第9章 毛利の企み

 毛利自らの手で、男から女へ性転換させた人工的な女性だとはわかっていたのに、毛利は崇を手放したくなくなった。
 (わかっていても、これほどの美人でスタイルがよく、セックスがすばらしい女はそうそういるものじゃない)
 毛利は崇を愛人として囲おうと決心した。
 (そのためには・・・・)
 毛利は、西条に電話した。
 「優君の様子はどうでしょうか?」
 《ああ、完全に元に戻ったよ。フィアンセとセックスができたと報告が入っている》
 「そうですか。それはよかった。メンタルな問題で勃起しないんだろうと思っていましたから、セックスできるかどうか心配でしたから」
 《みんな先生のおかげだよ》
 「西条さん。お礼ついでと言っては何ですが、ひとつお願いがあるんですが」
 《なんだ? 言ってみたまえ。わたしにできることなら、何でもやってあげよう》
 「女性の戸籍を手に入れてもらえませんか?」
 《女性の戸籍? 何に使うんだ?》
 「例の男にやりたいんですよ」
 《ああ、あの男にか。本格的に女として暮らさせるつもりなんだな。それもいいかもしれんな》
 「ご明察。手に入りますか?」
 《蒲生さんを通じて何とかしてみよう。何処に送ればいい?》
 「わたしの病院に。紹介状在中とか何とか書いて送ってください」
 《承知した。それだけか?》
 「今のところは。手術のお礼はたっぷりいただきましたから。今後は連絡しないつもりです。西条さんと優君のために」
 《物わかりがいい。じゃあ、戸籍の件は任せておきたまえ》
 「お願いいたします」
 電話を切ってから、毛利は次のハードルについて考えた。
 (こっちが大変だぞ)

 岡本崇に、女の戸籍を与えるから、女として暮らせと言っても納得しないだろう。体は完全に女になってはいるものの、心は男なのだ。しかも、崇は、女になってしまったことをまだ知らない。ずっと眠らせてあるからだ。
 (岡本を何とか納得させる手だてはないだろうか?)

 10日ほどたって、差出人の書いていない封筒に入って、『吉井綾子』と言う孤児の戸籍が送られてきた。誰がどのように使っても絶対に大丈夫だとの折り紙付きだった。
 (女の戸籍は手に入ったが、岡本を説得するアイデアが・・・・)
 毛利は考えあぐねていた。

 そんなある日のこと、毛利は書店に入った。毛利は、ミステリー好きで、多忙を極める合間を縫って月に4、5冊はミステリーを読むのだ。
 (ぼくを殺した女?)
 毛利は、題名に興味を引かれてその本を手に取った。
 (なに!?)
 毛利は、『ぼくを殺した女』を購入して一晩で読んだ。
 (これだ。これを使おう)
 岡本に女の人格が生まれて、その人格になっている間に女に性転換したことにして、岡本の人格に戻ったと説明しようと考えた。
 (・・・・しかし、そのまま行くと、岡本が何処かのニューハーフクラブなどで働いていたというアリバイがいるな。西条さんに頼んでもいいが、もう連絡しないと約束したし・・・・)
 毛利はじっと考える。
 (性転換。二重人格・・・・。まてよ。性転換に拘るからいけないんだ。二重人格だけで責めればいいんだ。そうだ。そうだ)
 良いアイデアを思いついて、毛利は早速、崇を目覚めさせることにした。

