第10章 恋をしてしまった

 寝ても覚めても青柳一郎の顔が浮かんできた。ぼくは完全に恋していた。野村祐樹とあんな別れ方をしたことを思い出した。あんな告白をしたのが失敗だった。今度は黙っていよう。騙してでも青柳一郎に抱かれよう。そう決心した。
 ホントは、キャンプが終わったらすぐに大分に帰るつもりだった。だけど、青柳から電話があるかもしれないと思うと帰るに帰れなかった。
 ぼくの方から電話しようかと思ったけど、女の方から電話するなんてちょっと躊躇われた。
 キャンプから帰って三日目の夜遅く電話が鳴った。青柳一郎からかもしれないと急いで受話器を取った。
 「はい、中川です」
 「遅くにすみません。青柳です」
 やっぱり青柳一郎だ!! 嬉しくて胸が高鳴った。そんな気持ちを抑えて返事をした。
 「いえ、いいです。・・・・あのう、なんの用事でしょうか?」
 「・・・・よかったら、明日会ってもらえませんか?」
 「デートのお誘いですか?」
 「あ、そう。そうです」
 「どこに、何時に、行けば」
 「会ってくれるんですね」
 「ええ、勿論です」
 「あ、じゃあ、午前10時に本学の正門前で」
 「午前10時に、本学の正門前ですね」
 「はい。何時間でも待ちますから、必ず来てくださいね」
 「間違いなく行きます」
 電話が切れた後もどきどきしていた。返事がちょっと冷たかったんじゃないかと不安になる。

 朝早くから目が覚めた。シャワーを浴びて体を綺麗に洗い、新しい下着を身に着けた。ぼくは何を期待してるんだろう?
 トーストと紅茶の朝食を済ませると、出かける準備をした。黒のラインのアクセントが入ったワンピースを着て、髪をとかして化粧をした。あんまり濃くならないように、自然な仕上がりで・・・・。デートは初めてじゃないけれど、まるで生まれて初めてデートするように胸が高鳴った。
 ショルダーバッグを抱えて、9時前から部屋の中をうろうろする。待ちきれなくなって、午前9時半にはアパートを出た。
 アパートから正門前まではそうかからない。午前9時40分には正門前に着くだろうな。そう思いながら、ゆっくり歩いていると、正門前に既に青柳一郎の姿があった。
 ぼくは、髪と服装をもう一度チェックすると、青柳一郎のそばに駆け寄った。無精ひげは相変わらずだけど、服はこざっぱりしたものを着ていた。
 「もう来てたの?」
 「あ、今来たところ」
 「そう? どこに行く?」
 「デートなんてしたことがないから・・・・」
 「嘘でしょう? 医学部の学生がデートもしたことがないなんて」
 「嘘じゃないよ。ほとんど毎日バイトだし、たまの休みには山に登っているから」
 毎日バイトという話しも聞いていたし、嘘を言っているようには思えなかった。
 「信じてあげる。・・・・そうね。シャングリアでお話ししましょう」
 「シャングリアって?」
 「おしゃれな喫茶店よ。行ったことないの?」
 ぼくたちはシャングリアに向かって歩き始めた。
 「知らないよ。遊ぶ暇はないからね」
 「今日は? 今日はバイトも山登りもないのね」
 「バイトは休みだけど、山登りは断った」
 「断ったの。好きな山登りを断ってまで、わたしをデートしてくれたのね」
 「あ、まあ、そうだね」
 「嬉しいわ」
 「ホントに喜んでくれるの?」
 「ええ」
 「よかった。ぼくみたいな男の誘いを受けてもらえるとは思わなかったよ」
 「そうね。その無精ひげを何とかしたら、近寄ってくる女性も多いんじゃないの?」
 「これ? これはちょっとね」
 「剃らない理由があるの?」
 「・・・・そのうち説明するよ。ところで、君の着ているワンピース、可愛いね」
 「ありがと。さあ、ここよ」
 シャングリアに入って、ケーキセットを注文して、向かい合って話しをした。髭面の中の目は、今日も優しかった。この目はどこかで見た目だ。思い出そうとして、どうしても思い出せなかった。
