第八章 職業娼婦

 「野本さん、いい話しがあるんだけど」
 由紀から電話があった。きっと、娼婦しないかという話しだ。
 「いい話しって?」
 「ある会社の社長さんなんだけど、どう?」
 「お金は欲しいけど、・・・・年はいくつくらいなの?」
 「60前くらいだと思うけど」
 「60前くらいなの。・・・・いいわ。由紀さんが、せっかく、紹介してくれたんだから、やるわ」
 「そう言うと思ったわ。時間は、今夜の9時。場所は、センチュリーホテルの880号室。真田さんて言う人よ」
 「今日午後9時、センチュリーホテルの880号室。真田さんね」
 「そう。あなたの名前は? 何て言っておこうか?」
 裕子は普段使っているから、娼婦のときは使いたくない。佐知代にするか。彼女は売春していたことだし。
 「佐知代にしておいて。佐渡の佐に、知識の知、時代の代で、佐知代ね」
 「佐知代さんね。分かったわ。先方に伝えておくから。遅れないように行ってね」
 「由紀さんの顔をつぶすよな事はしないわ」
 「よろしくね。ところで、野本さん。言い難いことなんだけど、相手の探すのって、結構大変なのよね」
 由紀の言わんとするところは、すぐに理解できた。
 「斡旋料というか、少し報酬をくれないかしら?」
 「いいわよ。いくらくらい?」
 「1万は、高いかしら?」
 「1万ね。いいわ。由紀には、これまでもお世話になっているから、1万でも安いくらいよ」
 「ごめんね、無理を言って」
 「そんなことないわ。で、どうしたらいい? どこに持っていったら」
 「銀行の口座に振り込んで。口座番号はね・・・・」
 わたしは、由紀の口座番号を控えた。
 「野本さん、報酬をもらってからでいいからね。ちゃんと振り込んでくれたら、次を紹介するわ」
 「分かったわ。約束は守るわ」

 午後7時45分。少し早いと思ったが、わたしは、センチュリーホテル880号室のドアをノックした。
 「誰だ?」
 「佐知代です」
 鍵がガチャガチャと開けられる音がして、ドアが開かれた。好色そうなでっぷりした男を想像していたのに、男は、背の高い紳士然とした、いい男だった。
 「真田さんですね」
 「そうだ。早く中へ入れ」
 「はい」
 部屋は、割といい部屋で、ドアの開いているバスルームも、ちらりとのぞいた感じでは広いようだ。部屋の中央に、ダブルベッドがでんと置かれていた。
 「美人だな。ニューハーフには見えない」
 「ありがとうございます」
 真田は、窓際の椅子に腰掛けて、わたしをじっと見ていた。
 「あのう」
 「焦らんでもいい。ゆっくり行こう。それとも、用事があるのか?」
 「いえ、そう言う訳じゃあ・・・・」
 林田は、部屋に入るなり、わたしを抱いたりキスしたりしたが、真田はそうはしなかった。勝手が違って、わたしはかなり戸惑っていた。男に見つめられることに、わたしは慣れていない。
 「とりあえず、そこへ座れ。もうすぐ注文しておいたシャンパンがくる。それを飲んでからだ」
 「シャンパンですか!?」
 「嫌いか?」
 「いえ、そんなことはないです」
 娼婦とするにも、雰囲気作りを忘れないと言うことかなと思う。見かけどおりの紳士のようだ。しかし、ベッドの中に入ったら、豹変するかもしれないなとも思う。
 真田の前に、わたしは緊張して座っていた。しばらくして部屋のドアがノックされた。出ようとするわたしを制して、真田が、ワゴンを受け取り、部屋の中へ運んできた。二つのグラスのシャンパンを注ぎ、真田はわたしに飲むように促した。
 「二人の夜に乾杯だ」
 「乾杯」
 シャンパンは、すごく美味かった。
 シャンパンを飲み終わると、真田は、立ち上がってわたしの手を引いた。わたしは、自分がまるで本物の女のように、うっとりしてしまった。
 キスされた。長い長いキスだ。キスだけで、わたしはいきそうになった。何て巧いキスだ。
 真田は、わたしの首筋にキスしながら、わたしの服を脱がせていく。ブラも取られ、ショーツだけでわたしは真田に抱かれていた。真田の手が、わたしのそう大きくない胸をゆっくり撫で回す。小さくなったわたしのペニスが勃起しているのを自覚した。わたしはかなり興奮していた。
 真田は、わたしをベッドの上に寝かせると、全身にくまなく舌を這わせた。わたしのペニスの先端が濡れてくるのを感じた。
 ショーツが脱がされ、その濡れたペニスを舌が這い回る。林田のときとは、体の状態も違うが、こんなには感じなかった。体が熱い。燃えるようだ。
 真田は、わたしのペニスに舌を這わせながら、服を脱ぎ始めたようだ。
 「膝を立てなさい」
 言われた通りにすると、真田の舌が、睾丸がなくなって縮んだ陰嚢へと降りてきた。気が狂いそうなくらい感じる。
 「フェラはできるか?」
 「あんまり上手じゃないけど・・・・」
 「やってくれ」
 わたしは、林田から教わった技術を駆使して、一生懸命フェラチオをした。真田の肛門に指を入れようとしたら、髪の毛を引っ張られて、引き離された。
 「それは嫌いだから、するな」
 「ごめんなさい」
 再び抱き寄せられ、キスされた。わたしへの愛撫は続く。長い長い時間が過ぎ、ようやく真田が入ってきた。真田は、アナルセックスに慣れている。インサートの仕方も丁寧で、ゆっくり小さく出し入れしながら、次第に深く入ってきた。
 いったん奥まで入ると、今度は、長いストロークで、出し入れされた。わたしの口から、思わず呻き声が漏れ出していた。
 真田のゆっくりした動きが性急となり、高まる興奮の真っ只中、真田がわたしの中へと放出した。その瞬間、わたしは気が遠くなった。これまでで最高のエクスタシーを覚えた。長く深いエクスタシーだ。かつて男として味わったものとは、比べものにならないほどのものだった。
 しばらくして、真田がわたしの中から抜け出ていった。
 真田は、シャワーを浴び始めた。わたしは、ベッドの上で、エクスタシーの余韻に浸っていた。
 真田に、頬にキスされた。目を開けると、真田は、もう着替えていた。わたしは、しばし眠り込んでいたようだ。
 「佐知代と言ったな。よかったぞ。これは礼だ。この部屋の支払いは済ませてある。明日の朝まで使っていい。鍵はキードロップに放り込んでおけばいいだろう。じゃあ、お休み」
 真田は、わたしの返事を待たずに部屋を出て行った。枕もとに5万円が置かれていた。わたしは、そのまま、ベッドの中で眠りこけた。