 ぼんやりとしていた意識が次第にはっきりしてくるのを感じた。崇は、目を見開いて天井を見た。初めに見た病室の天井だと思った。
 体は何処も痛くない。怪我は治ったのだろうかと崇は訝った。ベッドの中で、崇は体を動かしてみた。手を握り開いてみた。
 (ちゃんと動く)
 足も動くようだ。崇はゆっくりとベッドの上に起きあがった。幻暈がした。目を瞑り、じっとしていると幻暈は去っていった。
 「ふうう」
 崇は、ベッドの上に手を突いて、ベッドの上、臍のあたりを見ていた。
 (あれ? どうして胸が膨らんでいるんだ?)
 崇は首を傾げながら、夢のことを思い出した。眼鏡の男が崇の胸を揉んでいたことを。崇は慌てて膨らんでいる胸を両手で触ってみた。
 (嘘だろう・・・・)
 パジャマの上から、グニュッとした柔らかい感触を両手に覚えた。それと同時に胸からはパジャマを通じた手の感触が頭に伝わってきた。それでも信じられずに、崇はパジャマの前をはだけてみた。崇は花柄の可愛らしいブラジャーをしていて、カップとカップの間に谷間が見えた。
 慌てた崇は、ブラジャーを上にずらして直接膨らんだ胸を触ってみた。それは間違いなく女の胸、乳房だった。
 (どうなってるんだ?)
 夢の続きを思い出した。思い出して、ぎくりとする。
 (そんなことはないよな・・・・)
 崇は、パジャマのズボンの中に右手を滑り込ませた。いつものトランクスではなく、腰にぴったりとくっついた下着を触れた。手を前に回してみた。下着の上から触れる股間には、何も触れなかった。血の気が引いた。
 (ぼくは、まだ夢を見ている)
 崇は、左手でほっぺたを、そして右手で内股をつねってみた。痛かった。もう一度、左手で胸を、右手で股間を触ってみた。胸は大きく、股間には何も触れなかった。
 (この体は女だ。いったいどうなってるんだ・・・・)
 部屋の中を見回すと、洗面台があった。崇はベッドを出て洗面台の前に立った。
 (誰だ? この女は?)
 見知らぬ女が鏡に映っていた。その女性が崇自身だということはすぐにわかった。鏡の中の女性が崇とは逆の動きをしていたからだ。
 (この女性とぼくが入れ替わったのか?)
 崇は、現実主義者だ。幽霊もUFOも信じない。人格が入れ替わるなんて、そんな非現実的なことが起こるわけがないと思った。しかし、実際に崇は見知らぬ女に変身していた。
 「夢だ。夢だ。これは夢だ」
 そうとしか思えなかった。頭を鏡にぶつけてみたけれど、夢は覚めなかった。
 (これは現実なのか? すると、やっぱり誰かと入れ替わった? いや、そんなことは絶対に起こらない。ありえない。とすると、これはやっぱりぼくだ。じゃあ、どうしてぼくは女なんだ? しかもまったく見覚えのない女・・・・)
 訳がわからず、涙がこぼれた。女になってしまったことが悲しいのか? そうじゃないと思った。じゃあ、何故涙がこぼれるのだろうか?
 (わかった。ぼくがぼくではないからだ)
 意識と体の分離が崇をパニックに陥れていたのだった。

 ガチャリとドアが開いた。振り返ってみると、夢で見た眼鏡の男が立っていた。
 「やあ、元気か? 綾ちゃん?」
 「綾ちゃん?」
 崇は、自分の発した声が、澄み切った綺麗な声であることを自覚した。
 「どうかしたか? 気分でも悪いのか?」
 「綾ちゃんて誰だ?」
 男が首を傾げた。
 「綾ちゃんじゃないんだな。誰だ? 崇か? それともみのりか?」
 男の言葉に今度は崇が首を傾げた。
 「いったいあなたは何を言ってるんだ?」
 「説明しよう。説明する前に、君の名前を聞かせてくれ」
 「岡本崇だ」
 その言葉を聞いて眼鏡の男ががっかりした表情を見せた。
 「なんてことだ。元の人格に戻ったと思ったのに・・・・」
 「はあ?」
 「綾ちゃん、いや、今は崇君だったな。まあ、そこに座りたまえ」
 崇は、男の言うことが理解できずにいた。しかし、男が何か手がかりを話してくれそうだ。崇は、ベッドの上に腰掛けた。