 「将来は、何科のお医者様になるの」
 「そんなこと、まだ決めてないよ」
 「お父様もお医者様なんでしょう?」
 「ああ」
 「お父様は何科?」
 「内科。糖尿病とかの代謝疾患が専門だよ」
 「つまり、成人病が専門なのね」
 「そう言うことだね」
 「お父様の跡を継ぐんじゃないの?」
 「イヤ、ぼくはどちらかというと外科系にしようと思ってるんだ」
 「外科って、手術するんでしょう? 血を見るの、怖いわ」
 「慣れてしまえば、そうでもないって言ってたよ」
 「血なんかに慣れたくはないわ」
 「そうだね。君は薬学部を出たらどうするの?」
 「お父さんみたいなプロパーじゃなくて、薬局を開こうと思ってるの」
 「薬局かあ。それもいいだろうね」
 医学部の学生と薬学部の学生のカップルは多い。上手くいくといいなと思っていた。その後もとりとめのない話しをして、昼にはランチを注文し、さよならを言ったのは、午後4時だった。まだまだ一緒にいたかったけれど、青柳が家庭教師のアルバイトに行くというので、やむなくお別れを言った。
 「また誘ってくれる?」
 「いいの? 他にいい人がいるんじゃあ」
 「いないわよ。わたし、不器用なの。同時に複数と付き合うなんてできないわ」
 「ぼくと付き合ってくれるの?」
 「ええ。あなたがよかったら」
 「嬉しいよ。じゃあ、また連絡する」
 「またね」
 時々振り向いて手を振ってくれる青柳一郎。誰かに似ている。だけど、それが誰なのか・・・・。

 その夜、午後8時頃電話が鳴った。青柳一郎からだと思ったぼくは、明るい声で受話器に返事をした。
 「若菜。楽しそうな声だけど、いったいいつになったら帰ってくるの?」
 お母さんからだった。
 「あ、もうすぐ」
 「もうすぐっていつなの?」
 「レポート書きが終わったらすぐに帰るわ」
 「いつ、すむの?」
 「エッとねえ、来週の火曜日には・・・・」
 「なんのレポートよ」
 「あ、あのね。薬理学のレポートなの。教授が厳しくって、水曜日までに出せってうるさいの。だから」
 「そう、それなら仕方がないわね。電話くらいしなさいよ。連絡がないと心配するんだから」
 「はあい」

 翌日の夜10時頃、青柳から電話が入った。デートの誘いだと思ったのに違っていた。
 「来週実家に帰るんだね。そうか。もう一度会いたいけど、時間がとれないなあ。ごめん」
 「いいわよ。バイトが忙しいんでしょう?」
 「ああ。この時間なら、会えないこともないんだけど、まだそんな仲じゃないから」
 どんなに遅くてもいいと口に出かかったけど、何とか飲み込んだ。
 「9月の10日くらいしか帰ってこられないけど・・・・」
 「実家に電話してもいい?」
 「いいわよ。お父さんもお母さんも結構オープンな人だから。こそこそ付き合うより、ちゃんとした方がいいの」
 「じゃあ、実家の電話番後を教えてくれ」
 「いいわ。あのね、097の・・・・・・・」

 青柳一郎は、午後10時過ぎにはほとんど毎日電話をかけてきた。
 「青柳って子、ずいぶん若菜にご衷心のようだが、付き合ってるのか?」
 「付き合ってるって言うか、デートはまだ一回したきりよ」
 「ほう。一回だけね。どこの学部だ?」
 「医学部」
 「医学部! そら、いいのを引っかけた」
 「引っかけたはないでしょう? 向こうが誘ったのよ」
 「何年生だ?」
 「・・・・1年生」
 「何!? 1年生! じゃあ、年下か?」
 「現役だったらね。現役でも実年齢はおない年だわ」
 「それはそうだが・・・・。医学部の学生は、遊び人が多いと言うが、大丈夫か?」
 「彼はそんなことないわ。わたし、男を見る目には自信があるの」
 「そうか。それならいいが。ま、いろいろと付き合って、経験を積むんだな」
 「うん」
 お父さんは、ぼくをにこにこしながら見ていた。その時分かった。青柳一郎の目はお父さんに似ているのだ。お父さんに似ているから、好きになったのに違いない。
