第十三章


 閉じ込められて二年半、性転換されてから二年あまりが経過した。看護士たちは飽きもせず、毎日恵を犯し続けた。
 ある日、看護士たちが大きな姿見を部屋に持ってきて、恵を裸にしてその前に立たせた。自分で自分の体を見てみろということらしかった。
 病室には危険防止のためか鏡はなく、恵が自分の姿を見るとすれば、トイレの中にたまった水に映った姿だけだった。自分の全身像を見るのは、閉じこめられて以来初めてのことだった。
 鏡に映った自分の姿を見て、恵はぽかんと口を開けていた。そこには以前の恵は映っていなかった。恵の体は蛹が蝶に変身するように変貌を遂げていた。
 極端に大きくもなく小さくもない形の良いきゅんと上を向いたバスト、ギュッとくびれたウエスト、ヒップは丸みを帯びて形が良い。トレーニングしているせいか下腹部や大腿部などに無駄な脂肪がない。トレーニングは、筋力を付けるためであったが、結果的には恵のスタイルをベストの状態にするのに役立っていた。
 紗織もスタイルは良かったが、身長が高い分、そのときの恵のほうがスタイルがよく見えた。髪は伸び放題だが、黒く艶やかだった。
 2年半も外に出ていないせいか、もともと白かった肌が抜けるように白い。恵は自分で自分のことを結構可愛い女だ、いや、かなり美人だと思った。
 恵は鏡に映った自分に欲情しそうになった。鏡に映った女が自分だとは到底信じられなかった。体を動かし、鏡の中の女が同じ動きをするのを見て、鏡に映った女が自分に間違いないとようやく確認できた。
 恵が想像していた自分の姿と雲泥の差があった。これほど完璧な女になっていようとは思ってもみなかった。看護士たちが喜んで恵を毎日抱きに来るはずだと思いながら鏡を見つめた。
 「どうだ。自分の姿を見たのは初めてだろう。感想は?」
 「信じられない」
 「そうだろうとも、俺も初めておまえに会ったときのことを覚えているが、あのときのおまえといまのおまえが同一人物だとは、俺でも信じがたいよ」
 「信じられない。本当にこれがぼくなのか?」
 「そうだとも。おとなしくしていると約束したら、看護婦を呼んできて化粧をさせてやるが、どうする?」
 「化粧?」
 「おまえも自分が美人だと思うだろう? 化粧してなくても美人だが、化粧すれば、もっと可愛くなれるはずだよ」
 このところ、看護士たちは恵に優しくなり、言葉遣いも幾分丁寧になっていた。恵も今ではほとんど抵抗しなくなっていたし、看護士を油断させて言うことを聞いてもらうために仲の良い恋人同士のように振る舞っていたからだ。
 恵を殴ったりして酷い目に遭わせた大柄な看護士、名前は岩男というのだが、彼はとくに優しかった。ときには饅頭やチョコレートを差し入れしてくれたり、女物だが普段着やおとなしい下着を差し入れてくれることもあった。しかし、いろいろな要求は相変わらずで、従わなければ手のひらを返したように暴力を振るわれた。
 恵を逃がしてくれるのはまだほど遠いが、岩男がもっとも有望だと思っていた。
 「化粧しようぜ」
 化粧がいやだと言っても、そのうちに無理矢理化粧させられるのは火を見るより明らかだったので、恵は同意した。


 岩男の指図で、彼の差し入れてくれたワンピースを着て、ベッドに座って待っていると、化粧道具を抱えた看護婦がやってきた。
 おどおどと恵を恐れているような仕草だ。岩男の陰に隠れてなかなか近寄ってこなかった。恵は強暴な分裂病の患者と言うことになっているから恐れるのは無理もなかった。
 「山崎看護婦さん、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。治療が効いて、ほら、こんなに今はおとなしいから」
 岩男は恵の手を取って立ち上がらせた。
 「ほんとに大丈夫?」
 「俺が保証するよ。それに俺がここに付いているから心配ないよ。ただし、刃物だけは気を付けなよ」
 「分かったわ」
 刃物を奪って、看護婦を人質にして逃げようかと思ったのに、機先を制せられてしまった。ただ、そんなことをしても逃げおおせるものでもないなと恵は思い直した。
 恵がいる部屋は、閉鎖病棟の一番奥にあって、部屋を抜け出ただけでは自由になれないことは充分分かっていたのだ。逃げるときはもっと準備をして確実に。そして二度と追われないようにすることが必要だと恵は考えていたのだ。