 崇は、不思議そうな顔をして毛利を見ていた。
 (うまく説得できるだろうか? いや、説得しなければならない。感情のあるこの素晴らしい女性を抱くために)
 毛利は、崇に向かって、考えに考えた作り話を始めた。
 「綾ちゃん、いや今は崇君と呼んだ方がいいんだろうね。君がいるこの部屋はどこだと思う?」
 崇はキョロキョロと部屋の中を見回す。
 「どこかの病室のようですけど・・・・」
 「そう。病室だ。ボクは何に見える?」
 崇は、毛利をじっと見つめた。白衣を着ていた。ポケットに聴診器が覗いていた。
 「お医者さんですか?」
 「そう。その通りだ。すると、君はどうしてここにいると思う?」
 「・・・・ボクは病人なんですね」
 「そうだ。どんな病気だと思う?」
 「どんな・・・・」
 崇は考えていた。
 (女になってしまう病気? そんな病気は聞いたことがない。考えてもどんな病気なのかわからなかった)
 「・・・・わかりません。ただ・・・・」
 「ただ?」
 「ボクは、男のはずなのに、身体が女になってしまってるんです。・・・・どうしてなんですか? こんな病気があるんですか?」
 「説明しよう」
 崇は毛利の方に身体を乗り出した。
 「崇君は、男じゃなくて、女なんだ」
 「そんなの嘘です。ぼくは、ぼくは・・・・」
 崇は髪の毛を振り乱して泣き出した。
 「そう興奮するな。崇君は、意識の上では自分は男だと思っているだろうけど、本当は女なんだ」
 「そんなの嘘だ・・・・」
 「嘘じゃないんだ。崇君の本当の名前は吉井綾子と言うんだ。岡本崇というのは、吉井綾子の中にある別の人格なんだ」
 「えっ!? ・・・・それって、ボクは二重人格ってことですか?」
 「そうだ。二重人格と言うより、三重人格なんだ。君の中には、秋本みのりと言うもうひとつの人格も潜んでいるんだ」
 「そんなの嘘だ。ボクはそんな名前なんか知らない。聞いたこともない」
 「それはそうだろう。君の中にある三つの人格は、お互いに意志の疎通がないからね」
 「でも、ボクは生まれたときから岡本崇です」
 「それは岡本崇という人格が作り出した妄想に過ぎないんだ」
 「妄想・・・・」
 「ここに君の治療を記録したカルテがある。それを見なさい。それに沿って説明しよう。これは、吉井綾子の人格には一度説明したことなんだけどね」
 崇は、毛利が差し出した分厚いカルテを手にとって目を通し始めた。このカルテは、毛利が、同僚から借りた別の患者のものをもとに作り上げたものだ。看護記録なども筆跡を変えて書いてあるから、ちょっと見ただけでは、本物と思うだろう。
 「一番表に書いてあるように、君の名前は吉井綾子。静岡県出身、9月10日生まれの22歳だ。
 人格の分裂が最初に記録されたのは、君、吉井綾子が6歳の時だ。女の子は欲しくなかったと何度も言われて両親に虐待されたとき、女の子から逃げ出すために君の中に男の子の人格が形成された。それが、岡本崇の人格だ。岡本崇の人格は、女性のように優しいけれど、時として激しく攻撃的になる」
 この部分は、オリジナルのカルテに沿った表現だ。一部を変えると、あとに響くから名前以外の部分は変えないようにして作ってあるのだ。
 「しかし、両親はそれを見てかえって君を虐待した。君が虐待されているのを知った民生委員によって、君は両親から切り離されて施設に収容された。
 施設に入ってしばらくすると、岡本崇の人格はなりを潜め、君は吉井綾子に戻った。そこで、虐待を反省した両親の元に君を戻したところ、再び君は岡本崇の人格になってしまった。
 施設にいる時は吉井綾子なのだが、両親の元に戻ると岡本崇の人格が出てくるので、君は施設で暮らすことになった。小学校5年生の時に、吉井綾子の両親は、事故で死亡。君は天涯孤独の身だ」
 この部分は、吉井綾子という戸籍に合わせていた。
 「もうひとつの人格、秋本みのりの人格が現れたのは、施設を卒業する直前だ。施設を出ていきたくなかった君の中に、ちょうど幼稚園くらいの幼い子供の人格が生まれた。子供に戻れば、施設を出て行かなくていいとの防衛反応から生まれた人格だ。
 人はいずれはひとりで生きていかなければならないと時間を掛けてようやく吉井綾子の人格に戻った」
 崇は、毛利の言葉を黙って聞いていた。うまく騙されてくれるかなと毛利は心の中で少し冷や冷やしながら話しを続けた。
 「施設を出て、コンビニの店員として働いていたのだが、君はある男と恋をした」
 「ぼくが・・・・男とですか?」
 「君は女だからね。恋いくらいするさ」
 崇は、じっと自分の体を見ていた。うまく行っているようだと毛利は思った。
 「そのままその恋が実れば良かったのだが、君は手痛い裏切りに遭う」
 「どんな?」
 「相手の男が、金持ちの女と結婚してしまったんだ。逆タマと言うことだな。いくら綺麗な女でもわずかな給料しか貰わない孤児より、ブスでも金持ちを選んだと言うことだ」
