「そう言う訳なんだ。ぼくが中川若菜だってことを信じてもらえたかな?」
ぼくは、青柳一郎の話しに驚きを隠せなかった。青柳一郎が若菜お姉ちゃんだったなんて。
いや、ぼくは気づいていたのかもしれない。気づいていたからこそ、一目で好きになり、簡単に抱かれてしまったのだ。
「ホントに、若菜お姉ちゃんなの?」
青柳一郎は、ゆっくり頷いてぼくに微笑みかける。
「もう稔君って言えないよな」
「信じられないわ」
「ぼくだって、信じられないよ。稔が女になってしまったなんて」
「わたしだって、若菜お姉ちゃんが男になったなんて」
「ぼくはもともと男だったんだよ」
「・・・・わたしは違うけど」
ぼくは、少し項垂れて答える。
「いいんだ。今は中川若菜。稔は、女だよ」
「・・・・でも、本物の女じゃないわ」
「それでもいいんだ。あの日、約束したことを実行してくれるだろう?」
「大人になったら、結婚しようって言う約束のこと?」
「勿論だよ。稔は中川若菜。ぼくは青柳一郎。結婚できるよ」
「こどもが産めなくてもいいのね」
「若菜がぼくのそばにいてくれればいいよ」
「ホントに?」
「約束だからね」
ぼくは嬉しくて若菜お姉ちゃん、イヤ青柳一郎に抱きついた。
「若菜。いや、一郎君と呼んだ方がいいのかな。叔父さんたちのしたことを許して貰えるだろうか?」
「許すも許さないもないです。中川若菜の財産を守ってくれたんだし、ぼくとこの若菜が結婚できるのも、叔父さんたちのおかげですから」
「そう言ってもらえると、わたしの気も少し落ち着くよ」
「確かめておきたいんだけど、若菜は財産のことは知らなかったんでしょう?」
「もちろんだ。明日、そのことを話すつもりだった」
「それでぼくも安心だ」
ぼくと若菜お姉ちゃん、つまり中川若菜と青柳一郎は、ぼくが卒業した年に結婚した。ぼくが中川稔だったことは、青柳夫妻には言っていない。勿論、青柳一郎が、中川若菜だったことも。そんなことを言えば、ぼくが稔だってことがばれるからだ。4人だけの秘密だ。秘密にしておいた方がいいこともある。
結婚式が終わってホテルで迎えた初夜、2年半も同棲していて、今更初夜というのも恥ずかしいけれど、ぼくは若菜お姉ちゃん・・・・じゃなかった、一郎さんの腕に抱かれながら尋ねた。
「あの事故がなかったら、わたしたち、こうして結婚できなかったわね」
「どうして?」
「どうしてって、わたしたち、男同士になってしまうじゃない」
「そうでもないよ」
「そうでもないって?」
「青柳の両親に助けられて1年たったとき、男としての第二次性徴が出たんだけど、あの時は、ぼくは記憶を失っていた。だから、お前は病気で、ホントは男なんだ。男にならなきゃダメだと言われて、言われるままに男になった。だけど、もし事故に遭わなかったら、ぼくは男になっていないと思う」
「どうして? もともと男なんだから、男にならなきゃいけないんでしょう?」
「それが違うんだ」
「えっ!? どう違うの?」
「半陰陽のこどもは、それまでの生活を考えて、自分で性別を決定する権利があるんだ」
「どういうこと?」
「ぼくは、ちょっと活発で、男の子になりたいとは思っていたけれど、女の子の生活の方が好きだった」
「ホントに?」
「うん。綺麗な服が着られるからね。ウエディングドレスを着ることにも憧れていた」
「今でもそうなの?」
「と、とんでもないよ。あの時は、って言う話しさ」
「安心した。その体で女装した姿は見たくないわ」
「そりゃそうだろう」
一郎さんは、フフッと笑った。
「あの当時、ホントは男だと言われたとしても、男として生きるのには抵抗があっただろうね。それにね。ぼくは稔と結婚したいと思っていたから、女として生きることを選択したと思うね」
「つまり、わたしが男で、あなたが女になっていたというわけ?」
「そう言うことになるね」
「いずれにしてもわたしたち、結婚していたという訳ね」
「そうだね。でも、今の方がいいな」
「どうして?」
「若菜は、気が優しくて、泣き虫だったから、とても男としてやっていけなかっただろうね」
「そんなことないわよ」
ぼくは膨れる。
「ホントにそう思うか?」
一郎さんは、ぼくの髪を優しく撫でる。
「・・・・そうね。今の方がいいかもね」
「そうだろう? どう? ぼくとのセックスは?」
「最高よ。・・・・でも、他の男の人としたことないから」
ちょっと意地悪を言ってみた。
「と、とんでもない。浮気なんてするなよ」
一郎さんは、真顔になって言う。
「しないわよ。あなただけを一生愛するわ」
「ぼくもだ。それじゃあ、そろそろ。初夜の儀式を始めようか?」
「うん」
無理矢理性転換手術されたとき、ぼくの体の中に男のペニスが入ってくるなんて、とても信じられなかった。だけど、今はそれがごく自然で、当然のように思える。一郎さんのペニスが、ぼくを絶頂に導いてくれる。ぼくは生まれたときから女。一郎さんと結ばれるように生まれてきた。
お父さん、お母さん。ぼくは決して恨んでいないよ。むしろ感謝しているくらいだよ。
「一郎!! 愛してるうう」
「ぼくもだよ、若菜!!」