素直な心 17年2月

 私が若いころのお話です

山に登って修行することは勿論ですが、時によっては托鉢行と言いまして、町の家一軒一軒、門口に立って、お経を上げて廻ります、これを、托鉢行と申しますが 時には涙が出てくるようなこともあります、

その時にこのようなことも有りました、

ある日のことです、一軒の大きなホテルの前に立ちました、『般若心経』を読み始めました、すると先輩の修行僧が近ずいてきて、そんなに玄関から離れていては、ホテルの中に声が届かないだろう、と注意を受けました、

もっともなことだと思って数歩前進、玄関に近ずいたところ、なんと自動ドアになていました、ガラガラと玄関が開きました、

すると目の前に観光客さんが百人近くいて、これから出発というところでした、

慌てたのかホテルの番頭さんです、片手をふりふりねシッシッと私を追い払おうとするではありませんか、その姿を見て、私が今どのように思われているかを知り、がく然としました、でも、途中でお経をやめるわけにはできないようになっています、

すると脇から女中さんがあらわれるや、「おんた、朝八時半といえば、一番いそがしい時間だよ、なのにそんな格好して玄関に立つやつがあるか、縁起でもないったらありゃしない」しかし、お経をやめることができません、

と、今度は別の女中さんがやってきて、前の女中さんに言いました、

「あのね、何を言ってもだめなんだよ、おカネやらなくちゃ、出てかないよ」

そういった彼女、ポケットからおカネをとり出し、私に向かってポイと投げたのです、一枚の五円玉でした、私はそれを拾いました、涙があふれてとまりません、

泣きながら歩き始めたとき「お坊さん、待って」と声がかかりました、ふりむくと、少女が私に向かって走ってきました、

近ずいた少女、「これお坊さんあげる」といって、私の手の中に一枚の10円玉をにぎらせてくれました、おたたかい一枚の10円でした、たぶん、あの女の子のおこずかいでしょうか、ああ、これが、かわかない心だとそのときおもいました、、

これぞ、かわかない心、素直な心、同時に深い心、道にかなう心、施す心  

これが仏の教えなのです