 崇が突然涙をこぼした。
 (そんな経験があるのだろうか?)
 崇の涙を見ながら、毛利は思う。
 「その時、君の女の人格が隠れ、再び男の人格、岡本崇が現れた」
 「どうして?」
 涙目で崇が尋ねた。
 「女でいたくなかったようだな。選ばれる立場より、選ぶ立場を選んだのかな? これはわたしの推測に過ぎないがね」
 「そう・・・・。それで?」
 「男の人格になった君が、新宿でヤクザまがいの男たちを相手に喧嘩して怪我をしてここに運び込まれてね。治療の過程で二重人格だと言うことがわかって、わたしが君の治療に当たってきたわけだ」
 崇は、手術室にいた記憶があるのは、怪我を治療するためだったのかと思っていた。
 「電気ショック療法や持続睡眠療法で君は回復した」
 「えっ? でも、ぼくは吉井綾子じゃない」
 「そう。昨日までは、吉井綾子だった。今日は退院の日取りを決めようと思ってここに来たのに、君はまた岡本崇になってしまった」
 「どうしてですか?」
 毛利は、答えをちょっとの間躊躇う様子を見せる。これも崇を欺く演技のひとつに過ぎなかった。
 「・・・・調べてみないとわからない」
 「何か原因があるんでしょう?」
 「・・・・そうだろうが、ともかく退院は延期だ。もう少し治療をしよう」
 崇は答えない。毛利の話を信じたか? それとも・・・・。毛利は崇の様子を窺った。
 「元に戻るのでしょうか?」
 「ああ、戻してみせる」
 「お願いいたします」
 崇が毛利に向かって頭を下げた。毛利はやったと心の中で叫んだ。
 「あ、もうこんな時間だ。約束があるんだ。治療は明日から再開する。いいね」
 「はい」
 崇に背中を向けると笑いがこみ上げてきた。
 (さて、仕上げは野崎がやってくれるだろう)
 毛利はドアを開けて部屋を出た。入れ替わりに看護婦の野崎が崇の部屋に入っていった。
 「吉井さん。検温の時間ですよ。はい、体温計」
 野崎が、崇に体温計を渡した。野崎も毛利に買収されて、崇を騙すのに一役買っていた。
 「ぼくの名前は、吉井なんですか?」
 崇はやっぱりまだ疑っていた。だから、別の人物に確かめたかったのだ。
 「ぼく? ・・・・もしかして、崇君なの?」
 「あ、はい。ぼくは岡本崇です。でも、男じゃなくて、どうして女なんでしょう?」
 「今毛利先生が出ていったけど、聞かなかったの? あなたの病気のこと」
 「・・・・聞きました。でも信じられなくて・・・・」
 「信じられなくて当然でしょうけど、自分でもわかっているんでしょう? あなたは男じゃなくて、女だってこと」
 「・・・・ぼくは男じゃなくて・・・・女ですよね」
 「そうよ。可愛い、いえ、とっても美人の女の子よ」
 崇は、黙って下を向いている。
 「昨日までは、吉井綾子ちゃんだったのに、どうしてかな?」
 「わかりません。吉井綾子だなんて言われてもピンと来なくて・・・・」
 「もしかして、昨日の夜、わたしが言ったことが原因かしら?」
 野崎は毛利から教えられていた作り話を始めた。
 「何をぼくに言ったのですか?」
 「・・・・毛利先生には、あなたに隠していたことがあるって言うことよ」
 「はあ? 何を?」
 崇は首を傾げた。
 「今のあなたは綾子さんじゃないから覚えていないでしょうけど、あなたは毛利先生に恋してたの」
 「えっ!? ぼくがあの先生に?」
 「そうよ。いいドクターは患者さんが一刻も早く治って貰いたいと思うから、肉親に接するような思いで治療に当たるのよね。すると、患者さんの方は、それを自分に対する特殊な感情だと、つまり恋してくれていると誤解するの。そう言ったわけで、患者さんが治療者であるドクターに恋することはよくある話なの。あなたのような精神科の病人の場合、治療を進めるためには特に親密にならないいけないのよね」
 「つまり、ぼくを直そうと一生懸命やってくれている毛利先生に、ぼくが恋をしたと・・・・」
 「そう言うことなの。毛利先生も、あなたを本気で好きになっていた節もあるけどね」
 「えっと、野崎さんて言うんですね。あなたは昨日の夜、ぼくに何を言ったんですか?」
 崇が、野崎のネームプレートを見ながら尋ねた。
 「退院したら、毛利先生と結婚するんだってあなたが言うもんだから、毛利先生には奥さんがいるって、つい口が滑って」
 崇が納得したような表情を見せたので、野崎は毛利に言われた役目をうまくこなせたと思った。
 「吉井綾子って言う女性は、不幸な女性なんですね」
 「そう思うわ。だけど、逃げちゃだめなの。前向きに行かないと。もっといい男を見つけるくらいの気概がないと、あなたのオリジナルの人格を取り戻せないわよ」
 「わかりました。頑張ってみます」
 「あら、あら。こんなに時間を食っちゃったわ。体温計、もういいでしょう?」
 野崎は、崇から体温計を受け取ると、体温板に記録して部屋を出ていった。

