第11章 結婚を申し込まれたのだけれど

 ぼくはキャミにショーツ姿で夕食の準備にかかる。青柳一郎もまた、Tシャツにトランクス姿だ。コーヒーを飲みながら、料理ができるのを待っていた。
 「今度は何を食べさせてくれるの?」
 「えっとねえ、豚肉とアスパラ、赤ピーマン、ほうれん草を炒めて、みそとショウガのソースを絡めたものと、ツナサラダ」
 「美味そう」
 「わたし、料理には自信があるんだ」
 「誰に教わったの?」
 「母よ。母はわたしより料理が上手よ」
 「若菜のお母さんを嫁に貰うわけにはいかないからなあ」
 嫁に貰う? どきっとした。
 「できたわ。さあ、どうぞ」
 「いただきます」
 ぼくの作った料理を嬉しそうに食べる青柳一郎を見ていた。

 夕食後にも、もう一度抱かれた。当然のことながら、青柳一郎はその夜はぼくの部屋に泊まっていった。
 その日から、青柳一郎は、殆ど毎日ぼくの部屋に泊まっていった。泊まらないのは、ワンゲルで登山にいくときだけだった。
 「ねえ、一郎の荷物、ここに持ってこない?」
 「一緒に暮らそうって言うのか?」
 「今でもそうしてるようなものでしょう?」
 「それもそうだな」
 「寮費だって、結構かかるでしょう? 完全にひとつにした方が、お金が節約できるわ」
 「そうだね。でも、ホントにいいの?」
 「悪いわけないでしょう?」
 「じゃあ、お言葉に甘えまして」
 初めて青柳一郎に抱かれて2週間目、青柳一郎がぼくの部屋に越してきた。ぼくたちの同棲生活が始まった。

 「ねえ、その汚らしい髭、剃ったらどう?」
 「ぼくのトレードマークだよ。絶対剃らない」
 「剃らないのなら、少し手入れ位したらどうなの?」
 「めんどくさい」
 「寝てる間に剃ってあげようかな?」
 「そんなことしたら別れる」
 その時だけは真顔になって怒った。ぼくにはその理由が分からなかった。

 ぼくたちが同棲していることは、当然のことながら親には内緒だ。だから、正月はそれぞれの実家に帰った。ただ、電話だけは毎日した。
 「青柳君っていったかな。お前の彼氏の名前は」
 「あ、うん」
 「一度連れてこないか?」
 「ここに?」
 「ああ」
 「青柳君、バイトで忙しいもんねえ」
 「お父さんに会わせられないような関係なのか?」
 「そ、そう言う訳じゃないけど・・・・」
 「じゃあ、連れてきなさい。お前の見る目って言うのを、お父さんが確かめてやる」
 「そのうちね」
 「若菜、お前。どれくらいの関係だ? まさか・・・・」
 「えっ!? なに? 変なこと想像しないでよ。わたしがお父さんの思ってるようなことする筈がないじゃないの。分かってるでしょう?」
 「そうだな。お前は軽はずみにそんなことするような娘じゃない」
 「お父さんの信用を裏切るようなことはしないわ」
 ぼくは心の中で舌を出した。それにしてもお父さんは、ぼくを生まれたときから娘だというような対応をする。ぼくを無理矢理女にしたことを忘れたいためだろうと思う。だからぼくも、お父さんに合わせている。

 正月の三が日が過ぎた。去年は、大学が始まるギリギリの10日まで大分にいた。だけど、今年は、早く大学に戻って青柳一郎と過ごしたかった。青柳一郎が大学に戻ると連絡してきた6日には帰るつもりでいた。
 「若菜。今年は、成人式ね。振り袖を用意してありますからね」
 「あ、ありがとう」
 そうだった。今年は中川若菜としては成人式の年なのだ。一生に一度の行事だ。振り袖を着ないわけにはいかない。
 「16日は、若菜の誕生日だし、今年は長くいられるわね」
 「そ、そうね」
 早く会いたいのになあと思いながら、青柳一郎に電話した。
 「そうなの。今年、わたし、成人式なの。だから、まだ帰れないわ。うん。早く会いたいけど、お父さんもお母さんもわたしの振り袖姿を楽しみにしてるから。えっ? 一度大学に戻って、成人式に大分に戻ればいいって?」
 そば耳を立てているお母さんを見た。
 「いろいろ準備があるから、こっちにいなさい。成人式が済んだら、毎日でも会えるでしょう?」
 ダメダメというジェスチャーをしながらそう言った。
