>> 和日記 >>

10月24日(日)

熊野古道・・・くまのこどう・・・ずっと行きたいと思っていた場所に、やっと行くことが出来た。京都に住む息子に会うという表向きの理由で、先週の土曜日京都に行った。そのついでに、翌日の日曜日、京都からオーシャン・アロー号に乗って紀伊田辺まで行き、ついに念願の熊野へ足を踏み入れた。
京都から2時間半。降り立った紀伊田辺駅の観光案内所で資料を貰って、駅前から竜神バスで道の駅がある牛馬童子口まで行き、お昼ご飯にめはり寿司をゲットしてから、いよいよ熊野古道歩き始める。

まず「牛馬童子像」を目指して鬱蒼と生い茂る木々の間を歩く。なだらかな登り坂が続きウォーミングアップには最適だなぁと思いながら、少し弾んできた呼吸に、時々立ち止まって深呼吸をする。
熊野の森は深いなぁ。歩き始めてからすぐにそう思った。

前を歩く娘の背中を見ながら歩く。そういえばずっと昔、家族で山に登る時はいつも私が先頭だったことを思い出した。こんな風に娘の背中を見ながら歩くなんて、きっと初めてかもしれない!還暦一歩手前の我が身を思い、先頭の座をあっさりと娘に譲った。深い森には精霊が住んでいる!そう確信に近く思えるほどに、熊野の森は不思議なパワーがそこここに満ちている。それを全身が感じる。

旅に出るときはいつも万全のリサーチをして、頭の中に全てのスケジュールをインプットして出かけるのだが、今回の旅は直前まで仕事や諸々の雑事が押し寄せて、お泊りする民宿の予約と、電車の手配、地元龍神バスの時刻表をネットで手に入れたくらいで、どこの古道をどれくらい歩くかなど、詳細はすっかり娘にお任せしてしまった。老いては子に従えという言葉どおりに・・・!?

結局ぶっつけ本番で歩き始め、歩けるところまで歩いてみようかなと、足まかせ、風まかせで歩き始めた。

やっとたどり着いた牛馬童子は、とっても可愛いお姿で、穏やかな笑みを浮かべて佇んでいた。
何度もカメラのシャッターを押した。でも、この木々を逝き過ぎる風や、木々たちから伝わってくるスピリチュアルな空気感は、写真には写せないなぁ。そう改めて思った。ずっとこの場所に佇んでいたい!そう思えるほどピュアな霊気に満ち溢れていた。
そこから近露王子を経て、少し見晴らしの良い高台で道の駅で買っためはり寿司を頂いた。眼下には里山が広がり、隣の丘ではおばさんたちの楽しいそうな笑い声が響いていた。娘と二人「美味しいね!幸せだね!」と連呼しながら、熊野に今、こうしている自分を確認するかのように噛み締めながら、何度も何度も深呼吸をして、深い深い熊野の山々を眺め、空を見上げ続けた。

次の比曾壁原王子までは歩いて1時間以上の道程。気合を入れて歩き始める。坂道に差し掛かると、呼吸が一気に早くなる。薄曇りながらすぐに汗ばんでくる。1枚脱ぎ、2枚脱ぎ、腕まくりして歩く。急な坂道が続いた後、下りの道がやってくる。高まった呼吸が平安を取り戻す。道端にはコスモスの花が風に揺れ、民家の庭には瓜が実り、瓢箪の花が下向きラッパ?状態で花開く。無人野菜販売所の前には午後のお茶タイムのおばさんたちやおじさんたちがいて、「こんにちは!」と優しい笑顔で声をかけてくれる。「一方杉に行ったら、杉の根元の中に入ったらいいよ。肥ってたら無理だけど、あんたらは大丈夫!」とお墨付きまでいただく。

しかし背中のリュックが重いわ!暑くて脱いだ服の重さも加わり、結構かなり息が上がる。一方娘は相変わらずのマイペースでひょいひょいと前を歩く。いつの間におぬしは母を超えたか!少し焦りながら、でも平静を装い歩く母。

