都内にある、とある高級マンションの一室。その寝室に置かれたダブルベッドの上に重なり合う男女の影があった。
男の名前は、西条徹54歳。西条リゾート産業の社長である。10年前、父である西条太一郎からバトンタッチして社長となった。当時は、「ホテル西条」一軒だけだったものを、生まれついての動物的な勘と押しの強さで全国へホテルチェーンを展開し、今や日本屈趾のホテル王となっていた。
髪の毛こそ白いものが混じるようにはなっていたものの、その精悍な顔貌と意志の強さを表す目の輝きにうっとりしない女性は一人としていないと言ってもよかった。また、多忙の合間を縫ってジムに通って鍛え上げられた肉体は、まるで鋼のようだった。
その西条徹に貫かれて喘いでいる女は、吉井綾子25歳。西条徹の愛人で、このマンションに囲われて約1年になる。二重眼瞼の大きな瞳は漆黒で、ちょっとだけ上を向いた鼻が可愛い。少し厚めの真っ赤な唇が少しだけいやらしさを醸し出しているが、綾子の顔全体は、年齢に似合わず高校生のように初々しい。一見処女のように見える綾子だが、いったんベッドの中に入るとベテランの娼婦に変身するのだった。
この日も、西条の要求に応えて全身リップサービスをやってやり、フェラチオでその精をすべて飲み下したあと、さらに西条を受け入れていたのだった。
西条に組み伏せられた綾子のオレンジ色にカラーリングされた長い髪がシーツの上に乱れていた。
「ああん、パパ。いいわ。もっと、もっと激しく・・・・」
綾子は、長い足を西条にからみつかせ、西条を奥深くへと導く。フェラチオで行かされたあとだというのに、西条はそれがなかったかのように綾子を責め続けた。
「パパ、パパ、パパ。行って。もう行って。綾子、行きそう・・・・」
「まだまだ。もっと楽しませてくれ」
「ああ、いい。パパ、いいわ。ああ・・・・」
綾子は口を半開きにして喘ぐ。その可愛らしい口から涎が流れ落ちた。
「ここはどうだ? さあ」
「ああん。そこ、だめ。行っちゃううう」
絶頂に達した始めた綾子の身体がのたうち始めたが、西条はそんなことはお構いなしに腰を動かし続けた。
(言葉が出ているうちは、まだホントには行っていない)
これまでの経験から西条はわかっていたのだ。
「あっ、あっ、あっ、はあっ。はっ、はっ、はっ、はあああ・・・・」
西条は、綾子の腟が不規則に西条を締め付けているのを感じた。
(さあ、フィニッシュだ)
西条はその瞬間をコントロールできる。女の絶頂に合わせることができるのだ。
「綾子! 行くぞ」
綾子の口からは、返事がなかった。返事がないと言うより、あまりの快感に返事ができないのだ。
「うううっ!」
西条が行った瞬間、綾子はブリッジをするように身体を仰け反らせ白目を剥いた。西条に絡ませていた足も手もぴんと伸ばして、まるで硬直したようになって呼吸すらしていなかった。
一瞬の間をおいて、綾子が力を抜き、腰を上下させるように痙攀を繰り返した。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ、あああっ・・・・。いいっ!」
西条はその太い腕で綾子を抱きしめて覆い被さっていった。
しばしの微睡みのあと、西条はゆっくりと腕を立てて起きあがった。西条は萎えていくペニスを綾子の中から引き抜きながら、綾子をじっと見つめた。
フッと気がついたように綾子が目を開けて、西条を見返し微笑んだ。
「綾子、愛しているよ」
「愛してる? 愛してるって言ったの? パパ」
輝くような目をして綾子が尋ねた。
「ああ、そうだ」
「パパ。もう一度言って」
「どうしてだ?」
「愛してるなんて言ってくれたの、初めてだから」
「そうか? 初めてか?」
「ええ。初めて・・・・」
綾子は、ポロリと涙を流す。
「そうか。それは悪かったな。綾子、愛してるぞ」