 看護婦は初めに恵の髪の毛をカットし始めた。カットといっても、髪の毛を真ん中で分け直し、胸まで伸びた髪の毛の毛先を左右のバランスがとれるように鋏で切りそろえる程度だが・・・・。
 その後、小さな鋏と剃刀で眉毛を整え、顔全体を剃った。そうしてから、覚え切れないくらいの手順で顔にいろいろと塗りたくって、最後にアイシャドウと口紅を塗った。
 仕上げが終わって、鏡を見せられたときには、恵は姿見で自分の姿を見たときよりさらにビックリした。
 「信じられない」
 「へえー。美人になったね。驚きだよ。美人コンテストに出たら優勝できるよ」
 「この子、元々美人だし、肌が綺麗だから、化粧映えがするわね」
 それほど美人とは言えない山崎看護婦が嫉妬気味の言葉を吐いた。
 「山崎看護婦さん、ありがとう。また、お願いするわ」
 「またするの?」
 「出来たら、明日から彼女に化粧を本格的に教えてやってくれないか?」
 「毎日?」
 「勤務に出てるときだけでもいいよ。それ相当のお礼はするから。この通り、おとなしくしているから安心だろう? 退院するときになって、こんな若い子が化粧のひとつもできなきゃ、可哀相だろう? なあ、やってくれよ」
 岩男は両手を合わせて山崎という看護婦に頼み込んだ。
 「うーん、そうねえ。やってもいいけど、岩男さん、いくら出してくれるの?」
 魚心あれば水心というわけで、山崎はにっこり笑って要求した。
 「それはあとでな」
 「うんと弾んでよね」
 「分かった、分かった。それじゃあ、明日から頼むわ。出来たら午後一時前までにしてもらえると嬉しいんだが」
 「午後一時前ね。じゃあ、お昼休みに教えてあげるわ。でも、どうして?」
 「どうでもいいじゃないか。頼んだよ」
 岩男の意図はすぐに恵にはわかった。毎日午後二時になると、岩男は恵を抱きに来る。初めてのときからずっとそうだ。化粧してより美人となった恵を抱きたかったに違いなかった。
 恵は男だったときには化粧するなんて考えたこともなかった。しかし、閉じこめられて以来、この狭い部屋の中で、食事とトレーニングそれにセックス以外にやるなかった恵は、化粧という生活のバリエーションが増えてむしろ喜んでいた。それに三人の看護士以外の人物が部屋を訪れてくれるのだ。
 恵は熱心に化粧を覚えた。ただ、彼女との会話は化粧に関すること以外は禁止されていた。看護士たちがいつも交代で、大抵は岩男が見張っているから余計な話はできなかった。
 化粧の訓練は、ひと月ほどで終わったが、岩男は恵に化粧道具一式を買い与えた。このころには、恵はトレーニングするよりも自分の顔を鏡で見ながら化粧をする方が楽しみになっていた。まるで本物の精神異常者のように一日中鏡に向かっていることさえあった。
 恵は毎日化粧して看護士たちに抱かれた。抱かれて毎日毎回絶頂を覚えた。

