第十九章 再会

 月曜日、ぼくは先週とうって変わって、明るい顔で仕事に出かけた。
 申し送りが済んだとき、外来へ集合するように連絡があった。外来の処置室に、勢揃いして待っていると、院長先生が、白衣を来た若い男性を連れてやって来た。
 「今日から、亡くなった塩崎先生の替わりに来て貰えることになった、藤井先生だ。みんな、よろしく頼む」
 ぼくは、その男性の顔を見てビックリした。その藤井医師こそ、土曜日にベッドを共にした大木その人だったのだ。ぼくが緑と名乗ったのと同じように、藤井も大木という偽名を使ったのだ。
 「藤井先生は、先月この病院で亡くなった、藤井正太郎さんのご子息だ」
 「父が大変お世話になりました。お返しのつもりで、頑張りますので、よろしくお願いいたします」
 ええっ!! と言うことは、藤井医師は、ぼくの、藤井真吾の従兄の藤井正臣だ。正臣とは、高校卒業以来、一度も顔を合わせていない。ぼくも緑の家にはよく行くし、正臣も時々帰省しているはずなのに、何故か、ここ数年顔を合わせていないのだ。
 こうして明るいところで見れば、確かに正臣だと分かる。土曜の夜は、ぼくはかなり酔っていたし、薄暗かったから、気がつかなかったのだ。大木と名乗っていた正臣の顔を初めて見たとき、何故か気になったはずだ。
 婦長さんが、看護婦を一人ひとり紹介した。ぼくの番が来た。
 「次は、清水さん、清水智子さんです」
 婦長さんは、正臣が大木だと言うことに気付いている。ぼくの名前を、フルネームで紹介した。
 「清水智子です。よろしくお願いいたします」
 正臣は、ぼくの顔を見たとき、ギョッとした顔になったが、すぐに何もなかったような顔をして、ぼくに会釈した。それから、改めてそばにいた婦長さんの顔を見た。ちょっと不思議そうな顔をしていたが、またもやギョッとした顔になった。
 正臣は気付いたようだ。土曜日の相手がぼくで、一緒にいたもうひとりの女が婦長さんだということに。
 ぼくは嬉しかった。こんなに早く再会できるなんて。できることならもう一度、抱かれたかった。しかし、医者と看護婦の関係は、近いようで遠い。一生一緒にいたいなんてことは、夢のまた夢だが、一夜だけなら・・・・。
 ぼくのこんな感情がどこから沸いてくるのか分からない。しかし、それが現実だった。おそらく、智子の女としての本能が、ぼくにそう感じさせているのだろう。
 「藤井先生は、塩崎先生と同じように、月曜日と木曜日に来ることになっている。独身だから、誘惑しないようにな」
 「先生! 決まったお相手はいないんですか?」
 いつも物怖じしない美代ちゃんが、早速聞いた。
 「内緒です」
 正臣は、美代ちゃんに向かってにこりと微笑んだ。
 「さあ、さあ。みなさん、仕事再開よ。今日も一日頑張りましょう」
 「はあい」
 「はーい」
 ぼくは、浮き浮きして病棟へ戻った。正臣は独身だ。もし、関係ができても、不倫じゃない。

 正臣がやってくる月曜日と木曜日、ぼくは何かと用事を見つけては、外来に降りていった。
 正臣の顔をちらりと見ただけで一日中幸せな気持ちになった。声を掛けられた日は、舞い上がっている自分がいた。つい2ヶ月前まで男だったぼくが、男に恋をするなんて、自分でも信じられなかった。けれども、ぼくは、完全に正臣に恋していた。