12月28日、帳簿をつけていると坂本がやってきた。
「野中君、明日から大阪まで一緒に出張してくれ」
その言葉に、大阪で性転換手術を受けるのだと悟った。
「はい」
坂本が去っていくと、円城寺が小さな声で尋ねた。
「明日から正月休みよ。坂本の奴、何を考えてるの?」
「さあ」
「仕事ついでにあなたと楽しんでくるつもりね」
裕人は黙って答えなかった。
「坂本のどこがいいの?」
円城寺は、坂本が裕人のマンションに足繁く通っていることを知っていた。
「ああ見えても、結構優しいのよ」
脅かされて無理矢理相手をさせられているとは言えず、そう答えるしかなかった。
「蓼食う虫も好き好きか」
円城寺は、呆れた顔をしていた。
朝一番の新幹線で大阪に向かった。坂本が裕人を連れて行ったのは、結構流行っている形成外科クリニックだった。
「先生。この娘です。お願いいたしますよ。綺麗に仕上げてくださいよ」
「わたしの腕を信じなさい」
医者は胸を張った。
「じゃあ、お願いして、わたしは仕事を済ませてきます」
坂本は出張理由の仕事をこなすためにクリニックを去っていった。その日の午後、豊胸術と喉仏の切除術が行われた。
「眠くなるよ」
注射をされて眠ったかと思ったら目が覚めた。時計を見ると、1時間が経過していた。包帯が巻かれた胸と首を見て、手術が終わったことを知った。
翌日から、クリニックは正月休みだった。けれど裕人の性転換手術が行われた。患者がいると手術できないかららしい。
腰に注射をされた。下半身がしびれて動かなくなった。さらに、何かの注射をされて朦朧となった。けれど、手術をしている音が耳に届いていた。
二度胃を引っ張られるような鈍い痛みが走った。医者の説明によると睾丸が切り取られた痛みだそうだ。腰の麻酔ではその痛みが止められないらしかった。
裕人の身体に膣となる穴が穿たれているとき、身体が押し上げられるのを感じた。手術が終わりになる頃、裕人は引きずられるように眠り込んでいた。
日が陰る頃、裕人は目を覚ました。坂本がベッドサイドに座っていた。
「終わったぞ。よく頑張ったな」
坂本が掛けてくれた最初で最後の優しい言葉だった。
「痛い」
説明できない激しい痛みが裕人を襲った。痛み止めがまったく効かなかった。裕人は脂汗を流して耐えた。
一夜が明けて、痛みは遠のいて、裕人はようやく一息をついた。
「傷はいい状態だ。出血もない」
そう言われて安心した。付け替えが終わって医者が出ていくと、裕人はガーゼの上から股間を触ってみた。当然のことながら、ガーゼの下には何も触れなかった。
その時裕人が感じたのは、喪失感とか絶望感とかではなく、一種の安堵だった。
(これで、隠す必要がなくなった。堂々としていられるわ)
術後経過は順調で、一週間後に人造膣の中に入れられていたガーゼが抜き取られて、シリコンのプロテーゼが差し入れられた。
「しばらくはずっと入れたままにして起きなさい。ひと月たったらご主人とセックスしてもいい。セックスを毎日するのなら、プロテーゼは入れなくていいよ。わかったね」
「はい」
坂本はご主人になっていた。実際に夫みたいなものだからいいかと裕人は思った。
手術して10日目、1月8日に裕人はクリニックを退院した。人造膣にプロテーゼを入れて、生理用ナプキンを貼り付けたショーツを穿いていた。気持ち悪くて、がに股なりそうだった。
