術後一週間の安静を要するという診断書をもらって、幸恵はアパートで寝たり起きたりの生活をしていた。ぼくだって、休みたいのは山々だが、手術したことを覚られないように、我慢して暮らしている。
アパートに帰って、三日間はぼくがすべての生活の面倒を見ていたが、四日目になって、幸恵も体力を取り戻し、手術前と同じペースに戻った。
幸恵がずっとそばにいるので、ぼくはトイレに隠れてナプキンを換え、シリコン棒で拡張していた。
手術後と言うことで、幸恵はぼくにセックスを求めることがなかったので、ぼくはかなり安心していた。
退院後一週間が過ぎ、幸恵は銀行へ働きに出て行った。ぼくはホッとした。隠れて処置するか回数が減ったからだ。
幸恵が出掛けてから、カーテンを引いて全裸になってみた。姿見に映ったぼくの姿は、もう完全に女だ。もう何も隠す必要がない。
手鏡で、恐る恐る覗いてみた。術後、あんなにグロテスクだと思ったところが、可愛くなっていた。以前付いていたものに比べれば、とても愛らしい。
よかった。これで、後ろめたさを感じることなく大沢先生に抱かれることができる。
女性ホルモンの注射と内服が面倒だけど、贅沢は言えない。こんなに完璧な体を手に入れたんだもの。
シリコン棒で拡張する痛みが減ってきて、ぼくは拡張しながら、大沢先生に抱かれていることを夢想する。気持ちいい。このシリコン棒が先生のあれだったら、もっと気持ちいいんだろうなと思う。
ついにその日がやってきた。
幸恵とふたりでショッピングに出掛けたぼくは、理由を付けて幸恵と別行動をとった。
「じゃあ、午後5時にトキハの玄関前でね」
「分かったわ」
幸恵が中にトキハの中へ入っていくのを確かめ、ぼくは大分駅方向へ歩いた。パルコの前あたりで、クラクションが鳴った。大沢先生が、ベンツのウインドウを下げ、ぼくに手を挙げた。
「早く乗って」
もう一度、幸恵が見ていないか確かめて、ベンツの助手席に乗り込んだ。
「先生。会いたかった」
「わたしもだ。どうだ? 傷の具合は?」
「見てくださるんでしょう?」
「勿論だとも。大きな拡張棒で中も調べてあげるよ」
ぼくはポッと赤くなった。大沢先生の持ち物は、シリコン棒の一番太いものより、大きかったような気がする。入るのかな? ちょっと心配になった。
国道10号線を北上し、別府市を通り過ぎた。
「どこまで行くの?」
「もうすぐだ。前に見えるだろう?」
日出町に入ってすぐ、右手に大きなホテルが見えてきた。
「今日はラブホテルじゃないの?」
「処女をぼくにくれるんだろう? ラブホテルでいいのかい?」
「いえ、嬉しいわ」
ぼくは再び赤くなる。もう少しおめかししてくればよかったなと後悔した。しかし、あんまり着飾ってたら幸恵にばれるからなと諦める。
12階のツインルーム。部屋に入るなり、大沢先生がぼくの唇を塞いだ。
「一段と綺麗になったな」
「先生のお蔭だわ」
「女の子から、女になったら、もっと綺麗になるよ」
恥ずかしさで大沢先生の顔を見ることができない。
「さあ、おいで。生まれ変わった君のすべてを見てみたい」
抱きしめられると、胸にきゅんと痛みが走って、体の芯が痺れてきた。じわりと濡れてくるのが自覚できる。頬が火照り、心臓が脈打つのが分かる。
お気に入りの真っ白なワンピースが足元へ落ちた。ぼくはブラとショーツだけで抱かれていた。大沢先生がぼくから離れた。
「どうしたの?」
「ほんとに君は男だったのかなと思ってしまうな」
ぼくを見つめながらそう言う。
「わたしは女よ」
「そうだな。君ほど女らしい女はいないよ」
「そう言って貰えると嬉しいわ」
ぼくはにっこり笑って大沢先生を見つめる。
「ブラジャーを取って」
「恥ずかしい」
「じゃあ、ぼくが取ってあげよう」
再び大沢先生がぼくを抱き寄せ、キスしながらブラを取った。
「横になって、仕上がりを見てみよう」
ベッドに仰向けになると、ショーツを脱がされた。
「もう汚れないね」
「はい」
ナプキンはもういらなくなっていた。
「足を立てて」
言われた通りに足を立てる。診察室で同じようにされても恐らくどうもないと思うのに、恥ずかしさで顔がカッとなった。
「まるで幸恵さんを見ているようだ」
本物と変わらない出来だと言いたかったらしいが、ぼくはちょっと嫉妬めいた気分になった。大沢先生は、こうやって幸恵のそこを見たことがあるんだと。