 権藤への復讐心は忘れてはいなかったが、どうでもよくなる日もあった。


 それから二ヶ月あまりが経ったある日、午前十時を過ぎて、昼近くになっても看護士たちは誰も現れなかった。あの最初の日以来そんなことは初めてだった。盆や正月ですら一日も休んだことがなかった。しかし、午後二時になってもやはり看護士たちはやってこなかった。とうとうその日はは誰も来なかった。
 次の日朝早く、看護士たちがやってきたが、岩男の顔が見えなかった。
 「あら、岩男さんはどうしたの?」
 「岩男か? ・・・・岩男は死んだよ」
 「えっ、死んだ?」
 恵は驚きに目を見張った。
 「一昨日、ここから帰る途中で事故に遭ってな」
 「事故?」
 「そう。ダンプと正面衝突だ。即死だよ。即死。一昨日の夜が通夜で、昨日は葬式だったんだよ」
 「岩男さん、死んだの・・・・」
 「そう、岩男はもうここへは二度と来ることはない。今日はそういうことだから、俺たちもおまえを抱く気はない。二,三日お休みだ。それをおまえに言いに来た」
 ふたりの看護士が帰ったあと、恵はベッドの中で激しく泣いた。あんな仕打ちをされたのに、涙が溢れて止まらなかった。恵は一晩泣き明かした。憎んでも憎み切れない相手だったはずなのに。これが女という物なのかもしれないと恵は漠然と思った。


 それから三日たって、そろそろ看護士たちが来る頃だと思い化粧をしていると、ドアが開いた。にこりと笑って振り返ると、驚いたことに入ってきたのは権藤だった。
 「ほう、随分いい女になったじゃないか? 見違えたよ。笑顔が可愛いじゃないか。これならわたしの愛人にしてやってもいいな。どうだ?」
 「殺してやる!」
 忘れかけていた権藤への怒りが一気に爆発し、恵は化粧箱の中にあった口紅を塗る細い筆を逆手に持って、権藤めがけて襲い掛かった。しかし、毎日筋力トレーニングをして鍛えているはずなのに、ぜんぜん敵わず、逆にベッドの上に簡単にねじ伏せられた。
 「危ないなあ、西岡君。これが刺さると怪我をするよ」
 余裕の表情を見せながら権藤が言った。
 「殺してやる。殺してやる。殺してやる」
 恵の上に馬乗りになった権藤が、やに臭い息を恵に吹きかけながら言った。
 「感じれる女になったそうじゃないか。わたしはきっとそうなると信じていたよ。さあ、力を抜いてわたしのいうことを利くんだ」
 そういうと権藤は、恵の着ていた服を手荒く破って剥ぎ取った。恵は権藤の腕の中から抜け出して、壁を背中にして身構え、権藤を睨み付けた。
 「いい体してるじゃないか。君が男だったなんて信じられんな」
 「おまえのせいだ。おまえがこんな体にしたんじゃないか!」
 「美人でスタイルもいいのに、その言葉遣いを何とかしたほうがいいな。さあ、おとなしくしなさい」
 「近づいたら、殺す」
 「駄々をこねるんじゃない。さあ、ベッドに寝るんだ」
 抵抗も空しく、恵は再び権藤にねじ伏せられた。こんなに自分の非力を感じたことはなかった。恵は腕を振りまわし、足をばたばたさせてさらに抵抗したが、権藤は猫が捕まえた鼠をいたぶるように、楽しんでいる様子だった。髪の毛を引っ張られ、腕を捻じられ、ブラジャーを引っ剥がされた。そしてパンティーを破るようにしてむしり取られた。抵抗しても抵抗してもだめだった。抵抗しては頬を張られ、そうするうちに諦めが体から力を奪っていった。悔しさで涙が流れた。
 「初めからおとなしくしていれば、痛い目を見ずに済んだのに。今の君がわたしに敵うはずはないよ」
 「畜生!」
 「岩男たちがおまえのことをあまりにいい女だと誉めるから、この目で確かめに来たんだ。あそこの機能も抜群だと聞いたが、本当かな? さあ、試してみよう」
 「いやだ。おまえとだけは絶対いやだ」
 「やかましい。いい加減にしろ」
 顔を殴られ、恵は一瞬意識を失った。

