女として生きていくことに抵抗が次第になくなっていくぼく。綺麗な服を見るとつい手に取って着てみたいなと思うようにもなった。あんな男なら抱かれてみたいなと道行く男を目で追う自分に対する嫌悪感も薄れてきたような気がする。それを少しも不思議だとは思わない。
幸恵がアパートにいないとき、カーテンを閉め、全裸になって姿見を見つめる。ほぼ完全な女の体になったぼくが写っている。隠すべきものがなくなったら、ぼくは進んで男に迫るのではないだろうかと思う。幸恵がいなければ、こんなもの取ってしまってもいいとも・・・・。
その幸恵には愛情は感じているものの、この頃は、幸恵とセックスしたいとはまったく思わない。ぼくにその気がなくなってきたのを察したのか、幸恵は毎週土曜日の恒例行事を免除してくれるようになった。ぼくは、ホッとしていた。その気がないのに、無理矢理勃起させてセックスするのは、イヤだったからだ。
ただ、性的な情動がないかと言えばそうではない。それが女ではなく男に向かっていると言うだけだ。ペニスがあるぼくを抱いてくれる男が近くにいれば、すぐにでも飛んでいきたいと思っている。しかし、そんな男には出会いそうにもない。住んでいるところが大分みたいな田舎じゃなく、東京のような都会だったら、ぼくを抱いてくれる男に出会うチャンスはいくらでもあるんじゃないかなと思う。
ぼくは、いつものMOを取り出して、男女のセックスシーンの画像をアップにする。自分が犯されている場面を想像すると勃起する。想像を掻き立てマスターベーションするのだ。出てくるものは、カルキのような臭いのする白濁した液体ではなく、わずかに塩辛い透明な液体だ。それでも、バイアグラセックスよりははるかに感じる。あれは、人間としてではなく、動物のやるセックスのような気がする。
「明日から、東京で研修だから。明日の第一便で出かけて、明後日の最終便で帰ってくるわ」
パソコンのモニターを見たまま、ぼくは幸恵に返事する。
「気を付けてね」
「それだけ?」
「え、なに?」
振り返って幸恵を見ると、ちょっと口を尖らせていた。
「いなくて寂しいとか何とか言ってよ」
「幸恵がいないと寂しいわ」
ぼくはモニターに目を戻して、そう答えた。
「うん、もう。心を込めて言ってよ」
「幸恵! わたしはあなたなしには生きていけないわ! 早く帰ってきてね」
まるで学芸会の劇のように、ぼくは幸恵を抱きしめて言った。
「もう、知らない」
「ごめん、ごめん。おみやげ、買ってきてね。東京バナナがいいわ」
「はい、はい、分かりました。朝が早いから、先に寝るわよ」
そう言いながらも、幸恵はぼくを誘っているようだ。ぼくはパソコンをシャットダウンして、バイアグラを飲んだ。ほぼ一ヶ月ぶりに幸恵とセックスした。ぼくとしては喜びも何もない。ただ、幸恵が喜んでくれるのだけが救いだ。
見送りに行けないので、玄関でキスした。
「気を付けてね」
「東京バナナ、忘れずに買ってくるわ」
ホントに研修に行くのだろうかと思うような派手なブラウスとミニスカートで幸恵は出かけていった。
朝食を済ませて、ひとりでショッピングに出かけた。トキワで、とても可愛い黄色のワンピースを衝動買いしてしまった。今月これで3着目だ。幸恵が帰ってきたら、怒られそうだ。
1時過ぎまでぶらぶらして、昼食も摂らないままバス停でぼんやりバスを待っていた。ピッとクラクションが鳴った。音のした方を見てみると、ベンツが停まって、大沢先生が顔を出した。
頭を振ってぼくに乗れと合図してきた。ぼくはにっこり笑って助手席に乗り込んだ。
「先生、お久しぶり」
ぼくの顔を見て、大沢先生はちょっと変な顔をした。
「ご主人は元気にしてるかな?」
その言葉に、大沢先生は、ぼくのことを幸恵と間違っているのに気づいた。ぼくは今でも2週間おきに大沢泌尿器科を訪れている。しかし、このところ先生とは直接顔を合わせていない。看護婦に注射されて、薬を貰って帰るだけなのだ。
「克也ですか? とっても元気にしているわ」
そんな風に答えて、ぼくは、しばらく幸恵になりすまし、大沢先生をどこまで騙せるか、楽しむことしにた。
「最近顔を見ていないけど、変わっただろうね」
「会ったらびっくりするでしょうね」
ぼくが克也ですよと告白したら、大沢先生はどれほどビックリするかなと、心の中でほくそ笑んだ。
「今度病院へ着たら、顔を出すように言ってくれ」
「はい。分かりました」