 そう思ってお父さんを見てみると、後ろ姿も青柳一郎とお父さんはよく似ていた。女は父親の影を追うという話しを実感した。

 大学に戻ったら毎日でも会えると思ったのに、青柳一郎はバイトが忙しい上に、前期試験が始まったものだから、まったく会うことができなかった。
 ようやくデートしたのは、前期試験が終わった日だった。毎日電話で話しているのに、何年も会わなかった恋人同士のように寄り添って話しをした。
 青柳一郎がその気なら、いつだって抱かれようと思っているのに、ぼくの手さえ握ってくることがなかった。誠実な男だというぼくの勘は当たっているのだけど、ぼくとしてはちょっと物足りないような気がしていた。
 三度目のデートの時、ぼくはかなり短いミニスカートをはいた。挑発は成功している。青柳一郎の股間が盛り上がっているのを見たからだ。だけど、やせ我慢をしているのか、キスさえもしようとしなかった。
 別れ際、ぼくの方からキスした。青柳一郎は、戸惑いと喜びが混じったような表情を見せた。
 だけどその後、ぼくにかかってくる電話の回数が減り、デートの約束もできなかった。ぼくの方から迫ったことに腹を立てているのだろうか? 真意が分からないまま時間が過ぎていった。

 11月2日文化の日の前日、一週間ぶりに青柳一郎から電話が入った。
 「電話しなくてごめん。むちゃ忙しくて・・・・」
 「わたしのこと、忘れたのかと思ったわ」
 「忘れちゃいないよ。毎日若菜のことを思っていたよ」
 「ホント?」
 「ホントだよ。明日は、時間、あるかなあ」
 「日本全国、みんなお休みの日だから、わたしも時間があるわ」
 「映画でも見に行かないか?」
 「そうね。映画より、わたしのアパートに来ない? ご馳走作ってあげるわ」
 「若菜のアパートに?」
 「女の部屋に来るのはイヤ?」
 「あ、うん。そうだな。行ってもいいけど・・・・。ご馳走って、何を作ってくれるの?」
 「来てのお楽しみ。どうするの? 来てくれるの?」
 「行くよ。何時頃行ったらいい?」
 「そうね。11時頃は?」
 「まさか午後の11時じゃないだろう?」
 「それだったら、今から来てくれって言うわ」
 「そうだね。じゃあ、明日の午前11時に」
 「待ってるわ」
 青柳一郎がぼくのアパートに来る。男と女が関係を持つ場所のトップは、お互いの部屋だという記事が週刊誌に載っていた。チャンスが訪れる。ぼくの胸は高鳴った。
 ベッドに入ってから、青柳一郎のことを思った。あの厚い胸。あの太い腕。すべてを委ねたい。だけど・・・・。ホントにいいのだろうか? こんなに好きじゃなかったら、ぼくが元は男だったことを黙っていて抱かれることもできる。でもぼくは・・・・、ぼくは青柳一郎を本気で好きになってまった。黙ったまま抱かれることへの罪悪感がムクムクと入道雲のように沸いてきた。
 元は男だと告白しないまでも、こどもを作ることができないことだけは、伝えておかなければならない。野村祐樹との時のように、また別れが訪れるかもしれないけれど、その時は諦めるしかない。

 7時に起きて部屋の掃除をしてから、近くのスーパーに買い物に出かけた。得意料理の材料を山ほど仕入れて帰った。
 あんまり着飾るのはやめにした。可愛らしいTシャツにワインレッドのソフトジーンズにした。
 下ごしらえがすんだ頃、青柳一郎がやってきた。
 「こんにちは。お邪魔します」
 「どうぞ。入って」
 青柳一郎は、部屋の中をキョロキョロと見回してから、スニーカーを脱いで部屋に上がってきた。
 「女の子の部屋って、いい匂いがするんだね」
 「そうかしら?」
 「うん。これ、プレゼント」
 背中からぼくの方に回した青柳一郎の手には、真っ赤なバラの花束が握られていた。
 「わあ、ありがとう。コーヒー入れるわ」
 「コーヒーより、お茶の方がいいな」