インフルエンザにかかったと嘘を付いてさらに一週間会社を休んだ。その一週間で裕人の傷はずいぶん癒えて、久しぶりの出勤の時には、まったく元の状態に戻っていた。
「風邪はもういいの?」
心配そうにしてくれる円城寺を騙すのは心苦しかった。けれど、真実を話すわけにはいかなかった。
「ちょっと咳が出るけど、もう大丈夫よ」
時々コホンと咳をして見せた。
手術後、セックスができないから坂本はマンションにやってこない。ホッとしていたけれど、性的欲求不満は募った。傷に障ると知りながらも、裕人は傷の処置をするとき、新しい自分を確かめてみた。
クリトリスは、神経を残してあるから感じることができると説明されていた。触ってみると、勃起したペニスをごしごし擦られるような感覚がした。快感と言うよりは痛みに近い感覚だった。陰唇は紙を一枚あててその上から触っているような感触だった。
プロテーゼを抜いて、指を入れてみた。それまで存在しなかった場所に穿たれた深い穴に、裕人は感慨と恐怖を覚えた。
(ここに坂本のペニスを受け入れなければならないのか・・・・)
溜息が出た。プロテーゼを出し入れすると、僅かだが快感が沸いた。人造腟を使っていくことができそうな気がした。
仕事が休みの日、気になっていたことを確かめるため、裕人は電話をかけた。
「もしもし、野中百合子ですけど、先生はおられますか?」
《少々お待ちを》
しばらくして相手が出た。
《もしもし、お電話代わりました。最近見えないけど、調子はよくなったの?》
「おかげさまで。ところで、あの時いただいていた薬は何だったのか聞きそびれて。教えて頂けますか?」
《あれ? 説明書を上げてなかったかなあ》
「頂いてないんです」
《それは申し訳ない。あれはプレマリンという女性ホルモンだよ。注射は、オバホルモンデポーという、同じく女性ホルモンなんだ》
やっぱりと裕人は唇を咬んだ。
《採血したときに、女性ホルモンレベルを計ってみたら、極端に低かったんだよ。卵巣機能不全だと診断して、女性ホルモンを処方したんだよ。説明不足だったね》
男だから、女性ホルモンレベルは低いに決まっている。けれど、裕人は女性として南クリニックを受診していた。南医師は、裕人が女性であるという目で検査結果を見たから、卵巣機能不全と診断したのだ。
(もっと早く聞けばよかった。そうすれば、女性化することも坂本に襲われることもなく、性転換手術などしなくてもすんだかもしれなかったのに・・・・)
後悔が裕人の心の中を渦巻いた。けれど、もう取り返しはきかないのだ。
《生理は元に戻ったの?》
「いえ、まだ不順です」
《じゃあ、ホルモンは続けた方がいいと思うけど》
「婦人科の先生から貰ってますから大丈夫です」
性転換手術を受けたクリニックから、女性ホルモンだとの説明を受けて定期的にプレマリンが送られてきていた。電話したのは、それが南クリニックから貰っていたくすりと同じ薬だったからだ。
《ああ、それならいいね。じゃあ、何かあったら連絡してね》
電話が切れた。裕人は溜息をつく。
(これがわたしの運命かも・・・・。でも、女になったから、霞を裏切ることは絶対にないのよね。そうよ。前向きに考えなきゃ)
裕人は女として一生懸命生きようと決意した。
会社では、女性事務員としての評価はまずまずだった。前向きな姿勢で生きようと決めてから表情が明るくなっていた。男性社員とも食事に行ったり、飲みごとにも付き合うようになった。ただ、坂本の女と言うことになっていたので、誰も裕人に手出しはしてこなかった。
