坂本義雄は、新聞を広げて読んでいた。
(なに? 峰聡太郎殺害容疑者死亡? ・・・・あいつが死んだか。いい女だったのに、勿体ないな・・・・)
坂本は、野中百合子と名付けてやって、性転換して峰に渡した男のことを思い出す。
(あのままこちらにいれば、こんな結末にならずにすんだかもな。しかし、峰に渡さざるを得なかったからな)
坂本が峰に出会ったのは、『バラの花園』と言う女装スナックだった。女装者のママが経営し、女装者が集まるスナックだ。女装スナックにはピンからキリまであって、ただ単に女装を楽しむ場所を提供しているものから、性的関係を持つ相手を捜す場所を提供するものまで様々なのだ。『バラの花園』は、後者に属するスナックだった。
坂本は10年来のお客だったが、峰は平成9年の夏頃、初めて店に顔を出したと記憶している。紳士で金を持っていたせいもあって、相手には不自由しなかったようだ。
坂本が峰と初めて話をしたのは、平成10年の春頃だった。その少し前寝た女装者から、峰が同業者であることを知り、坂本の方が声を掛けてみたのだ。もちろん、このような場所では互いの職業などは口にしない約束になっていたのだが、何故か声を掛けたくなったのだ。
「峰さん? 坂本と言います。最近よく会いますね」
「ああ、そのようですね」
「好みが似ているようですね」
「えっ? そうですか?」
「ほら、向こうにいる彼女、それから、向こうにいる彼女、峰さん、寝たでしょう?」
顎で示しながら聞くと、峰はうんと頷いた。
「わたしも寝たんですよ。あっちの彼女の方が、美人と言えば美人なんですけどね。わたしは、ちょっと食指が動かないんですが、峰さんは?」
「わたしもあの娘は好みじゃないですね」
「今降りてきた娘は?」
「パスですな」
「わたしもです。やっぱり似てますよ」
「そのようですな。一杯いきますか?」
「頂きましょう」
その日は、店がはねるまでふたりで飲んだのだった。
坂本と峰は意気投合し、一緒に飲んだり、女装者を交えて3P、4Pを楽しんだりするようになった。
峰と長くつきあっていると、女装者の好みは似ているのだが、少し違っているのに坂本は気づいた。坂本は、どちらかというと、女装はしていても身体に手を入れていない方が好みだったのだが、峰はできる限り女に近い方が好みだった。
坂本とは決定的に違うと思ったのはのは、平成10年の秋、峰からこんな相談を受けたからだ。
「坂本さん、ちょっといいかな?」
「なんでしょう?」
峰は辺りを窺いながら、小声で坂本に尋ねてきた。
「坂本さん、顔が広いから、もしご存じでしたら、ひとつ紹介して頂こうかと思ましてね」
「紹介? 誰を?」
「手術した娘をですよ」
「手術? 性転換手術のことですか?」
「そう。手術して女になった娘をご存じでしたら、紹介して貰いたいんですがね」
「女になってしまったら面白くないでしょう? それだったら、本物の女の方がいいじゃないですか?」
「いや、そこは、ほれ、坂本さんにもわかるでしょう? 元は男だったってことがいいんですよ。興奮するじゃないですか」
坂本はこの時、峰とは嗜好が決定的に違うことを悟ったのだった。が、こう答えておいた。
「うん、まあ、そうですな」
「それにですね。今どきの若い女は我が儘でひとつも言うことをきかない。その点、彼女たちだったら、男に奉仕すると言うことを知っている。知っていると言うよりも、そうすることで女であることを強調したいんですな」
「言い換えれば、男に従順だと言うことですね?」
「そうです。おっしゃる通りです。その通りなんですよ」
「それはわたしもよくわかりますよ」
峰はウンウンと頷いた。
「ご存じないですか? 性転換した娘を?」
「そうですね。ひとり心当たりがありますよ」
「ほ、ほんとですか? 寝てくれるような娘ですか?」
「ま、峰さん次第でしょうね」
「是非紹介してください」