 「聞こえた? そう。だめだって。しょうがないわよ。親のすね囓ってるんだもの。言うこと聞かないと。えっ! わたしの振り袖姿みたいから、こっちに来るの? いいわよ。大歓迎だわ。一緒に写真撮ろう? うん。両親にも紹介するわ。じゃあ、待ってる」
 しばらく会えないけれど、成人式のわたしの晴れ姿を見に来ると言うし、両親にも挨拶したいという。嬉しくて叫んで回りたい気分だった。

 14日、髪の毛をセットして貰い、15日は早くから起きて、お母さんに着付けをして貰った。成人式は12時から、その前に青柳一郎がマンションにやってくると言った。ぼくは今か今かと待っていた。
 午前10時10分前、ピンポンと玄関のチャイムが鳴った。
 「はあい」
 お母さんが出ようとするのを制して、ぼくは玄関へ飛んでいった。ぱりっとしたスーツを着ているけれど、相変わらずぼさぼさの頭に、無精ひげの青柳一郎が立っていた。
 「いらっしゃい。・・・・散髪はともかく、髭くらい剃ってくればよかったのに」
 「寝坊して、電車に乗り遅れそうで・・・・。それに、これはぼくのトレードマークだから」
 「まあ、いいわ。入って」
 青柳一郎は、手のひらで髪の毛をなでつけながら玄関を上がった。
 「お父さん、お母さん。青柳一郎さんです」
 「初めまして、青柳です。すみません。髭も剃らないで」
 「若菜の父です。若菜から、無精髭がトレードマークだと聞いてますから」
 「あ、申し訳ないです」
 青柳一郎は頭を掻いた。
 「若菜の母です」
 「どうも。あの、これ、つまらないものですけど、実家から送ってきたものです」
 青柳一郎は、タルトと書かれた包みをお母さんに差し出した。
 「こんなことされなくっても」
 「いえ、手ぶらでは来られないですから」
 「じゃあ、遠慮なく」
 「青柳君、そんなところじゃなくて、こちらに座りなさい。若菜。お茶をお出ししないか」
 「振り袖が汚れるわ」
 「わたしがやります」
 お母さんがタルトを抱えてキッチンへと消えていった。
 「若菜さん、綺麗だよ」
 青柳一郎が、にこにこと笑顔を見せながら言った。
 「ありがとう」
 「馬子にも衣装でしょう?」
 「なによ、お父さん。それはないでしょう? 一人娘の晴れ着姿に向かって」
 「イヤ、ホントに綺麗です。惚れ直しました」
 青柳一郎は、ぼくの振り袖姿を上から下まで嘗めるようにしてみた。
 「やだあ」
 ぼくは顔を赤くする。
 「ところで、青柳君は医学部だと聞いたが、将来は開業でもするのかね」
 「いえ。できれば、僻地医療に従事したいと思っています」
 「僻地医療・・・・。そうかね」
 「お金儲けに走る人が多いのに、青柳君は立派でしょう?」
 ぼくは、青柳一郎のそばに座って、お父さんに微笑む。
 「それはそうだが、わたしは商売柄いろいろと知っているが、僻地医療もそう理想通りにはいかないものだよ」
 お父さんは、僻地医療を目指すと言うことに不満なようだ。
 「わたしが薬剤師の免許を取って、青柳君を助けてあげるの」
 「若菜は、青柳君と結婚するつもりなのか?」
 青柳一郎と、結婚について話したことはない。だけど、できれば結婚したかった。こどもができない、ホントは女じゃないと言うことは抜きにして。
 「今すぐにと言う訳じゃないんですが、若菜さんと結婚させて貰えますか?」
 ぼくがお父さんに返事をする前に青柳一郎が答えた。今日は紹介するだけのつもりだったのに、意外な展開に驚きを隠せなかった。
 「結婚? まだ結婚を考える年じゃないだろう?」
 「だから、今すぐというわけじゃなくて、少し先の話しです」
 「先になったら、気持ちが変わるんじゃないのか?」
 お父さんは、普段はぼくをホントの女として、娘として扱ってくれる。だけど、ホントの女ではないから、結婚を承諾できないのだろう。後々になってばれたら、申し開きができないからだ。
 「そうですわ。結婚なんて考えるのはまだ早いでしょう? ゆっくり付き合ってから、決めたらどうですか? ハイ、お茶どうぞ」
 お母さんも、お父さんに同調する。