「パパ。わたしも。わたしもパパを愛してるわ」
綾子は、西条の首に両手を回してしっかりと抱きつき、西条の唇を合わせた。
「綾子。結婚しようか?」
「ええっ? 嘘でしょう?」
「真佐子の一周忌がもうすぐ来る。それが過ぎたら、籍を入れよう」
「で、でも、わたし、パパの息子さんと同い年なのよ」
「それがどうしたと言うんだ? わたしは綾子を愛している。綾子はわたしを愛してくれている。年令なんて関係ない。愛があれば年の差なんてさ」
西条が時々カラオケで歌う古い歌の題名が出てきて、綾子はプッと吹きだした。
「・・・・でも、親戚の方たちがなんて言うか。きっと、パパの財産目当てだと言うわ。そんなのいやよ」
綾子のような若い愛人が後妻に入ろうとするとき一番気になるところだ。
「その点に関しては大丈夫だ。わたしに任せておきなさい」
綾子には、西条の性格はわかっていた。西条がそう言ったからには、必ず実現させるのは間違いなかった。
「ホントに? ホントにパパの奥さんにしてくれるの?」
「ああ。一周忌の法要が終わったら、親戚のものを集めてお披露目だ」
「嬉しいいっ!」
綾子は、もう一度西条の唇にその真っ赤な唇を合わせた。
西条と綾子が出会ったのは、銀座にある「花」と言う高級クラブだった。もちろん、西条は常連客であり、綾子は入ったばかりの新人ホステスだった。
西条は、綾子を見た瞬間、何故か運命的なものを感じ取った。
「ママ、あの娘は? あそこにいるピンクのドレスを着た娘だ」
ママの紀代美は、西条が顎で指す方を見た。そこには、別のお客の相手をしている新人ホステス・綾子の姿があった。光の加減でピンクに見えるけれど、あれは白のワンピースだったなと思いながら紀代美は答えた。
「あの娘? ああ、綾子のこと?」
「綾子というのか? 初めて見る顔だな」
「あら? 西条さんがそんなこと言うのを初めて聞いたわ。新人が入っても気にしたことがないのに」
焼き餅を焼いていますわよと言うように、紀代美は肘で西条をつついた。
「そうか? で、いつ入った?」
「先月かな?」
ちょっと考えてから、紀代美は答えた。
「先月? そんなにここに来ていなかったのか?」
「西条さん、ずいぶんご無沙汰でしたもの」
「そうか。そんなに来ていないのか? 若く見えるが、いくつだ?」
「たしか24だって言ってたわね」
「24にもなるのか! ほう。そうは見えないが」
西条は綾子をもう一度見直した。
「幼顔で、いつもそう言われるってこぼしてたわ。どうする? 呼びましょうか?」
即答したいところをちょっと考える振りをしてから西条は答えた。
「そうだな、呼んでくれ」
紀代美が立ち上がって、綾子の方に声を掛けた。
「綾ちゃん! ご指名よ」
「はあい」
相手をしていたお客に、ごめんなさいと挨拶を残してから綾子が西条のテーブルへやってきた。
西条は、隣に座った綾子の肩に手を回した。
「綾ちゃん。西条さんよ。西条さんは、西条リゾート産業って言う全国チェーンのホテルを経営する有名なホテル王なのよ」
「そう・・・・。綾子です。よろしくお願いいたします」
綾子は、気のなさそうな返事を返し、無視するように西条が連れてきた会社の若い者に笑顔を向けた。どこに行っても女が迫ってくる西条にとって、そんな綾子の態度が腹立たしかった。
綾子は西条の話にはまったく乗ってこず、まるで西条がそこにいないかのような態度だった。トイレに立った綾子を紀代美がたしなめたようだが、その態度は変わらなかった。
「帰るぞ」
それまでにこやかにしていた西条は怒りをあらわにして立ち上がって、さっさと出口へ向かった。一緒に来た会社の若い者は、西条の豹変におろおろしながら、後を追った。
ママが店を出たところで取りなしたが、怒った西条はそのままタクシーに乗り込んで帰ってしまった。
「・・・・もう。綾子! どうしてくれるのよ。この店一番のお客様を怒らしたりして」
