暑い夏がやってきた。薄着の季節が来て、裕人はびくびくし始めた。薄着だとブラが透けて、人工乳房を入れていることがばれる可能性があるからだ。透けて見える服は避けて、サマーセーターなど着たり、冷え症だからと言って暑いのを我慢したりした。いずれにしても、フルカップのブラをしてばれないようにしなければならなかった。
「うっ!」
裕人は顔をしかめる。
「百合ちゃん、どうかしたの?」
円城寺が心配そうに裕人の顔を覗き込んだ。
「な、なんでもないわ」
「そう?」
何でもないと答えたけれど、実は裕人は痛みに耐えていたのだ。数日前から、身体を動かすとき人工乳房が当たるのか右の乳首がひどく痛むようになっていた。男なのに女を装っている裕人は、そのことを誰にも相談できないでいた。
痛みに耐えるために乳首を押してみたとき、乳首の下に消しゴムほどの硬さのしこりがあるのに気がついた。
(中学校の時にこんなことがあったっけ。すぐによくなったよな)
きっと一時的なものですぐに治まると思っていた。思った通り、二週間ほどしてその痛みは治まってホッとした。すぐに左の乳首が痛み始めたが、同じように二週間もすると自然に痛みは消えた。
「百合ちゃん、ちょっと太った?」
円城寺にそう言われたのは、そのすぐあとだった。
「そう? 体重は増えていないけど」
「なんだか丸くなった感じよ」
円城寺に言われるまでもなく、それは感じていた。
「丸くなった感じか・・・・」
その夜、裕人は風呂上がりに鏡に身体を映してみた。確かに身体が丸くなっていた。
「あ・・・・」
その時初めて、裕人は胸が少女ほどに膨らんでいるのに気がついた。身体を横にして映してみると、それは一層はっきりとしていた。
「うそ・・・・。どうして?」
不安が裕人を襲った。その不安の大きさに呼応するかように、裕人の胸は日に日に大きくなっていった。
霞の一周忌の日には、アンダーとトップの差が10センチになっていた。つまり、Aカップに育っていた。乳首も心なしか大きくなっていた。
(霞。助けて。どうなってるの? わたし、女になっちゃうの?)
祈りが通じたのか、それ以上は大きくなることはなくなった。
クリスマスイブの夜、裕人は霞と過ごした最初の夜のことを思い出していた。それは高校を卒業した最初のクリスマスイブだった。裕人、霞とも19歳だった。
裕人は、給料で買った可愛らしいリングを持って、霞は手編みの手袋とマフラーを持って、O市内のホテルで食事をともにした。そして、その夜ふたりは結ばれた。
(愛していた霞も、もうこの世にいない・・・・)
涙がこぼれた。
ピンポン。
チャイムが鳴った。この部屋には、円城寺しか来たことがない。彼氏のいない円城寺が一緒に飲もうと押しかけてきたと思った。
のぞき穴から見てみると、坂本の顔が見えた。時計を見た。午後8時過ぎだった。
(こんな時間に何をしに来たの?)
坂本には、たまに食事をつきあわされたり、酒を一緒に飲むことはあったけれど、マンションに来ることはなかった。訝りながらドアを開いた。
「こんばんは。ケーキにシャンパンを持ってきたぞ」
裕人を押しのけて部屋の中に入ってきた。追い出すわけにもいかずに、裕人はドアを閉めた。
「百合子、グラスだ、グラス」
まるで彼女のような言い方に腹が立ったが、坂本は上司だし、裕人が男だという秘密を握られているから、裕人は黙ってグラスを出した。坂本はシャンパンをポンと開けてグラスに注いだ。
「乾杯だ」
裕人もグラスを取って口に運んだ。
「美味しい」
「そうだろう? 高級品だぜ」
美味そうに飲み干した。
「おまえ、すっかり女だな」
「え、ええ」
「おまえのように一生懸命働いてもらえる従業員ができて嬉しいよ」
「女装しなくてもよかったんじゃないの?」
「そのことはもう言うなよ。あのときは仕方がなかったんだ」
裕人はふうと溜息をついた。
「おい、百合子。おまえ、胸が大きくないか?」
裕人はノーブラだった。最近はずっとそうだったから坂本の前に無警戒に胸をさらしていたのだった。
「え、ええ」
裕人は慌てて胸を隠した。
「どうしたんだ? おまえ、女を演じるためにホルモンでも飲んでいるのか?」
「とんでもない。そんなもの、飲んだりしていないわ」
「そうか? じゃあ、どうしてそんなに大きくなったんだ?」