坂本は、以前この店で知り合った畑中由美子と名乗っている性転換者を紹介することにした。もちろん坂本が知り合った当時は、まだ手術前だったから、坂本は何度か寝たことがあるのだけれど、性転換してからは、坂本の食指が動かず声を掛けたことはなかった。
「タクシーでふたメーターくらいの場所でスナックをやっていますから、行ってみますか?」
「い、行きましょう」
峰は少し興奮気味に、目を輝かせていた。
「ただし、今は女と言うことになっていますから、他の人間に悟られないようにお願いしますよ」
「わかりました」
そう言うわけで峰を畑中由美子に紹介した。畑中由美子はすぐにはうんと言わなかったようだが、金に糸目をつけない峰の攻勢に負けて、関係を持ったらしい。その後、峰についてO市に移ったと聞いた。峰の愛人に納まっていると言うことだったが、峰が死んでどうしているだろうかと坂本は思った。
さらに平成11年の2月頃だったか、峰が妙なことを言ってきた。
「坂本さん、ノンケの男を女に仕立て上げることは可能でしょうか?」
「ノンケの男をですか?」
「そうです」
「そうですねえ。女にするというのは無理かもしれませんが、女装させるのだったら可能かもしれませんね。一部の男を除けば、峰さんやわたしあたりがそうでしょうけど、男の大部分は一度は女の格好をしてみたいと思っているとわたしは考えているんですよね。チャンスがあるかどうかなんですけどね」
「なるほど」
「そのチャンスが訪れたとき、一度で終わってしまう男もいれば、はまってしまう男もいるようでして。はまってしまった男の中には、こうして、男に抱かれようとする男も出てくるわけですよ」
坂本は店の中を見回す。
「最後には性転換する男もいるというわけですな」
「ごくまれにですね」
「ふむ。この男をどう思います? とりあえず女装させることは可能でしょうかね?」
峰は一枚の写真を取り出した。坂本は写真を見つめた。男ばかりが3人写っていた。そのうちのひとりを峰が指さしている。
「細身ですし、なかなかの美形ですね」
「どうです?」
坂本は女装させたときの姿を想像する。
「いいんじゃないですか?」
「この男を女にして抱きたいんですよ。是非ね」
その時の峰は、羊を前にした狼のような目をしていた。
「本人にその気があるんですか?」
「とんでもない。まったくないですよ」
「じゃあ、無理でしょう」
「そこのところを坂本さんのお願いしようと思ってですね」
「わたしに?」
「そう。坂本さんなら、何とかやってくれそうな気がするんですよ」
「買いかぶりすぎですよ」
「できませんか?」
坂本は、腕組みをして考え込む。面白いと思った。
「金は出します」
そのひと言で心は決まった。
「やってみましょう。もしダメなら諦めてください。それから、性転換まで持っていくと言うことですね?」
「もちろん!」
「うまく事が運び出したとき、その過程で、わたしに・・・・いただかしてもらってもよろしいですか?」
「もちろんですよ。女としての喜びを植え付けて貰えるとさらにいいですね」
坂本はニッコリと笑って峰と握手した。
「いつ始めます?」
「ちょっと準備がいります。準備ができたら連絡します」
嬉しそうな顔をして峰は店を去っていった。
その後、峰は顔を見せず、話は途切れたかに思えた。ところが1年がたとうとしたとき、峰から坂本に連絡が入った。
《坂本さん、昨年お願いしていた男の件ですが》
「昨年? ああ、女にしたいという男の件ですか?」
《そうです。準備ができました。来週、そちらに送り込みますから、よろしくお願いしますよ》
「来週ですね。じゃあ、こちらもすぐに準備に掛かりましょう」
《先日連絡しておいたわたしのマンションを使ってください》
「わかりました」
ノンケの男を女装させ、男とのセックスを覚えさせて最後には性転換させる。ワクワクした。