 「気持ちは変わりません。ホントのところは今日にでも結婚したいところです」
 そう、きっぱりと言った。
 「そうか。君の気持ちは分かった。・・・・しかし、若菜との結婚を承諾できない理由があるんだ」
 「その理由なら知っています」
 「なに? 知ってる?」
 お父さんとお母さんが顔を見合わせた。
 「はい。若菜さんは、こどもができない体だって言うんでしょう?」
 「・・・・その通りだ。しかし、どうしてそのことを」
 「若菜さん自身から聞きました」
 ビックリした。そんなことは青柳一郎に話したことはなかったからだ。話してないのに、どうしてそのことを知ったんだろうか? ・・・・青柳一郎と始めて関係したとき、ぼくの秘密が分かっていると言った。やっぱり、ぼくがホントの女じゃないことに気づいていたんだろうか。
 「若菜。そうなのか?」
 「は、はい」
 そう答えるしかなかった。
 「・・・・そうか。そのことを知っていて、若菜と結婚しようと言うのだな」
 「はい。そうです」
 「どうしてまた・・・・。君なら、他にもいい女性がいるだろうに」
 「若菜さんの他には、好きな人はいません」
 「ホントに、こどもができなくてもいいのか?」
 「はい」
 「うーん」
 お父さんは、両腕を組んで考える。お父さんだって、できるものならぼくを結婚させたいだろう。だけど、ぼくが性転換して女になったなんてことは言い出せないに違いない。
 「イヤ、やっぱり駄目だ。若菜とは結婚させられない」
 やっぱり・・・・。
 「どうしてですか?」
 「今は、こどもができなくてもいいなんて言っているが、先になったらきっと後悔する。いまのうちに若菜のことは忘れた方がいい」
 「後悔なんてしません」
 「イヤ、きっと後悔する。それに、君の両親に何と言う。こどもを産めないと分かっている女との結婚なんて、許すはずがない」
 「許してくれなくても、若菜さんと結婚します」
 「駄目だ」
 「お願いします」
 「駄目だと言ったら駄目だ!」
 お父さんは、ソファーから立ち上がって窓際へ行き、外を眺め始めた。もう話しをしたくないという意思表示だ。お母さんは、青柳一郎を見たり、お父さんを見たり、どうしていいのか分からないようだ。
 ぼくもどうしたらいいのか分からなかった。青柳一郎と結婚したい。だけど、お父さんが考えるように、それは許されないことかもしれない。
 「実は、お父さんには黙っていましたけど、11月の初めから、ぼくたち一緒に暮らしているんです」
 「な、なに? ど、同棲してると言うことか?」
 お父さんが驚きを露わにして、ぼくたちの方を振り返った。お母さんも目を見開いた。
 「そうです」
 「じゃ、じゃあ、夜の生活も?」
 「当然です。ぼくたちは、もう他人じゃありません」
 お父さんとお母さんがぼくを見た。ぼくは、恥ずかしくて下を向く。お父さんもお母さんも、ぼくの体に膣が作られ、男を受け入れることができることは知っている。だけど、ホントにそれができるなんて信じられない様子だった。
 「若菜。嘘を付いてたんだな?」
 「ごめんなさい・・・・」
 ぼくは小さく呟くように返事した。
 「まあ、すんでしまったことは仕方ないが・・・・」
 お父さんもお母さんも、かなり困惑した表情を浮かべている。
 「お願いします、お父さん。ぼくたちの結婚を許すと言ってください」
 「た、例え同棲していようと、結婚だけは駄目だ」
 「どうしても?」
 「ああ、駄目だ」
 青柳一郎は、ちょっとの間考え込んだ。そして、決心したように話し始めた。
 「話しは変わりますけど、若菜さんは、おふたりの実子じゃなくて、養女ですよね」
 「そ、そうだが、どうしてそれを?」
 お父さんとお母さんは、青柳一郎がどうしてそんなことを言い出すのかといぶかりながら顔を見合わせた。
 「ぼくは若菜さんのことは何でも知っています。若菜さんは、お父さんのお兄さん、中川謙一郎さんの一人娘で、お父さんの姪にあたりますよね」
 「その通りだが・・・・」
 ぼくは驚きいっぱいに青柳一郎を見つめた。そんなこと、話したこともないのに、どこでどうやって知ったんだろう?