「わたし、何にもしてません」
綾子はブスッとして答えた。
「何もしないからいけないのよ。せっかく指名しいただいたんだから、そばに座ってできるだけのサービスをしなければいけないのよ」
「あの人、嫌いだからって言ったでしょう」
「嫌いですって? 綾子、好き嫌いしてて、この世界でやっていけると思ってるの?」
「好き嫌いだけじゃなくて、あの人だけはいやです」
「どうして?」
「どうしても」
頑なに西条を拒む綾子に、店のママは呆れるばかりだった。
翌週、西条は再び「花」に顔を出した。綾子は、西条の顔を見ると、知らぬ振りをして他のお客の相手を続けた。
西条はホステスの一人に何枚か札を握らせて、綾子が西条を避ける理由を調べさせた。
「社長さん、わかったわよ」
数日たって、そのホステスが西条の隣に座って耳打ちした。
「綾子ね。小さいときに両親が亡くなって、孤児院で育ったらしいの」
「ほう、孤児か・・・・」
そんな風には見えないなと西条はじっと綾子の横顔を見た。
「それでね。両親のことはほとんど覚えていないらしいんだけど、社長さんの顔が亡くなったお父さんによく似ているらしいのよ」
「わたしが、綾子の父親にか?」
驚いて西条は尋ね返した。
「そう。だからね。何ていうか、社長さんに対して父親みたいな感情が浮かぶんだって。わかります? つまり、娘としては、父親にこんなところで遊んで欲しくないって言うことらしいのよ」
「なるほど・・・・」
西条には娘はいない。しかし、もしいたら綾子と同じような反応を見せるのかもしれないと思った。
(それならば、ホステスとお客という関係じゃなくて、父親と娘という関係で迫ってみるか)
綾子を横目で見ながら、西条は頭の中で計画を練った。
その数日後、綾子はまだベッドの中で微睡んでいた。その浅い眠りを妨げたのは、チャイムの音だった。
「吉井さん! 吉井さん! おられませんか?」
若い男の声がした。朝早くから何事だろうと訝りながら、綾子はガウンを羽織って玄関のドアに近寄っていった。
「どなた?」
「高島屋の宅配のものです」
「高島屋の方? 何も注文してないわよ」
「えっと、パパ、・・・・お父様からのお届け物です」
「はあ? 父からのお届け物?」
「はい。メッセージにそう書かれてあります」
綾子は、ドアチェーンを掛けたままドアを開いて、配達員らしい男の手にした長い箱を見た。その箱の表に張られているメッセージカードの末尾に「パパより」の文字が見えた。
「父は亡くなってるんですけど」
男は困ったような表情を浮かべた。
「でも、吉井様宛ですから」
「そう? じゃあ、いただくわ」
ドアチェーンを掛けたまま、綾子は隙間から長い箱を受け取った。そのとき、ガウンの裾が少しはだけた。
配達の男が、慌てて下を向いて「ありがとうございました」と言い残してエレベーターの方へ走り去っていった。
綾子は、普段何も身につけないで寝る。ガウンの下は全裸だった。箱を受け取るとき、おそらく綾子の茂みが見えたのだろう。綾子の頬が恥ずかしさでほんのりと紅潮した。
『美しく育った綾子に。パパより』
メッセージカードには、そう書かれてあった。
「誰かしら?」
首を傾げながら箱を開けてみると、ワインレッドのドレスが入っていた。綾子は、ドレスを取り出して胸に当ててみた。振り返って鏡を覗く。
「素敵・・・・」
ガウンを脱ぎ去って、そのドレスに足を通した。もちろん、まだ下着は身につけていない。サラサラとしたシルクの肌触りが心地よいと綾子は感じた。
(ピッタリだわ。わたしのサイズをどこでどうやって調べたんだろう?)
綾子は、髪の毛を手で纏めてアップにしてみた。
(アップにするよりもストレートのままの方がいいみたい。・・・・それにしても、送り主は、いったい誰だろう? きっと、お店のお客だろうな?)