「昼はまだなんだろう?」
「ええ、まだです」
「今日は、どこにするかな?」
今日は? おかしな言い方に、ちょっと疑問が頭の中に持ち上がった。
「佐賀関の吉田会館に関アジでも食べに行こうか?」
「ええ、いいわ」
ベンツは、大分駅前を左折して東へ向かう。次第に車が減ってきて、鶴崎を過ぎると、ほとんど車の姿がなくなった。大分って、ホント、田舎だなと思う。
大沢先生は黙ったまま運転を続けていた。こうして近くで先生の顔をじっと見たことがなかった。結構ハンサムだなと思う。
これまでの大沢先生は、ぼくにとっては治療者で、男同士だったから、いい男だろうが何だろうが、興味はなかった。しかし、今日は親しく話しのできる異性として感じていた。
関アジと関鯖の刺身定食を頼んで食べた。すごく美味しかった。
「ご馳走様でした」
「もう食べないのか?」
「だって、もうおなか一杯です」
刺身は美味しかったから全部食べたけど、ほかの酢の物などは半分は残していた。ぼくは、普段昼食を摂らない。昼間ひとりでアパートにいるから、昼食を作るのがめんどくさいのだ。だから、食べようにもそんなにたくさんは入らないと言うわけだ。
「今日はちょっとおかしいな」
ばれたかなと思ったけど、大沢先生はまだ感ずいていないようだ。
「そうですか?」
「うん。会計してくる」
大沢先生は、立ち上がって入り口にある会計で支払いをしている。
ふと考えた。『今日はちょっとおかしいな』だって? ここに来る前、『今日はどこにするかな?』とも聞いた。そんなに幸恵と何度も会っているのか? まさか・・・・、幸恵が・・・・。イヤそんなことは絶対にない。ぼくのことで何か大沢先生に相談しているだけだ。・・・・そう思いたいが・・・・。
ベンツに乗り込み市内へ向かう。しばらくして、先生がぼくの膝に手を乗せてきた。ぞくっとした感覚が体の芯に生まれた。イヤな感覚じゃない。・・・・これは、・・・・快感だ。
しかし・・・・。大沢先生がこんなことをすると言うことは・・・・。大沢先生と幸恵とは、医者と患者の家族という関係じゃない。不思議と憤りはなかった。むしろ幸恵に対するすまない気持ちで一杯だった。
ぼくを愛し、支えてくれていると言っても、幸恵も女だ。大沢先生と会っているうちに、男女の関係になってしまったに違いない。幸恵を恨む筋合いはない。みんな、ぼくの病気が悪いのだ。
「どうした? 涙なんか流して」
気がつくと、ぼくはベッドの端に座っていた。大沢先生が、ぼくの肩を抱いている。ぼくたちの乗ったベンツが、大分川沿いのモーテルに入っていったことをぼんやり思いだした。ぼくたちは、その一室にいる。
「何でもない・・・・」
「可愛いよ」
「先生。わたし・・・・」
幸恵じゃないと言おうとしたのに、唇を塞がれた。体の奥がジンと痺れ、乳首がツンと痛んだ。心は抵抗しようとしているのに、体はそうされることを望んでいた。
逃げだそうにも力が入らなかった。それだけじゃない。ぼくは大沢先生の背中に腕を廻して抱きしめているのだ。
大沢先生の唇が離れ、ぼくの首筋へと降りていった。
「先生。止めて・・・・」
何も言わないで、大沢先生は続ける。ぼくは幸恵じゃないのに。ぼくは男なのに、抵抗もしないで抱かれようとしている自分が恥ずかしかった。
ブラウスのボタンが外され、ブラがずらされて胸を揉まれ、乳首を吸われた。体中に快感が走り抜けていく。
「あん」
思わず口からこぼれた声に、恥ずかしさが膨れ上がる。大沢先生の手がスカートの掛かり脱がされた。
「もう止めて」
そう言いたかったが、声が出なかった。
外出するときにはいつも身につけているショートガードルに先生の手が掛かり、降ろし始めた。
「せ・ん・せ・い・・・・」
脱がされてしまった。もうぼくが幸恵じゃないことが分かったはずだ。・・・・しかし、先生は止めない。ぼくの半分ほど勃起したペニスに舌が這わされた。
「先生!」
「じっとしていなさい」
「でも・・・・」
「何も心配することはない」
大沢先生は、ぼくと分かっていてやろうとしているのだ。逃げ出そうとする気持ちが急に消えた。ぼくを抱いてくれる男性が現れた。嬉しくて涙が出た。
「うつ伏せに」
黙って言う通りにした。その時、大沢先生の赤紫色に怒張したものが目に入った。あれが欲しい。早く入れて。体の中に、ドクンとした奇妙な感覚が沸き上がってきた。
熱いものが入ってきた。痛い!