「わからないの。何故か大きくなってしまって。毎日ブラジャーなんてしているせいかしら?」
「へえ。ちょっとよく見せてみろ」
坂本は裕人が男だと知っているし、恥ずかしがることでもないと思って、ネグリジェを脱いで、ショーツ一枚になった。
坂本が近寄ってきて胸を触った。ゾクッとした感覚が裕人を襲い、思わず腰を引いて胸を手で隠した。
「なんだ? 感じるのか?」
裕人は首を横に振った。
「ちょっとした女くらいあるじゃないか。おい、もう少しよく見せろよ」
下卑た笑みを浮かべて坂本が言う。
「イヤです」
裕人は慌ててネグリジェを引き寄せて胸を隠した。
「イヤ? イヤなんて言える立場か? さっさと見せろ!」
険しい目つきになって坂本が迫ってきて、ネグリジェを剥ぎ取った。裕人は両手で胸を隠す。
「見せろと言ってるだろうが!」
頬を思いきり叩かれ、裕人は床に崩れ落ちた。坂本は裕人の上に馬乗りになって頬を何度も張った。
「止めて! 止めて!」
「うるさい! 見せろと言ったら見せるんだ! わかったか!」
「見せます。見せるから撲たないで」
裕人は胸に当てていた両手をおろした。
「ヒョウ、そそられるぜ」
「何するの!」
坂本が裕人の胸に吸い付いてきたのだ。
「うるさい! 黙ってろ!」
坂本は裕人の乳首を舐め、吸い、噛んだ。反対側の乳房も揉みしだかれていた。
「止めて、坂本さん。わたしは男なのよ」
「男だっていいじゃないか。こんな結構な乳房があるんだ。ちょっと遊ばせてくれ」
乳房だけではすみそうにないことがわかっていた。坂本の盛り上がった股間が裕人の太股に触れていたからだ。
「お願い、止めて」
涙声で訴えるが坂本は聞いてくれそうもない。
「うるさいって言ってるだろうが!」
頬を撲たれた。乳首が再び吸われた。イヤだと思うのに、裕人は感じていた。乳首に痛みを覚えた夏頃から、乳首は敏感になってきていた。抓んだりすると、身体にじんとした快感が湧くのを覚えるようになっていた。今、坂本によって愛撫されて、裕人は激しい快感に襲われていた。
「ベッドに行け」
坂本が立ち上がって裕人に命じた。
「お願い、許して・・・・」
「だめだ。早くしろ!」
裕人は動かない。
「男のくせに女に化けて会社に入ったとばらすぞ。いいんだな?」
「それはあなたが・・・・」
「誰がそれを信じる? それにおまえが女に化けた男だって事実は曲げられんぞ」
裕人はべそを掻く。
「早くしないか!」
「止めて。お願い」
裕人は少女のように涙を流した。そのことによって坂本の劣情をいっそうかき立てた。
「自分で行かないのなら、俺が運んでやる」
坂本は裕人をひょいと抱え上げると、ベッドの上に放り投げた。逃げようとする裕人の上に坂本が覆い被さってくる。
「ばらしてもいいんだな?」
裕人は観念した。ショーツとサポータが脱がされ全裸にされた。坂本も着ていた服を脱いだ裸になり、再び裕人の乳首に吸い付いてきた。
長い愛撫のあと、坂本は裕人の髪の毛をつかんで上半身を起こした。
「フェラをしろ」
「フェ、フェラチオを?」
「そうだ。早くしろ」
屹立した坂本のペニスを顔に押しつけられた。
「いいか? おまえにはここしか帰るところはない。おまえが男だとばれたら、ここにもおられなくなるんだ。おまえには選択枝はないんだ。やるしかないんだ」
裕人の目から涙がぼろぼろと流れ落ちた。
「自分を男だと思うな。乳房だってあるし、ペニスは俺の半分以下だ。女だと思え。そうすれば、フェラチオだって苦にはならないだろう?」
裕人はもはや諦めた。坂本のペニスを手にとって舐め始めた。
「もっとうまくやらないか! 女房にやられたことがないのか?」
思い出しながら、裕人は舐め、吸った。
「そうだ、そうだ。うまいぞ」
喉の奥を突かれて吐き気がした。けれど耐えた。
「よし。仰向けになれ」
ベッドの上に倒れ込むと、坂本が裕人のペニスに吸い付いてきた。
「大きなクリトリスだなあ」
仮性包茎の包皮を剥かれて嘗め回されたのだが、まったく勃起してこなかった。
「さあ、最後の仕上げだ。足を立てろ」
「坂本さん、それだけは、それだけは許して」
「だめだ。早く足を立てろ」
「お願い、それだけは・・・・」
「だめだと言ってるだろう? さっさと足を立てないか!」