 翌朝、わたしはシャワーを浴びると、真田に言われた通りに、鍵をキードロップに放り込んで、ホテルを出た。朝日が黄色く見えた。
 もう一度、真田に会いたいと思ったが、会ってくれるだろうか? 連絡先は、恐らく由紀しか知らない。由紀に聞くしかない。
 わたしは、その足で、由紀の口座に振込みを行った。それから、由紀に電話した。
 「由紀さん、わたし」
 「ああ、野本さん。どうしたの?」
 「由紀さん、昨日の真田さんに、連絡が取れるかしら?」
 「連絡? こちらからは、連絡は取れないわ。取らない約束になっているの」
 「そうなの・・・・」
 「どうしたの?」
 「また会いたいなあと思って」
 「真田さんが、あなたのことを気に入ってくれたのなら、向こうから連絡があるわ。もしなかったら、諦めることね」
 「・・・・分かったわ」
 「斡旋料は、振り込んでくれたわね」
 「さっき、振り込んでおいたわ」
 「仕事があったら、連絡するわ」
 「真田さんみたいな人がいいわ」
 「そんなによかったの?」
 「ええ」
 「期待しないで待ってて。じゃあね」

 真田に抱かれて、わたしの中の女に火がついた。しかし、手当たり次第に男と寝るなんて、わたしにはとてもできそうにない。病気も怖いし・・・・。決まった相手となら、病気の心配は減る。
 わたしは、真田から、ご指名がないかと期待して待った。しかし、由紀からは、連絡がなかった。真田は、わたしのことを気に入ってくれなかったのだろうか? わたしは、年がいっているからかもしれないなと思う。
 ほかに収入の道がないから、貯金は減る一方だった。決まった相手でなければなどと贅沢を言っている場合ではない。由紀から電話があったら、話しに乗ろうと決めた。

 一週間経って、由紀から電話が入った。
 「野本さん、いい人が見つかったんだけど・・・・」
 「やるわ。お金のためと割り切って」
 「よかった。場所と時間はねえ・・・・」

 それ以来、由紀から、週に1,2回依頼があった。世の中に、わたしのようなニューハーフを相手にする男が多いことに、わたし自身ビックリした。できれば、不特定多数の男とはしたくないと思っていたのに、わたしは、そのすべてを承諾した。性的快感とお金が同時に得られる娼婦と言う仕事の魅力に負けたのだ。ただ、やっぱり病気が怖いから、コンドームだけは使って貰っている。それは、わたしを抱くお客にとっても同じことだったから、快く付けてくれた。