裕人が性転換手術を受けてひと月ほどがたったある日のこと、坂本に来客があって、お茶を持ってくるように指示された。
いつものことなので、来客用の湯飲み茶碗にお茶を入れて専務室のドアを叩いた。
「入れ」
「失礼します」
裕人が中に入ると、背中を向けていた来客が振り返って裕人を見た。その顔に見覚えがあるような気がして、裕人は慌てて顔を伏せてテーブルの上に湯飲み茶碗を置いた。
「東京には、こんな美人がいるんだね」
来客は羨ましげにそう言った。
「野中君は特別ですよ。野中君、こちらは峰聡太郎さん。O市の同業者だ」
峰建設の社長だとすぐにわかった。裕人が勤めていたH町の大杉建設は、峰建設の下請け業者なのだ。打ち合わせで大杉建設に来たとき、顔を合わせたことがあったのだ。
「初めまして、野中です」
顔を上げないまま挨拶をした。
(女になっているから気がつかないとは思うけど・・・・)
「うん、峰だ。うちにもキミのような女性事務員がいれば、職場がパッと明るくなるんだが」
「峰さん、引抜きは困りますよ」
「あれ、見破られたか。はっはっはっ!」
ふたりは大笑いをする。
「失礼しました」
裕人は頭を下げて専務室を出た。背中にドッと汗が流れていた。
退社時刻になって、裕人は再び坂本から呼び出しを受けた。
「接待に付き合ってくれ」
上司の命令でもあるし、坂本の命令だから絶対に逆らえない。ハイと返事をして、着替えて坂本と一緒にタクシーに乗った。
行く先は銀座、接待の相手はやはり峰聡太郎だった。峰は既に来ていて、上座にデンと座っていた。
「お待たせして申し訳ありません」
言い訳をする坂本の横で、裕人も頭を下げた。すぐに料理が運ばれてきた。
「百合子、峰社長にお酌をして差し上げないか」
ジッと座っていた裕人に坂本が指図する。仕方がないので、峰の横に行き、どうぞと杯に酒を注いでやった。
「うまい魚だ。百合子さんも食べなさい」
裕人の膳が峰の横に移動させられてきた。横目で見ながら、裕人は刺身を口に運んだ。峰と坂本は仕事の話や政治の話を止めどなくしていた。裕人は、峰の杯が空くと酒を注いでやった。
午後9時になった。坂本がそろそろお開きにしましょうかと告げ、タクシーが手配された。
タクシーがやってきた。部下である裕人は助手席に乗ろうとすると、坂本が制した。
「百合子。峰社長の隣に」
そう言って、坂本が助手席に乗り込んでしまった。仕方なく、裕人は峰の隣に失礼しますと断って乗り込んだ。
坂本がタクシーの運転手に告げた行く先に裕人は驚きを隠せなかった。それは裕人のマンションだったのだ。
タクシーがマンションに着くと、坂本はタクシーの運転手に待つように言って一緒に部屋まで上がった。
「峰社長、どうぞ、ごゆっくり」
ソファーに座った峰にそう言ってから坂本は裕人に告げた。
「可愛がって貰うんだぞ」
「坂本さん・・・・」
「わかってるだろうが、きちんとご奉仕するんだ」
「でも・・・・」
「心配するな。峰社長は心の大きな人だ。何も心配することはない」
そう言い残すと峰に向かって頭を下げて部屋を出て行ってしまった。業界では接待にしばしば女を使うと言うことは知っていた。しかし、坂本がまさか裕人を使うなどとは思ってもみなかった。
「風呂を溜めてくれ。それからビールだ」
峰は、裕人のことを人身御供にされた女だと思っているのだろうか? 坂本はどう言うつもりで峰に裕人を与えようとしているのだろうか?