 「お茶がいいの? すぐに入れてあげるわ」
 お茶を注いでやってから、早速花瓶にバラを生けた。青柳一郎は、そんなぼくの様子をじっと見つめていた。胸が早鐘のように鳴っていた。
 「何ができるの?」
 「えっとねえ、鶏天に麻婆豆腐、豚みそ。それに野菜サラダ」
 「鶏天って何?」
 「鶏肉の天ぷらよ。知らないの?」
 「知らないなあ。食べたことないよ」
 「へえ、そうなの。美味しいのよ」
 あとで聞いた話しだけど、鶏天、鶏肉の天ぷらというのは、大分しかないそうだ。宇和島出身の青柳一郎が知らないはずだ。
 その鶏天を、青柳一郎は美味い美味いと言って食べてくれた。勿論他の料理も。

 食後のお茶を入れてやってから、ぼくは後片づけをする。お皿を洗いながら様子をうかがってみると、青柳一郎はやっぱりぼくの後ろ姿をじっと見ていた。見られるってことは、女にとっては嬉しいものだけど、恥ずかしいと言ったらない。
 「ビデオ、借りてきてるんだけど、見る?」
 「何を借りたんだい?」
 「シュワルツネッガーのツルーライジング」
 「シュワルツネッガー!? アクションものだろう? そんなのが好きなの?」
 「女の子らしくない?」
 「そうだな。そんな女の子がいてもいい」
 「よかった」
 二人並んで壁にもたれてテレビに見入る。しばらくしてから、ぼくは体を青柳一郎に寄せてもたれかかる。すると、青柳一郎は、ぼくの肩を抱いた。何にも話しをしなくても、そばにいるだけで幸せ。
 シュワルツネッガーの奥さん役の女優が、娼婦の振りをして半裸になって踊るシーンになったところで、青柳一郎が突然ぼくの唇を塞いだ。青柳一郎の方からキスしてくれたのは初めてだった。嬉しくて、抱きついてそれに応えた。
 唇を合わせたまま、床の上に倒れ込んだ。青柳一郎は、ぼくのTシャツをまくり上げて手を入れてくる。ぼくは青柳一郎の手を握って抵抗した。
 「や、やめて」
 「やめてって、君の方が誘ったんだよ」
 そう言われて、力を抜いた。青柳一郎の言うとおりだ。ぼくは期待していた。女のぼくの方が誘ったんだ。
 Tシャツもブラも胸の上までまくり上げられて、青柳一郎がぼくの乳首に吸い付いてきた。ビクッと刺激が脳天に届いてくる。
 「あ、うん」
 右の乳首を舌でころころと転がしながら、右手で左の乳首をつまんでくる。自分で触っても感じないのに、すごい快感が沸いてくる。
 しばらくして、その右手がぼくのはいていたジーンズにかかった。ボタンが外され、ジッパーがじりじりと下ろされていった。まさかこのままするつもりじゃあ!!
 「青柳君、もう止めて」
 「ここまで来て、それはないだろう?」
 青柳一郎は完全にその気になっている。もう止められない。それなら、その前に打ち明けておかなければ・・・・。
 「青柳君、ちょっと、ちょっと聞いて」
 「なにを?」
 「・・・・わたし、・・・・わたしには、人に言えない秘密があるの」
 「秘密? いったい、何だ?」
 言おうと思っていたのに、なかなか口に出せない。野村祐樹との別れが頭に浮かぶ。
 「どうしたんだ? そんなに言いたくないことなのか?」
 ぼくは無言のまま頷く。
 「若菜にどんな秘密があろうと、ぼくには関係ない。ただの激情でやろうとしてるんじゃない。ぼくは若菜を愛している。愛しているから若菜を抱こうとしているんだ」
 「でも・・・・。ただの秘密じゃないのよ」
 「例え若菜が男で、性転換して女になったと言われても、ぼくの気持ちは変わらないからね」
 ストレートパンチをくらった思いだった。青柳一郎が今語ったことが事実だと知ったとき、ホントにぼくを愛してくれるのだろうか? 青柳一郎の目を見た。ぼくを愛し、思ってくれているという目をしていた。
 何も言えなかった。すべてを青柳一郎に委ねよう。のちに真実が証され、騙されたと罵られ、別れることになったとしても後悔はしない。