「口を開けて、力を抜いて」
言われたとおりにしていると、痛みが和らいできた。先生はゆっくり腰を動かし始める。
何だか変な感じ。痛みもあるが、何とも言えない快感が沸き上がってきた。
「あ、ああん」
ぼくのペニスは痛いほど勃起していた。ペニス自体は刺激されていない。だけど、まるで射精する前のような快感が、体の奥に生まれてきて、体全体が火照ってきた。先生は腰を動かし続ける。堪らない。気が狂いそう。
「あ、うん」
ぼくの体の中で、先生のペニスがドクドクと脈打って、熱い飛沫が注ぎ込まれた。その瞬間、ぼくのペニスの先からも液体が勢いよくほとばしり出たのを感じた。ぼくの肛門が収縮して、先生のペニスを締め付けているのを感じ、ぼくの体に快感の嵐が吹き荒れた。あまりの快感にぼくは意識を失った。
気がつくと、大沢先生はベッドのそばの椅子に腰掛けて煙草を吸いながら、ぼくを見つめていた。ぼくは恥ずかしさで、露わになった胸をシーツで隠した。
「克也君、綺麗になったね」
「先生、どうして・・・・」
「いけなかったのかい?」
「わたし、女じゃないのに・・・・」
「だから?」
「だって・・・・」
「いいじゃないか。ちゃんとできたんだから。それとも、したくなかったのかい?」
ぼくは俯いて黙っていた。否定したら嘘になる。肯定するのは恥ずかしかった。
「・・・・先生。・・・・ホモだったんですか?」
「いや、違うよ」
煙草の煙をふうと吹き出し、大沢先生が即座に答えた。
「じゃあ」
「今の君は女に見える。女だと思ってやってしまった」
「ペニスがあるのに?」
「大きくなったクリトリスと思えば気にならない」
「腟がないのに?」
「あそこだって、あんまり変わらないよ」
そんなことしたことがないので、ぼくにはよく理解できない。
「先生」
「何だい?」
「今日は、わたしと知ってて誘ったんじゃないんですね?」
「当たり前だろう? 幸恵さんとちょっと雰囲気が違うなとは思っていたんだけど、さっき、ガードルというのか? あれを脱がせるまで、てっきり幸恵さんだと思いこんでいたよ」
「先生、幸恵とは・・・・」
「・・・・そのことだが、君のことで相談してやっているうちに関係ができてしまった。すまないと思っている。いや、まだほんの2,3回関係があっただけだ」
思った通りだ。でも、それも仕方のないことだ。
「幸恵も寂しかったんだと思います。わたしがこんな体になってしまったから」
「・・・・そうだね」
「わたしと分かって、どうして止めなかったの?」
「君がああされることを望んでいるみたいだったから」
「そんなこと・・・・」
ぼくは顔を赤くした。
「あれ!? やっぱりそうだったのか?」
「先生の馬鹿!」
「勿論初めてだったんだろう?」
「ええ」
「じゃあ、処女を頂いたって訳だ」
ぼくはますます赤くなった。しかし、ちょっと余裕が出てきた。
「もう、お嫁にいけないわ」
そんな冗談が出た。
「わたしがお嫁にもらってやろうか?」
ぼくは、ビックリして大沢先生を見た。先生は、ニコニコしながらぼくを見ていた。
「いやだわ。わたしの冗談に乗ってくるなんて」
「冗談だと思う?」
「えっ!?」
大沢先生は、本気とも冗談とも思えるような顔でぼくを見ている。
「わたし、男ですよ。お嫁に何か行けません」
真顔になって答えるぼくに、大沢先生は、突然笑い始めた。
「本気にしたのか? すまん、すまん」
「なによ。先生ったら」
そう答えたが、本気であって欲しいなとも思っていた。そんな馬鹿なこと、考えるはずはないとは分かっているのに・・・・。
「しかし、君を見ていると、男だなんてとても思えないよ」
「自分でも、こんなに変わってしまうなんて思ってもみませんでした」
「他に方法がなかったからね」
「仕方ないです。わたしの運命ですから」
「男のままだったら、経験できないことを経験したんだから、よかったのかも知れないよ」
「ええ。そうね」
「ところで、もう一勝負しようか?」
「本気なんですか? ほんとにホモになっちゃいますよ」
「相手が君なら、ホモになってあげてもいいよ」
今度の大沢の目は本気らしく見えた。いや、本気だ。立ち上がってぼくのいるベッドに歩いてくる大沢の股間には、再び怒張して脈打っている赤紫色のペニスがそそり立っていた。