「どうした?」
「何でもないわ」
「そうか。ここはどうだ」
「あん」
ぼくの新たな器官に大沢先生が触れた。体の突き抜けて、脳天に達するような刺激が走った。
「よく感じるようだな」
ぼくは返事もできない。
「舌触りもいい」
ざらりとした感覚に、ゾクゾクした快感が湧いてきた。チュパ、チュパ、チュパとぼくの流した粘液を吸う。その音がぼくをさらに高めていった。
カチャカチャとベルトを外す音がした。
「さあ、中を調べてみよう」
早く調べて! そんなこと言葉に出すのははしたないと思い、ぼくは心の中で叫んだ。
頭を上げて下半身を見た。大沢先生の赤紫色のペニスがぼくにあてがわれ、まさに入ろうとしていた。ああ、ぼくがここ1年ずっと願ってきたことが叶うんだ。ぼくは喜びに酔いしれた。
押し広げられ、骨盤に圧迫感が生まれた。ちょっと痛い。だけど、気持ちいい。
「どうだ?」
「いい」
「わたしもだ。痛くなかったら、動かすが、いいか?」
「ええ」
大沢先生はゆっくり腰を動かし始めた。違う。アナルセックスとはぜんぜん違う。
「先生。いい、いいわあ」
「中の状態も完璧だ。もっと動かすぞ」
「もっと、もっと衝いて!」
アッと言う間に達してしまった。大沢先生は腰をまだ動かしている。又いきそうだ。すぐに次の波がやってきた。
「あん、ああっ!!」
又いってしまった。
「いいぞ。もう一度いけ!」
「いく、いく。いくわあ」
三度目に達したとき、大沢先生の呻き声と共に骨盤の奥に激しい脈動を感じた。
「うっ、ううう」
「い、いいわあ」
大沢先生がぐったりとぼくの上に倒れ込んできた。ぼくは先生の唇を吸った。先生もそれに応えてくれる。
「よかった」
「わたしもよ。女になれて、よかったわ」
大沢先生を感じながら、抱き合っていた。しばらくして、復活してくるのを感じた。
「今まで二度なんてしたことがないのに、もう一度できそうだ。朋恵、このままいいかい?」
「一度でも二度でも」
結局さらに二回もしてしまった。処女喪失の日に、三回もやって、全部達する女なんているのかしらと思った。
大分まで送ってもらったら、どこで幸恵に見つかるかもしれない。ぼくは別府駅でベンツから降ろして貰い、電車で大分駅へ向かった。
大分駅を出て、ガレリア竹町へ向かう。日曜日とあって人通りが多い。時計は午後4時20分。幸恵との待ち合わせにはまだ早い。ぼくはアーケードの中ほどにあるCDショップへ入った。
ドリカムの『モンスター』を手に店員に手渡すと、店員が妙な顔をした。なんだろう? よく分からないまま店を出て、トキハへ向かった。
トキハの玄関で待ち合わせをするなんて、もの凄く危険だ。どこで誰が見ているかもしれない。しかし、もし人に聞かれたら、従姉妹だと答えると幸恵は言って笑っていた。
時計は午後4時50分。幸恵はまだ来ていない。キョロキョロしていると、知らない女性に声をかけられた。
「幸恵、何してるの? お買い物?」
ぼくは首を傾げて答える。
「どなたですか? わたし、幸恵って名前じゃありませんけど」
「えっ!?」
その女性は、絶句して立ちつくした。
「朋恵、待った?」
ちょうどその時、幸恵が現れた。ぼくの目の前にいた女性が目を白黒させてぼくたちを見た。
「幸恵、あなたが幸恵なのね」
「あら、友岡さん。朋恵をわたしと間違えたのね」
「朋恵さんって言うの? よく似てるけど、・・・・そう言えば、並んでみるとちょっと違うわね」
「そうでしょう? 朋恵は従姉妹なのよ。よく双子と間違えられるのよ」
「従姉妹!? だから、よく似てるのね」
同じ化粧をすれば、そっくりになるけど、今日は、化粧もヘアスタイルも変えている。だから、少し違って見えるはずだ。
「じゃあ、またね」
「さよなら」
ぼくたちは、若松通りへ歩いていった。
「やっぱりふたり一緒にいると拙いんじゃないの?」
「大丈夫よ。アパートに一緒に帰らなかったら」
「なんか、心配」
「大丈夫、大丈夫」
ふと幸恵の持っている袋を見ると、ぼくと同じ袋を持っていた。
「あれ? 幸恵もCD買いに行ったの?」
「うん。ドリカムのモンスターを買ったわよ」
「あれえ、わたしも買ったのにい」
それで、店員が変な顔をしたんだ。同じ顔をした女性が同じCDを買っていったから。
