第14章 実現された約束

 「そう言う訳なんだ。ぼくが中川若菜だってことを信じてもらえたかな?」
 ぼくは、青柳一郎の話しに驚きを隠せなかった。青柳一郎が若菜お姉ちゃんだったなんて。
 いや、ぼくは気づいていたのかもしれない。気づいていたからこそ、一目で好きになり、簡単に抱かれてしまったのだ。
 「ホントに、若菜お姉ちゃんなの?」
 青柳一郎は、ゆっくり頷いてぼくに微笑みかける。
 「もう稔君って言えないよな」
 「信じられないわ」
 「ぼくだって、信じられないよ。稔が女になってしまったなんて」
 「わたしだって、若菜お姉ちゃんが男になったなんて」
 「ぼくはもともと男だったんだよ」
 「・・・・わたしは違うけど」
 ぼくは、少し項垂れて答える。
 「いいんだ。今は中川若菜。稔は、女だよ」
 「・・・・でも、本物の女じゃないわ」
 「それでもいいんだ。あの日、約束したことを実行してくれるだろう?」
 「大人になったら、結婚しようって言う約束のこと?」
 「勿論だよ。稔は中川若菜。ぼくは青柳一郎。結婚できるよ」
 「こどもが産めなくてもいいのね」
 「若菜がぼくのそばにいてくれればいいよ」
 「ホントに?」
 「約束だからね」
 ぼくは嬉しくて若菜お姉ちゃん、イヤ青柳一郎に抱きついた。

 「若菜。いや、一郎君と呼んだ方がいいのかな。叔父さんたちのしたことを許して貰えるだろうか?」
 「許すも許さないもないです。中川若菜の財産を守ってくれたんだし、ぼくとこの若菜が結婚できるのも、叔父さんたちのおかげですから」
 「そう言ってもらえると、わたしの気も少し落ち着くよ」
 「確かめておきたいんだけど、若菜は財産のことは知らなかったんでしょう?」
 「もちろんだ。明日、そのことを話すつもりだった」
 「それでぼくも安心だ」

 ぼくと若菜お姉ちゃん、つまり中川若菜と青柳一郎は、ぼくが卒業した年に結婚した。ぼくが中川稔だったことは、青柳夫妻には言っていない。勿論、青柳一郎が、中川若菜だったことも。そんなことを言えば、ぼくが稔だってことがばれるからだ。4人だけの秘密だ。秘密にしておいた方がいいこともある。

 結婚式が終わってホテルで迎えた初夜、2年半も同棲していて、今更初夜というのも恥ずかしいけれど、ぼくは若菜お姉ちゃん・・・・じゃなかった、一郎さんの腕に抱かれながら尋ねた。
 「あの事故がなかったら、わたしたち、こうして結婚できなかったわね」
 「どうして?」
 「どうしてって、わたしたち、男同士になってしまうじゃない」
 「そうでもないよ」
 「そうでもないって?」
 「青柳の両親に助けられて1年たったとき、男としての第二次性徴が出たんだけど、あの時は、ぼくは記憶を失っていた。だから、お前は病気で、ホントは男なんだ。男にならなきゃダメだと言われて、言われるままに男になった。だけど、もし事故に遭わなかったら、ぼくは男になっていないと思う」
 「どうして? もともと男なんだから、男にならなきゃいけないんでしょう?」
 「それが違うんだ」
 「えっ!? どう違うの?」
 「半陰陽のこどもは、それまでの生活を考えて、自分で性別を決定する権利があるんだ」
 「どういうこと?」
 「ぼくは、ちょっと活発で、男の子になりたいとは思っていたけれど、女の子の生活の方が好きだった」
 「ホントに?」
 「うん。綺麗な服が着られるからね。ウエディングドレスを着ることにも憧れていた」
 「今でもそうなの?」
 「と、とんでもないよ。あの時は、って言う話しさ」
 「安心した。その体で女装した姿は見たくないわ」
 「そりゃそうだろう」
 一郎さんは、フフッと笑った。
 「あの当時、ホントは男だと言われたとしても、男として生きるのには抵抗があっただろうね。それにね。ぼくは稔と結婚したいと思っていたから、女として生きることを選択したと思うね」
 「つまり、わたしが男で、あなたが女になっていたというわけ?」
 「そう言うことになるね」
 「いずれにしてもわたしたち、結婚していたという訳ね」
 「そうだね。でも、今の方がいいな」
 「どうして?」
 「若菜は、気が優しくて、泣き虫だったから、とても男としてやっていけなかっただろうね」
 「そんなことないわよ」
 ぼくは膨れる。
 「ホントにそう思うか?」
 一郎さんは、ぼくの髪を優しく撫でる。
 「・・・・そうね。今の方がいいかもね」
 「そうだろう? どう? ぼくとのセックスは?」
 「最高よ。・・・・でも、他の男の人としたことないから」
 ちょっと意地悪を言ってみた。
 「と、とんでもない。浮気なんてするなよ」
 一郎さんは、真顔になって言う。
 「しないわよ。あなただけを一生愛するわ」
 「ぼくもだ。それじゃあ、そろそろ。初夜の儀式を始めようか?」
 「うん」
 無理矢理性転換手術されたとき、ぼくの体の中に男のペニスが入ってくるなんて、とても信じられなかった。だけど、今はそれがごく自然で、当然のように思える。一郎さんのペニスが、ぼくを絶頂に導いてくれる。ぼくは生まれたときから女。一郎さんと結ばれるように生まれてきた。
 お父さん、お母さん。ぼくは決して恨んでいないよ。むしろ感謝しているくらいだよ。
 「一郎!! 愛してるうう」
 「ぼくもだよ、若菜!!」