くすんと鼻を鳴らしながら、裕人は膝を立てた。坂本はドレッサーからクリームを指にとって来て裕人のアヌスに塗りつけた。
「お願い・・・・」
「諦めの悪い奴だな。いくら頼んでも止めないぞ。もうめそめそ泣くな」
指が突っ込まれた。裕人は腰を動かす。何度か出し入れされたあと、指が二本に増やされた。
「痛い!」
「我慢しろ!」
指が引き抜かれた。そうして、坂本が足の間に入ってきた。
「止めて・・・・」
坂本は止めようとしない。裕人の声が震えていた。
「痛っ・・・・」
貫かれた。激しい痛みが裕人を襲った。
「よく締まるな。おお、絞まる、絞まる。これはいい」
アヌスがひくひくと痙攀するたびに強まる痛みに、裕人は気が狂いそうになっていた。坂本は裕人を突き続けた。裕人が感じていた痛みはやがて軽くなっていき、何とも表現できない快感が生まれた。その快感に裕人は喘ぎ始めた。
「はあ、はあ、はああ・・・・」
「よくなってきたか? そうか、感じるか?」
アヌスを貫かれて感じるなんて信じられなかった。けれど、裕人は実際に感じていた。ペニスが勃起したり萎えたりを繰り返し、先端から先走り汁が流れ始めていた。
「ああ、はああ、ああんん・・・・。アア、止めて。もうイヤだ・・・・」
「止めて? ホントに止めて欲しいのか?」
坂本が動きを止めた。すると、射精の直前で止められたような感覚がして、裕人は、思わず腰を坂本の方に押しつけた。
「止めて欲しくないんだろう?」
心は逃げだそうとしていた。けれど身体は欲していた。裕人は大きく頷いた。
「そうか、そうか。じゃあ、続けてやる」
坂本は再び突き始めた。
「ああ、いい。ああ、ああ、もっと、もっと・・・・」
「可愛い奴だ。初めからそうしていればいいものを」
坂本は激しく突き続けた。
「あああ、い、行くうう・・・・」
裕人のペニスの先端から激しく精液がほとばしり出た。裕人のアヌスが坂本を締め付けているのを自覚していた。
「おおっ! いいぞ!」
坂本も裕人の中にそのすべてを吐き出した。
しばらくして、坂本は服を着てマンションを出て行った。坂本がいなくなってから、裕人は大声を上げて泣いた。脅され無理矢理坂本に犯された屈辱と、それにもかかわらず感じてしまった自分が悔しくて泣いたのだった。
自殺も思った。けれども思い止まった。円城寺や南医師の言葉を思い出したからだ。
(ここでわたしが死んだら、井上家は不幸の色で染められてしまう。何とかして、わたしだけでも幸せにならなければ・・・・)
そう決心したのだけれど、幸せは遠かった。翌日から坂本が毎日のようにやってきて、裕人を抱いたのだった。嫌悪を覚えながらも、裕人が男だとばらされると、もっと不幸になると思い、拒否できなかった。
毎日毎日、坂本によってアナルファックをされて行かされていくうちに、これも幸せの一種なのかもしれないと思い始めた。
1年が過ぎた頃には、裕人はアヌスで坂本を受け入れているという事実以外は、まるで本物の女と異なったところはなくなっていた。ベッドの中で、坂本のペニスを喜んで銜え、アヌスを差しだした。
坂本にアヌス処女を奪われて、丁度1年がたったクリスマスイブの日、坂本にいつものように行かされたあと、坂本に抱きついて微睡んでいた。
帰り支度を始めた坂本が裕人に向かっていった。
「それ以上、胸は大きくならないのか?」
「もう大きくならないみたいね」
「大きくしないか?」
「大きくって、豊胸術を受けろってこと?」
「まあな」
やれと言われれば従わざるを得ない。
「あなたが望むのなら、やるわ」
「そうか。・・・・ついでに、その醜いものも取ってもらおうか?」
「えっ!」
「今のおまえにそれが必要か? 邪魔になるだけだろう?」
身体が震えた。
「どうなんだ?」
「取ったりしたら、元に戻れなくなってしまう・・・・」
「元に戻る? 男に戻ってどうするんだ? 野垂れ死にするだけだぞ」
ここで拒否しても、結局は同意させられてしまうことがわかっていた。
「ない方がいいの?」
「いいに決まってるだろう? 上半身だけ見ていたらいいが、そこを見たら萎えてしまうんだ」
「・・・・いいわ」
「そう言うと思ったよ。じゃあ、早速手配してくる。待ってな」
とうとうペニスまで取られてしまう。しかし、涙はこぼれなかった。そのうちそう言われるだろうことを予想していたからだ。