そこで、綾子はそのドレスを店に着ていくことにした。店に着ていけば、送り主が反応するだろうと思ったのだ。
「綾子にしては派手ね」
店に入ると、同僚のホステス連中にそう言われた。綾子もそうだなと思っていた。店を訪れるお客たちは、『可愛いよ』『似合ってる』などとは言うものの、送り主らしいお客はいないようだった。
「西条さんじゃないの?」
同僚のホステスが綾子に耳打ちした。しかし、西条をずっと無視し続けている綾子に贈り物などするはずがないと答えた。
(今日来た客じゃないみたいね)
そう思い始めた頃、西条が顔を見せた。綾子のドレスを見ると、フッと頬を緩ませた。綾子は、数日前、身の上話をしたホステスの方を見た。そのホステスは、西条の方を見て、にっこりと笑顔を見せていた。
(パパよりねえ・・・・。あの人が、西条にわたしの身の上話を話したんだな。だから、パパからだなんて・・・・)
送り主が西条だと察した綾子だったが、やはり西条には近寄ろうとはしなかった。西条はそれにもめげずに服や装飾品、花束などの贈り物攻勢を掛けた。
一ヶ月もすると、綾子が根負けした。
「いつも贈り物をいただいてありがとうございます。でも困ります。お部屋の中が、贈り物だらけになってしまいます」
そう西条に直談判した。
「わたしには娘がいなくてね。綾子はわたしの娘のように思えるんだ。だから、受け取ってくれ」
「娘のように思っていただくのは結構ですけど、わたし、社長さんの娘じゃありませんから、もう贈り物はしないでください」
オロオロする店のママの前で、綾子は西条にきっぱりと言った。
「そうか。じゃあ、贈り物は止めよう。その代わり・・・・」
「その代わり?」
「デートしてくれ」
「デート?」
「そう。勿論、妙なことは、なしだ。父親と娘のデートだからな。・・・・そうだな。ディズニー・シーなどはどうだ?」
綾子は考える。西条のような男は、一度こうと決めたら、絶対に譲らないと。
「一度だけですよ。一度だけデートします。それで終わりです」
「いいだろう。じゃあ・・・・、ちょっと待ってくれ」
西条は、隣に座っていた秘書に耳打ちした。秘書は内ポケットから小さな手帳を取り出して西条の予定に目を落とした。
「社長。ずっと予定が一杯ですけど」
「どこかをキャンセルしろ!」
「そういわれましても・・・・」
秘書は、青くなって汗を拭った。
「これをキャンセルしろ」
「しかし、これは社内の懇親の意味がありますので、社長が出ていただかないと・・・・」
「優(すぐる)にやらせればいいだろう。ここだ。綾子。今度の日曜日に決めたぞ。いいな? 綾子のマンションに車を迎えにやるから、待っていなさい」
「日曜日は、買い物に行く予定が・・・・」
「綾ちゃん。社長さんが、大事な予定をキャンセルして行っていただくって言うのに、買い物くらい次にしたら?」
店のママが、横から口を挟んだ。
「でも・・・・」
「相手は男なのか?」
嫉妬混じりに西条が尋ねた。
「恭子と・・・・」
「恭子となの? じゃあ、わたしが断ってあげる」
ママは、同じ店のホステスである恭子を呼び寄せて綾子との買い物の予定をキャンセルさせた。
「へえ、社長さんとデートなの? いいわよ。買い物はいつでもできるから」
そんなことで、綾子は西条とデートする羽目となった。
嫌々ながらの西条とのデートだったが、ディズニー・シーの中に入ると、綾子は童心に返ったようにはしゃぎ回った。
幼い頃からほとんどこのような場所に来たことがなかった綾子にとって、ディズニー・シーのような場所で遊べることがよほど嬉しかったに違いない。
「パパ、あれに乗ろう」
綾子は、西条にまるで本当の父親のように接していた。
帰りの車の中で、綾子は西条の目を見つめながら言った。
「パパ、ありがとう。楽しかったわ」
「一度だけの約束だったな」
にやりと笑いながら、西条は答えた。
「パパって、意地悪なのね」
「綾子ほどじゃない」
「わたしのどこが意地悪だって言うの?」
「わたしの気持ちがわかっていながら、わたしを避けていただろう?」
綾子は下を向いた。
「だって、父親があんなところで遊ぶ姿は見たくなかったんだもの」
「そうか。こんなことをする父親もいやか?」
西条は、さっと綾子を抱き寄せて唇を奪った。運転手は、バックミラーでその様子をちらりと見たが、すぐに前方へと視線を戻した。
「西条さん。わたし、どこの馬の骨ともわからない孤児なのよ」
「だから?」
ニッコリと微笑みながら西条に見つめられると、綾子は何も言えなかった。
「娘は、父親にあこがれると言うが、本当か?」
「ええ」
「綾子。わたしは、おまえに何故か運命的なものを感じるんだ。これはただの浮気じゃない。わたしは、きっとおまえを一生愛することになるだろう。だから、わたしの元に来ないか?」
西条は、いつも誰にでもそんなことを言ってるのだが、今回だけは本気だった。その気持ちが通じたのか、その日綾子は西条に抱かれた。
(素晴らしい女だ)
西条は、童顔で処女のような綾子から繰り出される性技に酔った。
その日から数えて一週間後、綾子は「花」を辞めて、西条のマンションに囲われることになった。
西条は、その年齢に似合わず精力が強い。一晩に3回や4回のセックスはざらである。しかし、綾子はそれに応えた。しかも、まるで娼婦のように。西条はすぐに綾子にのめり込んでいった。