男が羽田空港に到着するという日、坂本は迎えに赴いた。空港の手荷物受け渡し場から出てきた男は、写真で見るよりもずっとひ弱で、まるで家出してきた女子中学生のように見えた。
不安そうにしているその男、井上裕人に坂本は声を掛けた。井上はホッとした表情を見せた。
(峰が抱きたがるはずだ)
そう思いながら、計画通り、雇うのは女性従業員だ、男は雇えないと突っぱねてやった。女の子のように涙を浮かべて、土下座したときには、抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと我慢して芝居を続けた。
女装すれば雇ってやると言ったとき、イヤだと言われれば、次の手を考えていた。別に雇っていたニューハーフに、お店で働かないかと誘わせる。それでもダメなら、無理矢理アヌスを犯してひきづり込むなどなど。
女装しますとの返事を貰って、まずはホッとしたのだった。
『バラの花園』での特訓で、まったく女に見えるようになった井上を見て、坂本は早く犯したいと股間を堅くした。しかし、ことを急いではし損じると思って、ぐっと我慢していた。
初月給をやったあと、女装を止めて逃げ出すかと懸念したが、そうすることもなく女性従業員として働き続けてくれて、坂本はほくそ笑んでいた。
次ぎに、坂本は井上の女性化計画に移った。女性ホルモンを飲めと言えば飲むかもしれないと思ったが、何とか他の理由を付けて飲ませることにしたのだ。
冴子は女装者で、坂本が女として雇ってやっていた。もちろん関係もあった。南医師は、女装者に違法に女性ホルモンを投与していた。だから、その弱みを使ってふたりに協力させた。
冴子と南医師の巧みな連係プレーによって、井上は女性ホルモンの摂取を始めた。冴子から、胸がかなり膨らんでいるみたいだという報告を受けて、坂本はそれまで押さえていた欲望を満たすために、井上を住まわせていたマンションを訪れた。
男だとばらすと脅かして犯すのはちょっと気が引けたが、女性化した井上の魅力の前にそんなことは吹っ飛んでいた。
Aカップに育った胸の感度はよく、ぎこちないフェラチオに思わず漏らしそうになった。初めて男を受け入れるアヌスは、最高の締まり具合だった。
坂本は井上に填った。手放したくないと思った。だから、1年あまり、峰には報告しないでいた。しかし、峰が様子を見にやってきて、完全に女性化した井上を見て、そろそろ性転換させろと迫った。金を貰っている以上従わざるを得なかった。坂本は、泣く泣く井上を大阪に連れて行って性転換手術を受けさせた。
「峰さん、準備完了です。いつでも抱けますよ」
手術の仕上がり具合を確かめてから、坂本は峰に電話した。峰は早速やってきて、最初に井上の人造腟を使ったというわけだ。
(いや、百合子は峰という男しか知らないで死んでしまったんだよな)
「しかし、どうして、井上は峰を殺したんだろうか? 峰が井上の女性化計画に関与していることは知らないだろうに。よくわからないな」
坂本は、新聞を畳んだ。
「ねえ、坂本さん、わたし、手術したいんだけど、お金、出してくれない?」
冴子がお茶をテーブルの上に置きながら言った。
「出してやってもいいが、わたしとの関係は終わりだぞ」
「そんなにペニスのある女がいいの?」
「それが俺の趣味だ」
「仕方ないわね。坂本さんとの関係は続けたいけど、それ以上に女になりたいの」
「そうか。じゃあ、お別れだな」
「費用を出してくれる?」
「そんなもの出せるか!」
「坂本さんが、男色家だって会社にばらすわよ」
「なに!」
「いいの?」
「そんなことしたら、おまえも会社におられなくなるぞ」
「わたしよりも坂本さんの方が困るでしょう?」
「くっ・・・・」
「ほんの100万くらいだから、けちけちしないで出してよね」
「わかった。出せばいいんだな」
憮然として、坂本はソファーに座った。
(峰を出汁にして儲けた金がフイだぜ)