 ショーツの中に手が入ってきた。その指がぼくの敏感なところを捕らえた。マスターベーションで感じた快感なんて、富士山と高崎山くらいの違いがあった。
 舌が乳首から離れ、青柳一郎がぼくのはいていたジーンズを脱がせる。ぼくは腰を上げて脱がせ易くしてやった。さらに、ショーツがゆっくりと脱がされていった。
 「綺麗だ」
 恥ずかしさよりも、喜びが沸いてきた。ぼくは愛する人にすべてを捧げる。誰にも見せたことのない裸のぼくと、処女を。
 青柳一郎がぼくの両足を割って顔を埋めてきた。手術したドクターと看護婦さんにしか見せたことのないところを他人にさらすのは初めてだ。
 壁に掛けた時計は午後3時過ぎを指していた。カーテンは閉め切っているけれど、部屋の中はまだ明るい。この明るさの中でぼくのそこを見れば、ホントの女性のものと違うことは一目瞭然だ。もう気づいただろう。驚きに目を見張る青柳一郎の顔が目に浮かぶ。
 ところが、青柳一郎は、何事もないかのように、ぼくの敏感な部分、クリトリスに舌を這わせ始めた。さらに襞へ。そして膣の中へと舌を入れてくる。
 気がつかないのだろうか? キャンプの時、付き合っている女性はいないと言っていた。まさか女性経験がまったくないとは思えないのだけれど。それに、医学部の学生と言えば、解剖学などの本が容易に手に入るはずだ。女の構造がどうなっているか位のことは分かっているはずなのに・・・・。
 それとも、ぼくがホントの女じゃないことが分かっていて続けているのだろうか? 直接聞くわけにもいかず、ぼくは黙ったまま青柳一郎の長い、長い愛撫を受けていた。
 青柳一郎の舌がぼくから離れた。見ると、青柳一郎はTシャツを脱ぎ始めた。鍛え上げられた筋肉が目に飛び込んでくる。それから、ジーンズのベルトを緩めて脱いだ。地味なトランクスをはいていた。
 ぼくは上体を起こして、Tシャツとブラを自ら剥ぎ取って全裸になり、青柳一郎のトランクスを脱がせた。それから、天井を向いて雄々しくせり上がっている青柳一郎のペニスを両手で握って口の中に含んだ。
 ホントはぼくの股間にも、これと同じものがあったんだよねと思いながら、舌を使って丁寧に舐めあげた。固くなったペニスがぼくの口の中で拍動していた。
 「もういいよ」
 そう言われて、ぼくは手を離し両足を開いて仰向けになった。青柳一郎がぼくにキスしながら、ペニスをぼくの膣の入り口にあてがった。準備はできている。
 「いくよ」
 「ええ」
 最初にゴクッと入る感触がして、ヌルヌルと進んできた。少し痛い。
 「大丈夫?」
 ぼくの顔に痛んでいる表情が出たのだろうか、動かそうとするのを留まって、そう聞いてきた。
 「大丈夫よ」
 ぼくの返事を待って、ゆっくりと動かし始めた。痛みが増したけど、その痛みも次第に軽くなっていき、代わりに得も言われぬ快感がわき起こってきた。
 「ああ、はあん」
 ぼくが感じ始めているのを察したのか、青柳一郎はさらに激しく腰を動かす。
 「あん、あん、あん。ああん」
 ホントに気持ちがよかった。どんどん上っていくのが分かる。
 「ああ、ああん。あっ、あっ、ああ。ああ、いきそう・・・・」
 「若菜。ぼくもいきそうだ。・・・・ううっ。い、いくよ」
 「き、きてえ」
 「うはっ!!」
 叫び声とともに、ぼくの中にあった青柳一郎のペニスが、何倍にも大きくなったように感じた。そして、ぼくの中で暴れ回った。
 「い、いくう・・・・」
 体が痙攀してのたうち回り、目の前が真っ白になった。
 「あ・・・・・、あ、はああん」
 何も見えず、何も聞こえなくなった。一瞬ののち、青柳一郎の体重がぼくにかかってきた。
 「ふうう」
 青柳一郎の大きな息がぼくの耳元にかかる。ぼくは、青柳一郎の胸に顔を押し宛て、力の限り背中を抱きしめた。横目で見ると、時計は午後3時半を指そうとしていた。長いようで、あっと言う間に過ぎ去った30分だった。
 「若菜。どうだった?」