ふぐ茶屋で食事した。久しぶりのふぐは美味しかった。毎月の収入が以前のようだったら、こんな贅沢はとてもできないところだ。
「たまには、いいわね」
「ずっと、お給料が今の調子で入れば、毎月一度は来ようね」
「うん。賛成」
「じゃあ、じゃんけんしよう」
「じゃんけん、ぽん。あいこで、しょ!」
「やった。勝ったわ」
「今日も朋恵の勝ちか。仕方ない。バスで帰るとするか」
一緒に帰れないので、いつもじゃんけんをする。負けた方はバスで、勝った方はタクシーで帰るのだ。ただ、タクシーで帰った方は、風呂のお湯を溜めたり、着替えを準備しなければならない。勝っても負けても、損得はないのだ。
大沢先生とは、その後週に一度は会っている。毎回ぼくを絶頂へ導いてくれる。ぼくは先生なしには生きられない。先生と一緒に暮らしたい。しかし、幸恵はぼくと別れる素振りを見せない。
恐れていた日がやってきた。幸恵がぼくに迫ってきたのだ。
「朋恵。久しぶりにやろうよ。いいでしょう?」
「今日はちょっと気分が悪いわ」
「お願いよ。わたしだって、ずっと我慢してるんだから、たまには、たまには満足させてよ」
そうは言われても、今のぼくには幸恵を満足させてやれない。ぼくは黙り込んだ。
「ねえ、早くーう」
「・・・・ごめん。幸恵。わたし、できないの」
「できないって? どうして?」
「どうしても」
「何故? わたしが嫌いになったの?」
「違う。違うのよ」
「じゃあ、何故?」
ぼくは涙を流す。言えない。こんなこと・・・・。
「朋恵が嫌でも、やって貰うわ。夫婦なんだからね」
そう言って、幸恵がぼくを押し倒した。
「幸恵。止めてお願い!」
ぼくの股間に手をやった幸恵の目が驚きに見開かれた。ばれてしまった。
「嘘!! 嘘でしょう?」
ぼくは床の上に力無く横たわった。幸恵がぼくのスカートを捲った。触らなくても見れば分かる。しかし、幸恵はぼくのショーツを乱暴に引き下ろした。
「ほんとになくなってる・・・・」
幸恵は茫然と床の上に座り込んでいた。
「いつのまに・・・・」
「あなたが入院している間に、大沢先生にやってもらったの」
「だから・・・・、だから、あの時三日間わたしのお見舞いに来られなかったのね」
「ごめんなさい」
ぼくはショーツをあげて、俯いたまま涙を流す。
「どうしてよ!?」
「ペニスがなくたって、わたしを愛してくれるって言ったから・・・・」
「そうは言ったけど・・・・。それだけ? それだけじゃないでしょう?」
幸恵がぼくを睨み付ける。そして、ハッと気がついたように言った。
「・・・・大沢先生なのね。朋恵!! そうなんでしょう?」
幸恵の強い口調に、仕方なくぼくはこくりと頷いた。
「だから、最近誘ってくれなくなったのね。・・・・どうしてよ! 本物の女より、作り物の女がいいなんて!」
「幸恵。もう一緒にいられないわ。わたしは大沢先生を愛しているの。わたしと・・・・別れてくれる?」
「愛してたのに、ホモになってしまうなんて! あんたなんか、死んでしまったらいいんだ!!」
幸恵は、床にあったものをぼくに向かって手当たり次第投げつけた。そうしてから、泣き続けるぼくを残して、部屋から出て行った。
『愛していたのに』・・・・愛していたのにと言った。その言葉を聞いて、大沢先生から聞かされたこともどこかへ消えてしまっていた。わたしは・・・・。わたしは幸恵をまだ愛している。こんな姿になってしまったけれど、わたしは、幸恵を愛している。幸恵に見捨てられたら、わたしはもう生きてはいられない。
「幸恵・・・・。君にどんな仕打ちをされようとも愛している」
そう心の中で呟きながら、幸恵が出ていった玄関の方を見た。その時、玄関にあるポリタンクに入った灯油が目に入った。あれをかぶって火を点ければ、死んだとき、こんな体を見られないですむ。
悩んだあげく、ぼくは決心した。玄関まで歩いていって、灯油の入ったポリ容器を部屋の中へ運び込んで、頭からかけた。
この忌まわしい存在。橋谷克也を葬り去ってしまうのだ。
「幸恵、さよなら。ぼくは君を愛していたよ」
ぼくはマッチの火を点けた。
一年後、橋谷克也の墓に手を合わせる女の姿があった。その女は、今は大沢と結婚して姓の変わった大沢幸恵であった。
「・・・・あなたとの間にはできなかったけど、あなたの愛した大沢のこどもを立派に産んでみせるから」