(そう言えば・・・・)
二日前、坂本が突然マンションにやってきて、傷を見せろと迫った。見せてやると、上々のできだと満足そうに頷いて帰っていった。性転換して女になったことがばれないと判断して峰に与えようと言うのだろうかと裕人は思った。
裕人は、缶ビールを空けてコップに注いで峰に差し出してから、バスのスイッチを入れた。
「百合子さん、こちらへ来て座ってくれ」
言われるまま裕人は、峰の前に膝を突いた。
「顔をよく見せてくれ」
裕人の顎に手を掛けて裕人の顔をジッと見た。
「キミはホントに美人だ」
「ありがとうございます」
「本名は確か井上、・・・・井上裕人だったね?」
その言葉に裕人は驚きに目を見張った。
「やっぱりそうか。会社で一目見たとき、もしやと思っていたんだ」
峰は鎌をかけたのだ。なによそれとか言って誤魔化せばよかったのだ。裕人は唇を咬んだ。
「よくわかったなと言いたいようだね? えっと、・・・・3年ちょっと前、平成10年の暮れだったと思うが、キミは会社の忘年会で女装しなかったかね?」
余興で女装させられたことを思い出した。
「大杉に、その時の写真を見せられたんだが、すごい美人だが、こんな女性が会社にいたかと尋ねたところ、大杉が向こうにいるあの男ですよと言うんだ。驚いてしまったよ。その時、名前を聞いて井上裕人と教えられたんだが、うちの従業員に井上弘子という女性がいてね。一字違いだから、記憶に残っていたんだよ」
裕人はゴクリと息を呑んだ。
「坂本さんが、キミをわたしにあてがったところを見ると、男だとはばれない自信があったんだろうね。ようするに、キミは女になってしまっていると言うことだね?」
裕人は何も言えなかった。峰の想像通りだからだ。
「わたしは、キミが元は男だったなどと言うことは気にしないよ。キミほどの美人だったら、何も気にならないよ。例え醜いものがぶら下がっていたとしてもね」
「わたしを・・・・わたしを抱くおつもりなんですか?」
「もちろんだよ。わたしはそれを望んでいるし、坂本もそのつもりでキミをわたしにあてがったんだからね」
「わたし・・・・」
「なんだ?」
「性転換したばかりで・・・・」
「だから? うん? 性転換してから、まだ男と褥を共にしていないのか?」
「・・・・はい」
「坂本君も味な真似をする。つまり処女をわたしにあてがったという訳か。そうか、そうか」
峰は満面の笑顔を裕人に向けた。
「おう、風呂が溜まったようだな。一緒に入るか? うん、そうしよう。いいな?」
峰が裕人の肩に手を掛けた。男同士だって一緒に風呂など入りたくはない。まして、女になった身だ。峰と一緒に風呂に入るなどとんでもなかった。けれど、坂本の言葉を思い出して、項垂れながら峰に従った。
峰は着ていたものをさっさと脱いでバスルームに入り、ザブンとバスタブの中に飛び込んだ。裕人は、ハンガーを持ってきて、スーツなどを掛けてやり、下着は洗濯機に入れておいた。それから、着ていたものを脱ぎ捨てて、人造腟の中からプロテーゼを抜いてバスルームの中に入った。
浴室に他人がいるとき、男は股間を隠す。女は茂み以外は見えないから、乳房を隠す。裕人も両手で乳房を隠した。
峰はバスタブの縁に両手を置いて、裕人をジッと眺めている。
「手をどけて」
裕人は言われるままに両手を降ろした。
「横向きになって」
裕人は自分の右半分の顔が好きだ。だから、右側を峰に向けるように横を向いた。
「うむ。形のいい乳房だ」
峰は満足げに頷いて、バスタブを出た。裕人は、スポンジにボディソープを取って峰の身体を洗ってやった。
「ここも洗ってくれ」
クルリと体を回して股間を曝した。黒光りしたペニスが天を向いていた。痛くないように優しく洗ってやった。
お湯でシャボンを洗い流してやると、峰はバスタブの中に戻った。
「見ているから、身体を洗いなさい」
裕人は両膝をついて身体を洗った。ジッと見られているというのは、気恥ずかしい。上気してくるのがわかった。
シャボンを洗い流すと、峰はバスタブから出て外へ出て行った。裕人はバスタブに身体を沈めた。
「待ってるぞ」