 ぼくの唇に軽くキスしながらそう聞く。
 「よかったわ」
 「ぼくもだ。上手くやれたよ」
 その言い方にちょっと首を傾げる。
 「まさか初めてだなんて言わないでしょうね」
 「それが、初めてなんだ」
 照れたようにそう答えた。
 「嘘」
 「ホントなんだ。まだ誰ともしたことがない」
 「信じられないわ」
 「信じられなくてもホントだよ。上手くやれるように、一生懸命勉強したけどね」
 医者の息子で、医学部の学生だから、遊んでいるだろうとの先入観があった。どうもそれは間違いだったようだ。
 「若菜の方は?」
 「初めてに決まってるでしょう? わたし、そんなにふしだらに見える?」
 「だって、若菜の方から誘うんだもの」
 「・・・・それは。そうね。そう思われても仕方ないわね。でも、一郎さんを他の女の人に奪われたくなかったの」
 「そうか。童貞と処女で、こんなに上手くやれるなんて、ぼくたち、よっぽど相性がいいんだね」
 「そうみたいね」
 「もう一度やれる?」
 「いいわよ」
 青柳一郎のペニスはまだぼくの中にあった。そのまま、腰を動かし始めた。動かしているけれど、今度はぜんぜん上ってこない。麻痺したように何も感じないのだ。感じている振りをした方がいいのだろうか。そう思っていると、青柳一郎は、腰を動かすのを止めた。
 「続けて二度は無理みたいだ」
 そう言いながら、ぼくの中から抜け出ていった。抜け出たペニスを見てみると、もはや天井を向くほどの固さは失われていた。
 ぼくの中から、何かが流れ出てくるのを感じた。青柳一郎がぼくの中に放ったザーメンが流れ出てきたのだ。青柳一郎がすぐにそれに気づいて、テーブルの上にあったティッシュを何枚か取ってぼくに手渡してきた。ぼくは急いで股間から流れ出る液体を拭った。栗の花の臭いって、本に書いてあったけど、こんな臭いがするんだと感慨を覚えた。
 青柳一郎も、ペニスに付着した粘液をぬぐい取った。
 「シャワー、浴びた方がいいかな?」
 「そうね」
 「一緒に入る?」
 「べえっだ」
 「いいじゃないか。他人じゃなくなったんだから」
 「それでもイヤ!!」
 青柳一郎は、肩を竦めて諦め顔でバスルームへ消えていった。

 シャワーの音が聞こえてくる。一緒に入らないと言ったのに、ぼくの足はバスルームへと向かっていた。ドアをそっと開けてみた。青柳一郎の後ろ姿が見えた。その後ろ姿に惚れ惚れと見入っていた。
 青柳一郎が振り向いた。腕を引っ張られて、あっと言う間に中に引き込まれた。
 「若菜。愛してるよ」
 落ちてくるシャワーの中で抱きしめられてキスされた。痺れた。キスだけでいってしまった。
 萎えていたペニスが復活してきた。ぼくは立ったままもう一度受け入れた。最高の気分だった。若菜お姉ちゃんの振りを続けるために、無理矢理性転換されたときは絶望的な気分になったけど、こうして愛して貰えて幸せだった。
 だけど、ぼくがホントの女じゃないと告白しなければならないことを思い出して、そんな幸せな気分も吹っ飛んでしまった。
 「どうした? 悲しい顔をして」
 「やっぱりわたしの隠していた秘密を話さないと・・・・」
 「話すと、ぼくらの関係が壊れるかもしれないと思っているんだろう?」
 ぼくは小さく頷く。
 「じゃあ、何も言うな。秘密の一つや二つ、あってもいいじゃないか。ぼくにだって、若菜に言えない秘密があるんだ」
 「わたしの秘密は、そんなに簡単に片づけられる問題じゃないわ」
 「もう止めろよ。若菜の秘密なんて、ぼくには分かってるんだ。だけど、若菜の口から聞きたくない。絶対に言わないでくれ。分かったな」
 ぼくの秘密が分かってるの? ホントに? そうかもしれない。ぼくの女の部分を見て気づかないはずがないのだ。ホントに分かっていて、愛してくれるの? ぼくは涙を浮かべて青柳一郎を見つめた。
 「若菜。愛しているよ」
 その言葉ほどぼくに喜びをもたらしたものはなかった。