歩き続けて1時間、たどり着いた比曾壁原王子は道の途中の山肌に、張り付くようにひっそりと立っていた。王子を囲む杉たちが凄かった。まさに神木であった。両手を回しても抱えきれないほど大きなお姿を何度も抱き、その声を聞こうと、木肌に耳をくっつけて目を閉じた。一体になりたいと願いながら。
次の王子「継桜王子」まで、更に20分近い山道を歩く。たどり着いた継桜王子社は、若一王子権現ともいわれ、野中(のなか)の氏神になっている。 社殿に向かう石段を挟んで樹齢800年を数える杉の巨木が立ち並んでいて、それらの杉たちは野中の一方杉(のなかのいっぽうすぎ)と呼ばれている。

杉のすべてが熊野那智大社のある方向(南)にだけ枝を伸ばしていることから「一方杉」と呼ばれているとか。その杉の一本は根元が空洞のようになっていて、その中に人一人が入れるほどの広さがある。早速その中に入って見る。
その空洞に包まれてみると、なんとも言えない安らぎに包まれていく感じがした。風の音が消え、木々のざわめきが消え、静寂の中に温かい皮膜に覆われた懐のようなものに、すっぽりと体全体を抱かれているような、なんとも言えない安らぎを感じた。

あぁ、私はあなたから生まれたのかもしれない。そう思えるほどの安らぎに包まれた。神木ともいえる杉木立の中に石灯籠があり、鳥居があり、その向こうに深い熊野の森が広がっていた。この景観に神が宿っている!そうしか形容できないほどに、神々しいまでの景観であった。手を合わせ頭を垂れ、ただただ祈りの中にいた。

王子の崖下を5分くらい降りたら、日本名水百選のひとつ「野中の清水」があった。地元の人たちの生活用水として使われる湧水は、洞窟のような趣の奥に、湧水を守る神々の社があって、ピーンと張り詰めた鏡のような水面を見せる池?の足元に、「野中の清水」が、降り立った水源から勢いよく滾々と湧き出でていた。手持ちのペットボトルに湧き水を詰める。4時間弱の古道歩きですっかり乾いた喉を、充分に潤した。振り返れば深い深い熊野の山々がその背後にずっしりと広がっていた。
16時19分、「野中の一方杉」のバス停から4時間振りに龍神バスに乗り、今夜の宿泊地、日本最古の温泉と言われる「湯の峯温泉」に向かう。20分の道程ながら、目を閉じた瞬間に二人とも夢の世界へ。夢の世界でも熊野の森は続いていたのだけれど。心も体も満たされた熊野古道初日。降り立った湯の峯温泉のひなびた佇まいが一層の旅情をそそる。

1800年前に発見されたという日本最古の温泉「湯の峯温泉」の湯元橋のたもとにある「つぼ湯」は小栗半官が蘇生したと言われている秘湯中の秘湯。天然岩から湧き出でている秘湯は入湯する人で順番待ちだったので、外側から眺めただけに留め、 橋を渡ったところにある湯の峯温泉公衆浴場に入る。公衆浴場にはくすり湯と一般湯があり、くすり湯は88℃という高温の源泉の湯を時間をかけて適温にまで自然に冷ましている湯で、湯の花がゆらゆらと揺れ、源泉そのままの湯の成分がじんわりと肌に染み入ってくる。疲れた足を癒し、体の芯まで温まる。「極楽、極楽!」と、二人ともおばあさんのようなため息を何度も口にしながら至福の時を過ごす。湯上りには浴場側の売店でネット入りの卵を買って、(5個200円)湯元橋のたもとにある源泉の湯筒(湯筒の湯温は92℃)に漬ける。待つこと12分。温泉卵がこんなに美味しいなんて!!闇にすっぽりと包まれた河原で卵を食らう。温泉の蒸気に体をすっぽりと包まれながら、闇に浮かぶ親子の姿!?ありき。

その夜泊まった民宿「やまね」は、私たち親子の貸切だった。熊野の夜は深い。明日はいよいよ熊野本宮大社へ。熊野古道への旅、続く。

★最近読んだ本   「クラスメイト」  今邑 彩 著

  


                                                             
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