大きな声がして、峰がベッドルームへ行く足音が聞こえてきた。裕人はハアと大きな溜息をついた。
逃げ出したいけれど、逃げ出せない。峰が眠り込んでしまわないかしらと思いながら、身体を温めて外に出た。
チラリとベッドルームの方を覗くと、峰が人待ち顔で裕人の方を見ていた。
(仕方ないんだ・・・・)
覚悟を決めて、裕人は胸の高さにバスタオルを巻いてベッドルームへ向かった。
「座りなさい」
ベッドの端に腰掛けている峰の横に座らされた。肩を抱かれキスされた。男だとわかっているはずなのにと思ったが、峰は裕人を女として扱っていることに気づいた。
峰の右手が伸びてきて、乳房を揉み始めた。バスタオルが腰の上にはらりと落ちた。Dカップの胸が曝される。
峰の舌が裕人の唇を割って入ってきた。裕人はその舌を吸った。相手が坂本の時はいつもやっていることだ。いつも通りに相手をしようと決めていた。
舌が耳たぶ首筋へと移動し、乳首へ達した。ベッドの上に押し倒された。峰に手が乳房から下腹部へ移動し、指が裕人の敏感な部分を捕らえた。
「あん・・・・」
指は優しく優しくゆっくりと動き回る。その間、舌も裕人の身体をはい回っていた。
「はあ・・・・」
膣の中に進入してきた指先を感じた。
「ふむ。意外に締まるんだな」
独り言のように呟いた。舌がさらに下へと移動してきて、敏感な部分に触れた。
「はふうっ!」
指よりも激しく感じた。裕人は思わず腰を浮かせた。舌は動き続けていた。裕人は、上体を起こして両足を峰の首に巻き付け、身体をクルリと回した。峰が下になり、裕人の女の部分を押しつける形になった。裕人はさらに身体を180度回転させて仰向けになった峰の股間に頭を埋めた。つまりシックスナインの体勢になったのだ。
いきり立った峰のペニスを両手で持ち、舌をペロリと這わせた。口の中に入れ吸い、再び舌で舐め回す。裏筋からペニスシャフトに唇でキスしてやり、再びくわえ込んで吸う。時に、峰の舌の動きに裕人の動きが止まる。それは峰も同じだった。
長く刺激し合ったあと、裕人は舌を離して、身体をまたも180度回転させて峰に跨った形で両膝をついた。
坂本とするときはアヌスで受け入れていた。今日は人造腟で受け入れる。初めて・・・・。
裕人はゴクリと唾を飲んでから、峰のペニスを右手で持って入り口にあてがい、ゆっくりと腰を沈めていった。
そんな裕人の様子を、峰は嬉しそうな顔をしながらジッと見ていた。
「はあっ・・・・」
暖かな肉棒が裕人を貫いていく。アヌスがヒクヒクと痙攀しているのがわかる。膣もそれに連動して収縮しているはずだが、裕人にはそれが自覚できない。
奥まで辿り着いた。裕人は腰を上げて引き抜き、再び腰を沈めた。ゆっくりとそれを繰り返す。
峰の両手が伸びてきて、裕人の乳房を捕らえた。乳首を抓むようにしながら乳房を揉む。乳房と膣からの刺激で、裕人は上り始めていた。
裕人の動きが緩慢になってくると、峰が下から何度か突き上げた。裕人は腰を再び上下させた。声にならない溜息が漏れた。
「どうだ? いいか?」
裕人は頷く。峰が裕人を抱き寄せ、そのまま上下を入れ替えた。下になった裕人を、今度は峰が突き始めた。
「ああ、ああ、ああん。ああ、ああん。あああっ」
裕人は頭を左右に振る。腰を上下左右に振った。
「あ、いい。あ、いい。あ、いい。いいっ!」
頂点を過ぎていた。裕人はまるで魂のない人形のように身体を揺らしていた。峰の動きが止まり、裕人の中から引き抜かれた。
腰に手を当てられる。俯せになれとその手が言っていた。裕人は身体を回して俯せになった。手が腰を上げろと言った。裕人は腰を上げた。ペニスがあてがわれた。再び挿入される。
一連の動作で、少し覚めていた。峰に突かれて再び上り始める。
「ああん。はあん。あああん。ああ、いい。いいいっ! いいいっ!」
乳房を後ろから掴まれて上半身を起こされる。裕人は、不安定な姿勢で突かれる。両手を後ろに回して峰の腰を掴んで支えにした。
峰の両手が離れた。裕人は両手をベッドの上につく。峰はまだ裕人を突き続けていた。上る、上る。裕人は上り続けた。
