋和己(作家)が指摘したもの。
                                    「ドストエフスキーの『悪霊』のなかに、キリーロフという人物が出てきますが、私は、三島由紀夫氏の死は
                                     キリーロフ的な自殺という感じが現在ではしています。」
〔高橋和巳の文章「自殺の形而上学」(文和書房
                                     1971年刊『自立の思想』に所収)
                                    「意見・情報」交換ボード1997823日・ 20010916日の書き込みのぶんを補足。

                                 ※、これも、むしろ、三島は『悪霊』のキリーロフからも影響を受けて自決したということなのかもしれません。



                                      ( ほかのぶんは、のちにまとめます。 )