新しい年が明けた。俺の精神はようやく落ち着きを取り戻した。罪の意識が消えたわけではなかったが、いつものように祥子と勉強し、いつものように祥子とベッドを共にすることができるようになった。
ある日、祥子がベッドの中で思い出したように俺に言った。
「しんちゃん、田岡君って人と仲が良かったわよね」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「その田岡君が退学したって話し、知ってる?」
「えっ、何だって? 退学した?」
「何だ。知らなかったの? 今年の初めから学校に出てきてないそうよ」
田岡が退学なんて意外だった。田岡は本間に次ぐ親友とも言える男だった。本当に退学しているのなら、理由を知りたかった。俺はその翌日の昼休みに、田岡の担任をしている森田を訪ねた。
「すみません、森田先生。ちょっと聞きたいことがあるんですけど、よろしいですか?」
「どうしたんだ、高田。勉強のことか? おまえにしちゃあ、珍しいな」
森田は俺の不得意中の不得意である古文の教師だ。好んで訪ねる相手ではないが仕方がない。
「いえ、勉強の事じゃあないんです。実は先生のクラスの田岡のことなんですけど」
「田岡? ああ、田岡道夫のことだな」
「そうです。田岡が退学したと聞いたものですから、ほんとなのかと思って」
「ほんとだよ」
「退学の理由は何なんですか?」
「何故、そんなことを聞きたいんだ?」
森田は、いなくなった生徒のことなどに、今更興味はないと言うような顔で言った。
「田岡には一年の時、仲良かったし、結構世話になったんです。だから・・・・」
「そうか・・・・。田岡は二学期の期末考査の前から学校に出てきていなかったんだ。連絡がないんで家に問い合わせてみたところ、母親が電話に出て、風邪で熱が高いから休ませてくれと言うことだった。その後、まったく音沙汰なしで、三学期に入って退学届けが送られてきたんだ」
「理由は何と?」
「健康上の理由としか書かれていなかったな」
「健康上の理由? 確かに顔色はそう良い方ではなかったですけどね」
「家にも訪ねていったんだが、転地療養しているとのことでね。本人には会わずじまいだよ」
「そうなんですか」
「そういうことだ」
「分かりました。ありがとうございました」
俺は頭を下げて職員室を出た。
俺は田岡の家へ向かった。退学の理由である健康上の理由を詳しく知りたかったのだ。半年あまりの付き合いでしかなかったが、何故か田岡のことが気になった。
田岡の家を訪ねると、あの綺麗な母親が少し焦燥したような顔で出てきた。
「心配してくれてありがとう、高田君。道夫は、今は家にいないのよ」
「どこにいるんですか?」
「ちょっと遠くに療養に行ってるから」
「遠くって? どこですか?」
「道夫に内緒にしてくれって言われているの。顔を合わせたくないって」
「どうして?」
「道夫がそう言うのよ。だから、ごめんなさいね」
「どこが悪いんですか?」
「あなたも知ってるでしょう? 道夫は小さいときから病気ばかりで・・・・。あの高校は、受験受験で無理が祟ったのよ」
「顔色は悪かったけど、そんなに無理してるようには見えなかったけど」
「空元気だしてただけなのよ」
「そうなんですか」
「高田君も、あんまり無理しないようにね。きょうはありがとう。来てくれて嬉かったわ。道夫には、高田君が来てくれたことを伝えておきますから」
「お願いします。気が向いたら、連絡してくれるようにお願いします」
「伝えておきますわ。ほんとにありがとう」
俺は釈然としないものを感じながらもそれ以上のことは言えなかった。
その後、田岡からは何の連絡もなかった。