プロローグ

 『ただ今入ったニュースをお伝えします。先ほど午後二時五十分頃、北村山市栄町の路上で、山崎善次さん三十八歳が何者かに短銃のようなもので銃撃され重傷を負いました。犯人は近くに停めてあった白いワゴンで逃走したとの目撃情報があり、非常線を張って犯人を追っています。警察は、山崎さんと一緒にいた男性から事情を聞く一方、犯行の動機、背後関係などについて調査中とのことです。
 なお、通行人にも怪我人が出ている模様です。新しい情報が入り次第お伝えいたします。さて次のニュースは・・・・』

 ここはどこだ。どこなんだ。ぼくはいったいどこにいるんだ。辺りは真っ暗闇だ。薄暗いところはおろか、一条の光も見えない。たとえ目隠しをされていても、どんな暗闇に放り込まれたとしても、この世に完全な闇などない筈なのに・・・・。ここは完全な、完全な闇だ。
 それに、それに何の音も聞こえない。人の声はおろか、犬や猫の鳴き声、車の走る音も皆目聞こえない。今は夜中だろうか? いや、たとえ真夜中の山奥深い場所でも虫の鳴き声や少なくとも風のざわめきぐらいは聞こえるものだ。しかし、音という音がまったく聞こえない。シンとして静まり返っている。耳鳴りすらも聞こえてこない。
 それはともかく、ぼくの体はどこにあるのだろう? 体からの感覚がまったく伝わってこない。立っているのなら足の裏に、ベッドの上にいるのなら背中に、床やシーツが当たる感覚があるはずだ。しかし、何も感じない。まるで宙に浮いたようだ。イヤ、宙に浮いているという感覚すらない。ぼくの意識だけがここにある。自覚的にはそんな表現が正しい。
 あの時ぼくは死に瀕していた。主治医にはさじを投げられ、両親はボクの手を握って泣いていた。そんな中で行われた手術。そう、ぼくの命を救うために手術が行われた筈だ。手術が失敗に終わり、ぼくは死んでしまったのだろうか。
 死んだのだとすれば、三途の川はまだ渡っていない。渡った覚えがない。もちろん閻魔大王にだって、まだ会ってはいない。
 けれど、これまで経験したことのない、音のない闇の中にいるぼく。・・・・やはりぼくは死んでしまったのだ。三途の川の手前にいるのだ。そうとしか思えない。
 ぼくは死んでしまった・・・・。だけど、その悲しみを表す涙すら感じない。声さえも出ない。
 いやだ! なんとかしてくれ!!