 「中川謙一郎さん夫妻は、8年前半ほど前、おばあちゃんの葬式帰りに事故に遭って亡くなっています」
 「ホントによく知ってるな」
 お父さんは呆れたように青柳一郎を見た。
 「まだまだいろんなことを知っていますよ。ふたりの死亡保険金が遺産として若菜さんに残されました」
 「どうして、そんなことまで・・・・」
 青柳一郎はにやりと笑った。
 「その遺産は定期預金されていて、明日、若菜さんの誕生日に満期を迎え、若菜さんの手に渡ることになっています」
 お父さんの目が驚きに見開かれた。
 「お父さん、ホントなの?」
 「あ、ああ、ホントだ」
 知らなかった。若菜お姉ちゃんに、そんな遺産が残されているなんて。
 「遺産の総額は、当時約1億だったけど、利子が付いて今は1億5000万ほどにはなっているでしょうね」
 「そんなに・・・・」
 その時ぼくは、はっと気がついた。まさか、・・・・まさか、その遺産のためにぼくを・・・・。お父さんを見たけれど、お父さんは、青柳一郎を睨み付けていた。
 「そこまで知っていて、こどもを産めない若菜と一緒になる目的は、その遺産目当てと言うことじゃあ・・・・」
 「遺産目当て? 遺産目当てですか。そんな言葉をお父さんの口から聞こうとは思わなかったですね」
 「どういう意味だ?」
 青柳一郎は、フッと笑いを浮かべた。
 「お父さん、あなたには、ホーバーフェリーの事故で行方不明になった息子さんがいましたよね」
 「あ、ああ」
 お父さんの顔が青ざめた。
 「ちょっと洗面所をお借りしてもいいですか?」
 返事を待たずに、青柳一郎は立ち上がって洗面所へ向かった。ぼくはお父さんに詰め寄った。
 「お父さん、若菜お姉ちゃんの財産を横取りするために、わたしを・・・・」
 「・・・・すまない。だが、お前のためだ。初めからこんなことをするつもりじゃなかった。おまえがホーバーの事故の時に女の子の格好をしていることを知られたくないというから、若菜の振りをさせていた。若菜の生存が絶望視され始めたとき、わたしは考えたんだ。このままでは、親戚連中に若菜の財産をみんな奪われてしまうと。お前に若菜のすべての財産を相続させたかった。愛だけでは幸せは買えない。金がなければ幸せになれない」
 「酷い・・・・。お金なんか、いらないのに・・・・。お母さんもそのことを知ってたのね」
 「ごめんなさい、若菜。でも、あなたのためにやったことよ」
 「わたしのため? わたしのためになんかなってないわ。わたし、去年こどもが産めないって告白して愛する人を失ったわ。わたしにとって、お金なんかより、愛の方が大切なの。一郎さんが、わたしと結婚してくれるって言う理由が、お金のためだって言うのなら、わたし、もう生きていられない・・・・」
 「・・・・そうだったの。そうよね。お金があっても、愛する人がいなければ、生きては行けないわね・・・・」
 「それはともかく、青柳一郎が、若菜の財産を狙って若菜に近づいたとしたら、そんなことは許せない。・・・・しかし、どうして、いろんなことを知っているんだ?」

 がちゃりとドアが開いて、青柳一郎が戻ってきた。その姿を見て、ぼくはビックリした。青柳一郎は、無精髭をそり落とし、髪をヘアリキッドで整えていたのだ。