 気がついたときにはもう遅かった。権藤が恵の奥深くまで入っていた。抵抗しようにも手足をベッドに括りつけられていた。
 「いやだーあ」
 「いやだ? 何を言っているんだ君は。こんなに濡れているじゃないか。そうでなかったら、こんなに簡単には入らないよ。そうだろう?」
 濡れてなんかいないと言おうとしたが、そうではないことは恵自身が一番知っていた。化粧をしていたときから準備ができていたのだ。閉じこめられて以来、三日間何もなかったことは、これまで一度もなかった。信じたくはなかったが、恵の体は男を欲していた。恵の体は、一日たりとも男なしには生きていけない淫乱な女の体になっていた。
 「それに、その顔がいいねえ。その声もいい。もっと泣け。そうだ。その調子だ。腰を振れ!」
 「止めてくれ、お願いだ。お願いだよーう」
 泣き喚く恵に権藤は容赦なく頬を張り、胸を乱暴に揉みながら腰を動かした。
 「溢れてきたじゃないか。感度がいいねえ、君は。おうおう、よく締まる。作り物とはとても思えないよ」
 「いやだ、いやだ、いやだ」
 権藤をこんなに憎んでいるのにどうして感じてしまうのだと自分に腹が立ち、涙が流れた。感じるだけではなく、だんだん権藤の動きに自分の体をあわせてしまうのだった。心の中とは裏腹に恵はとうとう達してしまった。権藤が恵の中で果てたとき、恵は気を失いそうな絶頂の中にあった。
 「いいじゃないか、西岡君。看護士たちが言っていた通りだ。君は最高だよ。並みの女よりずっといいよ。自信を持ち給え」
 「馬鹿ヤロー。馬鹿ヤロー。おまえなんか死んでしまえ」
 喚いたはずなのに、その声は弱々しかった。恵の目から涙が零れた。
 「まあ、そう言うな。気に入ったから、やつらはもうくびだ。明日から毎日わたしが可愛がってやる。いいかな?」
 「死ね、死ね、死ねーえ! おまえなんか死んでしまえ」
 「西岡君、ほんとに良かったよ。また明日も頼むよ」
 そう言い残して権藤は部屋を出て行った。

 翌日の午後、権藤が再びやってきた。恵は抵抗したが、やはり組み伏せられ手足に縄をかけられて、無理矢理犯された。
 権藤は恵を相手に強姦するようなセックスを楽しんでいたのだが、しばらくして疲れてきたようだ。
 「たまに強姦ごっこするのもいいが、毎日この調子ではこちらが疲れてしまう。それに、こんな所では興ざめだな。ずっとこんな所に置いておくのも勿体ないし、いい手はないかな。うん、あの手を試してみよう。そうだ、あの手があった。そうだ、そうだ。そうしよう」
 権藤は服を着て背筋を伸ばすと、恵の手足を縛った紐を解いて、泣き疲れてベッドに横たわった恵を横目で見ながら、そう呟きながら出ていった。
 (何をする積もりだろう。ぼくにこれ以上何を)

 夜、目覚めて恵は死のうと思った。しかし、死んだら権藤に復讐できないという思いが辛うじて恵を自殺から思いとどまらせていた。


 次の日、朝早くから権藤がひとりでやってきた。権藤は手に注射器の入った金属のトレーを持っていた。恵は何か危険な予感がして暴れたが、押さえつけられ注射された。
 注射されて何分もしないうちに意識がぼんやりしてきた。朦朧とする意識の中で、権藤が恵に何かを語りかけているのを自覚した。妊娠、洋子、事故死、流産・・・・、何のことを言っているのか分からなかった。しだいに意識が途切れ途切れになり、最後に気づいたときには恵は権藤に抱かれていた。
 次の日も、またその次の日も権藤は注射器を持ってやってきた。
 (毎日彼は何をぼくに話しているのだろう?)
 恵は懸命に思い出そうとしたがどうしても思い出せなかった。思い出せるのは、最後はいつも権藤に抱かれていることだけだった。
 十数日すると、注射はされていないのに、権藤に何か一言話しかけられた直後から恵の意識はぼんやりしてきて、何分もしないうちに完全に意識を失い、気がついたら権藤の腕の中で喘いでいる自分を発見した。
 恵はそんな自分に嫌悪を感じ、毎日泣いて暮らした。何度死のうかと思ったかしれないが、権藤への復讐心だけが支えだった。
 そんな日々が何ヶ月か続いたあと、権藤が部屋に来たのは覚えているのに、その後のことは思い出せなくなり、しだいに権藤が部屋に来ているのかどうかさえも分からなくなっていった。そして・・・・。