 野崎が出ていったあと、崇はベッドの上で考え込んだ。
 (ふたりの話しに矛盾はない。ぼくは二重人格で、岡本崇だと思っているのは、間違いなのだろうか?)
 崇は、もう一度、パジャマの前をはだけて、胸を触ってみた。
 (これは女の胸だよな)
 そうしてから、部屋のドアに鍵を掛けて、パジャマの下を降ろし、ショーツも降ろして手鏡で股間を覗いてみた。
 (ここも女だよな)
 右手の中指をゆっくりと割れ目に沿わせて後ろへと進めていった。
 (クリトリス、小陰唇、腟・・・・。間違いなく、ぼくの体は女だ。ぼくがぼくだと思っている意識が間違っている。吉井綾子の両親は事故で死んだと言っていた。今ぼくの中にある記憶の中の両親は、無理心中でなくなっている。綾子は、恋人に経済的な理由で捨てられ、崇も同じ経済的理由で恋人・愛に逃げられた。綾子の記憶から崇の記憶が形成されたと考えると、何の矛盾もない。スタンガンで気絶させられたという崇の記憶も、治療のために行われた電気ショックのためだろう。持続睡眠療法が行われたと言っていたから、意識がもうろうとしていた意味もわかる。・・・・ぼくは、やっぱり吉井綾子なんだ。男の人格を持つ女なんて知られたら、みんな気味悪がるだろうな・・・・。早くよくして貰おう。でも、よくなって吉井綾子の人格が戻ったら、毛利先生に失恋した痛手で苦しむのかも・・・・)

 崇だって、性転換手術という言葉を知らないわけではない。しかし、毛利の行った手術は、素人目には性転換手術が崇の身体に施されたと判断できないほどの仕上がりだったのだ。手術は痛みを伴うという先入観もあって、痛みをまったく感じることのなかったことから、性転換手術が行われたとは考えられなかったのだ。
 毛利のたくらみは完全に成功を収めていた。