 驚いたのは、それだけじゃなかった。青柳一郎の顔は、お父さんそっくりだったのだ。ぼくばかりでなく、お父さんもお母さんも驚きに目を見張っていた。
 「き、君は一体誰だ?」
 「酷いなあ。ぼくの顔を見て分からないなんて。ぼくですよ、お父さん。あなたの息子の稔ですよ」
 ぼくは唖然として、青柳一郎を見ていた。
 「う、嘘だ」
 「でも事実です。ぼくは四国まで流されて、今の養父である青柳琢磨に助けられたんです」
 「嘘だ。嘘だ!! いなくなったのは若菜だ。稔はここにいる」
 「お父さん。ここって、どこにいるんですか?」
 お父さんは、ハッと口を閉じた。
 「そこにいる若菜さんが稔君だって言うんですか?」
 「ち、違う。その子は若菜だ」
 「そうですか? そこにいる若菜さんは、稔君じゃないんですか?」
 「わ、若菜は女だ。稔の筈がないじゃないか!」
 「お父さん、ぼくは若菜さんと同棲してるって言ったでしょう? 若菜さんが、本物の女とは違うことは分かっているんですよ」
 やっぱり。やっぱり気づいていた。ぼくは茫然と青柳一郎を見つめた。
 「若菜さんは、性転換して女性になった稔君ですね」
 「ち、違う!」
 「今更否定しても無駄ですよ。ぼくは若菜さんの体の隅々まで知っているんですよ。若菜さんは、ホントの女性じゃない。お父さんは、稔君がここにいると言った。つまり、そこにいる若菜さんが性転換して女になった稔君だと言うことです」
 「そんなことはない!」
 否定したが、お父さんの声は震えていた。
 「じゃあ、染色体検査をしますか?」
 「ぐぐっ・・・・」
 反論のしようがなかった。
 「ぼくは、すべてを知っているんだから」
 「脅迫するつもりか? ・・・・そうか、お前こそ、わたしに似ていることを利用して、稔になりすまして、若菜の財産を手に入れるために、この子と結婚しようと言うのだな」
 「ぼくが稔君に似ているのが、偶然だと思うんですか?」
 ぼくもお父さんも、その質問に驚く。
 「そこにいる若菜さんは、性転換して女になった稔君だ。それは、もう認めてもいいでしょう?」
 はっきりとそうだと答えるわけにもいかず、ぼくたちは黙っていた。
 「まあ、いいでしょう。それはさておき、それでは、稔を名乗っているぼくは一体誰でしょうか? お父さん、もう気づいてもいいでしょう?」
 青柳一郎は、ぼくたちが知っている人物だというのか? まったく想像がつかない。
 「分からないみたいですね。じゃあ、白状しましょう。そこにいる若菜さんが、稔君なのですから、ぼくは当然稔じゃない。青柳一郎というのも本名じゃないんです。ぼくの本名は・・・・、中川若菜。中川謙一郎の残した遺産の正当な相続者です」
 ぼくとお父さんは、その言葉に驚きを露わにした。
 「ば、馬鹿な。若菜は女だ。君は男じゃないか」
 青柳一郎が、若菜お姉ちゃんであるはずがない。青柳一郎のペニスは作り物ではないし、ぼくは何度となく青柳一郎の放出したものを口で受け止め飲み込んだ。青柳一郎は間違いなく男だ。
 「でも、ぼくは中川若菜なんです。そこにいる若菜さんと結婚するのは、財産のためじゃありません。こどもの頃約束したからです。大人になったら、結婚しようって」
 そう言って、青柳一郎はぼくの方を向いて微笑んだ。大人になったら結婚しよう? そんな約束をしたのは・・・・。ぼくは首を傾げて青柳一郎を見た。