「さあ、行くぞ!」
「ああ、いい。来てえ・・・・」
ドンと大砲で撃たれたようなショックを感じた。アヌスと違って穴の先が行き止まりだからだろうかと思いながら、裕人は両手を折ってベッドに突っ伏した。
峰の身体の重さを感じた。首筋と耳元に峰の吐息を感じた。裕人はフッと意識を失っていた。
裕人の意識が戻ったとき、峰は仰向けになって眠っていた。裕人はその峰に足を絡ませていた。
(素晴らしかったわ。素晴らしい処女喪失だったわ)
感慨に耽っていた。感慨に耽りながら、霞にこれほどの快感を与えてやれただろうかと思った。ほとんど自分だけ行っていたような気がして、すまない気持ちで一杯になった。
朝が来て、裕人は再び峰に責められた。前日と同じように、1時間あまりに渡って責められ続け、峰が裕人の中で果てたとき、全身の力が抜けていた。
それでも気怠い身体に鞭打って、峰のために朝食を作ってやった。
「うまい味噌汁だ」
峰は満足そうに舌鼓を打った。
「来月、また来る」
そう言い残して、峰は去っていった。
峰がマンションを出て行ってから2時間ほどして坂本がやってきた。
「百合子、可愛がって貰ったか?」
「はい」
「峰さんがおまえのことを気に入ったようだ。譲ってくれと頼まれたから、惜しいが峰さんに献上することにした。いいな?」
いいも悪いもないのだ。ただ、坂本さんの方がいいから、坂本さんのそばに置いてと言う手もあった。けれど、裕人としては、峰の方がいいと感じていた。坂本は裕人を脅して今のような状態にしたからだ。峰の方が数倍可愛がってくれるような気がした。
「坂本さんの言う通りにします」
「うむ。月に一度はこちらに来ると言っていた。その間、浮気などするなよ」
「浮気なんてできるわけがないでしょう?」
「ま、そうだな」
裕人はちょっと考えてから訪ねた。
「坂本さんはいいの?」
「俺か? 人のものになった女に手を出すつもりはないんだ」
帰ってきた返事に、そんなものなのかと裕人は思った。
峰は月に1、2度、裕人のマンションにやってきた。その度にリングやネックレスを買ってきて裕人に与えた。もちろん夜には快楽を与えた。
そして2ヶ月が過ぎた平成14年3月、マンションにやってきた峰は上機嫌だった。
「パパ、いいことでもあったの?」
「ああ、おまえにとっていいことだよ」
「わたしにとって?」
「そう。おまえを初めて抱いたあとからずっと捜していたものが、手に入ったんだ」
「いったい何を手に入れたの?」
「伊沢鮎美という女の戸籍だよ。」
「女の戸籍! 伊沢鮎美?」
裕人は目を丸くした。
「いい名前だろう?」
「ええ。でも、女の戸籍を手に入れたって、そんなの違法でしょう?」
「違法には違いないが、いらないのかな? いらないのなら、捨ててしまうが?」
ちょっと意地悪な目をして言った。
「いえ、捨ててしまうくらいなら・・・・」
「やっぱり欲しいだろう?」
「はい」
「そう言うと思ったよ。これでおまえは戸籍上も女になれる」
「悪いような気がするけど、嬉しいわ」
「そこでだな。正式に女になったついでに、わたしの会社に来なさい」
「えっ! でも、こちらの会社が・・・・」
「大丈夫だよ。坂本には話を付けてある」
戻ったら、峰のように見破る人間が出てくるのではないかと心配になった。
「何を心配しているんだ? ばれるのが怖いかな?」
「はい」
「大丈夫だよ。女の戸籍があれば、別に問題にはならんよ」
ああ、そうかと裕人は力が抜ける思い出した。
「落ち着いたら、おまえをわたしの養女にしてやろう。そうすれば、誰もとやかく言う人間はいなくなるだろう。わかったな?」
養女になると言うことは、戸籍だけではなく裁判所のお墨付きがひとつ増えることを意味する。
(大会社の養女。実質は愛人かもしれないけど、幸せになれるわ)
裕人は舞い上がって喜んだ。
「来月の1日、始発便で戻りなさい。牟田という男を迎えにやる。会社に着いたら、女子事務員の制服に着替えて事務室に来なさい。みんなに紹介してやるからね」
「わかったわ」
こうして井上裕人は伊沢鮎美としてO市に戻ってきたのだった。